第73話 只人種の村々
半年程投稿が止まっていたのは、今後のストーリー展開について考えていたところと、仕事の繁忙期に入って書く時間がなかったという感じです……。
それに、筆が乗らないと書いたものが汚く見えて、人様に見せられるようなものでないと感じてしまったのが、次話投稿を渋っていた理由です。
すみませんでした!
少しライトな文章に変え、複雑な本編をわかりやすくしようという取り組み中です。
現在。
アレイン平野に存在している只人種の村は四つだった。
レギオ村、カベルネ村、デッソイ村、アゲルス村。それが、只人最後の集団生活領域だ。
以前はもっと只人種の村は存在していたのだが、それは徐々に数を減らしていった。
それはなぜか。
簡単なことである。
アレイン平野が魔物の跋扈する地となった理由である、アレイン平野近辺の複数の建国だった。
国家として領土を守る彼らによって、生息地であった地域を追い出された魔物たちは、安住の地を求めてアレイン平野へと移り住んできたのだ。
その結果、太古の時代人間の国があったとされるアレイン平野は、多種多様な魔物たちが住み着き、やがて”魔物平野”の異名で知られる今のアレイン平野となったのだ。
人間から只人となった彼ら人類、その末裔たる4つの村の只人達は、いまや存亡の際にあった。
そんな中、残る四つの村の一つであるカベルネ村の村長は一つの考えに至った。
只人種の生存区域付近を住処としていた魔物、蟷螂族の姿が見えなくなったことを好機と思い、各村々の村長で集まり今後の方針について固める話し合いを行おうと決めたのだ。
そのことを決めたカベルネ村の村長、アンディム・カベルネは早速3つの村に腕の立つ者に手紙を渡し、送り出したのだった。
デッソイ村は近辺に存在するため、当日中に返事が返ってきた。
二日の話し合いに参加する旨の返事が返ってきた。アゲルス村も一日遅れて同様の返事があった。
しかし、レギオ村はカベルネ村から僅かに遠い位置にある。なので、話し合いに参加するのであれば従者と共に来てほしいと綴った手紙を持たせてある。
アンディムは、正直なところ、アゲルス村とデッソイ村の話し合いの参加には確信を得ていたため心配してはいなかったが、一番参加して欲しかったレギオ村の参加を期待していた。
それは、まだ魔物の被害が少なかったころに見た、レギオ村の武家の者の凄い強さを知っていたからだった。
(かの村の武人……。
確か名は、レグシズ殿だったか。
あの剣の教えを乞うことができれば、今後他の村も魔物に対する策が練れるやもしれん。
あれほどの技を持つのだ。きっと今は、村の中でも重要な立ち位置を任されているに違いない。
皆から信頼されるであろう技を持つのだから、それは間違いないはずだ)
アンディムは考える。
レグシズという名の凄腕の剣士は、この村で誰も扱うことのできない魔力を用いて戦い、魔物を単独で何匹も撃破している。その姿を見て、その技を教授いただければ、カベルネ村も戦いに備えられるだろうと。
ゆえに彼は期待している。
明日の話し合いで、レグシズが姿を現すことを。
……………
…………
……
レアンがレグシズと稽古をしている中、村近辺を護衛中の傭兵からある一人の人物が連れられてきた。
その人物の名はインク。
カベルネ村からの使者だという。
稽古は一旦止めにして、インクの話を聞くことにした。
「レギオ村の村長様、本日は急な訪問を対応してくださりありがたく思います」
「そちらこそ、遠路はるばるようこそいらっしゃった。
我々の村の近辺を生息地としていたあの魔物が消え、出歩けるようになったからと言っても、久方ぶりの外出だろう」
「はい。今回お聞きいただきたいのは、その魔物のことなのです」
「ほう」
レアンとレグシズは、インクの話を注意深く聞くことにした。
「もうすでにご存じでしょうけれど、我々の生存を脅かしていたかの魔物が姿を消してから一か月がたとうとしています。
私の村の村長アンディムは、再び姿を現すその前に同じ只人の我々同士で協力し、対策を練りたいと考えています。
既にほか二つの村には言伝は伝わっております。
そこで、現存する4つの村の中で最も力のあるレギオ村にも、明日に行われる各村長の会議へと出席していただきたいという言葉を伝える為に参りました」
「……そうか」
レグシズは思い出した。
アンディムという名前には聞き覚えがあったのだ。
まだあの魔物が移り住んでくる前の時は、他の村とも交流があった。
