第81話 共鳴
村発展編はもう少しだけ続きます
ゼフィリオーセスを倒したアルナレイトがこちらへ歩いてくる。
私とエスティエットはアルナレイトの方へ向かって歩き出す。
ヘッドギアが外され、久しぶりに見た女性と見間違う顔つきは、どこか少し大人びて見えた。
「「きゃあああああああ!!!!!」」
グータッチしようと駆け寄ったとき、その絶叫はこだました。
「ゼフィリオーセス様!おやめください!」
「……黙れ、俺は、生きる……!その糧になれ、キャシー!!」
首筋に鋭利な一撃を受け死んだはずのゼフィリオーセスは、拘束されているキャシーに襲い掛かっている。
足元に転がっているのは、一つの瓶。
「……チッ……基礎回復薬か!」
「まずい、早く止めないと!」
アルナレイトから事前に聞いていた情報を私は思い出す。
有角人種国は、ポーション産業が発展していて、その効果は、高位のものであれば傷を即座に再生させることすら可能であると。
アルナレイトが首筋に付けた傷も、既に完治している。
(完全に忘れてた……何の意味の事前情報共有なの……!)
私は自分の愚かさに怒りながらも、ひとまずは今起きていることを優先する。
エスティエットはゼフィリオーセスの凶行を止めるべく、魔術を放つ。
「……魔力強固鎖捕縛!」
周囲の空間に魔術式が浮かび、そこから延びる魔力で作られた鎖がゼフィリオーセスの四肢を縛り、空間に固定する。
「ゼフィリオーセス、なぜだ?」
アルナはゼフィリオーセスに向き合い、言葉を発する。
「お前ほどの誉れ高い精神の持ち主なら、他人の魂を利用してまで強くなろうとはしないはずだ。
さっきまでとは別人じゃないか」
アルナの問いかけなど全く意に返さないように、魔物のごとく歯を食いしばり、獣のごとくこちらを威嚇する。
明らかに、さっき話した時のゼフィリオーセスとは別物だった。
「……死に際には人の本性が出るというが、それが本当のお前なのか……?」
悲しそうに問うアルナレイト。
「あの時お前は言っただろう。敗れたものとて、剣士の誉れの中で生きていると。
あの言葉は嘘だったのか。ゼフィリオーセス……答えろ!!」
ゼフィリオーセスの瞳には今も欲望のどす黒い意思の光が込められていた。
「……ねぇ、アルナ。明らかに変だよ。
さっきと全然様子が違う。まるで別人みたい……」
「……別人……まさか」
暴れ狂うゼフィリオーセスにアルナレイトが近づく。
アルナレイトが刀でゼフィリオーセスの手を軽く切り裂く。
(たぶん、アルナは今、ゼフィリオーセスに理外の力を流しているんだ……)
すると、ゼフィリオーセスは糸が切れたように動かなくなり、そして、再び顔を上げた。
変わらずに歯を食いしばっていたが、それでも瞳には知性の光を宿していた。
「……っグググ……あ、アルナレイト……私から……離れろ!」
「どうした、何があった」
「あの女、ニーアだ。あの女の仕業だ!」
「ゼフィリオーセス様……!正気に戻られたのですね!」
「違う……おそらく私はもう…グッ……し、死んでいる……。
この体を動かしているのは、あの女軍師、ニーアだッ!!
死の淵にて、あの女の力が私を乗ったのだ……忌まわしい!」
ニーア?力?なに、何が起きているの……?
私の疑問にケンセイさんが答える。
『【推察】高度に秘匿された情報のため推察とはなりますが、おそらくニーアという女性体がゼフィリオーセスに何らかの術を施したのでしょう。
それをゼフィリオーセスは今まで意志の力で抑え込んでいたのが、死に際に意志の力が緩み、その力に支配されたということと思われます。』
(え、そんなことがあり得るの……?)
『【回答】はい。高位のスキルになればそのようなことも可能になります』
嘘……そんな、他人の意思を踏みにじるような行為……ありえていいわけがない。
その時、レアンの心には怒りが灯った。
「……だれか、誰でもいい!
私を殺せ!!出なければ私は、あの女の力でこの場にいる全員を殺してしまう!
