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第48話 衝突

次話投稿致しました。

かなり遅れてしまいすみません。

次話投稿は明日以降、遅くとも明後日には上がります。

 交易国を目指す旅の二日目、その昼頃のこと。

 昼休憩に食べたブルスケッタのようなものから栄養を十分に補給した俺たちは、レアンに【魔力感知】による索敵をお願いした。

 彼女の持つスキルは魔物の存在を感知するのには最適な能力である。

 レアンの持つ魔力量は今現在俺が知る人物の中で最も多い量で、その魔力量に寄せられる魔物は、レギオ村周辺で戦った魔物とは段違いの強さを持っていた。

 しかし、魔物に対する実戦経験を積んだ俺とレアンには、落ち着いて対処することができれば大けがを負う心配はなくなってきた。

 少し前に遭遇した魔物の能力には理外権能での対応を行ったが、きっと学習能力の高いレアンなら、次は俺がいなくとも単独で撃破して見せるだろう。

 

 外の世界に存在する魔物に対し少しずつ自信がついてきた。

 しかし、それは自信という名の皮をかぶった慢心なのかもしれないと言い聞かせる。

 安全をいくら考慮しても美徳となるようなこの世界では、今までの経験が通用しないことなど当たり前なのだと俺は思う。

 事実、スキルを持っているの明確に意思を持つ者だけだと思っていたのだが、まさか魔物があんな強力なスキルを持っているとは。

 まさか、そんな、ありえない、という思考の停止に陥ってしまったその瞬間、判断が遅れ、それが原因に大切な命を失ってしまうかもしれない。

 そんなことは、絶対に避けなければならない。絶対に。

 

 今回の旅における戦闘のフォーメーションは、俺とレアンのいつも通りの立ち位置である、俺が前衛、レアンが後衛にしてある。その理由は、今いきなりレアンに攻撃を捌ききってくれとお願いするのは、普段から敵の攻撃を見極め、隙をつくということを深く意識していない彼女にいきなり要求するのは危険だと判断したからだ。

 慣れていない動きを本番ですることなど絶対にできないのだから、いつも通り俺が攻撃を見極め、隙を作ってレアンにとどめを刺してもらう戦術をとっていた。


 しかし、この戦法には長い目で見たとき、欠点が浮かび上がってくる。

 それは、レアンの成長を阻害するのではないかということだ。

 戦闘において、敵の動きを見極めて反撃に転じなければ死ぬだけだ。しかし、その感を磨くうちに死んでしまってはまるで意味がない。

 

