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第85話 懺悔の時

 俺は自室に戻ると、無機質な部屋の奥に増設した、秘密の扉を開けその奥へ行く。

 自室の扉は権能で物理的に明かないようにした。これで誰も入ってこれない。


 「……さて、久しぶりだな。ヴェリアス」

 「あ、アルナレイト……あ、あ」


 憔悴しきったヴェリアスは、頬が痩せこけ全く別人に見える。

 やせ細ってはいるが、栄養失調ではない。

 こんな奴に、苦しみから解放()することなど許さない。


 「ほら、お友達を連れてきてやったぞ」


 俺はフェリフィスを〔再構築〕すると、ヴェリアスの目の前に転がした。


 「な、何が起きてるの……って、ヴェリアス!?あんた生きてたの!!??」

 「フェリフィス!!黙れ!!」


 しわがれた声でフェリフィスの大声をかき消す。


 「な、なによそんな大きいこえ出しちゃって……」

 「黙れと言ってるだろう!!」

 「は……っ」


 ヴェリアスはよくわかっているようだ。この場での振舞い方を。


 「……あ、アルナレイト……俺の言葉を聞いてはもらえないだろうか」

 「うそ……なんでそんな言葉づかいなの……なんで」

 「いいぞ。なんだ?」

 「ありがとう……フェリフィスは、俺が利用しただけなんだ……こいつは関係ないんだ。

 許してやってくれ、あの苦しみを味合わせるのは、俺だけにしてほしい……」

 「な、なにいってるのあんた………」


 以前との変わりようにフェリフィスは何が起きているのか理解できないようだ。

 そして、ヴェリアスの言葉にも一理はある。


 「そうだな。一理ある」

 「!! なら、こいつを開放してやってほし―――――――――」

 「―――――――――だが、それは無理だ」

 「な、なんでだ!」

 「こいつはレアンに酷い仕打ちを行っていた。尊厳を汚した。

 辱めた。お前と同じようにな。

 ―――――――――――――――――ゆえに、お前と同じ目に遭ってもらう」

 「そ、そんな……どうか、許してやってほしい。お願いだ……。

 レアンをいじめさせたのも、俺が仕組んだことなんだ!」

 「いいや、それは噓だ。忘れたのか?

 お前が俺に、何をされたのか」

 「ヒッ………!!」


 青ざめるフェリフィスとヴェリアス。

 実に気分が悪い。ゴミムシ同士が庇い合うなど、みていられない。


 「フェリフィス。ヴェリアスの変わり様をみてわかるだろうが、お前もこのようになる。

 気絶、死亡することは許さない。その身に倍以上の屈辱と痛みを与える」

 

 ふつふつと湧き上がる怒りを、限界点を超えた分すべてを殺意に変えてフェリフィスの心を焼き付けるべくその瞳を見つめる。

 フェリフィスは肩を震わせ、汚物をまき散らし、恐怖の涙で顔を濡らした。

 

 「いや………いやっ!!」

 「いいや、逃げられない。逃がさないからな」

 「はあっ、はぁっ、だれか……!!」

 

 俺は逃げようとするフェリフィスの手を掴み、壁へ叩きつけた。


 ぐう、っといううめき声にヴェリアスが叫んでやめるように言うが、睨みつけ、殺意の残り火だけで十分震えあがってしまうほどに、奴の心はもう折れている。


 これから始めよう。こいつの矯正を。


 というところで、この場で聞こえるはずのない声が聞こえた。


 「ア、アルナ……何してるの?」

 

 振り返ると、そこに居たのはヌルとレアン。

 声の響き方から、通路に面する部屋の扉は閉まっているようだ。


 「その辺りにしておけ、アルナレイト。

 それ以上はお前の心を壊すことになる」

 「何故わかった?この部屋には……」

 「電波障害、だろう?私の技術を使った際に学んだか。だが、あんな出力も低い装置で隠せると本気で思ったなら、私を舐めすぎだ」

 「……そうか。うまくやったと思ったんだが」

 「アルナレイト。それ以上はやめるんだ。

 そんな奴らのために、お前が心を殺す必要はない」

 「……だが、奴はレアンに酷い仕打ちをした。

 ヴェリアスと同様、同じ目に合わせる」


 フェリフィスはレアンとヌルが入ってきたから外へ通じる道があると思ったのだろう。

 立ち上がり、俺を躱して逃げ道へとひた走る。

 それを逃す枠もなく〔再構築〕した投剣を投げる。

 ヌルは俺が投げた投剣を全て掴みながら、フェリフィスに足払いを仕掛け転ばせ組み伏せた。


 「いいか、アルナレイト。お前が行うとしているのは、裁定者としての振る舞いだ。

 それはお前のすべきことを超えた行い。

 自重しろ」

 「悪いが無理だ。レアンを悲しませたこいつを許すわけにはいかない」


 これでは話は平行線。

 その話に、一石を投じたのはレアン。


 「アルナ、2人を離してあげて」

 「……!?何故だ、レアン。こいつらは許されざる行いをした咎人だぞ?」

 「でも、ヴェリアスは改心したんでしょう?

