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第36話 そして、放出される。

お待たせしました!

次話投稿は明日の午前中になります!



※冒頭から過激なシーンが始まりますので、苦手な方は目を瞑って3スクロールすれば見ずに済むと思います。

 夜半、とある民家の一室にて。


 「はぁッ。はぁっ………ジーク、ジークぅ……」

 「ナタリー……ナタリー……」


 見つめ合い、口づけを交わす。

 互いを感じ取るためだけに鋭敏化された感覚も次第に収まっていくが、もっと奥、心の奥でのつながりを感じている。

 何度も何度も互いの名前を呼び合い、愛する。

 体は尽き果てようとも、心から生じる気持ちに限りはない。


 一体化しているような感覚に安心感と満足感に覆われ、ひとつの不安もなく溶け合っていく。


 「っぷはぁ、はぁ、いき、もたないね」

 「そうか?俺なら何分でも……」

 「もう、ジークのペースに合わせてたら私、壊れちゃうわ、ふふ」

 

 幸せだ。ジークはそう思う。

 彼は生まれて今まで、愛されたことがなかった。

 父は生まれてくる前に魔物に殺され、母は自分を産んだときに傷で死んだ。

 誰かに愛されるということを経験していなかったために、ナタリアに愛され、愛することを知った。

 愛し方を知った。


 それからは、世界の色が変わった。

 ナタリアと見る世界はなんと色鮮やかな世界で、すべてが新鮮で。

 彼女が自分の色を教えてくれた。


 ジークにとって、ナタリアという女性は、何物にも代えがたいもので。

 手放すことなどできない、自分の一部のような存在だった。


 「愛しているよ、ナタリア」

 「私も、ジーク」


 再び深く口づけを交わし、互いの愛情を何度も確かめる。


 その行為も落ち着くと、二人は抱きしめ合って同じ褥を共にした。

 胸の中で小さくなっているナタリアに、こらえきれなくなった愛情をぶつけるように唇を当てる。


 「……ありがとう」

 

 胸に柔らかな感覚が返ってきた。


 「ねぇ、ジーク」

 「なんだい?」

 「レアンのことなんだけど……」

 「ああ、彼女がどうかしたか?」


 ナタリアの眉が少し曲がり、心配していることがジークには伝わった。


 「あの子、幸せになれるかしら……」

 「なれるさ。俺達みたいに」


 抱きしめる力をわずかに強くし、安心させようとする。

 ジークには分かっていた。ナタリアは、レアンのことをとても大切に思っている一方、それが裏目に出て、とても心配症になっていることにも。


 「あの子、同世代の子たちと比べて発育もいいし、何より明るい性格でだれでも受け入れちゃいそうだから……なんだか心配なの」

 「でも、レアンは芯の通った性格だ。簡単に受け入れたりはしないだろう」

 「だけど……」

 「それに、村長様がそれを許さない。あの方は忘れ形見の孫をそう簡単に手放さないさ」

 「うん、でもね、ヴェリアスの時みたいなこともあるかもしれないし、小さいころから見てきた私としては、やっぱり心配なのよ」

 

