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第77話 作戦

 遅れてレアン達と合流した俺は、実は遠くから多機能補助情報端末(アウル・スティルグ)の遠視機能で、ゼフィリオーセスなる人物達を観察していたのだ。

 理外権能で〔解析〕したところ、【共鳴】なるスキルを保有しているようだった。その効果は、他者と思考を共鳴させ、情報伝達を行うらしい。

 物理的な連絡手段に頼らざるを得ない時に使えば敵に情報が漏れにくいスキルと言えるだろうが、あまり強い効果ではないだろう。

 

 ひとまず、有角人種達に居場所がバレなかっただけよしとしよう。

 レアンの通信端末から話は聞いていたが、問題は、どう戦力を揃えるかだ。

 ユウトがこっちまで来てくれれば勝ちは確定するが、それは出来ない。

 なぜならば、今ユウト達には傭兵として近辺の国へと向かってもらっているからだ。

 魔物の村ができつつあるらしいと周辺国に噂を流してもらっているというワケなのだ。


 それがなぜかといえば、俺の策の一つ、魔物の村を利用する作戦だ。


 この世界では、魔物は知性を持たず親となる個体の下僕として動く操り人形のようなもの、というのが一般の常識。

 ならば、その魔物たちが集まり、知性を感じさせるような行動で集団生活を取っていた場合。それはどうなるだろうか。

 おそらく、その情報は異様なものとしてそれなりの発言力と影響力を持つ者に行きつくだろう。

 その情報を聞いて感じるのは、未曽有の脅威に対する危機感と、早期対処可能かどうかという疑問。


 その情報に選択肢を与えられ、その選択を考えている最中は、ほかの事柄などそもそも調べようとしない。思い起こらない。

 俺はそう考え、レギオン街発展と、その中身の充実のための時間稼ぎ。それから俺達の街が近辺にあることから、何かしらの形で調査に赴く者たちがやってくるだろうと見越した戦略なのだ。

 その者に俺達の街は魔物調査の協力を行い、友好的な関係を持つことができれば御の字だ。


 という策略のために、噂を広げてもらっているのだが。

 今回の有角人種(キャリブホーナイン)が現れたのは、本当に想定外だった。

 今後は世界の情勢についても情報を集めていかないとな。リオンあたりに情報料を払って聞いてみるか。


 とりあえずその話はまた今度だ。

 今はとりあえず、有角人種(キャリブホーナイン)に対する戦術を考えなくては。


 まず明確にするべきは敗北条件。

 もちろんの話だが、彼らをレギオン街へ迎え入れさせないは当たり前だ。

 せっかく人手が集まりつつあるというのに、その彼らを恐慌させるのは以ての外だし、ようやく戦力が集まりつつある今、有角人種(キャリブホーナイン)共に美味しい所を持っていかれるわけにはいかない。

 

 敗北条件の定義は、こうだ。

 一つ。彼らをレギオン街へ到達させないこと。

 二つ。俺達3人が死なない、或いは捕虜にされないこと。

 三つ。レギオン街の情報を持って帰らせないこと。


 この三つだ。

 一つ目、二つ目は言わずもがな、三つ目は大群で攻め込まれてきては勝ち目がないからだ。

 場所や規模、拠点からの方角を割り出されればその時点で延長戦確定だ。


 続いて勝利条件の定義。


 傭兵たちが戻ってきてくれれば勝利は確定だ。

 その圧倒的戦力で6人程度叩き潰してくれるだろう。

 他には、俺達3人で6人を制圧すること。

 レアンとエスティエットの二人がキーになるだろう。

 今村に残っているバルブゼス、カレン。彼らも他種族だ。それも、有角人種(キャリブホーナイン)より強い種族。彼らに戦闘中であると伝え、援軍に来てもらう。

 これが最も現実的だろう。

 逆に、ユウトが率いていった傭兵たちが戻ってきてくれるまで凌ぐのは最も確率の低い勝利条件だろう。


 勝利条件。

 援軍を呼び、制圧。

 現状の戦力で制圧。あるいは撃退。

 

 こんなところか。

 なかなかに厳しい条件での戦いだが、やるしかない。


 「……エスティエット、レアン。話を聞いてくれ」


 俺は二人に考えを話し、具体的な戦術を練るために二人の能力を今一度確認する。


 「……以上が、私の新しく手に入れたスキルの効果だよ」

 「………ちょっと待ってくれ」


 開いた口が塞がらない。

 ………まさかレアンが、そんな高性能なスキルを手に入れていたとは。

 正直驚きが隠せないが、指揮官となる俺が動揺を見せてはいけないだろう。


 「……エスティエット。レアンは今、強力なスキルと新たな技術を手に入れ強くなった。

 俺なんかよりも強い二人なら、その戦闘力だけで6人を撃破可能かどうか教えてほしい。

 無論、エスティエットに言いつけていた魔術行使の制限は無しだ」


 俺は、エスティエットがケイン帝国認定魔術師の中で最高位の魔術師、冠卿魔術師(グラン・メイガス)であることを知り、その実力を極力隠すように前もって指示していた。

 それは、そんな高位の魔術師なのだから魔術の行使だけで存在が露見する可能性もあると見越してのことだったのだが、今はそんなこと言ってられない。

 それに、いかなる策もセカンドプランを用意してある。真に隠すべき理外権能の存在さえ隠せられれば、何ら問題はない。


 エスティエットは考えを述べる。


 「今の僕は、きっと役に立てません。

 申し訳ございません……」

 