その時、村長見習いでレギオ村に訪れていた青年の名前。その名前こそアンディムだった。
思慮深く冷静で、村長としての器たる青年であったこと印象的で記憶に残っていた。
(幾度か会話を交わしてことがあったが、あの青年ならば今回の件、説明しても混乱することなく理解できるだろう)
今回の件というのは、レギオ村にやってきたアルナレイトとレアンが、剣技を学びその魔物の群れの主を討伐したことだ。
アンディムはおそらく、レギオ村の人間が魔物を討伐したと考えているだろう。その技術を他の村に伝えれば、再び魔物の移住があっても対抗できるかもしれない。少なくともその一助にはなるだろうと。
しかし、それは厳しい。
なにせ、幼いうちから魔力操作にと剣の扱いに慣れていたレアンで、ようやく魔物と戦える強さなのだ。アルナレイトが言うには、幼いころから魔力操作を行っていないと、魔力回廊の魔力総量、魔力操作の技術は高まらないのだ。
剣術を教えたところで、魔力を使いこなせない者があの速度の攻撃に対応できるとは思えない。
「インク、アンディムの考えることはわかる。
我々の剣技を学び、魔物に対する対策の一助としたいのだろう。
しかし、私の流派は魔力操作による身体強化がなければならない。
魔力操作を幼いころからしていないとその魔力総量や扱いの器用さの成長は絶望的だ。
カベルネ村には、魔力操作に秀でたものはいるのか」
「……いえ、誰一人としていません」
やはりか、とレグシズは思う。
カベルネ村は林の中にある、大きな岩の壁によって守られている。そのうえ中の広さは相当なもので、外界とかかわりを断っても十分に生活できる自給自足が成り立つのだ。
その分、危機に対しての対応力が低い。剣術を教えても、死んでしまうだろう。
「……まあいい。君にそのことを話したとて状況は変わらない。
明日の会議だったな。わかった。私の考えを述べよう」
「ありがとうございます。道の案内は私がしますので、準備ができればお声がけを」
「ああ。それと、今は私と孫のレアンで稽古の最中なんだが、見ていくかね」
「よろしいのですか?」
「無論だ。丁度実戦稽古を行うところだ。見ていくといい」
レグシズはインクに稽古の様子を見せて納得してもらおうとおもったのだ。
この世界の戦いには、魔力がないとどうしようもないことを。
そしてインクは絶句した。
目の前で起きている稽古が、人間の動きではなかったのだ。
魔力によって輝く刀と肉体が、インクの動体視力では捉えきれない速度で駆け、振り下ろす姿を。
(これは……ますますその技術を教えてもらわなければならないな)
稽古が一段落したのち、インクはレグシズに言う。
「拝謁いたしました。凄まじかったです」
「そうか、わかってもらえたか」
戦い、守るために生きてきた彼らの動きは、まさに生き残るための最適解のように感じた。
その剣技、先の会議で教授賜れないのであれば、せめて今、吸収できる何かを持ち帰らねば。
「はい。つきましては、この身に直接、指導賜れればと思います」
「……ほう。いいだろう」
木刀を借り受け、インクは見様見真似で構える。
開始の合図が鳴ると同時に、インクは同時に迫りくるとしか感じられなかった4つの斬撃になすすべもなく敗北したのだった。
インクがレグシズと話し込んでいる中、レアンはアルナレイトに連絡を取っていた。
その内容はインクの持ってきた、村会議の話だった。
(……以上が話の内容なんだけどね。
で、多分なんだけど、カベルネ村の村長アンディムさんは、月ヶ瀬流の剣術を各村々に流布したい、って考えてるんだろうっておじいちゃんが言ってた)
(だろうな。それに都合がいい)
(っていうのはどういうこと?)
レアンはアルナレイトから考えを聞かされ、その作戦を実行することにした。
(確かにその方がいいね。
みんないつまでもバラバラなままじゃ、今後の対策も取りにくいだろうし。
っと、そうだ。アルナ。傭兵団の皆、数人を残してどこかに行っちゃったけど、よかったの?)
(ああ。行先は把握してる。
警備と交代用の人員と、エスティエット、カレン、バルブゼスは残ってるんだよな?
ならば村の警備は大丈夫だ。
それで……いま考えた作戦、師匠が要になる。しっかりと共有しておいてくれよ)
(うん。わかった)
レアンはまだアルナレイトの考えを聞かされていないが、アルナレイト曰く「今後の動きに必要な布石だ」と言っていた。
アルナレイトのことを信用しているレアンは、その行動に違和感もなく信じた。
それが、後の危機につながるになるのだった。




