表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/121

第88話 理を超えた力

主人公強化回です。

 俺は3日ぶりの風呂で汗を流し、気分をリフレッシュした。

 その後は、久方ぶりの自主練を行うべく稽古場に向かった。

 3日ぶりといっても体の老廃物は理外権能で〔分解〕しているので、不衛生ということはない。


 先にレアンがいるかと思ったが、どうやらまだのようだ。


 「………この一週間は恐らくだが、

 この世界に来て最も理外権能を酷使した時間だったな……。

 しかし理外率は上がらなかったし、やっぱり使用回数を上げることで上昇する理外率には、凄まじい回数を要求されるんだろう。

 もう一つ、理外率を高める方法があるとすれば、それは………」


 それは、これまでの経験からわかっている。

 理外の力に対する理解を深め、さらに深いところへと踏み込んだ使い方をすること。


 それはつまり、理外の力をもっと知ることだ。


 それはそうなのだが…………。


 「とはいってもむずかしいよね、ふつうに」


 何せ、理外の力。

 それは理の外側にあるもので、理外の力を受領する前の俺だって、理の中で生まれた存在なのだ。

 つまりそれは、内側しか知らない、文字通りの井の中の蛙というわけで。 

 まあ思い上がっているわけではないのだが。


 ともかく。

 理の中で形成された認識では、理外の力を理解するのは限界があるってことだ。

 

 そう、限界があるのだ。

 その限界を突破して認識を広めるには、それこそ革新的なひらめきが必要だろう。


 「………縛り封ずる遍く全て…………か」


 理外の力を覚醒させられた際、言われた言葉を無意識に口に出していた。


 縛る。封じる。


 それは、限界という言葉と似ている。

 意味が、ということではなく、在り方が、だ。


 もし、理外の力が本当に縛るものを破壊するなら、その限界すら突破してしまえるのではないだろうか、などという思考が浮かんだ。

 

 「自分の……限界」


 俺は理外の力を得てこの世界にやってくる際、完全な理外の存在でなくなっている。


 その理由は、完全に理の外にある者ならば、その理が形作る世界に存在できないからだ。

 だから俺は、この世界に存在するための最低限の事柄しか持ち合わせていない。


 そしてそれは身体能力という面で顕著に表れているのだ。

 この世界に存在するために必要な最低限の要素のキャパシティ。

 そのキャパシティの中で生きていられる体が必要になった結果、最弱の種族に命が運ばれた。


 その肉体には、様々な制約を課せられている。

 原則突破できないであろう制約はつまり、理外の力と直接関係のある、この世界における魔力などのエネルギーを保有できないという点。

 しかし、そうではない部分がある。


 それは、身体能力の面にある。

 この肉体は、運動すると疲れる。それは当たり前のことだ。

 しかし、その要素は理外の力と排他的ではない。魔力等とは干渉しないのだ。


 つまり、要するに理外の力が存在するからという理由で、この肉体が疲労を感じなければならないというわけではないのだ。

 

 で、あれば、だ。

 肉体の体力、その限界を理外の力で突破できるのでは……?

 他にも、様々な制約が設けられていると仮定し、その限界を理外の力で突破することも……。


 まずは、肉体にかかる限界から、理外の力で突破していこう。


 「……よし、イメージは固まったな」


 俺は最近うまくなった理外の力操作を行い、己の肉体に理外の力を浸透させる。

 【未踏(フロンティア・)剣術(オーヴァーターンド)】【権能多重行使戦闘状態(モード・スティール)】を用いるときと同じように、だ。


 しかし、今回俺が行うのは、もっと高次元の行為。

 つまり、ただ肉体に理外の力を纏うのではなく、俺という存在を構成する、この世界の要素に対して、理外の力を纏うのだ。


 概念に関する非常に難しい行為だが、やらなければ成長できないのだ。

 一週間会っていなかっただけのレアンが見違えるように強くなったのは、彼女なりに自分の内面と向き合い、模索し行動に移した結果。


 ならば俺も、やって見せるさ。


 レアンの成長スピードは凄まじく速い。

 このままでは、流星のごとき速度で成長する彼女に置いて行かれてしまう。


 そうすれば、つらい思いを背負わせてしまうことになる。

 それは、避けなければならないことなのだから。

 

