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第54話 出会い 

次話投稿は明日以降になります

 ようやっとリベルナルに到着した俺たちは、到着したその日に別行動を開始した。

 ヌル、イリュエルはこの国に集まる技術者達の持つ技術を目で盗むために、冒険者たちがよく利用する鍛冶屋が集まる商業区へ。俺とアレク、レアンはアレクを追放した冒険者パーティを『エリミネイト』を裁くため、商業区のほぼ真隣に隣接する冒険者ギルドへそれぞれ向かうこととなった。

 別々の目的地だが道は道中まで同じらしく、俺たちが冒険者ギルドの支部にたどり着くと、ヌルとイリュエルは奥の道を歩いて行った。


 冒険者ギルドの建物は、まさにこれぞギルド!といったような大きな建物をしていた。

 入り口前には様々な凶悪な顔の魔物を模したレリーフが掛けられていて、年代まで書いてある当たり、どの年代、どんな冒険者がその魔物を倒したかを示しているのだろう。


 俺はギルドの扉を開き、中へ入る。

 中は思ったよりきれいだが、おそらくクエストボードらしき掲示板には大量の依頼書が乱雑に張り付けられていて、そこだけは異常に目立つようになっていた。


 「それじゃさっそく、あいつらを突き出すとするか」

 「はい」


 俺はまず初めに受付に話しかけ、要件を話すことにした。


 「お姉さん。ちょっといいかな」

 「はい、いかがなさいましたか?」

 「実はちょっと、トラブルを発見いたしまして……」


 俺はそう言いながら、あの冒険者たちを〔再構築〕した。

 周囲にどよめきが走る。しかしどうでもいい。


 「「んー!」」


 〔再構築〕された五人の冒険者は何かを喚いているが、俺が見様見真似で〔分解〕〔再構築〕して作った猿轡を噛ませているのでろくに話すこともできない。


 「彼らは『エリミネイト』は、パーティの一員のアレクを危険なアリアロス大森林で追放、および殺害行為を行おうとしていました。

 俺がこいつらを止めなければ、今彼はここに居ません。

 近年よく見られるパーティ追放の被害者を減らすために、こいつらにきつい刑罰と晒上げを行って下さい」

 「……申し訳ございません。それはできません」

 「……なぜ?」


 一瞬何を言っているのかわからなかったが、その後に続く言葉をひとまず聞いてみることにした。


 「まず初めに、原則パーティ追放による被害を被ったものに関しては手厚い支援を行い、追放した者たちへは厳重罰を下します。

 しかし、彼らがもし、あなたとアレクによる共謀で騙され、こうなったのなら、処罰すべきはあなたがということになります」

 「ふむ」

 「そこであなた方の身分を証明する証が必要となります」

 「なら僕の冒険者証明証を」

 「それはなりません。追放者と追放した側の身分証明が同じでは、虚偽の申告がなされる場合もあります」

 

 まずいな。

 確かにそうだ。

 冒険者パーティの追放を受けたといって、その実裏切り者だった場合、ギルドの責任となってしまう。


 しかしどうしたものか。

 ここで他の冒険者に借りを作っておくのは面倒だ。

  

 と、考えていたところに、背後から声がかかった。

 甲高い声、しかし幼少期の少年を思わせるような、決して女性ではない声で。


 「僕が冒険者証明証、お貸し致しましょうか?」

 「君は……」


 鈍色の髪に薄い灰色の瞳を持つ、幼い少年がそこにはいた。


 俺より一回りも二回りも背の低い少年だった。

 近年平均身長の低下がみられる日本ではさほど珍しくはないだろう身長だが、明らかに冒険者登録の可能年齢を越していない。それほどに幼い。


 しかしその口調からは知性が感じられ、博識そうな印象を与えるのだ。


 「ごめんね、ぼく。気持ちはありがたいけど、おもちゃの証明証は使えない……」


 俺が言い終わるより早く、彼はポッケに仕舞ってあった冒険者登録証明証を取り出して見せた。


 「確かに子供ですけど、証明証は持っていますよ。

 僕のもので構いませんね?受付のアリアレナさん」

 「はい、確かに確認いたしました……エ」


 書かれた名前を読み上げようとした瞬間、その証明証を手から取り上げ、少年は言った。


 「僕は……僕はフィール。だよね?アリアレナさん?」

 「はい。フィール様」


 何をしているのだろう。と意味に分からない行動にそう思ったが、すぐさま話が始まってしまったので思考する暇もなかった。


 「では彼ら『エリミネイト』のパーティ解散、および保証金の支払い、加えて冒険者等級を最下層からの再スタートを以って罰とします」

 

