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第43話 暁の星々

大変お待たせ致しました。

次話投稿は早くて今日、遅くとも明日には上がる予定です。

 晴れた大空から遮るもののない日光が大地を照らし、鮮やかに輝く緑の叢のカーペットは、風によって靡きうねる波を作り出している。


 そんな中、俺とレアンは刀を握り、敵に全意識を集中させていた。


 今は、レギオ村の周囲に拡大している農地、その作業の警備を行っている。

 俺とレアンが魔物を討伐したといっても、ほかの地域からやってきた魔物は存在するので、こうして俺とレアンが警備を行っているというわけだ。


 今度の魔物は魔蟲種(インセクト)ではなく、熊のような姿をしている。

 鈍重な動きかと思えば、全くそんなことはなかった。

 それどころか、魔物は俺とレアンよりも大きな図体のまま、俊敏な動きでヒットアンドアウェイを繰り返している。

 

 「厄介だな……」


 魔物が持つ毛皮によって、レアンの魔力を纏った攻撃もあまり通じていない。

 傷をつけられても、持ち前の魔力量ですぐに傷を塞がれてしまう。


 ここは、アレを使うか。


 俺は最近編み出した秘策を使用するべく、その準備をするための時間を稼いでもらうためにレアンへと指示を飛ばす。


 「レアン!五秒だけ持ちこたえてくれ!」

 「わかった!」


 レアンは短くそう答えると、いつも前衛を務めてる俺と入れ替わる。

 俺はすぐさま後退し、刀を構えた。

 

 イメージする。

 刀を覆う、この世ならざる力……理外の力を纏う、と。

 自らの内側から盛り上がった何かが、見えないが確かに感じる感覚とともに、体表を伝い刀へと流れていく。

 刀に満遍なく行き渡ったことを認識すると、その力に一つの権能を行使する。


 「……刀に〔分解〕の権能を纏う」


 そう発した瞬間、刀には蒼白い焔のようなものが燃え上がり、刀身を包み込んだ。


 準備が完了し、レアンの様子を見る。

 敵の攻撃が届かない間合いから【魔力放出】と【魔力変換】のスキルをうまく用いて中距離の斬撃を行っているようだ。

 しかし、あの魔物が持つ毛皮の効果によって、あまり有効打は与えられていないらしい。


 俺はその状況を打開すべく、全身に推力を〔再構築〕して向かった。


 「レアン!」


 俺が名前を呼んだ瞬間、レアンは下段に構えた刀を一気に加速し、魔物の片腕を跳ね上げさせた。

 その機会を無駄にしないためにも、俺は普段よりも一層深く踏み込み、魔物の懐まで潜り込んだ。


 俺の存在を感知した魔物は、丸太のような太さの腕をこちら目掛け振り下ろしてくる。体重をかけて俺を潰す気だ。

 こんなでかい魔物に圧し掛かられては無事ではいられない。

 しかし幸運だった。体重を掛け、前傾姿勢となった魔物は、俺の狙っていた部位を確実に切断できる距離にまで迫っていたのだから。


 「っ!」


 魔物が圧し掛かって来る最中、魔物の左肩目掛けて万物両断の刀身で狙いを定めた俺は、魔物の左後方に体を逃しつつ、上向きの半月を描くような軌道で刀を振るった。

 刀に手応えはなく、刀身が触れる前に刀に纏われた〔分解〕の権能が魔物の肉体を消し去った故に、手には斥力による手応えは無かったのだ。


 うめき声をあげる魔物は、そのまま倒れこむ。

 俺は魔物が体内に保有する【魔結晶】という心臓部の位置を〔解析〕し割り出すと、その魔結晶手前までぎりぎりを刀で裂き、尋常ならざる膂力を持つ義手で魔物の体内に手を突っ込むと、そのまま核を引き抜いた。