 エスティエットはその理由について話し出す。

 どうやら、彼はデッソイ村に至るまで、常に探知魔術を起動しっぱなしであったため、魔力がほぼ枯渇状態なのだという。

 最高位の魔術師が、その程度で……と思ったのだが、どうやら何か理由があるらしい。

 

 「……実は僕、よく勘違いされるのですが、もう成人しているれっきとした大人です。

 魔術を習い始めたときにはすでに16歳を超えていて、魔力総量はレアンさんの十分の一にも満たないほど少ないんです」

 

 ……魔力回廊は幼いころに使うほど鍛えられ、魔力量と操作感度が向上する。

 エスティエットはすでに魔力回廊の成長段階になく、魔力量は少ない……ということか。


 「僕は努力しかできない人間ですから、冠卿魔術師(グラン・メイガス)になれたのは術式の同時編纂数と構築編纂可能術式数の数がほかの魔術師、他の冠卿魔術師(グラン・メイガス)に比べても多いから、という理由なんです」


 まあ他にもありますけど……と付け足すエスティエット。


 エスティエットは魔力量が少なく、また魔力回復量も極端に低いらしい。

 しかし、それは俺の知識や理外権能でどうにかなるかもしれない。


 「……レアン。エスティエットに魔力を分けてやるということはできるか?」

 「う~ん、やったことないからわかんないや。試してみる?」

 「一応ほかにも手はあるけど、試してみてほしい」


 俺は魔力を感じることができず、せいぜい魔力がほかの力に変わるときの光や、魔力そのものの高い濃度があるときに、光を屈折させるときの歪みを見て感じ取ることができる程度なので、二人の中で何が行われているのかわからないが、エスティエットはパッと顔を上げて、おそらく成功したことが伺える。


 「成功したんだな。よかった」

 「はい!ありがとうございますレアンさん!」

 「何とかなったね!」


 できるかと聞いて、土壇場でやってみて成功させるレアンは流石、天才だ。

 

 「これで魔力の問題は解決できるだろう、問題は、奴ら有角人種(キャリブホーナイン)に有効な魔術があるかどうかだが……」


 多機能補助情報端末(アウル・スティルグ)に記録されているヌルの情報によれば、有角人種(キャリブホーナイン)の何よりの特徴たる角。あれはなんでも、異常発達した魔力回廊のらしい。

 人間の何倍もの魔力量と操作感度をもち、全身に魔物の筋線維にも似た性質の肉体構造は、異常発達した角から魔力が供給され、魔物以上の身体能力を発揮する。


 さて、どうしたものか……。


 「……ふぅん、私たちに有効な魔術、ねぇ」


 声が響いた。

 俺は即座に刀を抜刀し、声の聞こえた方面へ向き直りながら、唐突に話しかけられたことに凄まじい悪寒を感じながら正体を確認する。


 多機能補助情報端末(アウル・スティルグ)で確認した、モスグリーン色の髪色が特徴的な、ツーサイドアップの女。

 額の真ん中から生える角が、人間ではないことを如実に示している。


 「やーっぱり敵対意志あり、だったね。なんか一人増えてるし。ゼフィリオーセス様?」

 

 しまった。エスティエットがいるから、探知魔術があると気にしていなかった。

 そうだ、俺がいるのだから、探知魔術はその効果を発揮しない。

 範囲内に理外の力を持つ俺がいる……なぜそのことを失念していた……?


 俺は自分の愚かさ具合に恥じつつ、謝罪してくるエスティエットを窘める。


 「す、すみません!探知魔術に反応が無くて……まさか、気配遮断スキルの持ち主……!?」

 「いや、大丈夫だ。あの6人の中でスキルを持っているのはゼフィリオーセスだけだ。

 それに探知魔術が働かなかったのは俺が理由だ。すまない」

 「へえ、ゼフィリオーセス様がスキル持ちなの知ってるんだ。

 ま、知ってるアンタも今日死ぬから、どっちにしろ関係ないけどね」


 短剣を構えるキャシーに、俺は刀を構え応戦の意思を見せる。

 

 「しかし、有角人種(キャリブホーナイン)は愚かだな。3対1だぜ?

 お前ひとり殺して逃げることくらい容易いが、その角、脳みそ圧迫してるんじゃないか?」

 「結局逃げてるんじゃ煽りになってないよ機械仮面クン。それに、3対1なわけないでしょ?」


 冷静さを欠かせるために煽ったのだが、効果はなかったらしい。

 そして、そんな会話をしているうちに、残り5人が到着していた。


 戦いは、黄昏時に始まった。

 

 

  

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