 ジークは思う。彼女の心配するところもよくわかる。と。

 レアンは、この村で一番と言ってい程人望があり、好かれている。そんな彼女を好きになる男も少なくはないだろう。けれど、レアンは賢い。

 一見場を盛り上げようとしているだけに見えるが、しっかりと全員に話を振って仲間外れにされないように全体を見る力もある。

 そんな彼女が間違いを犯すとは考えにくいのだ。それに……。


 「レアンの傍には、彼がいるだろう?」

 「アルナレイト君だよね。村長が助けたっていう」


 アルナレイト。彼とその妹、ヌルは、村の警備を行っていた村長が、倒れているところを発見したという。

 記憶喪失の彼は、拾ってもらった恩を返すために剣術を習い、村を守ろうということで村長に師事しているらしい。


 「彼は魔物すら倒せる実力を持つし、何より恩のある村長様の孫であるレアンにそのような行為を働くなんてしないだろう。

 それは、一度話してみて君もわかっただろう?」

 「……確かにそうだね。あの子、只者じゃない感じはするけど、不思議と信頼できる気がするもの。

 ヴェリアスからイリュエルを守ったっていうのもあるしね」


 アルナレイト。彼はレアンと同じように、いや、もしかするとそれ以上に村人から信頼されている。

 彼の村人たちに対する思いは、行動や言動を通して伝わってくる。

 きっと彼も、この村に住まう人々のことを思いやってくれているのだろう。


 「そういえば、私たち、彼に失礼なことしちゃったね」

 

 ふふっ、と笑いながら、身に覚えのないことを言うナタリアに、ジークは該当する記憶を探り、それを思い出した。


 「彼を女性と間違えてしまったことだな。あれは本当に失礼だった」

 「でも怒ってないみたいだったし、許してくれてるみたいだったね」


 彼は、その行動から特に目を引くようなことは感じさせないのだが、不思議と人を惹きつける求心力がある。

 一体、何者なのだろうか。


 「ねぇ、ついに明後日だね。結婚式」

 「ああ。ドキドキするよ。君に告白した時みたいに」


 そう、二人はついに明後日、結ばれる。


 二人は互いに両親を失い、姓名を失った身。そんな二人が明後日、村長から姓名を与えられ、家族となる。


 「どんな名前になるのかな」

 「さあね、でも、どんな名前でもいい。

 君と家族に慣れたことの証なら、なんだって」


 ジークにとって、それが幸せの印なのだ。


 「ふわぁ……」


 あくびをするナタリアの頭を撫でて、そろそろ寝ようか、と話しかけられたナタリアは、小さくうなずく。

 二人は数分もしないうちに、溜まった疲労を癒すために、微睡の奥へと落ちていった。


 ◆◆◆


 朝早くの道場。

 静寂が支配する時間帯で、俺は一人、刀を握っていた。

 その目的は基礎的な鍛錬のほかに、理外権能による未来の剣術の〔模倣〕に、体を慣れさせる目的がある。

 今の俺では遠い未来の剣術、つまり、さらに高度な剣術を〔模倣〕することはできない。

 いや、正確には、長時間に及ぶ〔模倣〕は肉体の損傷が大き過ぎるのだ。


 理外権能〔模倣〕による剣術の投影。それは、肉体に多大な負荷を与える。

 それは遠い未来に向かうほど、技量が向上するほどに大きくなっていく。

 魔物との戦闘で用いた程度の技量では、肉体を常に〔分解〕〔再構築〕にて再生させ続けるという荒業にてなんとか使用可能としたが、それも遠い未来の技量になればなるほど、発動させることすら難しくなってくる。

 きっと俺の"理外率"というものがまだ低いせいで、遠くにあるものを引っ張ってこれないのだろうが、単純に肉体の未熟さ、現在の技量の低さが関係しているというのもあるだろう。

 肉体、技術の練度において、今の俺と未来の俺であまりにも乖離が激しい場合。予想でしかないのではあるけれど、恐らく体がはじけ飛んでしまう。


 いつになれば、はるか先にある技術の到達点に至れるのか、見当をつけることすらできない。


 今の俺にできることがあるとするなら、こうして少しでも久遠の彼方にある領域にたどり着けるよう、少しずつでも毎日努力していくこと以外はないだろう。

 

