第80話 五栄角との闘い その3
スキル【賢聖の知見】を獲得したレアンの強さは、以前に比べて別物と思えるほどに成長していた。
予備動作を見て攻撃の軌道を予測することで敵の攻撃に対応していたのだが、今のレアンはそうではなかった。
【賢聖の知見】スキルの効果、思考強化による思考速度の2000倍加速。
無論、人間に耐えられる思考速度の限界値である400倍程度に抑えられているものの、レアンの思考速度と体感覚時間は、以前とは比べ物にならないほどに引き伸ばされた時間の中を動けるようになっていた。
高速戦闘が可能になっていたレアンは、攻撃を見てから対応できるようになっていた。
引き伸ばされた時間の中。スローモーションに見える三人の動きを余裕を残して対応するレアン。
(……それでも、やっぱり身体能力は桁違い)
一撃を受けるたびに骨が軋む痛みに襲われ、その度に魔力消費量を増やして防御力を上げ最適化する。
思考速度加速、体感覚時間加速の二つに肉体が着いて行けるように【賢聖の知見】スキルは魔力を消費し肉体性能を強化向上させ、レアンの戦闘力を最大限まで高めていた。
最大限高まったレアンの強さは、有角人種3人を相手取って、一切息切れもせず、スタミナを温存しながら手傷も負っていない程だった。
敵の攻撃は【賢聖の知見】の効果、解析測定による攻撃パターンの特定によって、事前動作がフェイントであるか、またどの攻撃が最も可能性が高いかを判別し、放たれた瞬間に攻撃軌道をレアンに教えているのだ。
加えて思考強化の効果で、常に最低限の魔力消費量で高効率の魔力操作を維持しているため、レアンの魔力消費量は微々たるものとなっている。
身体能力を魔力で飛躍的に高め、その効果を維持するために魔力を消費し続けている。
魔力を消費するといっても、その効果を維持することは神業に匹敵することなのだが、【賢聖の知見】にしてみれば容易いことだった。
結果、レアンは初の対他種族戦闘にて、余裕を持った戦闘を行えていたのだ。
レアンは戦闘の最中、訝しんだ。
ゼフィリオーセスがいたときの4人と、今の三人の動き方が明らかに鈍いのだ。
(連携の継ぎ目が大きいし、何より遅い)
ブライトが、半ば折れた大剣を担ぎ、振り下ろしてくるのを魔力強化で受け止め、そのままはじき返す。
そのあとすぐにロベルタの連撃が飛んでくるのだが、今回はザバンとロベルタどちらが攻撃するか、ほんの少し動き出しが鈍かった。
レアンはその隙を逃さず、《魔纏戦技》を叩き込む。
「……っ!」
魔素構造完全状態で放たれた一撃は、大剣で受けたブライトを容易く弾き飛ばし、大剣を完全に破壊した。
「ぐっ!…………腕が鈍ったか!」
二人が攻めあぐねているうちに、レアンはどんどんブライトへダメージを蓄積させていく。
(でもどうしてだろ。動きが遅い)
レアンの疑問に【賢聖の知見】スキルが答える。
『【回答】4人時の連携は、ゼフィリオーセスの保有スキル【共鳴】の効果により、思考を共鳴していたため、柔軟な連携が可能であったと思われます』
(【共鳴】スキル………か、ほかにどんな効果があるんだろう)
『【回答】【共鳴】の効果は ・思念共鳴 ・魔力共鳴 の二つだと思われます』
(思念共鳴………ってことは、自分の思考をほかの人に見せて、それで連携するってことだよね。
ってことは、魔力共鳴は、周囲の魔力を自分の魔力と共鳴させて、それを操作するってことだよね)
『【回答】概ね正解ですが、思念共鳴には、対象の思考も共鳴することが可能であり、他人の思考を読むことも可能と思われます』
(でも、ゼフィリオーセスが居なくなった途端動きが鈍ったってことは、範囲はかなり短いね)
つまり、今はまだゼフィリオーセスが戻ってくる可能性は低い。
であれば、アルナレイトが引き付けてくれているうちに、この3人を制圧すべきだ。
(…………いくよ、ケンセイさん。補助よろしくね)
『お任せください』
レアンは自身のスキル【賢聖の知見】スキルに呼びかけ、さらに自らの成長のために戦いを激化させていく。
…………
………
…
【賢聖の知見】によるサポートはレアンの戦闘能力を大きく高めていた。
自分の意思で行わなければならない魔纏戦技と魔纏補助をスキルによる制御で自動発動させ、認識を割く必要なく変則的な攻撃、大技に意識を割けるようになっていた。
それに加え、制御不可能とされていた魔素構造完全状態での攻撃を、戦闘中に任意で一度だけ、高確率で行えるようにもなっていた。
【賢聖の知見】スキルによる情報収集で、戦闘開始時に魔力の流れを記録開始し、一定時間経過後に統計的に割り出した魔素構造完全状態の発動時間を演算するのだ。
そうすることで、魔素構造完全状態での攻撃を高確率で行えるようになっていた。
