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第42話 咎人の結末

大変お待たせしました。

所用がかさなり執筆に取れる時間が無く、予定よりも大幅に遅れてしまいました。

またしても、次話投稿は明日以降となってしまいますが、どうかお待ちください。

 目が覚めた。けれど、奇妙なことに視界はなにも写さない。

 はっきりと意識が覚醒したという認識があるというのに、視界に写す光景はすべて、黒。

 闇が視界を塗りつぶし、何者も写すことはない。

 

 しかし空気は吸える。匂いもする。

 鼻腔の中を微かに漂うカビの匂い。光の差さない空間にいることはわかる。


 「くそっ、何なんだここは……」


 背中には硬い壁があり、その壁から生えている拘束具のようなもので、一切の身動きが取れないように、きつく縛り付けられいる感覚だった。


 いくら力んだところで、拘束が緩む感覚は感じ取れない。


 どうして、こんな場所にいるのか。いくら考えても答えが浮かぶことはなく、直近の記憶を思い返すことにした。


 「たしか……」


 俺は、ファーハイト率いる村の追放者共と取引をした。

 その内容は、俺の指示に従い、レギオ村を襲撃すること。そしてその代わりに、レギオ村に存在するすべてを自由にしていい。そう持ち掛けた。


 すべては、アルナレイトへ最大限の苦痛を与えるために。


 まず手始めに、夜間警備中のレグシズに奇襲をかけ制圧し、村内へと侵入する。

 次にレアン、ナタリア、アセンシア、イリュエルといった、アルナレイトと近しい人物を広場へと集め、そいつらの目の前で、あらん限りの屈辱を味合わせ、そして尊厳を奪い去る。

 それをアルナレイトへ見せつけることで、俺にした行為の愚かさと、自らの行為が発端で、近しい人々の尊厳が失われる。


 奴は、自らの行いで、自分の大切にしたいと思っていたものを汚され奪われる。

 後悔と無念の思いとともに、無力さを理解しながら死んでいく。


 これこそが、俺の求め描いた最高の復讐だったはず。 

 だというのに今は、どことも知れない場所に拘束されている。


 何より問題なのは、村人たちを広場へと集め拘束した時点で、記憶がない。

 まるで記憶に靄がかかったように、何も鮮明ではない。


 「どうなってやがる……」


 体の異常はどこもないというのに、記憶のみが曖昧だ。

 何が起きているのかすらわからないでいると、突如として唐突に、前方から音が響いてくる。

 

 階段の一段一段を降りる音が聞こえる。

 その音が徐々に近づいてくる。前方五mほどにまで近づくと、その音は止まる。

 代わりにガチャリ、とドアノブを回す音がした。


 「記憶のような、脳内に蓄積される情報に対しても効果を発揮するのか……。

 いや、それとも魂が記憶を蓄積しているのか?だとすれば、理外の力を魂に作用させたとしても、その存在が消えることはない……のかもしれないな、よし、今度はそれを試してみよう」