 俺はこの欠点をどうにかしなければならないとも悩んでいたのだが、いつまでも決断の下せないままに、俺たちは次なる敵と会敵してしまった。


 ◆◆◆


 先頭を歩く俺をレアンが呼び止めた。

 何のことかと振り返ると、数本前の巨大な木を指さすレアン。

 巨大な木の幹の裏からぬるりと現れたのは、今までで見たこともないほど巨大な魔蟲型(インセクト)の魔物。

 体は帯状に伸び、黒光りする固い甲殻に覆われたその虫は、体の裏側から何本もの不均一な触腕を伸ばしていた。

 なぜかこの魔物からは、言い表せない危険さをこれまで以上に感じている。

 俺の体が、逃げろと警鐘を鳴らす。


 まるでムカデのような魔物に生理的嫌悪を覚えるが、そんなことはどうでもいい。

 早く対処しなければ、他の魔物まで集まってきたら一貫の終わりだ。


 そう判断した俺は、レアンにアイサインを送ると同時に駆け出した。


 「レアン……いつも通り俺が前に出る。

 君は魔力のによる強化をお願いする」


 レアンは無言でうなずくと、俺の背後についてくる。

 足を緩めればレアンに足を踏ませてしまいそうになるため、俺は決して回転率を緩めることなく駆け抜ける。


 「クシャアァァッ!!」


 口角の鋏を開け、よだれをまき散らしながら威嚇するその姿を見てレアンは少し走る調子を狂わせた。

 それを見逃さなかった俺は、レアンに調子を合わせつつ、戦闘の基本である敵戦力の解析を行うことにした。


 目で見てわかる通り、その堅い甲殻に覆われた肉体は刃を通さないだろう。

 おそらく分厚い甲殻の裏にある筋肉は、そのでかい図体を起こし姿勢の補助を簡単に行っているため、凄まじい筋力を秘めているに違いない。

 そして、叫んだ際に放った唾液の木の根に付着したところが煙を上げて凹んでいる。

 おそらくその唾液は強い酸性があるのだろう。


 数秒ののちにそれらの情報を入手した俺は、最後に〔解析〕を行った。

 その解析にて探るのは、外見ではわからない内側の能力、すなわちスキルだ。


 俺は念じた。

 この魔物が保有するスキルを〔解析〕する、と。


 そして思考内に新たな情報が開示された。


 〔解析対象:魔物の保有スキル。

 

 保有スキル その一 【強酸放出】

 効果|物体を溶かす強力な酸性液を作り、放出する。


 保有スキル その二 【堅牢装甲】

 効果|防御力に秀でた装甲を身に纏う。


 保有スキル その三 【身体再生】

 効果|失った部位や傷を瞬時に再生する〕


 と記された情報のほかに、魔物が持っている基本的な魔力系スキルがいくつか、というところだった。

 これだけのスキルを保有する魔物と戦うのは初めてだ。

 俺はより一層気を引き締めつつ、セオリーである俺とレアンの戦術で戦うことにした。


 背後を一瞥し、またしてもレアンにアイサインを送る。

 まだ阿吽の呼吸とまではいかないが、それでも俺の意思をくみ取ってくれたレアンの肉体からはめらっと魔力が立ち上るをの感じた。

 

 (よし、いつも通り俺が前に出て、様子を伺うとしよう)


 俺は腰に刀を〔再構築〕し、一瞬の間に新たな義手"魔性筋繊維搭載型義手(スィンツァ・アディト)"の使い心地、いや、動かした感覚を確かめた。

 前の義手では腕部の動き再現のために上腕二頭筋、三頭筋や前腕の筋肉を大きな油圧式シリンダーのような機関で再現していた。

 関節には、挟み込むように一本のモーターが接続され、かろうじてくの字に折れ曲がる程度の可動範囲だった。

 しかし、今の義手は魔物の筋繊維を模倣した組織"魔性筋繊維(スィンツァ)"を用いているため、機械式の駆動系では不可能なほどの瞬発力、関節の可動域を実現してあるらしい。

 これまで不可能だった複雑かつ精密な動きを可能にするということで、俺は十分に安全な復帰方法を考えたうえで、義手の性能を試してみることにした。

 

 ムカデ、何度も呼称するには気分が悪くなりそうなため、センチピードと英語の単語で呼ぶことにする。

 センチピードは俺の元居た世界とは違って、腹のほう……正確には胸だったかは定かではないが、何しかお腹の部分にはスキルで構築されたであろう堅牢な装甲を持っているわけではなさそうだ。

 ある程度の解析を行ったと同時に、以前戦ったヘビのように、上体を起こしつつ上部をひの字に曲げたセンチピード。

 これからどんな攻撃が来るか何となく予想がついたため、俺は下段に刀を構え、迎え撃つべく口に備わった鋏に集中した。

 センチピードはひの字に曲げた肉体から生える無数の手足を、一度ぴんと張ってから恐るべき速度で牙による攻撃を開始した。

 その速度は凄まじいものだったが、事前の予備動作を見て直感で攻撃が来ると理解した俺は、鋏に対し平衡に刀を構え、センチピードの気色悪い顔面が目前まで迫ったその瞬間。


 その側面に刃を添わせ、上方向へと降りぬくと同時に体を逃がす。

 固い根に衝突したセンチピードの鋏は片方が歪んでしまい、なぜ俺への攻撃が命中しなかったのかを不思議そうにしている。

 あれほどの速度で地面にぶつかったのなら気絶してもおかしくないはずだが、そもそも蟲は気絶しないということを思い出して、義手の使い心地を振り返った。

 