しかしこれには欠点もあり、絶対に発動させられるわけではない上に、魔力の流れ、その情報を十分に収集しきるまでは発動時間はわからないという点。
しかし、魔素構造完全状態で攻撃できる確率が上がる、というだけでも非常に有利となるのだ。
アルナレイトとゼフィリオーセスの戦闘開始から数分後、レアンは見た。
ゼフィリオーセスのスキル【共鳴】の真骨頂と、種族の角、そして、鍛え上げられた剣技すべての複合技。ゼフィリオーセス最大の奥義、魔力共鳴斬。
周囲の魔力をリソースに、魔纏戦技の強化作用をすべて発動させ、斬りかかる技。魔纏闘法は発動させていなかったことから、アルナレイトが生み出した技術はこの世界であまり使われていない技術なのかもしれない。
「おわったな、あの人間」
「ええ。あれを受けきれる有角人種はいないのだから、最弱の劣等種には捉えることもできないわ」
戦闘開始からかなりの時間が経過していた。
それも、魔力の流れの情報を十分に収集できるほどの。
しかし、レアンには大技を撃つだけの隙を生じさせる一手が足りなかった。
(……初めて使うけど、できるかな……)
エスティエットの魔術教室で、レアンが学んだ最初の魔術。
それは、魔力を強い力で固定し、形を整え武器や防具として扱う原型魔術。
しかし、レアンはまだ、魔術を発動させるだけの膨大な術式と構築方法がわかっていないのだ。
直感的な感覚に優れるレアンだが、その反面、理論によって構築されたものは飲み込むのに少し時間がかかってしまう。
悩んでいたレアンに、一つの光明が見える。
『【提案】魔力操作派生スキル【魔力成型】によって、魔術を用いず代替効果を得ることが可能です』
(でもわたし、そんなスキル持ってないよ?)
『【回答】現在スキルを保有していないだけで、獲得可能なスキルが9個存在します。
そのうち一つが【魔力成型】スキルであり、即座に獲得、使用可能です』
(え、ほんとに?)
『【回答】はい。本当です』
(じゃあそれ!お願いします!)
『【承認】……スキル【魔力成型】を獲得に成功。既に使用可能です』
レアンが新たに獲得した魔力系スキル【魔力成型】の効果は、非常に使い勝手のいいものだった。
魔力を消費することで、スキルによって魔力の形を固定できるというシンプルなもので、硬度を上げるほど、多くの魔力を消費するという効果を持っていた。
(……よし、やってみようかな)
レアンは斬りかかってくるロベルタの剣を、あえてそのまま防がず刀を上段に構える。
「ようやく判断を間違えてくれたね!」
そして、【魔力成型】によって構築した小太刀を、右腰から上段に切り払うように振り上げた。
【魔力成型】で構築した小太刀の内部を空洞にしその中に魔力を溜め、【魔力放出】によって加速しロベルタの剣を弾き飛ばしたのだ。
「何ッ!?」
「「せいやぁあああああっ!!!」」
小太刀を放り投げ、上段で構えた刀を裂帛の気合と共に一気呵成に振り下ろす。
速度に特化した青い光が刀を包み、そして、その光はロベルタに触れた瞬間、魔素構造完全状態であることを表す一際強く輝いた。
「「させるかあッ!!」」
ロベルタを守ろうとするブライトとザバンはレアンの一撃を受けた。
しかし、レアンはこのタイミングのために消費魔力量を増加させ、さらに魔力によって遠距離斬撃を放っていたため、ブライト、ザバンが受け止めた攻撃のダメージは、ロベルタにも衝撃波となって伝わった。
「なんなんだ……この威力」
「まさか、人間にも強きものが残っていたとは……」
ザバンとブライトは腕がへし折れ、斬撃によって皮一枚繋がっているというぎりぎりの状況。
ロベルタはレアンが放り投げた小太刀に残っていた魔力をすべて推進力として放出させ、深々と足の甲に突き刺さっている。
三人が戦闘を継続できないのは、明らかすぎるほどに明らかだった。
名前:レアン・ルーファス
種族:只人種
技量:下之中
筋力:下之上
速力:下之中
体力:下之中
運命力:下之低
知力:中之低
生命力:下之低
魔力量:下の高
魔法適正:無し
使用可能魔術:無し
習得技術《魔纒戦技》・《魔纒闘法》
所持スキル:【賢聖の知見】・効果
【記録照会】 世界の情報記録領域に接続し、触れた事象に関してのみ情報を明かす。
【思考強化】 思考速度を2000倍まで加速可能。思考の分割を可能。思考妨害を無効化。
【並行編纂】 思考とは別に演算を同時に並行可能。
【解析測定】 対象を定め、ある程度の隠匿も突破し解き明かす。
魔力系スキル
【魔力操作】
【魔力変化】
【魔力変換】
【魔力強化】
【魔力放出】
!【魔力成型】
・効果:魔力を消費することで、スキルによって魔力の形を固定する。
消費する魔力量に応じて硬度が上昇する。
使用武器:カタナ
備考:強力なスキルを手にし、強さ、知識に貪欲になった。




