第51話 追放
お待たせ致しました。
次話投稿は明日以降、明後日には上がります。
第12話 魔力回廊 にて主人公の挿絵を追加しました。
是非ご覧ください。
俺を除いたヌル、レアン、イリュエルが美味しそうに朝食をほおばる朝。
交易国への旅路は4日目に突入した。
昨日またしても、理外権能の思い付きを試してしまい、今度は朝飯を半分ほど抜かれてしまった。
そもそも俺は少食だし、その分みんなの腹が満たされると思えばいい気もするが、そもそも自分がしたことで不安をさせてしまったというのに、何を偉そうな。
気を取り直して、朝の身支度を終えた俺たちはまたしても歩き出す。
そろそろ疲労が目に見えてくる頃だと思っていたのだが、毎日ふかふかの寝床で熟睡しているのでその日消費した体力の回復はできているようだ。
歩き始めて数時間。
いつも通りレアンが【魔力感知】で魔物の存在を発見し、俺とレアンの連携で倒していく。
今回の魔物はスキル持ちではなかったのだが、俺は前回のスキル持ちの魔物と戦った時、一つの結論に至った。
それは、スキルを使用させない。というものだ。
スキル。それは強力な異能にして驚異的な効果を持つ。
その効果を発揮されれば、下手をすれば全滅なんてこともあり得るだろう。そこで、そもそも発動させないという考えに至った。
発動できなければどんな剣技もスキルも、魔術だって宝の持ち腐れ。
であれば、対策するよりも先に潰してしまえばいい話ではないだろうか。
とはいえそんなに毎回うまくいくとは限らないが。
そして何より、毎回出鼻を挫ける可能性は低い以上、こちらも強力なスキルを用意するしかない。
「さっきの一撃、いつもより鋭かったな。
スキルの使い方、慣れてきたんじゃないか?」
レアンはさっきの魔物を倒したとき、俺が攻撃を受け流して魔性筋繊維身体能力補助装備の補助を最大限に起動し、木の幹に魔物を蹴り飛ばしてぶつけ、怯ませたところでレアンの拡張斬撃が核を打ち抜いた。
以前は五mまでしか伸ばせなかった斬撃が、十m以上もの距離を伸びて、さらに絶大な切れ味を持ってとどめを刺したのだ。
俺とヌルの了見では、レアンのスキル操作技術は天才の域に達しているといってもいいと合致している。
そもそも使い方がまるで分らないスキルを、たった一時間程度の練習で、まるで以前からそうしていたように使いこなしている彼女の感覚、才能は神がかった何かを感じざるを得ないのだ。
「そんなことないよ~。えへへ」
頭をかいて恥ずかしそうにしているこんな彼女だが、今も【魔力感知】のスキルを発動させ続けていると考えると、こんな可愛らしい少女なのに気が抜けない相手のようにも思える。
そもそもスキルを並列発動させることも可能なことに気が付いたのはついさっきのことだ。
出来たとしても追って効果を追加することくらいだろうと思ったのだが、それは違うようで、レアンの感覚によれば「頭の中で何を使うか思い浮かべるだけ」だそうだ。
天才というのは常人には理解できないことを言う。
何かで見た気がするな。たしか、天才の思考には過程が存在しないんだったか。
「なるほど、刀に魔力を纏っているのね……魔力と親和性のある鉱石を使えば、もっと威力も上がるかもしれないわね……」
「それなら魔結晶を添加材として用いるといい。微弱に魔力を帯びるようになる」
なるほど……と何かにメモを取るイリュエル。
ヌルからのアドバイスは有用なのだろうか。
何せあいつの技術は魔力関係ではなく、科学技術の延長線上にある超技術だったはず……と思ったが、この世界で生き抜いてきた彼女に魔力の技術が浅いわけがなかった。
俺も勉強になるかも……とヌルとイリュエルの話を横で聞いていると、レアンが真剣な表情のまま小声で言った。
「【魔力感知】に反応があったんだけど……魔物のものじゃない気がする。
魔物の核みたいな濃い反応じゃなくて……人型?なのかな」
人型の魔力反応があるとすれば、それはもう魔力感知による範囲内に人、あるいは人型の他種族がいることになるのではないか。
「レアン、その反応があった方角は?」
魔力感知の範囲は使用者のスキル操作技術による。