 周りの冒険者たちは口々に、うっわえっぐ。キッツいな。あほだろ。あいつら。と口にしていた。

 誰かが「あれはえぐいな、えっぐ……エッグ、ベネディクト」などとくだらないことをつぶやいていたので、あまりのくだらなさに少し吹きそうになりながらも無表情を保つ。

 てか、今の俺の顔を覆われていて顔は誰にも見られないのだから、我慢する必要はなかったのか。

 ……この世界にもエッグベネディクトはあるんだな。


 「そういえば、お名前をお伺いしていませんでしたね」

 「あ、ああ。すまない」

 「確かにそうだね。私はレアン。隣の仮面付けてる人はアルナレイト。

 ありがとうね、フィール君。助かったよ」

 「いえいえ……礼の代わりというのは差し出がましいかもしれませんが、少しお話を聞きたくて……よろしいでしょうか?」

 「うん!大丈夫だよ!」

 「れ、レアン!?」


 ついて行っていいのか?

 こんな子どもがここにいるなんて、絶対何か裏がある。俺の勘がそう囁いている。

 彼も今後は他の者たちをパーティを組むのだから、大勢の冒険者がみている手前、アレクの信用を落とすわけにはいかない。 

 

 仕方ない。話を聞くしかないようだ。


 「よくしてもらったんだから、それは返さないと」

 「確かにそうだけどさ……」


 俺は警戒レベルを引き上げて、目の前の少年を観察することにした。


 「いいお茶を出してくれるお店を知っていますよ!ついて来てください!」


 少年が右手に触れようとする。

 今は義手を疑似的な皮膚を再現しているため見かけは問題ないが、触ったらばれてしまう。

 俺は右手を掴もうとする手を外させ、左手で掴む。


 「わかったよ、ついていくから焦らないでくれ」


 俺は彼に泣かれても困るので、あきらめてついていくことにした。

 フィールと名乗る少年が裏路地を通ろうものなら引き返してランザエスケープルートなのだが、そのために考えていた逃げ道は使う必要もなく、表通りに出た少年は交差路の角にあるカフェへと向かった。

 大通りのカフェなら大声を出せば衛兵が気付くだろうと思い、俺たちは腕を引かれるままに入店、もっとも外に近いテラス席でお茶を楽しむことに。


 「店員さん!リデン・クワロを4つお願いします。

 それから、皆さん、何かおひとつ、スウィーツでもいかがですか?」

 

 手慣れたように注文する少年に警戒しながらも、名前的に無難そうなものを頼んだ。

 レアンは俺の注文したメニューの下に記載されたものを選び、アレクは縮こまりながらショートケーキを頼んだ。

 数分経ってから運ばれてきた紅茶からは、どこか懐かしいかぐわしい香りが立ち上っている。

 リデン、というメニュー名から記憶の扉を開いた俺は、その紅茶がリデンスカの花畑で嗅いだ香りだと気が付いた。


 「このお茶の材料はポーションの材料にも用いられる稀少な植物、リデンスカという花の紅茶となっていまして。程よい甘さにさわやかな香りが鼻を通り、紅茶自体の味の良さが引き出されます。

 実は、リデンスカの花の蜜の成分が微量に含まれていて、体調不良時に飲むと治ったりします」


 

 何となく説明に納得しながら、一応〔解析〕の権能で飲んだらどうなるのかを調べた。

 毒物や自白剤などの成分は検出されず、運ばれてきたケーキも危険なものの混入はなかった。


 「ひとまずはお茶を楽しみましょう」


 そういわれるので、作法も知らないがなるべく丁寧に食べることに。

 

