第90話 嚮導する共鳴
アルナレイトが掲げた有角人種との戦い。
その戦いに備え戦力を鍛える。
レギオンは街のために戦いたいと望む者たちに対し、剣術の訓練や魔術の講座などを行っていた。
元レギオ村で剣術を学んでいたレアンと俺、シーアス達は師匠から剣術を学びつつ、街のために戦いたいと望む志願者たちへ、剣の手ほどきを行うことになっていた。
俺は魔力やスキルという剣技を強化する力が使えないため、あくまで基礎を教えてやることくらいしかできなかったのだが、どうやらそれだけでも十分らしい。
この剣術指南は、何でもレギオ村に伝わる月ヶ瀬流の剣術を学ばせるためのものではなく、バルブゼスが持つ剣術の流派を簡略化し、扱いやすくしたものを教えるらしい。
そのため彼らが教わる剣術に使う武器は刀ではなく、オーソドックスな片手直剣なのだ。
刀よりも耐久性の高く、技術を求められるわけではないけれど、それでも剣は剣。
要求される技術は手ごろに使える武器に比べてはるかに高い。
一か月後にニーアの元へと向かう、そうぼんやりと計画を立てて指導を行い、作戦を練り上げていくつもりだったのだが、それは大きく前倒しされることになった。
俺はまさか、共鳴スキルがそんなにも強力なものであるなど、思わなかったからだ。
◆◆◆
剣術の基礎稽古中、私ことレアンは全体の進捗状況を見ていると。
ふとこんなことが頭をよぎった。
それは、スキル【共鳴】の効果【共鳴感覚】をこの場にいる志願者達全員に使用して、私の剣を振るう感覚を教えられれば、彼らの上達速度はもっと上がるのではないか、というものだった。
(で、どう?行けそうかな、ケンセイさん?)
『【回答】可能です。剣術の動きの感覚以外を取捨選択し、彼ら共鳴させ、剣技の上達を素苦戦することができます。実行しますか?』
(もっちろん!お願いしまーす!)
(【了解】)
ケンセイさんの声が響くと同時に、私は全員にこれから何をするか【思念共鳴】で説明した。
最初はみんな驚いていたけれど、私の声が【共鳴】スキルで届くのに慣れてくると、次は剣技の感覚をケンセイさんの補助ありで【共鳴感覚】を使った。
【共鳴】という名前の通り、このスキルは自分から相手に伝えると同時に、相手から自分にも伝わる感覚がある。
私は不必要な情報をケンセイさんにカットしてもらいながら、剣を振るう様子を実際にみんなに見てもらい、その感覚を伝えた。
すると、ものの4時間程度で、みんな基礎をあっと言う間に習得しきってしまった。
もちろん全員が完璧に取得したわけではないけれど、それはまた、今後の基礎練習の時に【共鳴】すれば済む程度のものであった。
私は全員の感覚共鳴状態を維持しながら、今度はバルブゼスさんを交えて応用を行うことにした。
そう、魔力強化系統の技術を使うのだ。
ちなみに、志願者達に以前行った魔術教室で、私は魔力操作の感覚も全員と【共鳴】させてもらっているため、全員が魔力を意のままに操れるようになっている。
アルナに報告するのを忘れていたけれど、きっと吃驚するだろう。ふふふ。
「よーし、それじゃあ全員、魔力操作で剣に魔力を纏ってみろ。
できなくても……いい……んだぞって……あれ?」
バルブゼスの瞳に映るのは、全員が剣を正面に構え、そして魔力を剣に纏っている光景。
それも、ただ纏っているわけではない。無駄なく均一に纏っているのだ。
「お、お? ……おお!!」
「へっへーん!ズルをしましたっ」
バルブゼスはあっははははははは!と大きな笑い声をあげて、笑いすぎで涙すら浮かべて言った。
「大いに結構!強くなるために効率を引き上げることを卑怯とは呼ばん!」
バルブゼスはそういいながら、幾つかの工程をすっ飛ばして全員に魔纏戦技を教えようとした。しかし。
『【報告】先ほど【共鳴感覚】で共鳴させた情報の中に、魔纏戦技を使用する際の感覚データを封入しておきました。
今頃彼らの無意識と同一化し、念じるだけで思うがままに魔纏戦技のほか、魔纏系統の技術を行えるように調整しております』
とのことだった。
念じるだけで複雑な魔力操作を必要とせず、強力な魔力強化技術を行える。
私はそれを聞いたとき「じゃあ私にも!」といったのだが、それはどうやら好ましくないらしい。
なんでもこれは、共鳴中にのみ無意識下に干渉し魔力操作の自動操作を行うというものらしく、あまり複雑なことはできないとのことだった。
しかし、当人が魔力操作の練度が上がってくると、この無意識下感覚は徐々に薄れ、当人の感覚が染付くのを補助するものらしい。
ゆえに私はすでにほぼ意識せず、複雑な魔力操作を行えるので不要とのことだった。逆にしてしまうと、今の柔軟な魔力操作性が失われてしまうらしい。
それに、ケンセイさんは私にとってのメリットとなることは、私に事後報告してくれる形で既に実行してくれている。
今回そう言わなかったということは、そういうことなのだ。
「つーかすげえな……。
たった一日で剣術の基礎どころか魔纏戦技の基本までマスターするとはな。
まあ、これで本来の俺の剣術を教えられるってもんだな!」
「本来のってことは、私に教えてくれていたのは、偽物だったってこと?」
「いや、そういうわけじゃないぞ。
ただまあ、魔纏戦技はどっちかっつーと基礎の内だからな……。
知ってるか?拡張戦技というスキルを」
「なにそれ。聞いたこともないや」
私は最近、分からないことがあったらすぐに聞くべし!と思っている。
この世界は私の知らないことで溢れている。
少しでも未知を既知としておくことは、今後の成長の糧にもなるだろうから。
(というわけで、ケンセイさん!)
