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第29話 守るべきもの

次話投稿は明日を予定しています

 剣術の稽古が終わると、俺はレアンと約束していたスキルの練習に付き合っていた。

 練習場所は道場とは違い、ルーファス家の近くにある小さな雑木林の中。

 ルーファス家の裏手から、獣道のような細々とした未舗装の道を歩くこと十分。

 林の中に、木が除かれた空間があり、そこには木でできた打ち込み台が数本立っていた。また、縄文杉並みの大きな巨木が一本そびえたっている。

 俺は初めて見る場所に周囲を見渡しながら、ここなら最適な練習場だと判断した。


 「よし、レアン。まずは自分の獲得したスキルの名前を思い出せるか?」

 「うん。たしか【魔力放出】【魔力変換】【魔力放出】【魔力変化】でしょ?」

 「正解だ」


 俺が彼女にスキルを覚えておくように言ったのは、二つの理由がある。


 一つ目の理由だが、それはスキルそのものの在り方を考慮したからだ。

 スキルとは、感情に大きく左右される力らしい。

 もし、スキルを軽視して、獲得したスキルを忘れてしまったのなら、きっとまた、あの手順を踏まなくてはならない。

 また、あまりの情報量の多さのためにすべて理解できているわけではないが、スキルを失ってしまった際、どれだけ悪影響を及ぼすのかが分かっていないためだった。


 二つ目の理由には昨日の出来事が関わっている。

 それは、スキル所有者は自分の持つスキルをを確認する方法がまだ判明していないからだ。

 昨日、レアンでいろんなことを試した。そのうちの一つが、スキルの確認方法だった。

 「ステータス・オープン」と唱えさせてみたりもしたのだが、何かが起こる気配はなかった。


 そこで俺は、理外権能で所有スキルの確認方法を〔解析〕した。

 なんと、この世界で自分のスキルを確認する方法はいわゆる【鑑定系】のスキルを用いるか、魔術や魔法、占いなど様々な方法で確認するのだという。

 俺はそのことをレアンに話すと、この村には魔術なんてもの存在しない。と、レアンは言った。

 だが、理外の力を持つ俺は魔術に対して耐性があると言っていたヌルのことを思い出して、どういうことなのか考えた。

 俺が四苦八苦しているときに、レヴィエルの助言が降ってきた。


 「魔術とは、いわば高度な学術なのです。

 大国には魔術を学ぶ教育機関などが存在していますので、恐らく魔術のような文明は、この村に伝わらなかったのでしょう」


 その言葉を聞いて憑き物がすとんと落ちて、楽になった。

 この村には高度な学術である魔術は伝わらず、ゆえに魔纏戦技(エンチャント・アーツ)のような、魔物が用いる能力に近しい物を模倣、発展するに至ったのだろう。

 ちなみに、魔物が行う、肉体の強化方法を魔能増幅(マナ・ブースト)というらしい。

 肉体を構築する魔力量を増加させ、身体能力を何倍にも向上させるという能力で、俺はこれを参考にして魔纏闘法(エンチャントアシスト)を考案した。


 この魔纏闘法(エンチャントアシスト)魔纏戦技(エンチャント・アーツ)

 レアンの獲得した四つのスキルと相性がいい。あくまで俺の予想に過ぎないが。


 「それじゃあ、いつも通り稽古する時みたいに、魔纏闘法(エンチャントアシスト)魔纏戦技(エンチャント・アーツ)の同時使用してくれ」


 俺がそういうと、レアンは数秒の内に発動させた。

 どちらも使えない俺が言うのもなんだが、初めて会ったときよりも目に見えて発動までの時間が短縮されているし、魔纏闘法(エンチャントアシスト)に至っては、偏り無く全身に魔力を纏えている。


 「できたよ!」

 「そんな早く纏えるなんてすごいな。

 じゃあレアン、その状態を維持したまま、今からする説明を聞いてくれ」


 俺はその状態を持続させるように言った。

 この目的は、レアンの魔力操作の練度を上げるためだ。

 いつかのレアンが言っていたのだが、魔力を纏う行為には集中力を消費するらしい。

 繊細な流れを分散しないように纏い続けるというのは確かに難しそうだが、実際使えない俺には感想を述べることしかできない。

 これは集中力の底上げも兼ねているのだ。


 「今日は、手に入れたスキルを一通り試してみようと思うんだ。

 そこの打ち込み台を使って、いろいろ試す。

 そこでレアン。今の自分に足りないものは何だと思う?」

 「……強さ」

 「じゃあ、なにを補えばレアンの強さは上昇すると思う?」

 「……」


 レアンは数秒考えこむと、魔力操作の精度を保ったまま答えた。


 「一撃の威力と、速度。それから、間合いの短さ……かな」

 