レアンだとおよそ、最大で1kmほどになるのではないだろうか。
「……ヌル」
「ああ。他種族と出くわすことは避けたい。それが気性の荒い者なら」
必ずだ、という後に続く言葉を遮って聞こえてきたのは、痛ましい悲痛な叫び声だった。
「「誰かああぁぁぁッ!」」
最初に駆け出したのはレアン。その後を追って足を動かしたのは俺だった。
「まてっレアン!」
俺は彼女を引き留めようと肩に手を置こうとしたが、それすら叶わず常人離れした速度で森を駆けていく。
レアンは今、きっと叫び声の主を助けようといっぱいなのだろう。
しかし忘れてはならない、場所こそ違うが、俺たちは一度、レヴィエルの策にはまっていることを。
「くそっ」
装備の消耗を避けるために補助は使用していないが、全力で走ってもレアンとの距離は縮まる気配がない。
レアンはどんな身体能力をしているんだ……。
「待つんだレアン!レヴィエルとのことを忘れたのか!」
背中が小さく振るえた気配。
レアンは徐々に速度を落としつつ、俺の横まで減速してきた。
「レアン、君の優しさは本当に素晴らしいものだ。
でも、それで君が死んでしまったら俺たちはどうすればいい?」
「……ごめんなさい」
「怒っているわけじゃないんだ。俺を頼ってくれ」
ヌルから【イリュエルとともに周囲の警戒に当たる。離れすぎるなよ】というメッセージとともに、2人の位置情報が送られてきた。
俺は【ありがとう】と返信してから、レアンに策を提示した。
「いつも通り俺が前に出る。
声の主が罠を張っているのか、それとも何かに襲われているのか確認して、前者なら君のもとに移動する。後者なら名前を呼ぶから、いいかい?」
「うん」
俺は身体能力補助機能を用いて、先ほどのレアンより遥かに速い速度で先行した。
声の反響元を〔解析〕し、その座標を〔記憶〕、視界に表示しながら、周囲の状況を〔解析〕する。
声の主の近くには、複数の魔力反応が〔解析〕された。
俺は息を殺して近づくと、自分の足音を〔分解〕しながら接近する。
話し声が聞こえる程度まで近づくと、俺は聞き耳を立てて会話の内容を盗むことにした。
会話の内容を聞いているに、一つの冒険者パーティのものらしかった。
「……これは」
俺は聞いたことのある内容にデジャビュを感じながら、どのタイミングで飛び出せばいいのかわからなくなってしまった。
◆◆◆
「アレク、お前をパーティから追放する」
オレの耳に入った言葉はそれだった。
何を言っているのかわからずに後ろを振り返ると、声の主であるこの冒険者パーティ『エリミネイト』のリーダー、カロラインと、その他のメンバーである斥候のフィネス、魔術師のクーネイ、拳闘士のガセッソ、それから、オレが密かに思いを寄せている治癒術師のリーナが顰め面をしていた。
「カロライン…嘘だろ?」
「嘘なものか。お前がこのパーティにいることで、幾つ迷惑を被ったと思う?」
迷惑、という言葉を発すると同時に、メンバーのみんながオレから視線を外した。
まるで、見たくないものから目線を逸らすように。
オレは皆のその仕草に、これまで背中を預けて戦ってきた仲間たちとは思えない疎外感を感じ、そのショックで息が苦しくなっていた。
「………正直、これ以上お前をパーティに残すと、誰かが死ぬ気がする」
斥候のフィネスは俺を一瞥すると、すぐさま目線を逸らしてそう言った。
「敢えて直接的な表現をしていないのはカロラインさんの優しさだと思いなよ」
そう言ったのはリーナ。
オレが才能を見込んでこのパーティに引き込んだ彼女ですら、俺を蔑みの目で見下している。
またしてもオレから視線を外したリーナは、カロラインの傍まで近寄って……そして、その腕にまとわりつくように抱き着いた。
その光景が何を示しているかなど、明らかすぎるほど明らかだった。
「……リーナ、嘘だ…」
っはぁ、とオレにため息をぶつけて言った。
「そんなわけないでしょ。無能でパーティに被害ばかり齎すあなたよりも、みんなのことを考えて指揮体を飛ばすカロラインさんの方があなたなんかよりずっと、ずうっと立派な心を持っているわ」
カロラインの胸に手を当てて、立派な体もね、と頬を赤らめてそういったリーナ。