 「アルナ、それ後で半分分けてよ。取り替えっこしよ」

 「ん、分かった」


 正直ケーキの味よりフィールの仕草を気になりっぱなしで、味を楽しむ余裕などなかった……というのはうそになる。

 運ばれてきたブルーベリーっぽい果物の乗ったケーキは、ストロベリー系の程よい酸味とクリームの甘さがちょうどよく、ケーキのスポンジは甘さ控えめでかかっていたソースと相性がよく、非常に美味なケーキだった。

 半分食べたあたりでレアンと交換した。

 レアンが選んだのは濃いチョコレートの味が特徴的なケーキで、上に乗った半分に欠けたチョコレートは、下で溶けて滑らかな甘さとわずかな苦味に舌鼓を打つほどだった。


 ケーキの後味をリデンスカの紅茶で流し込みながら、終止フィールのマナーの良さに注目してしまっていた。

 その年の少年ではありえないほどの落ち着きに、一流のマナー。

 何をしているのか全く想像もつかないほどの完璧ぶりに感嘆を禁じ得ない。


 「ごちそうさまです。おいしかったですよ。

 お代わりはいりますか?」


 全員がうなずき、数分後してからアツアツの紅茶が運ばれてきた。

 全員が一口含んで飲み干すと、フィールは口を開いた。


 「それで、皆さんにお聞きしたいことなのですが……」


 何を問うのか。

 俺たちと接して、何を感じ何を聞こうとしているのか……。まさか、俺の存在がばれたのか……?


 彼の言葉は、予想だにしないものだった。


 「あの、実は皆さんが魔結晶を換金しているところを見てしまって……。

 もしお金に困っているのなら、もっと稼げる手段なのですが……」


 と、なんだか胡散臭いことを言い始めたのだ。

 緊張して損した気分になりながらも、紅茶を飲み干して俺は席を立った。


 「悪いけど、そういうのは間に合っている。美味しいお茶をありがとう」

 「ま、待ってください!」

 「いこう二人とも。もう用は済んだ。あとはレアンの見たいお店を見に行こう」

 「え、あ、うん」

 

 俺はレアンの手を引いてカフェから出た。

 そのまますぐに視線を切り、少年の追跡を振り切った。


 「まったく。助けてもらった恩に詐欺の手口を使われるとは」

 

 あの手の場合、了承すれば必ず裏路地に連れ込まれて、いいように使われてぼろ雑巾のように捨てられるだけだと相場が決まっているのだ。

 少年の要求を突っぱねたことに心は痛むが、俺はレアンを守ると決めたのだ。


 「よかったの?アルナ」

 「いいんだよ。レアンだってあのまま連れていかれてたら、ヴェリアス以上のひどい目に合ってたかもしれないんだぞ?」

 「え。そうなの?」

 「まあともあれ、まだあの子と出くわす可能性がないわけじゃない。

 今後の外出は、レアンの付き添い以外はなるべく出ないほうがよさそうだ」


 ああいう子どもで油断を誘って、気づいたときにはもう遅い。っていう展開があり得るのか。

 危ないところだった。次からは気を付けなければ。

 なぜあの子が年齢に満たないであろう冒険者証明証を持っていたのかは気がかりだが。


 「それじゃレアン。君の行きたいところに行こうか。

 アレク。よさげな装飾品店の案内よろしく」

 

 アレクは、分かった!任せてくれ!と言って大通りに向かって歩き出した。

 

 ………


 ……


 …


 結局。その日一日は少年と出会うことなく日が暮れたので輩の出現する時間帯を避けるために早めに宿泊先へ帰った。

 にしてもあの少年。フィール。

 なんであんな幼い少年がたった一人で、こんな危ない場所を歩いていたのだろうか。

 俺たちと同じ只人で、まだまだ幼いというのに。

 しかも彼の仕草には、上品さを感じるほどの完璧な立ち振る舞い。

 まるでどこかの貴族の息子、という気がしなくもない。

 しかし人間の国はこの大陸に残っていないとヌルから聞いている俺は、ますます彼の存在そのものに対する疑いが深くなっていった。


 ……いや、気にしすぎだな。

 もう会うことはないだろうし、あったとしても存在の不気味さからまた逃げるしかない。

 もし、彼の存在についてもう少し前情報があれば、何かわかったのかもしれないが。


 長い旅を終え、皆が就寝する寝室の中、俺はそう一人で思うのだった。

お読み頂きありがとうございます!


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