 「グワーァァ……」


 その場に倒れこんだ魔物の肉体と魔結晶を〔分解〕した俺は、レアンのほうに向きなおった。

 俺とレアンは無言でハイタッチをすると、背後で農作業に従事していた村人たちから歓声が上がった。


 「す、すげえ!」

 「あんな動きどうやってするんだよ!」


 言われて悪い気はしないが、俺はあくまで理外の力に頼っているにすぎないため、本当にすごいのはレアンだ。


 「だってさ」

 「私だけじゃないよ。今回の勝因はアルナだもんね」


 確かにフィニッシャーは俺だったが、レアンの時間稼ぎがなかったら俺は死んでいた。

 そのことだけは事実だ。


 「っと、そろそろだな」


 俺は太陽?が空のてっぺんにまで登ったことを確認すると、村人たちに村の中へ戻るように指示した。

 朝方から正午までを畑の開墾に割り当てているので、ここから三時間は自由時間ということになっている。

 基本的には、俺とレアンの二人が村の警備にあたっている時間帯以外は魔物の危険があるので農地の拡大は行わない。

 それは単純に作業効率や、俺とレアンの体力の問題もあるのだが、最もの要因としては、作物の種類と量が明らかに足りないことによる、作業自体の遅れなのだ。

 その遅れは致命的なもので、これからの農地拡大に大きな支障を齎す。ひいては俺とヌルの目的が遅れるため、どうにかしないといけない直近の問題だったりする。

 けれど、この問題も近々解決することとなるとヌルは言っていた。その内容を俺は知らされていないが、何となく推察はできる。

 

 「アルナー!急がないと門しまっちゃうよーっ」


 いつもの癖で熟考していた俺は、レアンの呼びかけに応じて彼女へと走り寄った。


 「ごめんごめん」

 「もう、締め出されちゃっても知らないよ?」

 「はは、勘弁してくれ」


 いつのまにか、俺を「アルナ」と呼ぶようになったレアン。

 彼女とはあの一件から妙にとっつきにくくなってしまった。

 何せ、いきなりあんな行為に走ってしまったのだから、そもそも女性と距離感の測りの分からない俺にとって、彼女のことは少し遠ざけてしまいたくなる。

 けれど、レアンが俺を励まそうとしてくれた行為に対し、そんな無礼な行為はできない。

 なるべく平然を装って彼女に接することにしている。


 「ねね、アルナ。さっきのすごくかっこよかったよ!」

 「そうかな、ありがとうな」


 こう、魔物に潰されちゃうかと思ったら、切り抜けてずばばーって、と手振りで教えてくれるレアン。容姿こそ新芽の大人さを持つ彼女だが、心はまだ幼いような仕草に、思わず可愛らしいと思ってしまう。


 「お腹すいたねー。かえって何食べよっか」

 「今日は師匠が作ってくれる日だったろ?それに期待しよう」


 そうだね。量が多いといいなー、と俺の思う女の子らしからぬことをいうレアン。

 こういった素直なところもまた、レアンの魅力の一つなのだろう。


 ………


 ……


 …


 家にたどり着いた俺とレアンは、師匠の手料理を食べて午後からの稽古が始まるまでの自由時間、一旦分かれて別行動となった。

 部屋でひと眠りしようかと思っていると、ベッドの上を占領しているヌルの姿を目撃した。


 「お疲れさまだな、アルナレイト」

 「魔物一匹を倒したぐらいじゃ、そんな労われるほど疲れてないさ」


 この村に来て一週間くらいのころは魔物一匹だけでも村を滅ぼしかけていたというのに、今となっては魔物一匹倒すのは当たり前、というところまで来ているあたり、自分や村の成長が実感できてなんとも喜ばしい。


 「休憩時間なのだろうが、私の話を聞いてもらうぞ」

 「次の目標についてだろ?」


 何となく察しがついていためそう答えると、如何にも、とヌルは肯定して話をつづけた。


 「まず初めに、第一目標であった村の掌握の完了。

 現段階で私が動くことはできなかったものの、レヴィエルや魔物などといった強敵相手に切り抜けられたのはひとえにお前の努力の賜物だ。感謝する」


 俺とヌルの目的、それは、ひとりの少女を殺すこと。

 その目的達成のためには、強大な国家を建国する必要があるとヌルは言っていた。

 そのための第一目標はレギオ村の掌握だった。期間は一~二ヶ月。

 実際掌握に掛かったのは、一か月半あたりだろう。だとすると、期限には十分に間に合った形になる。


 「本当は三か月以上かかると思っていたのだがな、よく頑張ってくれた。

 次の目的達成の期限に、かなり猶予が設けられそうだ」


 そういいつつ、ヌルは部屋の扉のほうを指さし、言った。


 「次なる目的は、これだ」


 どこからともなく表れた光の線は、部屋と廊下とをつなぐ扉の前に薄い板を編み出す。

 それは、SF映画やサイバーパンク系のゲームにはありがちな、空中に浮かぶホログラフィックだった。

 しかし、それらの創作物で見るホログラフィックは、えてして青い光で作られた見づらいものか、砂嵐が走ってるようなものだったというのに、目の前のそれは、元居た世界でも見たことのないような美しい画素数で構築されているかのような画質を滑らかさを持っていた。

