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第58話 今暫くの別れ

大変お待たせ致しました…

次話投稿は明後日になりそうです。

 カグラを連れて【眠り鹿亭】に帰還した俺たち。


 もうすでにこの国へ来た目的は達成している。今すぐにでも帰るべきだ。


 ヌルの話によれば、レギオ村は防衛の要であるレヴィエルと師匠、そしてジークのおかげで数回の襲撃を受けても負傷者一人も出ずに凌げているという。

 さすがは師匠、さすがはレヴィエル。ジークの戦いぶりをこの目で見たことはないが、レヴィエルの話によれば、防御重視かつ連携を意識した我流剣術で、一緒に戦いやすいらしい。


 ここ最近は本物の肉体を動かす鍛錬を行っていなかったため、鈍っているかもしれない。

 その感覚を早く取り戻したい。


 自分の心ではそう思っている。

 しかし、なにか。自分の心の近くで、他にやるべきことがあると何かが告げている。


 だが、それが何だというのだ。

 俺のすべきこと。それはヌルの目的を果たすこと。

 そのために周囲の人々を巻き込んでしまっているが、それでも俺の果たすべきことは彼女との契約を果たすことなのだ。


 夜半、寝付けない理由を見つけた俺は、そう判断を下し、その判断が正しかったものとして気分を切り替えたのだった。


 次の日の朝。

 俺たちは早々にリベルナルから帰還することに。

 正直昨日の夜に決断したことは、今でも後悔している。

 フィールやユウトといった存在に、アレク。彼らは今後、何かしらの形で俺たちと再びかかわることになるであろうという予感がぬぐえない。


 俺にとって最も気になっているのは、フィールという存在。

 村に帰ってから細かな情報を整理するが、なぜ冒険者登録のできない年齢で冒険者証明証を持っているのか。

 もちろん彼の名前が記名された本物だったことは確認している。


 カグラが言っていた、帝国の手の者という言葉。

 もしかすれば、フィールはケイン帝国に属する者なのだろうか。

 

 どんどんと深く思考を巡らせていく俺は、ヌルに肩を摩られるまで呼びかけられていたことに気が付かなかった。


 「アルナレイト。理外の力をカグラに流し終わったのか?」

 「今やってるとこ」


 俺はベッドの隣に座るカグラに理外の力を流し、そのまま気づけば思考を巡らせてしまっていた。


 「なんだ……気分が悪いな」

 「理内率の低下には気分不良などの症状が伴うのか……?いや、どうなんだろうな」


 気になった俺は言ったんフィールのことを思考の片隅に保留しておき、カグラの理内率を〔解析〕した。

 数時間にわたってようやく理外権能の効果範囲内まで理内率が低下してくれたので、彼女の理内率の高さが窺える。それとも単に俺の理外の力を操作する感覚が鈍いのか。


 「最近、アルナの周りに女の子ばっかり増えてきてる気がする……むぅ」

 

 その言葉に不意に周囲を見渡す。

 ヌルやレアン、イリュエルにリオン。そして、カグラ。

 確かに皆タイプは違うが、特定の層に人気を得られそうな整った容姿をしていることに間違いはない。


 「いやいやいや、なんで俺のせいみたいな顔してんのさ。

 手かそもそも俺、女の子……」


 苦手だし、という言葉を遮って扉を甲高い音とともに強引に開けたのは、アレク。

 念のために補強しておいたはずなのだが、どうやらスキル【鉄壁防御】を纏わせた盾で扉を破壊したようだ。

 昨日俺が新たな理外権能を得たことで理内率が上昇し、それによってレアン所有スキルと、その先の進化先についても見れるようになった俺は、レアンが新たに獲得したスキル【魔力変質】の練習として、扉を補強するように言っておいたのだ。

 魔力を固め、扉を補強してあるためか扉そのものは少しいびつになっただけなのだが、どうやら金具の部分まで魔力は纏っていなかったらしく、そこから大破したようだ。


 「あ、アレク。ちょうどいいところに」

 「ちょ、ちょうどいいとかそんなこととどうだっていい!

 皆さん今日で帰っちゃうんですか!?」

 「そうそう、ちょうどその話をしようと思っていたんだ。呼びに行く手間が省けた。

 というか、なぜ今日俺たちがここを発つと知ってるんだよ」


 彼には一応、必ず他言しないという厳命のもとにレギオ村の位置について大まかに教えている。

 せっかく冒険者になったというのに、あんなひどい目にあったと来たら、どこか別に居場所が必要だろうと思っていたので、教えてあったというわけだ。

 しかし、彼にとって冒険者とはあこがれの存在。その存在にようやく慣れたのにレギオ村に来るとは考えにくかったため、勧誘はしていなかった。

 もちろん彼がレギオ村に加わってくれるというのであれば、もしかするとジークと双璧を成す防御者になってくれたかもしれない。


 階段を駆け上がってきたためか息が上がっているアレクに水を飲ませて落ち着かせると、一息ついてからアレクは話し出した。


 