 歯痒そうな思いが伝わる表情で、レアンは言った。

 おそらく彼女は今、魔物討伐で自分に足りなかったものを思い出していたのだろう


 「ちゃんと次の目標が見えているんだな。偉いな。

 よし、それじゃあ、その課題の解決を最優先に、いろいろ試してみようか」


 俺は、ひとまず好きにやらせてみようと思い、レアンから一番遠い位置の打ち込み台にを指さした。


 「レアン。この位置から一歩も動かず、なおかつ一秒以内であの打ち込み棒に一撃加えてくれ」

 「そ、そんなのむ……いや、でも」


 毎日稽古を共にして、俺は彼女のことを高く評価している。

 レアンは、直感がとても優れている。そして、思い付きを実行すべく思考を組み立て試行することも、そして、失敗を恐れないことも知っている。


 独り言を呟きだしたレアンというのは、とても頭の回転が速くなっている状態なのだ。

 きっと脳内に入りきらなくなった言葉を口で繰り返して、なんとか忘れまいとしている表れなのだろう。


 「試してみる。下がってて」

 「試した後、どのスキルをどんな風に使ったのかだけ教えてくれ」


 レアンがそういうので、俺は三歩引いたところからレアンを見守った。


 「すぅ……」


 レアンが刀に纏う魔力の光。その光量が増した。

 その瞬間、レアンは刀を担ぎ、斬撃を放つ。

 打ち込み台との距離は七mもある、に対して刀は二尺、六十cm程度なので普通に振っても当たらない。とはいえ刀を投げるわけにはいかない。

 魔力の流れを〔解析〕しながら、彼女の行動を見守った。


 「……せああぁぁっ!」


 彼女の放った斬撃は、魔力の光を纏い打ち出された。

 そう、打ち出されたのだ。いや、()()()と言った方が正しいか。

 本来の長さ以上の光を纏って、刀状の光が六mもの間合いを突き抜けた。

 さながら光の鞭のような斬撃は、打ち込み棒の表面を抉った。


 きっと、無意識のうちにスキルを使ったのだろう。


 「やった!やった!ねぇ!見てた!!??」

 「もちろん」


 平静を装いつつも、俺は内心ですごく吃驚した。

 まさか最初から最適解にたどり着くなんて、考えもしていなかった。レアンの才能を甘く見ていたかもしれない。


 「えっとね、普段魔纏戦技(エンチャント・アーツ)で使ってる、斬撃に要素を付加するのに【魔力強化】のスキルで普段はできない"射程の拡張"を思い浮かべて加えてみたの」


 喜んでいるレアンは打ち込み棒を見ると、その様子と面持ちを変えた。


 「でも、新しい課題ができちゃった。

 普段の一撃なら、あの木が真っ二つになってもおかしくないのに。

 威力が足りないみたい」

 「え、ああ、うん、そうだな」

 

 俺が指摘しようとしていた問題をすぐさま気づいたレアンは、刀を構え、もう一撃打った。

 しかし今度も表面を深く抉るのみで、両断はできない。


 「うーん。そもそもこのやり方じゃ無理なのかも。

 このやり方は、もっと近い相手に使うもののような気がする。

 アルナレイト。もうちょっと時間頂戴」

 「うん、もちろん。俺にできることがあれば言ってくれ」

  

 次にレアンは、刀を構え、しかしその纏い方を変えた。

 刀身に纏う魔力を、鍔の所で薄くした。

 

 「よし、今度は……せあっ!」


 次にレアンが放ったのは、先ほどと変わらない動作の斬撃。

 しかし、明確に違ったのは、伸びた魔力の刀身を、切り離したのだ。

 

 解き放った刀身は、まるで飛翔する斬撃のよう。

 そのまま棒に直撃すると、今度は命中した線のままに棒の上部が吹っ飛んでいった。


 「よし!これなら切れるね!

 【魔力放出】で魔纏戦技(エンチャント・アーツ)で使う魔力を打ち出してみた!」

 「……お、おお」


 俺が何もせずとも答えを見つけるレアンの才覚には、驚愕せざるを得ない。


 「もしかして、このやり方とさっきのやり方、組み合わせたら……」


 俺は打ち込み棒を〔分解〕〔再構築〕して新しく作り直すと、レアンに合図を送った。


 「せいやあぁ!」


 六m近く伸びた刀身を切り離したレアンは、飛翔する斬撃を隣に並ぶ四本の打ち込み棒にも命中させ、上部を切り飛ばす。


 「魔纏戦技エンチャント・アーツを【魔力強化】で"射程を拡張"して、それを【魔力放出】で打ち出したの。広い範囲にも当てられるようになったよ!」

 「す、すごいな……」

 「ねぇ、アルナレイト。

 さっきの剣を伸ばすやり方、どうすれば使い勝手がよくなると思う?」

 