 前にも見たことはあるが、やはり異常な科学技術を持っていることを実感させられる。


 空中に浮かぶホログラフィックに映し出された文章は丁寧に日本語で書かれており、そこには、


「レギオ村の準国家、もしくは町規模に相当する規模へと拡大する」


 と書かれていた。

 そして、その下に書いてあるのは、それを達成するために行うべき小目標たち。


 一つ目は

 「資源の安定的供給および生産」

 二つ目に

 「食料安定生産」

 三つ目に

 「他国と同等の武力の獲得」

 とあった。


 これらの目的に対して必要なリストが、続くプルダウンメニューのように延々と明記されており、すべてを覚えることは困難なため〔記憶〕しておくことにした。


 にしても……やること多すぎないか?とも思ったが、彼女と俺との契約なのだ。

 どんな目的がどのような数あったとしても、すべてを達成できなければ契約の履行などできない。


 「期限は一年。それまでに国家級の規模にまで拡大できなければ、私たちの契約は履行できる可能性は著しく低下する。

 これまで以上に厳しい行動をとっていかねばならないが、いいな?」

 「もちろんだ。それで、最初は何から始めるんだ?」


 こうして話している時間ですら、すでに猶予を使用しているのだから、今できることは早くしようと思い、ヌルにそう問う。


 「まずは、今行っている農地の拡大についての問題だ。

 レギオ村の存在するこの地域、アレイン平野は背の低い草しか生えず、あまり土壌に栄養がない。

 それを改善すべく、土壌改善や栄養豊富な土を作るために必要な植物を入手する必要がある」

 「その植物はレギオ村近辺に自生しているのか?」

 「いいや、この辺りには生息していない」 

 「じゃあどうするんだ?」


 すると、ホログラフィックに映し出されていた文章が、突如地図に入れ替わった


「この地図にある"永世中立国リベルナル"には"交易都市センタール"という町がある。

 そこでは毎日、大陸中で集められた商品が行きかっている」


 大陸中からやってくる商品が集められる都市、センタール。

 この世界に来て、まだまだ日の浅い俺には毎日が発見の日々なのだが、そこに行けば、これまで以上の発見が溢れているのだろう。

 その都市で農地の拡大に必要な植物を買い揃えるということなのだろうと理解した。


 「察しの通り、次の目的達成のため、我々はレギオ村から一時離れて、交易都市センタールへと向かう。

 目的は主に必要物資の補充ではあるが、ほかにも目的はある」

 「何をするんだ?」

 「現地に残してある協力者がいる。そのものの集めてきた情報の入手と、お前に合わせておこうと思ってな」

 

 契約の協力者がいることを知って、俺は驚いた。

 まさか俺以外にもこの契約に関わっている者がいるとは思いもしなかった。


 「彼女の名前は、リオン・アテレリアド。現地到着後、彼女と接触を図る」


 リオン・アテレリアド。

 この人物はなぜ、ヌルの契約に協力しようという気になったのだろう。

 一度会って話がしてみたい。


 「リベルナルに向かう際だけではないが、今後他国へと赴く場合、お前には必ず守ってもらわねばならないことがある」

 「それは?」

 「お前の正体が、只人種(ヒューマン)であることを決して漏らしてはならない。

 のちに控える駆け引きにおいて、お前の存在は大きなものとなるからな」


 今の段階では特に意味のない行動だったとしても、今後の活動に支障をきたすということなのだろう。


 「わかった、気を付けるよ」


 俺がそう言うと、再びホログラフィックが切り替わった。

 そこに映し出されていたのは、フルフェイス型のヘルメットのようなものだった。


 「多機能補助情報端末(アウル・スティルグ)に頭部覆防護形態機能を追加した」

 「どういうものなんだ?」

 

 俺はホログラフィックに映し出される内容を逐一〔記憶〕しながら、ヌルの説明を頭に叩き込んだ。


 「多機能補助情報端末(アウル・スティルグ)は、今後の作戦行動に備えて最適な機能を

追加するべく作成した装置だ。

 私との通信機能のほかに、頭部覆防護形態時のみ使用可能な、有視界ディスプレイ補助機能などを搭載している。

 ほかにも頭部覆防護形態時には頭部が完全密封されるため、酸素供給や防塵、汚染の除去などの機能を備えてある。

 加えて、理外権能を使わなくては魔力を視界で捉えられないお前のために、有視界ディスプレイに魔力の流れを表示する他、視界外の攻撃感知や敵の動きの予測像を表示するなど、戦闘の補助にも役立つ機能を備えてある」