早く、だれか、誰でもいい!!」
「……ああ。わかった。俺がやろう」
「す……まない……だが、もう」
ばぎぃん、という重々しい音が響いた瞬間。拘束されていた鎖は引きちぎられていた。
「……っ!」
ゼフィリオーセスの体は膨張を開始していた。
鎧を内側から押し上げ留め具を破壊し、鎧が落ちる。
「「あ、あ、がぁぁぁぁあああっ!!!」」
腰にあった剣を膨脹した体で持つ。ゼフィリオーセスの剣は長剣だというのに、膨脹した体では小さい短剣のように見えた。
その長剣は、魔力など一切纏っていない一撃でアルナレイトの刀ごと受けきった左半身を消し飛ばした。
しかし流石というべきか、アルナレイトは瞬発的に長剣を受け、流れを変えた。
受け流した長剣は異常な速度で地面へ突き刺さり、そしてゼフィリオーセスだったものはその剣を引き抜こうと躍起になっている。
「「があ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!!」」
「「……ッッ!!」」
だめだ。このままでは、本当に……。
いや、何を考えている。私は。
アルナレイトが身を挺して攻撃を受け、せっかく生じた隙なのだ。
ここで動けるのは、私しかいない。
レアンはなけなしの残りの魔力を全て振り絞り、全身を魔力強化してゼフィリオーセスの頸椎目掛け斬撃を放つ。
首に刀が触れた瞬間、ゼフィリオーセスは頭を振り回す。
その頭部に生えた逞しい一本の角が、レアンの腹部に深々と突き刺さった。
「うぐっ……っ……う、おおおお!!」
激痛を感じるレアンだったが、それでもあらん限り力み、首を切り落とさんと力を込め続ける。
度が過ぎた力みか、出血か、どちらかが原因なのだろうが、レアンはゼフィリオーセスの首を半ばまで切った時にはもう、意識が薄くなっていた。
(だめ、まだ、手応えを感じない……もっと、もっと……早く、苦しさを終わらせないと……)
しかし、レアンの思いとは裏腹に彼女の意識は深層へと落ちていったのだった。
◆◆◆
レアンは気づくと、真っ白な部屋にいた。
家具も窓も光源もない味気ない一室。
その中に立っているのは、ゼフィリオーセス。
兜が外された顔は、自分たち人間と何ら変わりない人間の顔つきだった。
額に生えた角は血に濡れ、そのことを認識して自分が角で腹を貫かれたことを思い出す。
「……ゼフィリオーセス、ここは?」
「わからない。だが、こうして語らう時間ができたのは、俺たちにとってこれ以上ない幸運なのだろうな」
ゼフィリオーセスは全く敵意を感じない、むしろ優しい声音で語り出した。
「……謝罪をさせて欲しい。
私は無論、王もあの女に狂わされていなければ、このような侵略などしない。絶対だ」
レアンはゼフィリオーセスの話を聞き、今回なぜ人間の村に有角人種が侵略したか、その成り行きを聞いた。
「そもそも、以前の陛下なら、君たちに対し侵略など考えんだろう。
共に生きることこそ良しとする。
君たちと共生関係になろうとすることはあっても、一方的な押し付けで君たちの命を軽視することは絶対にありえないのだ。
だが、あの女が現れてから、王は人が変わった。」
「辺境の村で生まれた、軍師ニーア……」
「そうだ。
現実世界の私があのような醜い化け物と化したのも、あの女に施された呪術によるものだろう。
そしておそらくロスナンティス陛下にも、その呪術に掛けられている。
一度味わったからこそ分かる。
あの呪いは、魂の醜い衝動を激化させ、理性を緩め暴れさせるのだ……。
抗うには相当な意思力が必要となるだろう」
(人の衝動を高め、理性を緩める力……。
そんな恐ろしい力が存在してるなんて…)
「レアン、頼みたいことがある。
どうか我が国を、魔女ニーアから救ってもらえないだろうか。あの、アルナレイトと共に」
その願いを私は、叶えてあげたいと思った。
他種族で、さっきまで戦いあっていたけれど、そんなの今は関係ない。
私は、救いたい。
苦しみを味わう人を、救いたい。
「わかった。ゼフィリオーセス。
あなたの願いを、私が代わりに叶えてあげる」
ゼフィリオーセスは顔を綻ばせ、こちらに手を差し出してくる。
私はその手を迷わず取った。
「……あらぁ、まだ生きてはるん?案外しぶといんやね」
その時、おぞましい憎悪を孕んだような声が聞こえてきた。
「……あの人は?」
「ニーアだ。レアン。あの女が、ニーア。わが王を貶め、罠にはめた下劣な女だ」
声の主は、私よりも背の丈が小さな女性。
子どもではなかった。
切りそろえられた、真っ黒な谷底を切り取ったような短い髪。額から延びる二本の角。
