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第33話 迫る危機

次話投稿は明日になります。

 時間を遡ること四時間前………。


 日もすっかり落ちてあたりも暗くなった頃。

 レギオ村の中心にある広場では、村人たちが集まって大きな宴が始まっていた。

 村のみんなは長年脅かされていた魔物の恐怖から解き放たれて、安堵し喜んでいる。

 

 そんな功績を打ち立てた私とアルナレイトは、この宴の主役として呼ばれていた。

 みんなの注目が集まる壇上の上で、私とアルナレイトはそれぞれ思い思いの言葉を口にした。

 私は事前にそんなこと知らされていなかったため、しどろもどろになりながらも、魔物に恐怖する必要はないと村のみんなに自信をもって伝えた。

 私の番が終わると、アルナレイトは自己紹介をはじめた。

 村のみんなは聞きなれない名前に動揺していたようだけれど、村に来た経緯を話すと納得したのか騒ぎは静まった。

 その後、彼はわたしとおじいちゃんへ感謝の言葉を述べた。

 正直名指しで感謝されるとは思っていなかったので、少し恥ずかしい思いもしたけれど、彼の言葉は自然と心のうちに入り込んできて、暖かな気持をくれるものだった。

 彼が感謝の言葉を伝え終わると、次にこれからの村のことについてのことを口にした。

 今後は、農地の拡大と居住可能な土地の拡張、それから、脅威に対する自警団を設立するという話あをしていた。

 これはきっと、ヌルさんやアルナレイトがいう、この村を利用するというものなのだろう。

 正直、前は彼らの発現に動揺していたし、何より生まれ育った村を利用するなどと言われたときには、憤りを感じたし身勝手だとも思った。

 けれど、二人が村人たちに対する態度は暖かな物を感じたし、何より彼ら二人の行動からは悪意などこれっぽっちも感じなかったのだ。

 直感でしかないけれど、あの二人はきっとこの村をもっと良いものにしてくれる。そんな気がする。


 「……緊張したね、アルナレイト」

 

 私は隣に座るアルナレイトの気疲れしたような顔を眺めながら、やはり可愛い顔をしているなと思いながら言った。


 「うん。まさかいきなりあんなことを振られるなんてな……。

 まさかクラス替えの時に起こる自己紹介を、異世界になってもすることになるなんて」

 

 彼は時々難しい言葉を使う。

 けれどそういう時はたいてい独り言のような声量なので、あまり触れないようにしている。


 気になるし聞いてみたい。けれど、本当のことを話してくれるほど信頼関係を構築できているわけではないし、何より、深くは踏み込んでいけない。そんな気配がする。


 私は言葉に詰まってしまってどうしたものかとあれこれ考えて、しかし何も言葉が出で来ずに、無言の時間が流れる。

 村の広場には、私よりも歳が十も下の男の子たち女の子たちが走り回っている姿。

 その光景を見て、珍しいもののように思う。

 

 「……何年ぶりだろ、こんなこと」

 

 思わず口にしたその言葉。

 理由は分かっている。だって、あんなことが起きたのだから、誰も外では遊べない。


 それは、私、レアン・ルーファスが物心ついたばかりのこと––––––––––––––––––。



 ◆◆◆


 私、レアンは今年で十五歳になる。

 肉体的にも成長し、そろそろ成人の儀を受ける頃合いだ。

 今はもう亡くなってしまったが、腹違いの兄、レーウェンの身長などとっくに追い抜かしてしまった。

 きっと兄さんが生きていたら、私よりも、祖父よりも父よりも背丈は高かっただろう。

 

 私は、このレギオ村で生まれ、代々村を守ってきた家系の長女として生を受けた。

 私が兄と年齢が離れていないのは、只人にとってこの世界全てが天敵であることに起因している。

 

 どれだけ肉体を鍛え上げようとも、自然や魔物の気まぐれによって、私たちはその命をたやすく失う。まるで雨曝しの使い古された蠟燭に灯された火のように。


 私たちは、皆協力し合ってこの村を絶やすことなく生きてきた。

 いくら魔物に殺されようとも、飢餓で満足に食べられず、幼い命が失われようとも……。

 数を増やし、生き残るための戦略を取ってきた。


 ちょうど去年の私も、その戦略に貢献するために、ヴェリアスとの子どもを産む予定だった。

 魔力回廊の暴走が発症してから、彼は一度決まった結婚を破棄されると名誉にかかわると、一方的に破棄してきたので、彼と交わったことは無かった。

 ヴェリアス。彼はこの村の前村長、その息子である。

 村の人からの評価はよくないけれど、きっとそれにも何かの理由はあるはずだと思っていた。


 私には血の繋がらない母がいる。レーウェンはその息子。

 しかしレーウェンや、その母レナリアも、血の隔たりなどないように接してくれた。愛してくれた。

 

