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第46話 未開の地

次話投稿は明日になります。

 玄関扉から出て移動した先は、向かう先であるリベルナルに接するアリアロス大森林。

 巨大な木々は悠然と立ち並び、しかし乱立するために先二十mも見渡すことはかなわない。

 そんな中、俺たち四人はヌルの示す方角に歩いていた。

 

 屹立する木は立派な大きさのものばかりで、その木を支える根っこの部分もまた逞しく俺はともかくイリュエルたレアンの足に多大な負担をかけていることだろう。

 それぞれ荷物を背負っていなくともこの疲労なのだから、重い荷物を持っていた場合を考えると、大幅に疲労を軽減できているのだろう。

 

 道なき道を行く旅ではあるが、道中、ヌルが気を紛らわすためか様々な話をしてくれていた。

 その話の内容はこのようなものだった。


 この大森林には、レギオ村のあるアレイン平野に多く生息している魔物の発生地であると。

 なんでも、太古の時代にこの場所で、魔蟲型(インセクト)の魔物の最も古い種族が住み着きこの大きな木(巨大樹とまではいかない俺たちを取り囲む木々)が吸い上げる大地に流れる魔力を大気に放出していたため、魔物にとっては暮らしやすい理想の環境だったようだ。

 だがある日、魔蟲型(インセクト)の中でもとりわけ強い魔物が縄張りを主張し始め、結果としてこの周囲の森は、その強い魔物のテリトリーとなってしまったという。

 追い出された魔物たちは、追撃者から逃れるべく北へ北へと向かっていった先がアレイン平野であるという。

 その話を聞いたレアンは「じゃあこの森には、レギオ村の魔物より遥かに強いのがいっぱいいるの?」と恐る恐る聞いた。

 すると答えたヌルはNOだった。

 というのも、ここいらの魔力濃度が濃かったのはあくまで太古の話であり、今では他よりちょっと恋程度の、普通の魔力濃度に納まる範疇らしい。

 とはいえ、魔蟲型(インセクト)の魔物は魔物全体で見た中でもそこまで強くはないということから、もしかすると、この辺りには蟲っぽくない魔物がいるのかもしれない。

 そして何より、魔蟲型(インセクト)にあってほかの魔物にはない特徴というのがある。

 それは、自らの持つ異能力を完璧に把握し、それらを使いこなしてくるということだ。

 魔蟲型(インセクト)の魔物は、他の魔物と比べて肉体に外骨格を纏っているおかげか、生まれて間もない魔物でも高い戦闘能力を発揮する。

 しかし、他の魔物は生まれたばかりでは幼く、種族として上位種に進化しなければならないのが当たり前だという。

 だとすると、長い年月を生きる魔物と出くわしたとき、何が何でも戦闘は回避しなければならない。


 「魔蟲型(インセクト)の魔物は本能でスキルを使っていたが、このあたりの魔物になってくると、己が生まれ持ったスキルを自覚し、それを使いこなす個体と戦うのが当たり前になってくる」


 それは厄介そうだと思いながらも、俺はやはり理外の力と魔物の持つスキルを鑑みて、やはり今の俺にとって敵ではないかもしれないと考えた。

 しかし油断は禁物。俺が判断を誤ったなら、すぐさまカバーにはいらなければ仲間が一人死んでもおかしくないのだ。


 「……噂をすればなんとやら、だな」


 戦闘を歩いていたヌルは、大きな木の根に身軽に乗ると、俺たちの後方を指していった。

 振り返るとそこには、濡れたような輝きを放つ鱗を何枚にも備えた動く口縄のような……というか、実際10mはあるのではないかと思うほどの大きなヘビが足音も出さずに忍び寄っていた。


 口を開け、シャーッ!とこちらを威嚇するヘビは、どぎつい紫色の鱗と赤い瞳をギラギラと輝かせている。


 「ひっ……!」 


 自分の何倍もの体格を持つ魔物に対し、レアンは怯みイリュエルは腰を抜かしてしまっていた。

 俺はすかさず二人の前に立つ。


 「レアン、いつも通り俺が前に出る。後方から隙を窺ってくれ」


 その言葉を端に、俺たちの腕ほどもありそうな下を高速で動かす大型ヘビは、体のひの字に曲げると同時に、凄まじい速度でこちらへ迫ってきた。

 さながら弾丸のような速度でさすがに驚いたが、何も捉えられないわけではないし弾丸ほどの速度はないはずだ。

 俺は落ち着いてヘビの体表に抜刀した刀を這わせ右舷に突進に軌道を変えた。

 その勢いを活かして下段に刀を構えた俺は、逆袈裟でヘビの魔物の胴体を斬る。しかし固いうろこを数枚削げたのみで、その体をを完全に断ち切ることはできなかった。

 しかし、俺は反撃をするために突進を受け流したのではなく、その進路を変えるためだ。

 俺たち三人が固まっている場所は太い木の幹のすぐそばであったため、頭部を思い切り打ち付けたヘビは少しよろめき、ぶつかった木は全く揺るがず直立を続けていた。

 