病的なまでに白い肌に、深い青の瞳。
アルナレイトのような、澄み渡る青空を映す蒼とは違う、深淵の奥で蠢く様な蒼。
そのしぐさや気配が醸し出す存在感が、決して幼いなどという感想を抱くことを許さなかった。
「ま、ええわ。精神世界に引き込んだことは間違いやで。
ここなら、直接干渉せんでも精神に干渉できるしな」
「させるとでも?」
「逆に止められるとでも思ってるん?そないあんたは強おないで。思い上がるのもそのへんにしとき」
「かもな。でも、止める必要はない」
「なんやて?」
私にもその言葉の意味はわかっていた。
ゼフィリオーセスの手を取り、願いを受け入れたその時、既にゼフィリオーセスの目的は果たされていた。
私にスキルと魂の力を譲渡するという、その目的を。
私の中にゼフィリオーセスの逞しい力が存在することを、確かに感じている。
「さらばだ、レアン」
「悔しいけど、あんたのほうが一歩上手やったってことやな……」
レアンは次第に薄れる光景の中に、ゼフィリオーセスの姿が光となって消えるのを見た。
それが、ゼフィリオーセスという人間の最後だった。
(ゼフィリオーセス……ゆっくり休んで。
私があなたの使命を、果たすから)
(ああ…頼んだ)
その会話を最後に、精神世界は崩壊したのだった。
◆◆◆
朝焼けの中。私が最初に見たのは、元の体に戻ったゼフィリオーセスの体が消えていくところだった。
既に死んでいるはずの体を動かした代償として、死体も残らず消え去ってしまう。
その様子を泣きながら見送るロベルタとキャシー。
泣くのを堪えるブライト、ザバン、マズスク。
五人の様子から、ゼフィリオーセスがどれだけ慕われていたかがわかる。
しかし、その魂を満たす力と、使命は私に引き継がれている。
何も悲しむ必要はない。高潔な意志は、彼ら五栄角にしっかりと受け継がれているのだから。
ゼフィリオーセスから受け継いだ力。
そのスキルの名前は、【共鳴】。
アルナレイトは強いスキルではないと言っていたけれど、それは以前までの話。
ケンセイさんがいうには、ニーアの精神支配を意志のみで挫き続けた彼の魂の力は成長し、私に力を託す際、魂の力全てを注いだことで、彼では使えなかった効果と、出力の向上を果たしているという。
今の【共鳴】スキルの効果は、
【思念共鳴】
・共鳴状態にある対象に思念を共鳴伝達する。
【魔力共鳴】
・周囲の魔力と自身の魔力を共鳴させ、支配下に置く。
【共鳴感覚】
・対象に自身の感覚を共鳴させる。
と、一つの効果が増えていた。
ケンセイさんがいうには、このスキルを使い込んで魂に刻み込まれていくほど、さらなる効果を発揮するようになるらしい。
このスキル、大切に使わせて貰おう。
ゼフィリオーセスが残した、遺志そのものなのだから。
そして、その遺志を彼ら五栄角にも伝えよう。
「五栄角のみんな、ゼフィリオーセスの最期の言葉を伝えるよ」
私は【共鳴】スキルの効果、思念共鳴により、全員に残ったゼフィリオーセスの遺志を伝えた。
(我が弟やレアン、アルナレイトを頼り、王をお助けし魔女ニーアを討て。頼んだぞ)
ゼフィリオーセスの残った思念は、それを伝えるのを最後に消滅した。
五栄角はこちらに向き直り、そして膝を着く。
「魔女ニーアの討伐までの間、あなたにお仕えしたい。筆頭騎士ゼフィリオーセス様の力と意志を継ぐレアン、あなたに」
こうして、有角人種たちとの戦いは終結したのだった。
名前:レアン・ルーファス
種族:只人種
技量:下之中
筋力:下之上
速力:下之中
体力:下之中
運命力:下之低
知力:中之低
生命力:下之低
魔力量:下の高
魔法適正:無し
使用可能魔術:無し
習得技術《魔纒戦技》・《魔纒闘法》
所持スキル:【賢聖の知見】・効果
【記録照会】 世界の情報記録領域に接続し、触れた事象に関してのみ情報を明かす。
【思考強化】 思考速度を2000倍まで加速可能。思考の分割を可能。思考妨害を無効化。
【並行編纂】 思考とは別に演算を同時に並行可能。
【解析測定】 対象を定め、ある程度の隠匿も突破し解き明かす。
【共鳴】
【思念共鳴】
・共鳴状態にある対象に思念を共鳴伝達する。
【魔力共鳴】
・周囲の魔力と自身の魔力を共鳴させ、支配下に置く。
【共鳴感覚】
・対象に自身の感覚を共鳴させる。
魔力系スキル
【魔力操作】
【魔力変化】
【魔力変換】
【魔力強化】
【魔力放出】
【魔力成型】
・効果:魔力を消費することで、スキルによって魔力の形を固定する。
消費する魔力量に応じて硬度が上昇する。
使用武器:カタナ
備考:強力なスキルを手にし、強さ、知識に貪欲になった。




