第45話 出立
次話投稿は明日になります。
次回、ついに外の世界へと足を運びます。
早朝。夕焼けとはまた違ったオレンジ色が空を染め上げていく。
俺はリベルナルまでの旅路の準備をしながら、部屋の外に広がる朝焼けを見ながらに思った。
どの世界にも、朝が来て太陽が上がり、夜が来て太陽は地平線の下に沈んでいくのだと。
至極当たり前のことかもしれないが、それでも、この世界に来るまで生きてきた環境と大差ないと思うと、多少の寂しさは拭えた。
この世界に来て何時間経過したのかは調べてみないとわからないけれど、同じような環境に生きているというだけで、なぜか次に進もうと思えるのが不思議だ。
そんな気持ちを保ったまま、今回の旅での自分の役割を確認することにした。
今回俺は、旅に同行する全員の荷物を〔分解〕するという役目がある。
これは単純に、重たい荷物を持って長い道を歩かなければならないという負担を軽減するためだ。
理外権能で〔分解〕されたものは、俺が〔再構築〕しない限りは理外素となる。この状態では何もからも鑑賞することは叶わないため、誰かに荷物を盗られるという心配もなくなるわけだ。
それに、〔分解〕して理外素にできる量には限界が無いことから、実質無限の容量を持つストレージといえるわけだ。
とはいえ理内率を上回る属性を持つものであれば手で持って歩くしかないので、完全無欠の万能というわけではない。
俺は自分の荷物を〔分解〕し終えると、イリュエルとレアンの荷物も持ち運ぶために二人の居る部屋に部屋に向かう。二人は今日の出発に備えてお泊り会をしていたらしい。
俺も混ざってほしいとレアンは懇願してきたが、さすがに薄着の美少女二人に囲まれては寝付けそうにもなかったため、自室での睡眠を選択した。
向かうといっても廊下を挟んだ向かいの部屋であるため、一歩歩くと扉をノックをした。
「イリュエル、レアン。おはよう。もう少しで出発だけど、準備はできてるか?」
俺がそう扉越しに話しかけると、レアンとイリュエルの眠そうな声で返事が返ってきた。
「あるなぁ……てちだって」
ろれつの回らないレアンの声が聞こえ、やむなしに扉を開けた。
そこには……。
そこには、何の服を着ていこうかと眠気眼で選んでいるイリュエルとレアンの姿があった。
大き目の皮袋にあれやこれやを詰め込んでいるが、その荷物量は目算でも俺の三倍にも及ぶ。
「これとかどう………ですかね」
部屋の窓に付いたカーテンが閉まっていてよく見えないので、俺は手近にあった服を拾い上げると、レアンは短くうんといって、ゆっくりとした手つきでたたんで皮袋へ入れた。
じゃ、これは?とレアンは何かを俺に見せる。
しかし暗がりになっているこの部屋じゃ見分けがつかないため、俺はカーテンを開けるべく窓のほうへと寄った。
「レアン、カーテン開けるぞ」
「あ、ちょっとまってぇ」
気の抜けた語尾に、これは一度目覚ましを入れなきゃな、と思った俺は、すかさずカーテンを開いた。
部屋に光が入り、レアンの手に持っていたものが明確になった。
一言でいうと、それは衣服なのだろう。しかし、白を基調とした薄桃色のような色をした、明らかに布面積の小さな衣服。
俺は何のためのものかと思考を巡らせたが、やがてレアンが手に持っているのは女性が衣服の下に身に着ける、いわゆる下着だということに思い当たり、慌てて目線をそらした。
「あるなぁ、よくみてくれなきゃ、わかんないよぉ」
「……レアン。今手に持っているもの、それはなんだ」
ふぇ?といった表情でかしげながら手に持っているものをまじまじと見つめると、レアンは顔を真っ赤にして、小さく「みなかったことにしてください」といったので、俺はレアンの身に着けているであろうそれを、かぶりを振って頭からはじき出した。
「俺は部屋の外で待ってるから」
俺はいけないものを見てしまったという罪悪感を忘れるために、急いで部屋の外へと移動した。
◆◆◆
数分後、レアンとイリュエルは二人の名前を書いた皮袋を手渡してくると、俺はそれを〔分解〕した。
レアンは恥ずかしいのか俺と目を合わそうとはしないものの、ちらちらをこちらを見つめてくるので、
「さっきはいいものを拝め……」
た、という冗談を言おうとしたのだが、レアンは俺の脇腹を立てた指で突いてきた。
機嫌を損ねたか、とも思ったのだが、その直後、レアンは俺に対して驚いたような表情を向けていった。
「アルナ、冗談とか言うんだね。
これまで一緒に過ごしてきて、そんなこと一言も言わなかったから珍しい」
レアンの言ったことを思うと、確かに俺はここ二か月弱、冗談やボケるなどの行為をしていなかった。いや、しようとすら思わなかった。
