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第87話 休息の暇

ほのぼの回です。読み飛ばしても特に本編に影響はないです。

 ヴェリアス、フェリフィスのことで私、レアンは知った。

 アルナは強いけれど、脆いということを。


 一心不乱に鍛錬へ集中し、己を高めることに余念がないアルナ。

 

 しかし、常に違和を感じていた。

 でも今回のことで気づいた。アルナは、修練によって強さを得るために鍛えていたのではなく。

 何故アルナが、今や生まれてからずっと鍛錬してきた私に並ぶほど強くなったのか、その理由もわかった。


 己の犯した過ちを二度と繰り返さない、という罪悪感からただひたすらに肉体を傷つけていた。

 それが鍛錬に見えていただけなのだ。 

 

 もしくは、自傷行為と同等なまでに厳しい鍛錬、ということなのだろう。

 今回の件でもアルナに根付いたその意識は、きっと変わらない。


 正直、アルナがもっと強くなるのはうれしい。

 私ももっと強くなって、みんなを守りたい。


 でも、アルナが傷つくのは見たくない。

 いつも戦闘になったら、どこかしらの部位を切断されているアルナをみて、私は彼が自分の命を軽視しているようにも思う。


 傷ついても、治せるからと先陣を切っていく。

 みんなはその姿を雄姿と捉えて後ろに続く。


 でも、みんなは知っている。

 その力で傷をすべて治せるとしても、その心は徐々にすり減って、いつか亡くしてしまう。


 けれど、けれど。皆怖くて出来ない。アルナのように恐怖を前にまっすぐ立ち向かっていくことなど。


 ならば、私が。


 私が、アルナを超えるくらい強くなって、その前を走る。

 たとえそれが、短い時間であっても。


 空に流れる彗星の如く、刹那の時に消える定めだとしても。


 そのくらいの覚悟でなければ、きっと私は彼に置いて行かれてしまう。


 休んでいる場合ではない。


 刀を手に取り、私は新たな稽古場へと向かう。


 扉に近づき、自動で開く。

 その先にいたのは、私の部屋の隣を自室にしたイリュエル達だった。


 「あ、レアン、ちょうどよかった………」

 「ごめん、いまから自主練だから」

 「えー、でもレアンちゃん、4日も汗流してないんじゃない?」


 カレンさんに指摘されてようやく思い出した。

 

 「だったらちょうどいいね。今からみんなでお風呂入るんだけど、どう?」

 「………むむ」


 私は早く稽古場に行きたいのだが、さすがに4日もすると匂いも気になる……。

 一応、エスティエットくんから学んだ『浄化魔術』なるもので体を清潔に保ってはいるのだけど、気分的にはあんまりよいものではない。


 「……わかった、行く!」

 「はーい、じゃあ待ってるわね」


 …………


 ……


 …


 「ふゅるるほふー」


 大浴場に気の抜けた声が響く。誰の声であろうか。私の声である。


 「4日ぶりだってのに、レアンちゃんからはお日様のにおいしかしなかったわね」

 「~~~~ッ!!!その話はしないでくださいッ!!」

 「あらごめんなさい。にしても、なんであのまま稽古場に行こうなんてしてたの?

 自室にはシャワー室もあるのに」

 「あー、それは、その、はやく新しい稽古場に行きたかったから………みたいな?」


 一応、フェリフィスとヴェリアスのことについてはほかの皆には絶対に話してはならない、という箝口令が敷かれているため、言えるわけがない。

 それでも皆のお誘いを断るのは気が引けるので、一応、ケンセイさんに模擬戦闘を演算してもらって魔力操作の効率を上げている最中である。


 「そう。まあそれもいいと思うけど、せっかくかわいいのに、身だしなみはちゃんとしなきゃダメよ?」

 「……私が、可愛い?」

 「ええ。村の人間よりもスタイルだっていいし、素直なレアンちゃんがかわいくないわけないじゃない」


 カレンさんは何を言っているのだろう。

 私はレギオ村ので生まれてから、一度だって求婚されたこともないのに。

 ヴェリアスとの件は、彼の家系と私の家系の血が合わされば、さらに屈強な剣士ができるという黒い都合があったわけだけど、それでも彼は私をそのような目で見たことはない。


 「だからいったでしょ、レアン。あなたはかわいいんだから、もっと身なり振る舞いに気を付けるべきよって」

 「それを言うならイリューの方がかわいいでしょ。私みたいにでかのっぽじゃないし、性格も穏やかで優しいし。イリューが求婚された回数、何回だっけ?」

 「あのねえ、村の男の子は見る目がないって話したでしょ」


 もうあの村で何年も生きているので、レギオ村の男性が求める女性像というのはなんとなく想像がつく。

 たおやかで礼儀正しく、可憐で儚げのある、一生尽くしてくれる女性。

 ところが私はどうだろう。可憐さ、儚さなどどこ吹く風。

 おまけに鍛錬にばかり打ち込むせいで、尽くしてくれなさそうと面と向かって言われたことすらある。

 