 「レアンッ!」


 彼女は俺が名前を呼ぶより早く魔物の隙を察知すると、刀に纏われた光芒がより一層強く輝き、凄まじい風切り音を伴って、ヘビの胴体を両断した。


 「は、はぁ……」


 と一息つくレアン。

 しかし油断は禁物。


 俺は魔物がまだ息を引き取っていないことを直感で理解し、レアンとイリュエルをを押し倒す形でヘビの突進を回避させた。

 ヘビは半身を失っても力強さはまだまだ健在のようで、レアンが断ち切った断面はすでに薄皮の皮膚に再生していた。


 「な、なんで!」

  

 いったいどんな再生力をしてるんだと思ったが、レアンを驚きの意味を理解した。

 レアンが魔物の核を狙ったはずの攻撃を食らって、あの魔物はまだ生きているのだ。

 何が起きているのかと〔解析〕すると、どうやらあの魔物、体内の核を自由自在に動かせるらしい。

 とはいえ頭部で物事を考えていることに変わりはないため、切り離された部分に核と頭部が存在していなければ著しく行動力を低下させるらしい。

 道中のヌルが話していたことだが、魔物は基本的に弱点らしい弱点は核以外に無く、頭部や心臓部を破壊したところで、その部位の働きを回復すべく魔力を凝縮させ、肉体再構成(ボディ・リビルド)という魔物の用いる再生術を用いる。

 しかし全く無駄かといえばそうではない。

 魔物は【魔力感知】をはじめとする魔力系スキルをいくつか生まれ持っていると聞いた。情報源はもちろんヌル。

 彼女が言うには、魔物とて肉体に備わった器官を第一に使用し、その次にスキルなどの異能を用いるという優先順位がある。

 したがって、体の部位破壊というのは決して効果の薄い手段ではない。

 ゆえに、ヘビが顔面を強打したのは、俺の作戦のうちの一つでもあったわけだ。

 ヘビには目や舌のほかに情報を感じ取る器官……ピット器官なるものが存在しているのだ。

 そこは繊細な器官であるらしく、ゆえにそれが多く集中する顔面を強打するというのは、何らかの影響を与えていてもおかしくない。


 事実、先ほどまで鋭敏に動き回っていたはずが、目の前でヘビはのたうち回っている。

 その隙を逃さず、レアンは今度こそ魔物の核を完全に両断した。


 「ナイスファイト」

 

 俺はレアンとグータッチを終えると、その魔物の肉体を〔分解〕し、先に進むことにした。


 それからというものの魔物と出くわしてはレアンと協力して倒す、というパターンを数回繰り返していると、周囲はすっかり暗くなってきてしまっていた。


 「ヌル。野宿するってことはわかってるけど、道具はどうするんだ?」


 俺はそうヌルに訪ねると、彼女はどこに忍ばせていたのか小さなコインを取り出すと、それを平べったい場所に投げる。

 すると、そのコインの中から出てくるはずのない量の部品が大量に放出され、数分後に出来上がったのは大きなプレハブ倉庫のような建造物だった。


 「浴室完備の魔物除けの音波を放つ仮設拠点だ」


 イリュエルとレアンは何が起こったのか目を剥いて驚いているのに対し、俺はもう見慣れた光景だと思って割り切って扉を開けた。

 そこには無機質な部屋が広がっており、右手には扉一枚隔てた先に浴室が完備されているのだろう。


 俺は二人を手招きすると同時に扉の中に入り、最後に入ってきたヌルが部屋の扉を閉めると、そこからは明日に備えて早く寝るために、素早く風呂を済ませたイリュエルとレアンがベッドを共有していた。

 一応夜番は必要だろうということで、俺とヌルが交代で3時間ごとに眠ることにした。

 とはいうもののヌルに睡眠は必要ないため、理外の力を使った新たな戦法の活用方法について答弁しているうちに、いつの間にか俺の寝る順番がまわってきたので、ヌルにいつも通りの鍛錬を頼むと同時にベッドにもぐりこむのだった。 

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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