 一気に説明されて頭が混乱しかけているので、いったんその機能をまとめてみることに。

 まず、頭部を覆う頭部覆防護形態を使用すると、酸素が吸えないところや、吸えても毒素が侵入してくる可能性のある場合、安全に呼吸を行うための機能がついているということらしい。

 さらに、視界に敵の動きの予測した像を表示したり、感知できない範囲の攻撃を知らせてくれたりと、戦闘の補助まで行ってくれるものだという。

 

 こんな高機能なものを俺に与えてもいいのかと思ったが、きっと、これからの戦闘ではこの装備の機能も使いこなさなくては生きていけないということなのだろう。

 

 「基本的な操作はお前の脳波を読んで行うが、必要になれば私が行う。

 どれ、試しに被ってみろ」


 そうヌルが言うので、俺は飾りの部分を持ち上げた。


 「これからお前には、数多の武装を使いこなしてもらわねばならん。

 そこで、開発した装備を起動するためのコードを教えておこう。

 武装だけではなく、その装置に触れながら"起動(アーガス)"と言うんだ」


 俺はヌルに言われた通り、ネックレスに触れながらつぶやいた。


 「––––––––起動(アーガス)–––––––––」


 ––––––––––––––––––そう唱えた瞬間。


 指に触れていた飾りとチェーンは、奇妙な形へと変わっていった。

 明らかに収まるはずのない量の部品が目薬ほどの小さな飾りから現れ、ヘッドギアを構築していく。

 数秒の間で俺の顔を覆いつくしたその装備は、直後に視界を表示した。


 「どうだ?苦しくはないか?」

 「いや全然」


 苦しいどころか、SFが好きな俺にとってはこんな超技術に触れられて心が躍っていた。

 それも仕方ない。彼女、ヌルの種族である機巧種(エクス・マキナ)は、純然たる科学の力のみ髪と同等にまで登りつめた存在なのだから。


 突如、部屋の空間がぐにゃりと歪み、生じた亀裂から姿を現したレヴィエル。

 ヌルの指示に従わせているが、いつもあいつはどこで待機しているのだろうか。


 「ただいま、殲滅完了いたしました♡」

 「ご苦労。好きにしていいぞ」

 

 自然なやり取りを行うヌルとレヴィエル。前回殺し合ったのがまるで嘘みたいだ。

 

 「では、主様のお傍に使えさせていただきますわ」


 と、俺の傍にやってきて、隣に座るレヴィエル。

 ちょうどヌルと挟まれたような形になってしまう。


 「うぇえ~~~へへへ、これは何なのでしょう主様~~♡

 また新たな技術に触れられて、ワタクシ感激でございますわ~~~~ッ!」


 いつものテンションのレヴィエルに俺とヌルは真顔スルーを決めると、次にヌルは、俺の腕について話し始めた。

 それと同時に、空中に浮かぶホログラフィックも義手の物へと変化した。


 「アルナレイト。この前お前とレアンが討伐した魔物の解析が完了した」

 

 そういいながら画面が切り替わり、そこに映し出されるのは、俺が今使用している義手よりも、滑らかで機械っぽさのまるでない腕。

 

 「これは魔物の筋線維の構造を模倣した新技術…魔性筋繊維(スィンツァ)を用いた新たな義手。

 魔性筋繊維搭載型義手(スィンツァ・アディト)とでもしておこうか」

   

 新たな装備の名付けを終えたヌルは、その装備の説明を始めた。

 魔性筋繊維搭載型義手(スィンツァ・アディト)。これは、今装備しているこの義手よりも可動域と運動性能に優れ、俺の持っていた本来の右腕と同じように扱えるようになっているという。

 