きっと、俺がこの村に対する責任と、レアンとの契約を果たすことに気がいっぱいだったのだ。
それで、俺はレアンに堅物だという認識を与えてしまったのかもしれない。
レアンが俺と一緒にいることで変な緊張をさせ、結果としてストレスを感じさせないように、軽く冗談を言ってみようと思うも、特に何かを思い浮かぶわけでもなく、静かな時間が流れた。
「ひょっとして、いままで私のこと警戒してたの、かな」
レアンは少しうつむきながらそう言う。
その少し悲しそうな表情に俺は耐えきれなくなって、レアンの肩に手を触れて言った。
「そんなことないよ。ただ、今までは余裕がなかっただけだ。
今は何もかもが順調にいってる。そんな時だから、俺の心にも余裕が生まれたのかもしれない」
俺は自分の心のすべてをぶつけると、レアンはいつもの明るい表情を浮かべた。
「そういうことにしとく。アルナって、すごい気遣いができるよね。女の子について、誰に教わったの?」
レアンにそんなことを言われても、俺は誰からも教わったことはないし、自分の本心をありのままに伝えただけなんだが、レアンにとってそれがもっとも納得のいく答えだったらしい。
思考を逡巡させているとレアンはこちらの顔を覗き込んできたので、一応秘密といって、いるはずのない女性経験を教えてくれた師匠にありがとうと心の中で頭を下げておく。
「二人とも、仲いいのね」
イリュエルはそうつぶやくと、レアンは勢いよくイリュエルに抱き着いた。
「えへへー、嫉妬した?」
「……してないといえば嘘になるわ」
少し耳のふちを赤らめていったイリュエル。
レアンよりも大人びて見えるイリュエルだが、そういうところはまだまだ子供っぽいようだ。
「確かにレアンは俺にとって大切な人のうち一人だけど、それはイリュエル。君も同じだ」
俺はそうフォローを入れる。
すると二人は大きく目を見開きこっちを見つめる。
「どうしたんだよ。ハトが豆鉄砲食らったような顔して」
「……いや、ずるいなとおもっただけ」
イリュエルも、ええ。と小さくこぼして二人はそれっきり無言になってしまった。
それからしばらくすると、ヌルから呼び出しがかかったので彼女のもとに向かうことに。
俺とヌル(今はレヴィエルもだが)が使わせてもらっている部屋には、すでにヌルとレヴィエルが何やら話し合っていた。
「いいか。あまり村の人々の前で無暗に力を使うなよ。私から頼めば、アルナレイトがお前に知識を与えなくすることだってできるんだぞ」
「承知いたしましたわ。ですが、あなたのためではないということをお忘れなきよう」
何やらピりついた雰囲気だったのだが、俺たちが扉を開けたと同時に、ヌルはレヴィエルに頼んだぞ、と言っていたのが聞こえたため、そこまで険悪な仲というわけではなさそうで安心した。
「来たか。二人とも、ちゃんと話は通してきたのだろうな?」
そう確認を取ると、レアンとイリュエルはうなずいた。
「よし、なら行こうか」
もし最悪忘れ物があっても、俺が理外権能で手元へ〔再構築〕すればいい話なのだから、そこまで準備を念入りにする必要もないのだが、よく準備をするということは、それだけ心が安心するということでもある。
「ついてこい」
ヌルはそう言うと、家の玄関へと向かった。
靴を履き、身を守るための装備を身に着けた俺たちは玄関の扉を開く。
するとそこには、ルーファス家の前にあるいつもの道ではなく……。
どこか別の森、その木立の傍へとつながっていた。
「え、どうなってるの?」
「全くわからないわ……」
二人は何が起きているのか全く分かっていないという感じだったが、俺も何が起きたのか全く分からなかった。
「何をしている?行くぞ」
目の前で起きている超常の事象をまるで日常の一ページのように軽く済ませるヌル。
誰も第一歩を踏み出さないので、ヌルはさっさと扉の奥へとすたすた歩いて行った。
「……行ってだいじょうぶなのかな」
といまだに踏み出そうとしない二人。ヌルは一応向こうで待ってくれているみたいだが、あきれた表情の半目でこちらを見つめている。
俺は理外権能でここを通って向こうに行けるのかと〔解析〕したが、特に問題はないと出たためその結果を信じて扉を潜った。
扉から頭を出した、と同時に、二人の手を掴んだ。
「ほら、いこう!」
二人は最後の最後まで怖がっていたが、背中に感じたヌルの急かす威圧感に冷や汗を感じたので、二人の手を少しだけ強かに引いた。
すると、体勢を崩した二人が草のカーペットに転がりそうになったので受け止める。
その後、強引に引き入れたことで二人に小突かれたのは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。
 