 その積み重ねがきっと、俺が守りたいと思える人々を守るための力になるのだから。


 ………


 ……


 …


 ひと悶着あったものの、こうしてレギオ村は落ち着きを取り戻していった。

 ヴェリアスのことに怯える人々も、次第にその恐怖も鳴りを潜め、暖かな日常が戻ってきた。


 明日の昼に執り行われる、ジークとナタリアの結婚式。大変めでたいことだと思う。

 ヴェリアスという、村の癌を取り除けたことで、今後この村で厄介なことを引き起こすことをするような者は出てこないだろう。

 フェリフィスの態度は気になるけれど、アイツも結局のところ、ヴェリアスを裏切ってイリュエルの危機を俺に知らせに来た。

 気を許せないのは変わりない。しかし、警戒度を下げても問題はなさそうだ。


 彼ら二人の式は、これから大きく発展していくことになるレギオ村の良い一歩となるだろう。

 村の雰囲気が改善されていき、村人たちも領地の拡大に貢献してくれる間、俺とスキルを獲得したレアンと師匠の三人で魔物の対処に当たる。

 きっとヌルは、この状況を読んで俺に村人たちと友好になっておけと言っていたのだ。

 いくら機巧種(エクス・マキナ)の技術力に優れた街があったとしても、そこに住まう人々の関係性が見るに堪えないものであれば、今後の発展にも影響を及ぼす。


 「さすがにこの状況全てを読み切ることはできなかっただろうけど、ヌルの言っていた通りになったな」


 この世界に来て二週間と六日。

 ヌルは最初、半年の間にて国を興すと言った。しかもそれすら計画の第一段階にも過ぎないと。

 そのために、土台となるこのレギオ村を掌握するのに一、二か月の猶予だと言っていたが、一か月とかからないうちに完了しそうだ。

 無論、俺は彼女の目的に付き合うべくこの村に訪れたのだから、今日に至るまでを全力で過ごしてきた。ヌルの言葉に不思議な説得力があり、できると信じてきたのだが、まさか本当にできそうとは。

 心根では信じ切れていなかったのかもしれない。


 「しかし、あと一歩足りない感じはあるな」


 魔物を倒し、村の害悪となっていたヴェリアスを追放したのは良いが、それでは村の掌握に成功したとは言えない。

 師匠との密約のことにはヌルにも話してあるが、あれを交渉の手札として使うにはまだ効果が薄い。


 あともう一押し。

 何か起きればいいのだが……と、そこまで考えて、取り返しのつかないことでも起きたらどうするんだと我に返って反省した。

 あくまで何かが起きればいいな、というのは村の掌握について歩を進められるのであればいい。

 それでまた誰かが傷を負うようなことは、絶対に避けなければならない。


 「イリュエル………」


 無意識的に彼女の名前が零れ落ちた。

 ヴェリアスの凶行により、内臓が傷つきお腹を悪くしてしまったイリュエル。

 彼女のメンタルケアのために一晩付きっきりで治療に当たったのだが、結局患部が全快することは無かった。

 リデンスカの花の蜜を〔分解〕〔再構築〕して体内に塗布してみたものの、完全に破壊されてしまった繊細な器官の再生は不可能だった。


 ……俺のせいだ。

 俺がもっと早く違和感に気づいていれば、こんなことにはならなかったというのに。

 いつか必ず、彼女の未来を俺が取り戻させる。それまでは、絶対に生きていてもらわなくては。


 これまでで起きた事を振り返ってみたものの、やはり、俺がもう少し強ければ、もうすこしだけ機転の利く頭があれば、すべて回避できた結果だ。

 歯痒さと未熟さからくる憤りが頭まで突き抜ける。しかし、それらを糧にして自己を高めればいい。


 やはり結局のところ、毎日鍛錬を積み重ねるしかない。

 

 そう結論に至った俺は、頭を振って雑念を取り払い、ただ只管に鍛錬へ打ち込むことにしたのだった。


 ◆◆◆


 夜が明け朝を迎え、昼を過ぎて再び夜へと時間は流れる。

 十m先すら見渡せないほどの暗闇にあたりが覆われていく時間帯にて、その一団は行動を開始した。


 濃密な影の数は三十六。


 それぞれが内に秘めるのは、怒り、憎しみ、嫉妬。または、飢えに飢えて満たせぬ醜き欲。

 それらが猛る憎悪の焔となりて、宿す影の原動力となる。


 影の一団は、宵闇に紛れて忍び寄る。

 秘めたる呪いを、吐き出さんために。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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