 所感を一言で述べるならば、右腕が戻ってきたような感覚だった。


 まる違和感を感じさせないこの新たな義手。懐かしく感じる節さえあるほどの滑らかな動作に加え、指先の細かな操作、力の込め方から何から何まで以前とは違い、最適化されていた。

 素晴らしい以外の感想を残しようのない完璧な再限度は、俺の得意とする受け流しを簡単に成功させたのだ。


 直後、魔物の追撃を躱すべく後方へ飛ぼうとしたその瞬間、全身を締め付けるような感覚とともにやってきた、まるで外付けされた筋肉の躍動を感じた。


 ほんの少し後方に飛び回避しようとしようとしただけのはずが、瞬時に大きく後退し、近くの木の幹に対し垂直に着地するほどの膂力を発揮していた。


 「すごい身体能力だな……」


 もちろんこれは俺本来のものではなく、ヌルが開発した新たな組織である魔性筋繊維(スィンツァ)を全身に密着させ、全身の運動能力を向上させる第二の装備"魔性筋繊維(スィンツァ)身体能力補助装備(アデリシア)"の効果である。

 俺は斥力によって跳ね返ってきた着地の衝撃と推力を利用し、壁面から跳ね上る。

 肌の触感という細かな調整すら最適化されている手で確かに握られているという確信を持てる義手、その手に握られた刀に〔分解〕の権能を纏い、上段に構えた刀を近づいてら一気に振り下ろす。

 朱色の頭部をそぎ落とすことはかなわなかったものの、対の鋏を切り落とすことに成功した。

 

 しかし慢心してはならない。

 なぜなら、この魔物には【身体再生】というスキルが存在するのだ。

 俺は気を緩めることなくレアンが攻撃しやすいよう、その身を守る堅牢な城壁たる装甲に狙いを定め、切れ味を気にしなくていい〔分解〕を纏った刃で一刀両断に切り離した。


 「キッシャアア!!!」


 激痛に耐えかねて叫ぶ魔物は、体をくねらせて暴れ始めた。

 この暴走状態で嵐のように振り回す四肢やら牙やらを触手やらを、隙間を見て回避し切り落としていく。

 上半身の触手をすべて切り落としたのを合図に、レアンは刀に込めた魔力を【魔力放出】により、放つ斬撃を一撃、魔物の上半身を真っ二つに裂いた。

 その断面に光るものを見つけた俺は、すぐさま跳ねて近づき、新たな義手の握力で強くつかみ、引きちぎった。

 すると魔物の暴れる勢いは嘘のように静まり、その場に倒れ伏したのだった。


 「ナイスファイト、レアン」


 俺はレアンにグータッチを求めると、レアンはそれに応じるとともに驚きながら言う。


 「あんな跳ねるような動き、私でもできないよ!?どうやったの?」


 お~し~え~て~、と、俺の体を揺さぶるレアン。

 

 それにしても、この義手と装備の身体能力向上は凄まじいものだと思った。

 あんな魔物に対して対等に渡り合えるのだから、もしレアンが装備すれば、本当に敵なしになってしまうかもしれない。


 「まるで獣人のごとき動きだったな、どこで習ったんだ?」

 

 ヌルはイリュエルを安全圏から連れてきながら言った。


 「まさか獣人ってみんながみんなあんな動きするわけじゃないだろ?」

 

 俺はあくまで装備のおかげであって、あんなのを素の身体能力でやるのは正真正銘の化け物だ。


 「魔結晶もこのペースだとかなりの量が集まりそうだな」


 魔結晶の相場もこの世界の経済のこともわからないが、資金源となるものはできるだけ集めておきたい。多すぎて困るというものではないだろうし。


 「ふぅ」


 俺は刀を納刀し装備を解除すると、全身の疲労感がどっとやってきた、何が起きたのかすぐに分かった。この装備はあれだけ身体能力をブーストする装備なのだから、肉体にたまる疲労は通常の何倍にも膨れ上がるだろう。

 使いどころを考えなくては、と改善点を探しながら、俺たち一行は遠い旅路を少しでも進むために一歩を踏み出した。

 

お読み頂きありがとうございます!


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