第62話 団結
長くなりそうなので話を分けました。
少し短いかもしれません。
いつも通りの魔物警備を終えると、俺に話しかける者がいた。
「あの、アルナレイト……くん」
話しかけてきた少年の容姿を見るに、俺と同い年あたりの、農作業に従事してきたからこそ鍛えられているであろう体なのだが、どこか線が細いように感じる。
確か名前はハーツ。
シーアス、アンバーに続く、数少ない同い年の男性だ。
「どうしたんだ、ハーツ」
ハーツが俺に話しかけてきたのを皮切りに、辺りでで休んでいた村人たちは俺の周りへとやってきて、俺を取り囲んだ。
これから何が起きるんだ……と訝しんだのちに、彼ら全員が申し訳なさを感じているような表情をしていることに気づき、ただならぬことが起きているのではないかと焦る。
「その、僕らは結局、君に伝えるべき言葉を伝えていないと気づいたんだ」
「あ、ああ」
何か彼らに伝え忘れられていた報告があっただろうか、と記憶を探ってみても、それらしいものは思い浮かばない。
俺が思い出そうと四苦八苦していると、ハーツはいきなり俺の両手を掴み、そして包み込んだ。
俺とは違うタイプの、しかしどこかかわいげを感じる顔立ちを真剣な表情にして、ハーツは真剣なまなざしをこちらに向けた。
「アルナレイトくん。僕らの代わりに戦ってくれてありがとう。
僕らの代わりに、背負わせてしまうことになって、本当にごめん」
彼の口からこぼれた言葉に思わず面食らってしまい、声にならない声が漏れた。
「え、あ、ああ、あのことか」
あのこと、と結び付けられる記憶は、俺の中で最も強く刻まれている。
もう二度と、あのような事態を招くわけにはいかない。
正直、あの場で多くの命を奪った感覚は今でも手が覚えているし、夢に見る。
あの時は、俺が俺でなくなっていたような気もするし、まるで、流れてくる未来の剣術は、そのためにあるような手ごたえすら今となっては感じる。
たしかに、彼らの代わりに俺は戦った。
けれどそれは、大元には俺とヌルがこの村を巻き込んだという原因がある。
だから村人たちは誰一人として悪くなどない。
だというのに、彼らの胸の中に巣食う罪悪感という魔物は、彼らの表情を曇らせている一因なのだろう。
であれば、俺のすべきことはおのずから定まる。
「だから……僕らはもっと君の役に立ちたい。
自分で戦えるようにもなりたいし、大切なものを守れるように、強くなりたい」
全員が頷き合わせ、肯定する。
彼らの精神を安定させるには、一つしかない。
「そっか。だったら、みんなにはもっと頑張ってもらわなきゃいけないな。
農地の開拓がある程度まで済めば、あとは今日の昼頃に正式に挨拶に来る、傭兵達も手伝ってくれるから、みんなにはまだまだやってほしいことがある。
協力してくれるか?」
「っ!もちろんだよ!」
またしても全員が笑顔を、そしてその内側に覚悟を秘め、俺の協力要請を快く受け取ってくれたのだった。
そんな、仲睦まじい村人たちの姿を遠くの木陰から見つめる者がいた。
「ほぉ~ぅっ。あれがだんちょぉの認めたお方というわけだねぇ、ふぅん」
遠くからでもわかる。
アルナレイトと呼ばれた人物が村の人々から尊敬され、信頼されていることに。
その暖かな雰囲気が、自分の居るゼディアスと近しい雰囲気であることを感じた独り言の主は、ほんの少し口角を上げて、正式な挨拶をする時を少し、楽しみに思うのだった。
◆◆◆
腹の虫が昼ご飯を求めて鳴き声を上げる頃のこと。
村人たち全員を広場へと集め、集会を開いていた。
今日は村人たちにある話をしたために、昼の農耕作業も早めに切り上げてもらった。
早めに切り上げてもらったのには、これから仲間となる傭兵団ゼディアスとの顔合わせという一つの理由がある。
傭兵団の団長であるエスティエットと、彼の腹心の部下たちを連れてきたという。
これは彼なりの配慮らしい。全員を紹介するとなれば二日ほどかかるだろうというわけで、各々がコミュニケーションをとってもらうという方針を固めたうえで、全体の前では団長直属の部下たちを紹介することになったのだ。
一応俺は、昨日の内に、直属の部下たちを除いた全員に顔を見せに行った。
やはり想定していたが人間が少なく、他種族が大部分を占めるようだ。
そのことを村人たちに事前に教えておこうと思い、今日の農作業は早めに切り上げて集会を行っていたというわけなのである。
「さっき話したけれど、彼らゼディアスは人間以外の種族を多く所属させている他種族組織だ。
みんなが思っているような、只人だからと言って差別するような者はいないと団長が責任を持ってくれたから、安心してくれていい。
でも、だからって横柄な態度をとるのはだめだぞ。互いに思いやりを持って、"より良い"を目指して歩み寄れればそれでいいんだ」
只人は他種族に恐怖を抱いている。
その理由は簡単だ。彼らと俺たち只人とでは肉体強度に如何ともし難い広大な差があるからだ。
俺たちの何倍も速度で駆け、思考し、俺たちの何倍もの膂力を持つ肉体で戦い、武器を操る。
そんな彼らは俺たちにとって天敵にも等しい敵であり、レギオ村の戦力で正面から戦えるのはヌルかレヴィエルくらいだろう。
でも、彼ら傭兵と直接接してみてわかる。
長年命を懸けて戦ってきたがゆえに、彼らの心に刻まれた経験から、容姿は違えど同じ命を持つ生命体であり、その心に覚える感情は同じものなのだと、本能で理解している。そんな雰囲気があったし、実際、俺もそれを直感で理解した。
新しく立て直され、移設された壇上に登る7人。
背丈も性別も種族も全く違う彼らだが、互いを信頼し合う雰囲気だけは、広場にいる村人たち全員が理解していた。
全員が壇上に登り終えると、五人の前に出た一番背の低い少年、エスティエットが声高らかに、透き通る声を発する。
「レギオ村の皆さん、こんにちは!