『【回答】スキル、拡張戦技は、武器を用いた際の自身の動きを強化するスキルです。
超人的な身体能力がなければ行えないような動きを、スキルによって補助を行うことで実行可能とします。
ですが、補助を行った分、肉体は技後硬直を強いられます。また、このスキルによって拡張した動きはある特定の動作を行うことでしか発動出来ず、その動作が作れない場合、発動はしません』
(なるほど……要は大技を放つための構えが必要で、そのあとは反動として動けない…ってことだね)
『【回答】はい。その通りです。
具体的な使用方法は、自身の使用する武器を用いて動きをイメージすることで、スキルが技を認識し、最も整合性のある形でその動きを作成します。
そうすればあとは、その動作に必要な構えと、拡張の度合いに応じた技後硬直が発生します。
最初は拡張した技を保持できる数は一つだけですが、このスキルは使用回数に応じて魂とスキルの結び付きが強化され、一定の強化が起こるたびに一つずつ保持できる技が増え、さらに拡張可能な範囲も増加しますが、その分技後硬直も増加します』
(スキルの段階が上昇するたびに強化した技を保持できて、さらに技の強化幅も増えるということかな。
確かにこのスキルは強力だね……。
そしておそらく……)
私の予想を、ケンセイさんが口にした。
『【回答】はい。魔纏戦技系統の技術を用いて、技の更なる強化をかけることが可能です。
バルブゼスの剣の威力が凄まじいのは、このスキルを身体能力と魔力強化で大幅なブーストをかけていると予想されます。
おそらくですが、それに加え、さらにあともう一つほど、強化要素があると思います』
(ひょえ〜…そんなに重ね掛け強化してるんだ……。
そりゃあんな剣の威力にもなるよね……)
それに、まだまだ発生率の低い魔素構造完全状態での一撃もある。
きっとバルブゼスは、まだまだ強さを隠しているに違いない。
「〜〜というのが、拡張戦技の内容だ。わかってもらえたか?」
「うん、おっけー。ばっちり」
「なんだか怪しいな……。
レアン。このスキルは珍しく他人に簡単に付与できるスキルだ。
持ってないなら俺のをやろう。一回みんなの前で実践してやってくれ」
「あ、えっと」
(そうだ、わたしそういえば持ってなかった……)
最近、気づかない間にケンセイさんが獲得可能なスキルを片っ端から手に入れてくれてるおかげで、スキルを持っている気になっていた。
ここはおとなしく受け取ろう…と思った矢先、
『【回答】その必要はありません。既に獲得済みのスキルです』
(そーいうのはもっと早めに言って欲しかったなー!!)
持ってたんかい!と自分のスキルにツッコミを入れるなんて、側から見れば変な奴って思われちゃう…と思ったのだけど、そういえば思考内での会話だったためその恐れはないと気づく。
ひとまず、拡張強化する動きをイメージすることに。
(動きは……まあ使いやすければいいや。シンプルな垂直斬りかな。
みたとこ大技って感じだし、踏み込みの距離を伸ばしたいな……)
と考えていると。
『【了解】各強化パラメータの微調整を行い、よりイメージに合った技を設定します』
(あ、そんなことできるの?じゃあお願いね!)