 それに、私はもうあきらめたから気にしてないけれど。


 イリュエルは女性らしい体つきかもしれないが、私は稽古でついた筋肉が体つきを逞しくしているせいで、とても可愛げのあるものではない。


 「……イリュエルは女の子らしい体じゃん、私なんか…………」

 「レアンちゃんも十分女の子らしいけどね。引き締まってるからだらしなくないし」

 「………そうかな……って、ジロジロ見ないでください」

 「まあともかく、確かに狭い村のコミュニティではその評価になるかもしれないけれど、外部から来た者からすれば、レアンは背も高いしスタイルだっていい女の子に見えるけどね」

 「…………ほんとかなぁ」

 「なら聞いてみる?」

 「誰にですか?」

 「ユウトでもバルでも団長でも」


 バルというのはバルブゼスさんということはわかったが、何故今からでも聞けるみたいなニュアンスで話をしているのだろうか。こっちは女性用の浴場で、男性が入ることはできないはずなのに。


 「仕切りの向こう。男湯よ、レアン」

 「…………え、そうなの?」

 

 地下空間にあるという都合上なのか、隣接されているらしい。


 ということはつまり…………。


 「カレンさんやめー!」

 「「ねー!そっち誰かいるー!!??」」


 数秒の間をおいて、声が聞こえる。


 「あー、いるけど、どうした?」

 

 (アルナ!?)


 声の主はアルナだった。

 これじゃ聞きようがない。というか、聞かなくていい。


 「ねーアルナレイト。レアンちゃんって可愛いわよね?」

 「いきなりなんだよ」

 「いや、気になって」

 「そうかよ。まあ答える義理はないな」

 「いいから答えなさいよ。

 じゃないとないことないこと言いふらすわよ」

 「完全な嘘じゃねぇか……」

 

 どうやら私の声は聞こえていなかったらしい。


 「わた……もご」


 カレンさんに口を押えられる。

 なんでこんなこと?


 「で、実際どうなの?」

 「えー……言わなきゃダメなやつ?」

 「言わなきゃダメなやつよ」

 「……いまそっちにレアンは居ないよな?」

 「今はいないわよ。シャワー室で汗流した後、稽古場にいくって言ってたわ」

 「そうか………」

 「で、どうなの?」

 「…………レアンには黙っててくれよ?」

 「わかってるわよ」


 なんだか怖い。どうしよう、気持ち悪いとか思われていたら。


 頭の中を悪い妄想がぐるぐると回る。


 「まぁ、正直言って、その、めちゃくちゃ可愛い……と思う。

 でもあれだぞ!?俺は真っ直ぐに鍛錬するひたむきなところとかがレアンのいいところって思ってるから、その、異性として見てるとかそんなんじゃないからな!」

 「ふぅん…………ちなみになんだけど、アルナレイトは引き締まった女の子の体ってどう思う?」

 「なんか変態チックな質問じゃないかそれ?」

 「いいでしょ、男なんてみんな変態じゃない」

 「言いやがった……。

 言い切りやがったコイツ………俺は紳士だぞ」

 「いいから答えなさい。じゃないとさっきのことレアンに言うわよ」

 「コイツ鬼かよお…………。

 え、でもお腹周りとか引き締まっててってことは普通に綺麗な体だろ、だらしないよか良い。

 普通に考えてな」

 「ふぅん、じゃああんたの中でレアンはかわいいし綺麗な女性になるってことね」

 「ま、まあな…………ってお前、絶対に言うなよ。マジで!」

 「はいはい。わかってるわよ」


 そう言いながらこちらをニヤニヤと見つめるカレンさん。

 …………私はもうどうにかなりそうだった。


 「ちなみになんだけど」

 「お前と話してたらこれ以上よくない気がするから上がるわ、お先」

 「えー、つまんないの」

 「うるせ、絶対に言うなよ。言ったら俺の装備開発に回ってもらうからな」

 「はいはい、あとそれは技術者としてご褒美よ。それじゃね」

 

 アルナはのぼせるなよ、と言って浴場を後にした。


 「んふふふふうふふふ…………だってさぁ、レアン?」

 「そうね。これで分かってもらえたわね」

 「でっでも、アルナはこの村の人間だし」

 「今は街だけどね。それにもと同じ村の人間ならもっともなことだわ。

 自分に自信持ちなさいね。レアン」

 「そうだよ。レアンは綺麗な目してるし」

 「獣人の求愛対象って、瞳がきれいな人…だったっけ」

 「そうだよ。アルナレイトは今まで見たことないくらいに綺麗。

 故郷に行ったらきっとモテモテ」

 「まあちょっと中性的すぎる顔立ちだけどね。初めて見たとき女性だと思ったもの」

 「さて、そろそろ私たちも上がろうかしら」


 なぜかちょっとした罪悪感があるけれども、私はそれ以上に何か大きなものを得ることができた。

 ………アルナには悪いけど、知らないふりしとかないと…。


 というか、アルナがもしお風呂上がりに稽古場に行ったら……嘘がバレてしまうのでは…?


 いや、私が大浴場に居た証拠はないし、大丈夫なはず……。

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