  全身に理外の力を纏い、そしてイメージする。

 この世界に縛られた己の肉体と、理外の力を結びつける。

 溶け合い混ざり合う、二つの液体のように。


 「……ふぅぅぅ……ッ…!!」


 感じる。

 己の肉体が、この世界によって定められた制約から解き放たれていく感覚を。


 俺はこの理外の力で肉体に課された制限を突破する行為を、


 【理外化(アウトルーラー)】と名付けることにした。

 

 最初から難しいことをしようとする必要はない。

 まずは、肉体に課された疲労という限界を理外の力で突破する。


 【未踏(フロンティア・)剣術(オーヴァーターンド)】【権能多重行使戦闘状態(モード・スティール)】を、自身の疲労を感じるという制約を、理外の力で突破するのだ。


 流石に一度目で成功するわけはなく、何度も何度も試してようやく望む形で発動させられた。

 その結果は、やはり成功。

 普段なら連続発動すら厳しい【権能多重行使戦闘状態(モード・スティール)】を連続発動でき、さらに持続時間も伸びて30分以上の発動が可能となった。


 この【理外化(アウトルーラー)】は、己の肉体に定められた制約を突破する。

 それは、何も疲労に限ったことではない。


 イメージ力次第では、理外の力はなんにでも作用させられる。

 

 そこで俺が思い至ったのは、斬撃の限界を突破することだった。

 斬撃とは、刀剣によって起きる事象。

 しかしそれは、元来武器が物理的干渉が可能な範囲内でのみ起こせる行為だ。


 ならば、斬撃の射程の限界を理外の力で突破してやれば、遠距離斬撃が可能となるのではないだろうか。

 他にも、武器を一度振ることで起こせる斬撃は一度だけ、という回数的限界を突破してやれば、一度武器を振るだけで二度の攻撃も可能となる……かもしれない。

 

 俺は刀を構え、刀を腕を【理外化(アウトルーラー)】し、新たな稽古場の機能の一つ、打ち込み台の出現を使って現れた打ち込み台に試してみた。


 結果は、どちらも成功。

 斬撃の射程拡張、並列斬撃、どちらも問題なく行うことができた。

 拡張斬撃は蒼い閃きを伴い打ち込み台を切り飛ばし、並列斬撃は蒼く透ける俺の腕と、その腕に握られた刀が出現し、俺の思考通り左右から同時に横薙ぎの一閃を打ち込んだ。

 

 これらは俺の行う戦闘を大きく変えるだろう。

 しかし、デメリットがないわけではない。

 それは、まだ慣れていないというのもあるのだろうが、それ以上に大量の意志力を消費してしまうということだった。

 いうなれば、複数あるモニターに映るフラッシュ暗算をモニター毎に答えるようなもの。

 他のことに気が回らなくなるほど、思考力を割いてしまうのだ。


 実戦で試してみる他ないが、奥の手という位置づけになりそうだ。


 「よっ、アルナレイト。さっきした約束、忘れたわけじゃねえよな?」


 訓練場に現れたのはバルブゼス。

 足音が聞こえなっかったのは、拡張斬撃、並列斬撃の練習で意識を割けなかったからだろう。

 やはりまだまだ未熟だな。せめて周囲をしっかり把握できるまで何度も練習しなければ。

 

 「なんだか面白そうなものを見せてもらったぜ」

 「来てたなら声かけてくれよ」

 「いや、集中してたから悪いかなと思ってな」

 「別に気にしないさ。

 それで、約束してしまったからには果たさないとな。

 もちろん今から、だよな?」


 丁度いいタイミングで現れたバルブゼス。

 こいつなら全力で行っても耐えられるだろう。

 俺の実験体にしては過ぎた相手だが。


 「あたぼうよ!こっちはうずうずしてんだぜ?

 さっさとやらせろ!」

 「はいはい。じゃ、構えろよ」

 「おう!」


 俺は木刀を握り、バルブゼスには木剣を渡した。


 流れで始まったが、本来であればこんな軽い雰囲気で始めていいような相手ではない。

 バルブゼスは剣聖国の剣聖、その息子に当たる。


 剣術の英才教育を受けてきた、生粋の剣士。

 父と兄とは袂を分かち、ゼディアスに入団したとのことだが、その理由は本人しか知らない。


 俺はその剣技を直接この目でみたことはないが、立ち昇る気迫から、ゼフィリオーセス以上の覇気を感じる。

 