 なら、今度は贖罪をさせないと」

 「だが、こいつは君の……!」

 

 そうだね、アルナ。

 確かにヴェリアスはナタリアお姉ちゃんを殺した。

 でも、アルナはそれに囚われている。

 罪悪感に囚われ、その力を間違った方向へ向けている。


 もちろん許したわけでは無いし、ジークもそれは同じ。

 でも、命があるなら、その命を使って贖罪をすべきだと思う。

 復讐は更なる報復を呼ぶだけ。


 「……フェリフィスちゃんも、許して無いよ。

あんなことされたんだもん、許さないよ。

 でも、謝罪の気持ちがあるなら、贖罪のための機会を与えられるべきだよ。アルナ」

 「そうだ。アルナレイト。

 お前とて、村人を守る為に命を奪った。

 お前の中の信念と照らし合わせるなら、如何なる理由があれど殺害は許されないのだろう?

 ならば、お前自身はお前を許せない。

 そんなことをすれば、お前の心は壊れてしまう。

 だから……」

 「構わない。壊れたとて、死ぬわけではない。

 俺は自分の罪を許さない。だから、奴らの罪も許さない」

 「勘違いするなよ、アルナレイト。

 私もお前と同じ意見だ。だが、何もお前が直接手を下すことはない」

 「俺とヌルがこの村に来たことで、結果的に人の命が失われた。

 責任は、俺にある」

 「ああ。そして、その責任はすでに果たされた。

 今お前がやろうとしている事は、自分の罪悪感を正当化したいというお前自身の心の弱さが故の行動だ」

 「……!!

 違う、違う…!」

 「いや、違わない。お前は過剰なまでの仕打ちは、自分の罪悪感が許さないんだろう。

 こんな奴らを許すわけにはいかない。

 許さないからこそ、自分の行い正しい。だから自分を罰しないでくれと、心の底でそう思っているからだ」

 「違う…!こいつらはまだ、罪を償うだけの罰を受けていない!」

 「いいや、2人ともすでに、十分な罰を受けた。

 一度、お前に殺される痛みと恐怖を味わった。

 お前は正常な判断ができなくなっている。

 見てみろ、フェリフィスを」


 フェリフィスの瞳には、もう反抗の意思など残っていなかった。


 「それ以上はいい。後のことは、贖罪のための試練を与えてやればいい。

 足跡のつかない人材は、いくらでに使い用はある。」

 「……そう、だな。

 俺は、自分の罪の意識で必要以上に罰していたのかもしれない。

こいつらに対して、そして、自分に対しても」

 「だから釈放する、というわけにはいかないからな。アルナレイト、今後お前が他種族の国家へと忍び込む際に、危険な任務でもやらせればいい。

 それで生き残ったならば次の試練を、といった具合にな。

 大切なものを壊したのだから、それ以上の働きをしてもらわねば釣り合わないだろう」

 「そうだな。そうしよう……。

 ありがとうヌル。そしてレアン」

 「まあ私は何もしてないけどね」

 「いや、レアンなんだろ?この一連の流れを作ったのは」

 「……あちゃ、ばれちゃったか」

 「ああ。だってヌルが俺と同じ意見なら、すでにこいつらに命はない。

 けれど、レアン。君が贖罪の機会を与えるべきというのなら、俺はそうすべきだ」


 俺がいくら罪の意識に苛まれようと、被害者であるレアンがやめて欲しいというのなら、やめないわけにはいかない。

 だが、俺はこの2人を信じることなどできない。


 故に、再び刻んでおこう。

 殺意による恐怖で、こいつらをコントロールできるように。


 「おい、お前ら。

 慈悲深きレアンに感謝しろ。お前達には贖罪の機会が与えられる。

 精々己の強みを磨いて役に立って見せろ!

 逃げ出そうとしたその時は、問答無用で殺す。

 そのことを心の奥底に刻み、ゆめゆめ忘れるな」


 2人は大きく深く首を垂れ、レアンに感謝をするのだった。

 しかし再三言わせて貰うが、俺はこいつらを信じちゃいない。

 コイツらに対しては、俺は理外権能の制御をつけない。

 逃げられると思うなよ。ヴェリアス、フェリフィス。

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