 「多少耐久性は低下するが、お前の剣術に大きく影響を与えるだろうからな。

 しなやかかつ強靭性もあり、十分な筋力を確保してある。それに加え、今の義手にはない機能と利便が、合わせて三つほど用意されている」


 説明を続けるヌル。

 これまでになかった利便性と義手があまり目立たないことらしい。

 これから他国へ赴く際、明らかに機巧種(エクス・マキナ)の義手だというのがわかってしまうと、レヴィエルの時のようなことも起きてしまいかねない。

 もしかして、機巧種(エクス・マキナ)の技術が現存することを誰かに知られてはいけないのではと思いヌルに聞いてみる。

 俺の考えは正解だったようで、義手さえ搭載すれば魔物を葬れる技術が外へ漏れることは、いったいどんな被害を生むかわからないという。


 新たな機能については、前回の機械式の義手では不可能だった、武装を内部に収納する機能を搭載したことと、もう一つあるらしい。

 この武装を内部に仕舞い、自由に取り出せる機能のことを圧縮機構技術(ヴィファ)というものだたという。

 ヌルが体内に入りきるはずのない部品の数々を内蔵できているのは、この技術により魔力などのエネルギーを一切用いることなく、疑似的に空間拡張を行っているらしい。

 俺からすればすでに理解不能なのだが、もう、そういうもんだろうと割り切ることにした。


 「武装を内部に収納する機構を武装圧縮機構(ヴェフィア)というのだが、これはお前の望む武装に換装できるようにしてある。

 とはいえこんなもの、単に内部に空間を作っただけに過ぎない。

 本当の新技術はここからだ」


 ヌルはそう言うと、現在の義手と魔性筋繊維搭載型義手(スィンツァ・アディト)の性能について説明する。

 

 「この魔性筋繊維搭載型義手(スィンツァ・アディト)は、魔物の持つ特性を模倣してある。

 アルナレイト、魔物の特性とは何だったか、覚えているな」

 「肉体に充てる魔力量を増加させて、その部位の性能を引き上げる特性に倣った機能があるってことか?」


 その特性は、魔能増幅(マナ・ブースト)というもので、あの魔物の爆発的な攻撃速度も、今思えばこの特性があったからだろう。


 「正解だ。

 これは、義手の動力源から発生するエネルギーを、通常以上に割りふることでその運動性能を向上させる機能を持つ。

 この機能は……疑似・能力増幅(ディシア・ヴィオルト)とでも呼称しよう。

 この機能を用いれば、瞬時に筋力を上昇させ、意表を突いた際の攻撃をより強力にする効果などが期待できる」 

 

 【未踏(フロンティア)・剣術】(オーヴァーターンド)を〔模倣〕するための【権能多重行使戦闘状態(モード・スティール)】では、俺の肉体の限界を常に出力し続ける負担の大きい技術なのだが、どれだけ肉体を酷使しようとも、出せる威力というのは結局のところ肉体の運動性能が上限だ。

 それを一時的にとはいえ突破できるのは、インスタントに出せる強い一手になるだろう。


 「今はまだ調整中ではあるが、この筋繊維を全身にまとい、義手以外の運動能力を向上させる装備も開発済みだ。

 お前が前に言っていたからな。義手だけではなく、全身が強化されていないと効果が薄いと」

 「それは助かる。正直、魔纏闘法(エンチャントアシスト)による身体能力上昇中のレアン相手でさえ、鍔迫り合いで押されるくらいだったからな」

 

 魔力を纏わないのであれば、レアンと俺の身体能力では俺のほうが若干高い。

 しかし、魔力を用いて身体能力を上昇させている状態のレアン相手には、全くと言っていいほど叶わない。

 きっとこのままでは、レアンを危険な目にさらしてしまう。


 「とりあえず、今ので新たな装備は以上になる。

 それからもう一つ、お前に話しておきたいことがある。

 先ほど武力の獲得という目的があったと思うが、私はこの装備をやがては兵士の通常装備に組み込もうと考えている。

 しかし、私が体内に持つ資源はここぞというときのために温存しておきたい。

 目的にもあった、資源の安定供給が達成できなければ、村人たちに何の装備もなし防衛戦を強いなければならないかもしれない。

 新たな資源の供給元について、一応考えておいてくれ」


 ヌルがそう言い終わると同時に扉の向こうからレアンのノックが鳴った。

 俺は稽古のために立ち上がると、装備の換装は明日の夜行うとヌルは俺に告げて、レヴィエルは頭を下げて俺を見送った。

 

 そうか、これからは、この村の外側で活動を行うこともあるのか。

 この村のために近くに入れないことは心配だが、師匠やレアンもいるし、何よりレヴィエル警備を任せれば問題はないだろう。


 先行きの不安を振り払いながら、俺は稽古のために思考を切り替えるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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