 私は、村のためになるのなら、ヴェリアスとの子をお腹に宿しても構わなかったし、何より母のように子を愛して上げれるのかという不安を拭い去るために、絶対に母のように立派な人になると意気込んでいた。

 それに、私にとって、家族というのは何にも代えがたい、大切な存在だという認識がある。


 私が何故そんな風に考えるようになったのかと言えば、それは、幼いころに起きたあの出来事が関係している。

 

 夜半。草木も眠る深夜。

 当時の子をは詳しく聞かされていないが、当時見回りを任されていた腹違いの兄、レーディスが、何の間違いか、魔物の侵入を許してしまった。

 あとになって聞いたことだが、背中に大きな切り傷があったらしい。きっと背後から一撃で殺されてしまったのだろう。


 魔物は、自らの肉体の糧となる魔力の反応を嗅ぎつけて、魔力量の多い方角に位置している家を襲った。

 それが、村の入り口から最も近いこのルーファス家だった。


 私の家族は皆、終わりを意識することなくその命を失い、家の崩壊音と同時に目を覚ました祖父と私だけが、命からがら逃げおおせた。


 魔物の凶行により、ルーファス家は私と祖父を除き皆死んだ。

 父も、母も、血の繋がらない母も、長男のレーディスも、次男のレッシュ、三男のレインズ、四男のレーウェンも、血の繋がった妹、レナルアも……みんな、みんな、魔物の手によって、その命を儚く散らした。

 

 祖父が事後処理で忙殺され、死者の埋葬など二の次。

 村の広場で乱雑に並べられた死体は焼かれ、だんだんと見分けのつかなくなっていく家族の肉体。

 私はそれを、ずうぅっと、ただただ眺めていた。


 何も感じず、何も思わず、何かが起きる気配もなく、ただただ焼けていく人の死骸を眺めていた。

 背を大きくして燃える火を眺めていた私を、ちょんちょんと指先で突く誰か。

 

 振り返るとそこにいたのは。泣き腫らした顔の女の子。


 彼女は私に言った。


 「わかるよ。見送ってあげたいもんね。たとえ……どんな形であっても」


 その言葉に、私は気づいた。

 そうだ。何も感じなかったわけがなかった。ただ、内側から溢れる感情を堰き止めて、せめて死にゆく家族に自分の強さを見せたかったのだと、心配せずに、安らかに眠ってほしいと。

 そして……またいつか、どこかで再び出逢いたいと。そう、伝えようと。


 自分ですら理解できなかったことを理解され、それを堰き止めていた何かが決壊した。

 若しくは、理解を拒んでいた情報が流れてきて、それが自分の身体を満たした。そして、それが一条の道となって零れた。


 一筋の跡を残して漏れ出たのは、悲しみと後悔、無力さに打ち震える怒りだった。


 「うん。つらかったね。だからこそ、一時の間離れていくみんなを、行って、帰ってきてって送り出すんだ」


 その、ナタリアさんの言葉が、凍り付いた私の魂を溶かしたのだ。


 ––––––––––––––––––それから、私は剣術を習おうと決心した。

 いつまでも下を向かずに、上を向いて前に進もうと決めた。

 

 私が立ち上がるための力をくれたナタリアさんのためにも。 

 そして、帰ってきたみんなを笑顔で迎えられるように。


 ◆◆◆


 「レアン?!どうしたんだ!?」


 私の肩を揺さぶるアルナレイトの声が聞こえてきて、私ははっと我に返った。


 「ご、ごめんね。昔のことを思い出してた……あれ?」


 頬にぬくもり。

 気づくと私は、あの時みたいに涙を流していた。


 「……何かあったのか?」


 私の肩を引き寄せて涙をぬぐうアルナレイト。

 その優しい仕草と表情に、すべてを話したくなってしまう。

 けれど、それはしない。

 そんなことをしても、彼の迷惑になるだけだからだ。


 「何かあったら言ってくれ。というか、あんまり心配させ続けると、一日中質問攻めしなくちゃならなくなる。本当のことを話すまでだけど」


 あまりの過保護っぷりに私は思わず吹き出してしまう。

 なぜ彼はこんなにも優しいのだろう。私とそれほど親しい関係でもないというのに。


 「ねぇ、アルナレイト」


 私は思い切って、彼にある提案をしようとしたその時。

 

 「あれれー?レアンちゃん。随分アルナレイトクンとなかよさそーだけど、いいの?