拡張戦技スキルをケンセイさんが精密に制御してくれたおかげで、なかなか扱いやすい技が生まれた。
その技の名前は、早月。
斬撃の軌道さえ合っていれば、上下段どちらからでも発動させられる技だった。
敵を斬るというよりかは、強化した剣撃で敵の攻撃を弾くことを主体とした技で、下段、上段の構えより僅かに大ぶりとなる構えを予備動作として認識し、スキルによる補助で加速し、振り下ろしあるいは切り上げるという動き。
【拡張戦技】スキルの中に【技術戦技】という形で内包されたその技を、私はみんなの前で使ってみることに。
刀を下段に構える。
地面と水平であることを意識し、発動する体勢まで低く腰を落とした、その時。
全身が凄まじい力で前方から引っ張られるような感覚を覚える。スキルによる補助だった。
その補助の力を借りて私は全力で地面を蹴って跳躍した。
(う、嘘……!)
補助の力は踏み込みの射程を拡張し、体に全く重さを感じなかった。
おそらく6mほど跳躍したと思う。
地を這うような姿勢のまま深く踏み込んだ私の体は、普段なら不可能なほどの勢いで一気呵成に下段から刀を切り上げた。
斬撃の勢いだけで周囲の草むらが私を中心に外側へ靡いていく。
一度使っただけで分かる。このスキルによって生み出される技は非常に強力なものなのだと。
「どうだ?肉体の感覚がまるで違うだろ?」
「うん、すご……」
すごい、と言おうとして違和感に気づき、言葉がのどに引っかかる。
全身が全く動かない。
「反動として全身が動かなくなる、これが致命的な弱点だが、敵はこのスキルの一撃を回避、或いは総裁することを考えるため、実際はそこまで大した好きにはならない。
だか気をつけろ。回避しながら攻撃してくるような奴、軌道を読まれ斬撃を当てられると恐ろしいことになるぞ」
私の技後硬直が解けない内に歩いてきたバルブゼスは、振りかぶり、
「動けないってことは、いかなる動きにも対応できないってことだ。
こんな風にな」
ぺちん、と私のお尻を叩いた。
顔が羞恥心の熱で真っ赤になる。頬が熱くなる。
私は反射的に叫んだ。
「やん!何するんですか!!」
「あっははは。まあそう怒るなよ」
直後。恐ろしい気配が立ち上るのを感じ背後を振り返ると、眼光だけで物が切れるんじゃないかというほど鋭いアルナレイトの視線がバルブゼスを貫いていた。
「てめぇ……殺すぞ……!」
「じょ、冗談だって!レアンだってそんな嫌がってないだろ!」
「今日の昼飯は抜きだ。それとレアンに謝れ」
「わ、わかったよ……悪かったレアン、ちょっと魔が差しただけなんだ」
「む~!」
「どうやらレアンはまだ怒ってるみたいだな。
晩飯も抜きだ」
「そ、そんな……勘弁してくれよ……」
「自分の軽率な行いを反省しろ」
一連の流れで村人たちからは笑いが吹き起り、それを通して少しずつ、みんなの中が深まっていくように感じた。
アルナに剣術のことについて一通り伝えると、目を大きく見開いて驚いていた。
共鳴スキルがそれほど強力なものだと思わなかったらしい。
他にも魔力操作も私とそんなに変わらないくらい使えるようになったから、あとは魔術を覚えること、実戦での経験を積むことが必要だとアルナに話すと「いくら何でも速すぎだろ……チートかよ」と、聞きなれない言葉を使っていた。
アルナが聞きなれない言葉を使うとき、本音が漏れ出ていることが多い。意味は分からないけれど、マジとか、ガチとか。たぶん似た意味なんだろうけれど。
名前:レアン・ルーファス
種族:只人種
技量:下之中
筋力:下之上
速力:下之中
体力:下之中
運命力:下之低
知力:中之低
生命力:下之低
魔力量:下の高
魔法適正:無し
使用可能魔術:無し
習得技術:《魔纒戦技》・《魔纒闘法》
所持スキル:【賢聖の知見】
・効果
【記録照会】 世界の情報記録領域に接続し、触れた事象に関してのみ情報を明かす。
【思考強化】 思考速度を2000倍まで加速可能。思考の分割を可能。思考妨害を無効化。
【並行編纂】 思考とは別に演算を同時に並行可能。
【解析測定】 対象を定め、ある程度の隠匿も突破し解き明かす。
【共鳴】
・効果
【思念共鳴】
・共鳴状態にある対象に思念を共鳴伝達する。
【魔力共鳴】
・周囲の魔力と自身の魔力を共鳴させ、支配下に置く。
【共鳴感覚】
・対象に自身の感覚を共鳴させる。
【拡張戦技】
・効果
『【アーツスキル】
【垂直突進技・早月】
・上段、或いは下段で構えることで発動し、突進後、振り下ろしあるいは斬り下ろす。
冷却時間10秒:技後硬直6秒』
魔力系スキル
【魔力操作】
【魔力変化】
【魔力変換】
【魔力強化】
【魔力放出】
【魔力成型】
 




