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第47話 道中

次話投稿は明日になります。

少しだけ、書き方を変えてみました。

 交易都市国家リベルナルを目指す旅、その二日目。

 夜が明けても巨大な木々がめいいっぱいに付けた葉が光を遮るため、俺たちは日が十分に差し込んで明るくなった時間帯から行動を開始した。


 ヌルの用意してくれた野宿用の簡易住居は魔物に中の魔力や声を外に漏らさない設計となっているため、魔力の反応で寄ってくる魔物から身を休めるのには適した施設だった。


 明日の夜も簡易住居に頼ることが決定し、俺は三人分の水分を〔再構築〕すると、それを手渡して乾いた喉を潤すと、そのまま朝食をとりながら移動した。


 今日の朝ご飯はレアンが作ってくれたミートパイを理外権能で〔分解〕し、理外素となっている最中は時間の経過は無いのだ。それを出来立ての状態で〔分解〕したため、熱々で作りたてのミートパイ〔再構築〕できたというわけだ。

 このような権能の活用方法は他にもある。例えば、事前に投げたナイフを理外権能〔分解〕し、その勢いを保ったまま理外素へと変えておく。

 そして、その状態のまま敵の背後に狙いを定め〔再構築〕すれば、相手からは一切気取られることなく不意打ちすることも可能なのだ。

 俺は村の外へ出ると聞いて、何時いかなる時でも危機に対応できるよう、様々なものを〔分解〕してある。その数は膨大で、何を〔分解〕したのか把握するために〔記憶〕の権能を用いてある。

 

 「すごい……出来立てね」

 「ふっふ~ん。私お手製ミートパイ~」


 慣れ親しんだトマトのやさしい酸味が今のレギオ村では貴重な肉のうまみを際立たせ、たっぷりのチーズの香りが口腔で混ざり、これまでで食べた何よりも旨いと感じた。

 サクサクとした歯触りは癖になるほどの絶妙な焼き加減だし、パイ生地から薫るバターの芳醇な香りが何度もパイを口に運ばせる。


 気づくと俺は二切れほど手元に〔再構築〕してしまっていた。


 貴重な食糧だというに、十分腹を満たせたのにこれ以上食べるのは憚られる。


 俺は片方を再び〔分解〕し、残った一切れを皆で分けようと思ったその時。


 「どれ、一つもらおうか」


 と、食事は必要のないヌルが俺からパイを搔っ攫っていた。

 ヌルがパイを口に運ぶ刹那、機械の体だというのに食事を摂っても大丈夫なのかと尋ねたが、エネルギーとして変換できると早口で言ったのちに、小さな口で一口ほおばった。


 口を閉ざしたまま、どうやってかはわからないが何も口に含んでいないように話すヌル。


 「ほう、これはなかなか……というか、旨いな」

 「えっへん」

 

 レアンが胸を逸らしどや顔で俺のほうを見る。


 確かにレアンの料理の腕は素晴らしいが、どうして俺見るんだ。俺を。


 「皆が口をそろえて口々に言うのでな。少し気になった」

 「残りは昼か晩御飯に食べよう。レアンが特大サイズを作ってくれたからまだまだあるぞ」


 とはいうものの、おいしすぎる携行食というのは、あまり遠征には適していないという話を聞いたことがある。


 「そういえばなんだけど……あ、別にレアンのミートパイが悪いってわけじゃないんだけどさ。

 こういう野宿や遠征の際に持っていく食料って、実は美味しすぎるとだめらしいんだ」


 レアンはなんでー?と首をかしげて言う。


 「歩いてばっかりでもおいしいものが食べられるなら頑張れる!ってならないのかな」

 「確かにへんね。ご褒美があるなら頑張れるものだと思うのだけれど」

 「確かにそうだな。でも、実はそこに理由があるんだよ」


 俺はちょっとだけ物知り博士っぽく振舞おうとした瞬間、普段は口を開かないヌルが珍しく発言した。


 「その理由は、目的が栄養補給ではなく、それを味わうことになってしまうからだな。

 兵站とは往来にして、旨ければ欲張った兵士が本当に栄養を欲する者の分まで消費してしまう。

 もしくは携行食の場合、栄養が必要な場面までにすべての携行食を食べきってしまうことがありえたため、基本的には栄養豊富で消化も良く、腹持ちもいいものが使われるが、その味は無味か苦味など、食欲をそそらないものが使われてきたというわけだ」


 イリュエルとレアンは、そうなんだ、とヌルの言葉を飲み込もうと真剣になっていて、一方で俺は見せ場を取られたためどうすればいいか行方不明になってしまった。


 「おっと。すまないなアルナレイト。お前の見せ場を奪ってしまった」

 「いや、なんでもないですぅ」


 指して怒っているわけでもないが、場の雰囲気を盛り上げるために敢えて拗ねているような態度をとると、以外にもイリュエルやレアンではなく、ヌルが少し揶揄うように微笑んだ。


 「謝っているだろう、意外と子どもっぽいのだな?」

 「ちがうやい」


 そのやり取りを見たレアンとイリュエルは、俺とヌルがこうして仲良さげに話しているところを始めてみたのだろう、意外そうな顔を浮かべていた。


 ◆◆◆


 俺のうんちく話から数時間後のこと。


 俺たちは二回目の魔物と遭遇し、これを撃破した。


 その時遭遇した魔物は、大きな気色悪い色をしたウーパールーパーのような魔物だった。


 あのトサカのような部位(実際のウーパールーパーはヒレらしい)にはかわいらしいふわふわした糸のようなものはついておらず、毒々しい茨のような元なっていた。


 俺は前回の戦闘でレアンが怠っていた【魔力感知】による索敵を行わせ、こちらから先手攻撃を仕掛けることに成功したのだ。


 先手を取れたのはよかったのだが、その後、ウーパールーパーの魔物は顔面の左右を大きく振るわすと、そのまま炎のブレスを吐き出してきたのだ。

 温度を細かく〔解析〕するよりも先に、俺たち四人を〔歪曲〕し避けていくように権能を発動させると、周囲の生木の幹の表面が真っ黒に焼け焦げたため、生身の俺たちが食らえば間違いなく致死の傷を負う。

 俺は常に魔物の正面に立ち火炎ブレスを〔歪曲〕の権能で防御し続け、とどめはレアンの【魔力放出】による突き技の射程拡張だった。


 完全に死亡する前に魔物を〔解析〕すると、なんと、魔物の所持スキルには【固有(ユニーク)スキル:火炎吐息(ファイアブレス)】というスキルがあったのだ。

 そのことを知って、昨日ヌルが話していた、魔物にもスキル持ちがいるということを思い出し、これからはより一層慎重に戦っていかなければならないと再確認させられた。

 

 きっと今後、この魔物以上の複雑かつ強力なスキル持ちのモンスターが出現してもおかしくない。

 というよりも、もっと警戒心を高めて行動していくべきだと、ことさら意識させられたのだった。


お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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