僕はこれから、この村に加わり皆さんと生活していく傭兵団ゼディアスの団長、名前を、エスティエット・フィル・アルトーヌと申します!
そして僕の後ろにいるのは、長い旅で心を預けられる仲間たちです。
ご紹介させていただきます!」
一番最初に紹介されたのはユウト。黒髪にやせ型の、まさに日本人といった容姿だが、その瞳は人のものではない黄金色であり、それが素材の良さを際立たせているし、そもそもスタイルがいい。
俺も個人的に少し話してみたいと思っている。
「こんにちは。俺の名前はユウト・タカナシ。
これまでずっと戦いばかりの生活でしたので、皆さんを魔物から必ず守れるだけの力を持っているつもりです。仲良くしてくれると嬉しいです」
思ったより控えめな態度でのあいさつだったため、大勢の前に出ると委縮しやすいのは日本人の特徴だな……と謎の共感を覚えた。
次に前に出たのは、腰に一本の剣を差した、派手なフルプレートメイルを着た、いかにも騎士然とした立ち振る舞いの男。
甲冑を外すとそこには、深く上品な金髪に、鮮やかな紫の瞳をした爽やかな男の顔があった。
「よう!レギオ村のみんな!
俺はバルブゼス。剣の扱いには絶対の自信がある!
みんな、もし剣を使って大切な人を守りたいだとか、強くなりたいっていうなら俺を頼ってくれ!必ず力になるからよ!」
気品すら感じる態度だし、実際仕草から漂う品の良さがわずかに残っているものの、本人の性格や話し方は騎士とは思えないほどフランクで親しみやすそうだ。
育ちがいいのだろう。
次に一歩前に出たのは、赤い短髪に、ターコイズブルーの瞳を持つ女性。
レアンと同じくらい良い体格をしているのか、先ほどのバルブゼスとあまり背丈は変わらない。
「あたしはカレン。カレン・マルクトって言います。
このゼディアスの工作担当……要するに、武器とか防具とか作ったりするのがとっても得意です!
皆さんと仲良くしたいと思ってます!特に、鍛冶師の方たちとは熱く語り合えたらなと思ってます!よろしくお願いしますね!」
イリュエルとは全く違うタイプの健康的な女の子って感じだ。
真反対の性格だろうから、揉めないといいのだが。
次に前へ出たのは、黒髪に黒い瞳の、しかし日本人とはかけ離れた顔立ちの女性。
「皆さんこんにちは。ボクはイオラ・アルステグラス。
人付き合いはあんまり好きじゃないけど、仲良くなりたくないわけじゃないんだ。
だから、優しくしてくれると嬉しいよ」
まさか……ボクっ娘とは。
落ち着いた大人の女性風な立ち振る舞いだが、顔はどこか幼さを感じる。
最後にエスティエットを除けば最も背の低い女性が一歩前へと踏み出す。
耳がほんの少しとがっていて長く、肌は他の団員と比べ褐色であるため、彼女がダークエルフであることがわかる。
顔立ちはやはり幼く、鮮やかな翡翠の瞳が心なしか輝いているように見える。
「みなさんっ、こんちはー。
私の名前は、ミタラ。ミタラ・シュヴァータっていいまーす。
すっごく目がいいのと、弓を使うのがすっごく得意です!
好きなものは美少女!可愛い子大好き!
うへへ、この村は私の目の保養になるかわいい子がたくさんいるようだぜ……じゅるり。
あ、よろしくおねがいしまーす」
これはまた癖の強い……。
自分の好みを爆発させているようだが、しっかり挨拶できているし、悪い人ではないのだろう。
各々挨拶を終えると、その日はそのまま交流会となった。
そしてその日の晩に、レギオ村とゼディアスの団員たちとで親睦会という名の宴へとなっていくのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。