 「初めに皆さんがここを去ると知ったのは、一回の利用者表に、この部屋の利用者のチェックイン期限が今日まででしたから……」

 「そういやそういうシステムだったな。

 それでアレク。お前はこれからどうするんだよ?」


 その質問の意味を分からないわけではないだろう。

 ここにとどまるか、俺たちについてくるか。

 

 俺は、彼についてきてほしいと思っている。しかし、これ以上ヌルと俺との契約に他人を巻き込んでいいものかとも思ってしまう。

 巻き込んだ人たちや犠牲者、被害者にはどんなことがあろうと進まなければならない。

 しかし、こちらから明らかな意図があって巻き添えを食らわせてしまうのは避けるべきだ。

 

 受動的に巻き込んでしまうならまだいい。たが、能動的に自分の意思を持って巻き込んでしまうのは、明らかに悪の行いだ。


 アレクが俯き、その表情は複雑で読み取れない。

 彼がどんな答えを出そうと、俺はそれを優先するつもりだ。


 「……その」

 「一ついいかな?」

 「……ああ」


 少し間を置き、口を開く。


 「俺は、君を助けた後に共と戦った時。背中を預けあえると思った。

 ……しかし君は、俺たちについてくるということがどういうことになるか。そして、君が何を諦めなければならないか……。それを考えてみてくれ」


 敢えて、否定を含ませた言葉を、


 「君が目指したものを諦めることに値するか。しっかりと考えてほしい」


 俺は、圧をかけるように。


 「……」


 息を呑むアレク。

 ついてきてほしいが、巻き込みたくはないのだ。


 「……ごめん。俺はやっぱり……冒険者を目指すよ」

 「そうか……残念だ。本当に」


 本当に残念だが、これで彼を巻き込まずに済むと思うと、心がほんの少しだけ軽くなった。


 「アレク。今度またあったら、その時は二人だけで話し合おう」

 「そんなときが、くるのかな」


 その言葉を最後に、俺たちはアレクと別れたのだった。


 ◆◆◆


 俺は全員の肉体を〔分解〕し〔再構築〕した。

 場所は、俺が二か月間もの間過ごし、もはや実家のような安心感すら覚えるレギオ村だった。


 まず初めに感じたのは、村の外に拡大して行っている農地の広さだった。

 俺たちがリベルナルへと向かった時の二倍ほどの規模にまで広がっていて、ヌルの指示通り水路まで引いてあった。足場や水路の仕切りなんかもマグナスさんに作ってもらっていたため、これでかなり近代的な農業を始めることができそうだ。


 ひとまず本格的な作業は明日から始めるとして、レヴィエル、師匠から報告を聞かなければならない。


 一旦に荷物を返しに戻ったイリュエルを除いて、俺とヌル、師匠とレヴィエルで俺たちが不在の間、何が起こったのかについて報告を受けることに

 カグラの件はいろいろとすることがあるので、ひとまずは隠れてもらっている。

 師匠は警備に当たっているため午後から帰ってくるとのことで、それまでは俺も、部屋で羽を休めることにした。


 俺たちの借りている部屋に入るや否や、膝をつき構えているレヴィエルが視界に入ってきた。


 「おかえりなさいませ、主様」

 「ああ、ご苦労様」


 顔を上げたレヴィエルは、何かを待ち遠しそうに俺を見つめてくる。

 ……あれ、俺なんか忘れてたっけ。


 彼女の求めているものが何なのかわからず首をかしげていると、レヴィエルは小声で呟いた。


 「その……しっかりと役目は果たしましたので……褒めていただきたく」


 ああ。そういうことね。


 俺は尻尾を振って待っているレヴィエルの頭を撫でて、


 「ありがとう。偉いな。レヴィエルは」

 「……っはァァ~~~~ッ♡♡♡

 その優しげで可愛らしいお顔……もう堪りませんわ~~ッ♪

 主様ぁ~、どうかこのワタクシめに、今晩のお供を……」

 「あー、はいはい、んで、聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 「ああんッ!もうじらさないでくださいまし~~……と、申し訳ございません。すこし喜びに悶えておりました」


 すぐさま素に戻るレヴィエル。

 こいつも冷静な時はすごい美人なんだが、どうも興奮状態のレヴィエルはヤバいやつにしか見えないのが玉に瑕だ。非常にもったいない。本当に。


 「んで、聞きたいことなんだけど。

 ジークのことについてだ。師匠やお前と共闘して、彼にはどの程度才能があるかわかったか?」

 「はい、そのことですね。私の見解としては、彼の戦闘技術には防御に偏りがございます」


 防御に偏り……か。

 きっと愛する者を失ったからこそ、今度こそは守ってみせるという意思の表れなのだろう。

 彼に起きた悲劇を思うと心を締め付けられるが、心を押し込んでレヴィエルの話の続きを聞く。


 「私や村長は敢えて彼の癖を生かし、その動きに合わせ戦闘を行っていましたので問題はありませんでしたが、防御に意識を取られすぎて隙を逃しがちという悪癖もございます」 

 