 バルブゼスは、構えだけで見入ってしまうほどに美しいものだった。

 一切の隙のない、無駄のない構え。

 完成された剣士とは、かくも攻めの機を伺わせないものか。


 「来ないのか?」

 「ああ。格上の剣士相手に自分の手を晒すのはバカのやることだ」

 「そうかい。なら、こっちから行くぜ?」


 そうバルブゼスが言った瞬間、俺は複雑窮まる理外の力、理外権能操作によって即座に戦闘態勢を整えた。

 ぎりぎりまで戦闘態勢に入らなかったのは、自主練で失った精神力を少しでも持たせるためだ。


 魔力による強化を一切行っていないのに、認識速度〔加速〕でも捉えきれないバルブゼスの速度は、さすが他種族といったところだ。

 しかし、俺は周囲の空間を〔解析〕し、その空気の形からバルブゼスの構えを読み取り、バルブゼスの上段から放つ落雷のごとき一撃を回避する。

 

 「あっぶねぇ……!」

 「おお!割と本気で打ったんだがな、避けられたか。

 でもまあ、レアンが褒めるくらいなら、この程度じゃないだろ?」

 「当たり前だ。魔力強化もしないで一本とれると思ったか?」

 「言ってくれるじゃねえか。じゃ、次は手加減なしだ」


 バルブゼスが放つ気配がより一層濃密になる。

 構えられた木剣からは緑色の光が放たれ、それが速度を強化する魔力操作だと知る。


 (あの速度ですらぎりぎりだったんだから、今回はもう捉えられないな)


 俺はバルブゼスの攻撃を捉えることをあきらめ、攻撃を読むことに集中した。

 バルブゼスは右腰側に剣を引き構え、姿勢を低くし重心を落とす。

 その構えからどんな攻撃が来るか、予測しなければならない。


 速度強化の魔力操作、低い姿勢、視線は俺に向いている。

 考えつくのは右からの上段袈裟懸け、横薙ぎ、切り上げ。

 しかし、体を回転させての逆袈裟もあり得る。

 だが、速度を上げる魔力操作を行っているのに、その場で回転しなければならない技を使うとは思えない。

 横薙ぎは振りが大きい。切り上げはあまり実戦的な技ではない。

 となれば、やはり上段からの攻撃か。


 俺はバルブゼスが捉えられなくなる寸前まで、その動きを観察した。

 バルブゼスが残像を残して消えた瞬間、僅かに剣を上げた。

 ならばやはり、上段からの袈裟懸けか。


 出し渋る意味もないし、バルブゼスに効果があるかどうかを試すためにも、使ってみるか。


 俺は肉体と刀に【理外化(アウトルーラー)】を行った。

 それはもちろん、肉体の動作限界を突破するためだ。


 バルブゼスの上段からの攻撃を並列斬撃で受け流すことに成功すると、俺の本来の腕でバルブゼスの脇腹に一撃、木刀を入れ込んだ。


 「なんだ今の……確実にぶち込んだと思ったのになぁ」

 「新しく習得した技がなきゃ負けてたな……ま、今回は俺の勝ちだ」


 実戦とはターン制RPGを高速でやりとりするようなもの。


 こちらの行動コマンドを数秒で行い続けなければ、手番が相手に移る。


 そんな中、俺だけが並列斬撃による二回行動を持っているのだ。

 この技がどれだけ強いか、分かってもらえるだろう。


 そして今気づいたが、おそらく理外権能による〔加速〕の身体能力的制限も【理外化(アウトルーラー)】で突破できるだろう。


 バルブゼスとの模擬戦が終わった後試してみたが、やはり可能だった。


 俺自身の思考加速の限界速度は800倍を僅かに上回る程度。

 しかし、【理外化(アウトルーラー)】状態ならば上限なく行える。


 加えて肉体の強度的問題で出来なかった動作の〔加速〕も10倍程度だったのが上限がなくなった。

 問題は精神力を大幅に消費するという点だが、そこさえ目を瞑れば俺自身の強さは【理外化(アウトルーラー)】を見出したおかげで何倍にも上昇したといえるだろう。

 

 俺がこの世界で強くなるには、理外の力への理解を深めていくことが不可欠だ。

 バルブゼスとの模擬戦でそれを理解した。

 ならば今後はもっと理外権能を交えた戦術や技を考えていく必要がある。


 まだまだ俺は弱い。

 もっと強くならなくては。


 とはいえ、過剰な強さを追い求める気はない。 

 この世界で最強になることなどあまり意味はない。


 強さにのみ取りつかれたものはきっと、強さ以外を失ってしまうだろう。

 相手より少し上を行ければそれでいい。それこそが、武の真髄なのだから。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