もうオレの中では、何が何だか分からなくなっていた。
「いやだ……いやだ……」
「駄々こねんなよきっしょいなぁ……」
いつの間にか瞳に滲んでいた涙と、これまで仲間たちと築き上げてきた、そしてこれからも築き上げていくと思っていた絆、楽しかった記憶がすべて、塵屑になったような気分なんて、味わいたくなかった。
「……みんなにとって、俺はその程度の存在だったのかよ!」
「そうだ」
俺はこのパーティで、先頭に立って戦ってきた。
危険を一番に引き受けて、この大盾と剣で、仲間の命を救ってきたはずなのに……。
「あんたが鈍足なせいで逃げ遅れたことだってあったわ」
「かっこつけようとして傷を多く負って治療させないでください。気持ち悪い」
「索敵が有利な俺の前に出しゃばってんじゃねぇぞ」
「あまり見栄を張りすぎると痛い目を見るといっただろうが」
口々に漏れる罵詈雑言。
心無い言葉は、オレの崩壊したプライドをさらに踏みつけ、粉々に砕いた。
もう何も聞きたくない。
昨日、楽しく酒を交わしていたあの時に帰りたい。
けれどそんなこと叶わない。
オレの好きだった子は他の男に抱かれて、親友だと思っていた奴には一方通行な友情で、信頼できる相談役だと思っていたがその実俺を嫌悪していたなんて。
「……アレク。傷心のところ悪いがパーティメンバーのシギルを返してくれ」
「ッ!? それだけは勘弁してくれ!」
パーティメンバーの証たるシギルの刻まれた指輪。
この指輪をデザインしたのはオレなのだ。この指輪はオレの唯一の宝物であり、仲間との絆を証でもある………。
オレは指輪を取られまいと逃げようとするも、クーネイの魔術によって手足を拘束されてしまう。
鍛えているはずのオレの体を微動だにしないほどの硬度で固定する魔術を扱えることに驚きつつも、オレは何とか脱出しようと試みる。
しかし手足首の先をばたつかせる程度の動きしかできず、それを笑ったフィネス、ガセッソは、悪趣味なことに武器を構えて近寄ってくる。
仲間たちが魔物に向けた技や武器の威力は、近くで見てきたからわかっている。
「情っけ無ぇなぁ?」
「その通りだ」
「どうせ1人で冒険者続けても近いうちに死ぬだろ、お前」
「ならば、ここで葬ってやるのがせめてもの情け」
フラッシュバックするのは、ガセッソの拳の一撃で爆発四散する魔物の姿。
リプレイ再生されるフィネスの素早く鋭いナイフ術。
「やめてくれ!迷惑かけたからって殺すことないだろ!」
意味がわからない。
パーティメンバーの足を引っ張ったからと言って、何も殺されるなんてあまりに理不尽じゃないか。
「頼む、頼むよ…」
「悪いな。俺たちはお前の命より、俺たちの命を選んだ。
こうなるのは定めだったんだ」
選んだ…?
俺は仲間から裏切られ、追放された挙句殺されそうになっているのに、彼らはまるで、誰かにそう選択をせまられているかのように思えた。
けれどそんなことはどうでも良かった。
悪趣味な笑みを顔に貼り付けた恐ろしき殺戮者が、俺を射程内に捉えたからだ。
オレは恐怖のあまり、情けなく叫び声をあげてしまった。
「「誰かああぁぁぁッ!」」
「黙れっ!」
その声が誰かに聞こえることを恐れたのか、ガセッソは俺の顔面目掛けて上段突きを放った。
極限まで高められた緊張感が拳の速度をゆっくりに感じるほど思考速度を加速させている。
怖い。魔物ですら一撃で死ぬ攻撃を……俺に容赦なくぶつけるなんて。
顔面の骨が折れ。激痛が走る。
涙を女性の前で晒すという恥じ極まりない行為、痛みに対する覚悟する……その瞬間だった。
ぱしっ、という軽快な音とともに、ガセッソの拳が何者かによって妨げられた。
「おいおい、いくらなんでもそりゃないだろ」
「君は……?」
俺の目の前に立っていたのは、容姿端麗にして眉目秀麗な美しい顔立ちをした女性。
透き通るような銀髪に青空すら濁って見えるほどの蒼い瞳を持った、この世の者とは思えないほど可愛らしく、また高貴の気配を感じさせる人だった。
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