 ジークの肉体強度は人間の平均を大きく超えるものだ。

 ゆえに魔物の攻撃を受け止められているのだろうと俺は予測しているが、無論、人間である以上強力な魔物の攻撃には耐えられないだろう。

 アレイン平野周辺に生息する魔物は比較的弱いため、俺たちでも正面から防御することができる。

 しかし、アリアロス大森林の魔物の攻撃を正面から防ぐとなれば、きっとジークにも不可能だ。

 その点俺たちと同じ人間であるアレクが大森林で遭遇した魔物の攻撃を難なく正面から防いでいたのは、彼には強力な防御スキルがあったからだ。

 そのスキルの名は【鉄壁防御】。強力な防御力を発揮するスキルだ。

 ジークは我流の剣術と防御の型を用いて攻撃を防ぐため、タワーシールドを主武装としていたアレクとは勝手が違うため、スキルの獲得が行えるかどうか怪しいところである。

 師匠はジークに魔纏戦技(エンチャント・アーツ)魔纏闘法(エンチャントアシスト)の伝授を行っているらしい。

 まだシーアス、アンバーや後輩二人は実戦で戦えるほど体も精神も鍛えられていないためこの技術は教えられないが、ジークは俺たちが留守にしている間に、早くもそのコツを掴んできているらしい。


 まずは魔力を用いた技術を習得して、その次にその技術で攻撃を防ぐ技を考えていくべきだろうな。


 「何となく彼の改善点は思い浮かんだ。今後はそれを意識して訓練してもらおう」

 「了解いたしました。

 今現在彼の教育を仰せつかっているこの身に指導内容をご教授していただければ」

 「ああ。わかった。また後でヌルにまとめて伝えておくよ」

 

 ジーク。

 彼の成長率は俺なんかよりもはるかに高い。

 しかしその成長は必ず止まるときがくる。自分の成長の壁にぶち当たるときがくるのだ。

 それでも、彼の意志はそんな程度で止まるものではないだろう。

 もし俺にできることがあれば、その時は全力で協力しよう。それが俺の罪滅ぼしにもなるはずだから。


 ◆◆◆


 レヴィエルとちょっとした会話を交わした後、警備から帰ってきた師匠から現状の村についての報告を受けた。


 と、その前に師匠は久々に見た俺たちが無事に帰ってきたことに喜び、あたたかく抱擁してくれた。

 やはりここは俺の居場所だと再確認できた。


 まず始めに、農地の拡大については概ね順調だが、どうしても人手が足りないという。

 レギオ村は多くの人間が農家なのだが、開墾予定の農地はこれまでレギオ村の運営してきた土地と明らかに規模が違う。

 レギオ村の食料難を補って余りある収穫を得るために大きな農地としてあるのだが、これには理由がある。 

 それは、レギオ村の今後のための計画にある。

 というのも、今後、レギオ村は規模拡大のために周囲に存在する村落を吸収する予定なのだ。

 レギオ村と同様に魔物に襲われ、ひもじい思いをする村が殆どで、それらを解消するためには少なくともレギオ村で運営してきた農地の数倍の面積を持つ農地が必要となってくる。

 もちろんただ合併吸収するだけではなく、彼らには安全と衣食住を提供する代わり、労働力として働いてもらいたい。

 働きに見合う分の報酬は用意する。御恩と奉孝というのだったか……?いや、よくは知らないが。


 ともかく。その目的のために広大な農地が必要なのだが、残念ながらこのアレイン平野から魔物が消えたわけではないので、巨大な農地を守る人間が必要になる。

 そこも周りの村とレギオ村から人材を選び、教育していく必要がある。

 現状村のために戦いたいと言ってくれる村人たちの数は少なくない。

 とはいえ十分な訓練なしに戦わせてはいたずらに命を消費するだけ。大きな課題だ。


 次に師匠が言っていたのは、金属資源の不足だ。

 これまでレギオ村の金属資源事情を解決してきた方法は、基本的にはリサイクルだ。

 使わなくなった金属を溶鉱炉で溶かし、新たな金属に再生させる。しかしこれでは金属は摩耗や破損によって減る一方だ。

 どこかで金属資源のほかにも、木材などの資源も確保できる場所を確保しなければならない。


 問題は山積みだが、決して解決できないわけではない。

 資源問題に関してはある程度目途はついているし、今回買い付けに行った苗を利用して理想的なサイクルを形成できれば、あとはその仕組みに従うだけで食料問題も解決できる。


 肝心なのはほかの村にどう交渉すればいいのかという話だが、何かきっかけを作る必要がありそうだ。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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