 ヴェリアスクン、拗ねちゃうよ?」


 と、私に嫌がらせばかりしてくる、苦手な人の声が耳に届いた。


 ◆◆◆


 俺は宴が始まってから、どうしてもぬぐえない違和感が胸中に張り付いていた。

 壇上で話を終えた俺は、アンバーから「村の若者同士仲良くしようぜ!」とのことで、年の近い者達を紹介てもらっていた。

 あまり関わることのなかった人物との交流であったため、全員の容姿と名前、思ったことなどを紐づけて〔記憶〕し、そこである違和感に気づいた。


 ヴェリアスと、イリュエルがその場にいなかったのだ。

 

 とはいえマグナスは出席しているし、娘一人に鍛冶場を任せるなど、あの人柄のマグナスからは想像できなかった。


 ヴェリアスは、俺が殴り飛ばしたことを根に持っており、そんな俺と元婚約者のレアンが主役の宴になど顔を出さないだろう。

 けれど、二人がこうしていないこと。そのことに違和感をぬぐえなかった。


 俺はイリュエルの行方を知るために、親友同士の中であるというレアンに聞いてみようと思ったのだが、彼女は何かを思い出していたためその話をすることは俺の中で憚られた。

 さらには涙まで流すので、どうしたものかと思っていた矢先。俺の知らない人物が俺とレアンに話しかけてきた。


 俺の知らない人物ということは、先ほどの広場にまではいなかった(理外権能で〔解析〕した顔と名前が合致しないため)人物。決めつけるのはよくないが、もしかするとヴェリアス側の人物という線が濃厚になるということだ。

 俺はそれを意識しながら、話しかけてきた人物に返答することにした。


 「レアンとヴェリアスの話はもう終わったんじゃないのかよ」

 「さぁね。というか、部外者のアルナレイトクンが話に入ってこないでくれるかな?」


 麦色の髪色にくりっとした黒い瞳の、いかにも人懐っこそうな少女が、ほぼほぼ初対面の俺に対してそんなきつい言葉遣いをしたことに疑いを掛けつつ、反撃に転じる。


 「部外者ってことは無いだろ。大体、今回の宴は俺とレアンの称賛が目的のはずだ。

 村の人たちに祝われたのに、部外者と言い切るなんて少し冷たくないか?」

 「うるさいなぁ、これは外から来た人間が簡単に関わっていい話じゃないって言ってるんだけど、わっかんないかなぁ?」

 

 口調や言葉遣いに散見される挑発の意思に浅はかさを感じながらも、俺は反撃を繰り返す。


 「わからないな。君の道理は理解できるが許容はしない」

 「君がするかしないかの話じゃないんだけど……はぇぇ、めんどい男。モテないよ?」


 くだらない口上を述べる女に思わず軽蔑してしまいそうになるが、蔑むような行為をするのは違う。


 などと考えている俺に近づいてくるその女は、俺の首筋に口を近づけて、言った。


 「フェリフィスちゃん……?何してるの?」

 

 フェリフィスと呼ばれた女が、触れるか触れないかの距離で、囁いた。


 「あんな男に使われるなんて癪だから教えてあげる。

 私は今から、あんたの身体に噛み跡をつけて、襲われそうになって反抗したって、レアンもそれを見逃すか、協力的だったって言って二人の村での地位を失墜させろって言われてたの」

 「何……?」


 なぜこの女がそんなこと話したのか。これが嘘である可能性は否定できないが、この女に狙いがあることは確かだった。


 「そんなこと、誰が命令した?」

 「今から教えてあげる場所に行けばすぐにわかるわよ。それと、早くいかないと手遅れになるかもね」


 その場所を耳打ちされた瞬間、違和感が消し飛び疑いは間違いの無いものへと変わった。


 なんとなくだが、レアンを一人にするのはよくないような気がする。

 それも、今のレアンをだ。

 しかしイリュエルに取り返しのつかないことが起きるのなら、それは避けねばならない。


 「レアン。俺は今からイリュエルの元に向かってくる。30分経って戻らなかったら、師匠とマグナスと一緒に鍛冶屋に来てくれ」

 「あ、ちょっと!」


 俺はそう彼女に告げると、イリュエルの元に急ぐべく駆けだした。

お読み頂きありがとうございます!


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