 聞こえてきたのは、あの忌々しい男の声だった。


 「おっと、起きてたのか。

 よく眠れたか?ヴェリアス」


 扉から差し込んできた光が周囲を照らし、その景色を視界に映し出す。

 材質は石、しかし異常なまでに綺麗に彫られている。一切の傷や凹みもなく、狂いなく完全な四角形の部屋。

 いったいどんな道具を使えば、こんな完全な四角形の部屋を作り上げることができるのか。

 などと考えているうちに、目の前まで迫っていた男が頭部を掴み上げた。


 「それじゃ、またな」


 その言葉を最後に、俺の意識は消滅した。


 ◆◆◆


 つい先ほど、42731回目の実験が終了した。

 実験の内容は、理外権能の使用方法の大まかな把握に及び、理外の力の本質に迫る。というものだった。

 実験結果を〔記憶〕の権能でまとめ上げて、いくつか分かったことがあった。

 まず初めに、理外権能の効果範囲の設定には、厳密に設定しない限りは、俺の無意識に準じて効果を発揮するということ。

 実験台の記憶を操作した際に判明した、記憶の消去を行う際に起こる現象は、魂と脳内の記憶両方に作用する。

 これは、魂や脳に蓄積された記憶の両方を〔分解〕すると、俺が効果範囲を無意識にを設定しているからだった。

 その証拠として、脳の記憶のみを〔分解〕した場合、魂から脳へと記憶が復元されるという現象が確認された。

 なぜこの現象が起こったのかはさておき、魂の記憶を〔分解〕した場合、脳に蓄積された記憶は徐々に失われていき、脳の記憶領域内から完全に消去されていた。

 きっとこれは、魂を準拠にして肉体が構築されているからなのだろう。

 肉体に存在しているものの、神経でつながっていない魔力回廊を操作しているのも、この魂の作用によるものだと思う。

 とはいえそれはまだ、実験の副産物に過ぎない。

 

 俺がもっとも調べたかったのは、理外の力の作用が魂にいかなる影響を与えるのか、それが知りたかったのだ。

 魂を理外権能で調べることができれば、その情報をもとに〔再構築〕すれば……もしかすれば【死者の完全蘇生】すら可能となる……かもしれない。

 しかしリスクもあった。

 それは、魂というのが理外の力の作用を受けるものならば……つまり、ファンタジー世界の力であるのだとすれば、理外権能の〔解析〕ですら、理外の力の性質を持つが故に、魂を消してしまいかねないのだ。

 実際に確かめなければわからないこれらの物事は、しかし試して後者のほうが正解であった場合、決して戻らない間違いを犯すところだった。

 しかし、ヴェリアスという実験台を見つけた俺は、理外の力で調べられないことを、ヴェリアスに行いそれらの研究を行った。

 結果として、これまで行うのに躊躇してしまうような実験でしか得られない事柄を、大方調べつくすことができた。

 

 「あ、なんだ、これ、これは、おれのきおくじゃないぃぃぃ!!」


 背後で叫び狂う男を無視し、俺は新たな実験を生かすことにした。

 〔記憶〕の権能に記した、調べるべき内容を確認し、読み上げた。


 「刀に〔分解〕の権能を纏わせることができれば、理外率で劣る存在に対しても、権能は効果を発揮することができるのか……だな」

 

 理外権能の効果は相手の理内率を越せなければ、"直接"相手に理外権能の効果を発揮することはできない。

 そう、"直接"効果を発揮することはできない…のであれば、"間接"的に効果を発揮することは可能なのではないかと思った。

 だから、刀に〔分解〕の権能を発動させた状態ならば、相手の理内率に関係なく触れた部分を〔分解〕することが可能となるのではないか、と考えたわけだ。

 とはいえ、権能効果を相手に直接発動させる以外の使い方を思いつかない。

 しかし試してみるほかに道はないと思い、いつも通りに、対象を定めた。


 「刀の刀身に〔分解〕の権能を纏え」


 と、敢えて口に出す。

 すると、青白い焔のようなものが、刀に薄く纏われる。


 「さて、試すか」


 壁に向かって一撃を放つ。

 すると、刀身の軌道を描いた部分が、ごっそりと消えてなくなった。

 どうやら成功したみたいだ。

 

 「さて、ヴェリアス。お前に【魔力操作】【魔力感知】【魔力放出】【魔力変換】【魔力変化】のスキルを〔模倣〕した。

 今の俺にレアンを理外権能に効果を及ぼすことはできない。

 事前に〔解析〕していた情報をもとに〔模倣〕しただけに過ぎないが、これでお前は俺より理内率が上回ったはずだ。

 それをこの、権能を纏った刀で切ることができれば、今後の戦闘に大きく生かせるようになる」


 俺は刀を構え、ヴェリアスの耳のみを斬り飛ばした。


 「い、いっでででで!なんなんだぁ!」


 容易く切り飛ばせたことから、間接的に権能の効果を発揮することは可能なようだ。

 そのことについてを〔記憶〕しつつ、次の実験を行うことにした。


 ……そういえば、これで何回目だろう。ヴェリアスの存在そのものを〔分解〕〔再構築(作り直)〕したのは。

 理外権能の実験に何度も何度も何度も、権能行使を繰り返した。

 別に悪いことをしたとは思っていない。

 こんな男、魂が壊れようとかまわない。


 それほどの所業を行ったのだから。

 

 

 


 

 

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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