 レアンに聞かれたことで、一応考えていたことを伝える。


 「もし仮にだけど、魔力で伸ばした刀身の切先に、魔力量を増加させて威力を上げるって思考を乗せてみるのはどうだ?」

 「わかった!やってみる!」


 即座に実践したレアンは、今度は軽々と棒をなぎ倒し両断した。


 「は、はは……俺必要か?これ」


 レアン。彼女に秘められた才覚は明らかに天賦の才だ。

 俺なんかいなくても、一人で強くなれそうだ。


 「そんなことないよ、確かにこんなうまくいくとは思ってなかったけどさ。

 私、何から手を突ければいいのか迷っちゃうタイプなんだ。だから、方向を示してくれるアルナレイトがすっごくありがたいの!」


 満面の笑みを浮かべるレアンの表情と、彼女の言葉に若干耳が熱くなる。


 「ならいいんだけどさ」

 「うんうん。この技を使えば、アルナレイトにも勝ち越せるかもしれないしね!」

 「……威力は抑えてくれよ?」

 「もちろん!」


 にしてもレアン、本当にすごい才能を持っている。

 きっと、目的に対してどのスキルを併用すればいいのか、瞬時に判断して組み合わせているようだ。

 

 「今までは斬る技だったけど、突きの技ならどうなるんだろ……試してみよっ!」

 

 弓を引くような動作をとともに刀を構え、そこにスキルで魔力に新たな活用法を見つけ出すレアン。

 一気に突き出す刀は、その刀身がまるでレーザーのように拡張され、打ち込み棒を貫いた。


 「できましたであります!」

 「使われたらただじゃすまないな……」


 俺も義手の力で貫くことくらいはできるだろうけど、レアンに比べれば射程が違う。

 相手と間合いを保ったまま戦うこともできそうだな。

 もしくは、使い方次第で遠距離攻撃もできそうだ。

 俺は思い付きをレアンに話すことにした。


 「レアン。刀を通して【魔力放出】で攻撃を飛ばせるなら、魔力そのものを刀を使わずに放出して、遠くにぶつけることはできるか?」

 「うん、やってみるね」


 レアンは納刀すると、右腕に魔力を集中させて、それを打ち出した。

 きっとぶつけることだけを考えていたからか、そこまで威力があるわけではなかった。


 「それを、もっと威力を上げて打つことはできるか?」

 「できると思う」

 

 レアンはふぅっと息を吐き集中してから、より多くの魔力を集めて打ち出す。

 成人男性が壁を殴ったような音とともに着弾した打ち込み棒は、二mほど吹き飛んだ。

 

 「刀を抜けない状況でも使えそうだな。それは」

 「だね。アルナレイトこそよく思いつくね。

 私に足りないのは発想力かもしれない」

 「そんなことは無い。スキルをうまく使いこなせているのは紛れもないレアンで、それを可能にしているのは富んだ発想力に他ならない」


 そんなに褒めても何も出ないよ?といい頭を掻きながら照れ隠しするレアン。

 

 いったい、身内の誰に似たんだろうか。

 師匠は厳しいお方だが、少しおちゃめなところがあるのは分かっている。けれどレアンは師匠程厳しいわけでも無いし、となったら母親だろうか。

 レアンの母は……と、そこまで考えて初めて気づいた。

 あの家、ルーファス家には、なぜレアンと師匠しかいないんだろう、と。


 俺とヌルが居候させてもらっているあの家は、二人で暮らすには明らかに大きすぎる。

 師匠とレアンを合わせても四人。その人数でもスペースを持て余すほどの大きさ。初めてあの家に訪れたときに感じた違和感の正体は、これだったのか。


 「なぁ、レアン」

 「んー?どうしたの」

 「なんであの家は––––––––––––––––––」


 俺が質問を投げかけたとき、背後、つまり来た道から足音がした。

 おそらく師匠だろう。俺は振り返って挨拶しようとしたのだが、それよりも早くレアンが風のごとく駆け抜けていった。


 「ナタリアさ――ん!」

 「ふふ、相変わらず元気ね。レアン」

 

 ヌルやレヴィエルの物でもない声でそう応じる、ナタリアという人物。確かここはルーファス家の敷地内のはず。

 ルーファス家とどんな関係なのだろうか。

 ひとまずあいさつしないのは無礼だろうと思い、振り返って姿を確認した。


 そこにいたのは、レアンと同じ大きなポニーテールを器用に結わえた、お淑やかな雰囲気を纏う女性だった。

 この村の人間は、基本的に茶髪か濃い茶髪が多い。カリファと名乗った女性ももれなくそうだった。

 

 「体調が良くなったって聞いて、様子を見に来たの。

 病気がうつったら大変だからってお見舞いできなくて本当ごめんね」

 「ううん!またこうして会えただけですっごくうれしいよ!」


 ナタリアはレアンと会話を終え俺の存在に気づくと、ニコリと笑みを浮かべる。

 

 「あなたは……ごめんなさい。名前が分からないわ。

 でも、とっても可愛いお顔をしているのね、ふふ」

 「だよねー。うんうん。かわいいってさ!アルナレイト!」

 「え、アルナレイト?」


 俺の名前を聞き、怪訝そうな表情を浮かべるナタリア。

 まさか彼女は、俺の名前の由来を知っているのだろうか。

 「軈ては全てを無に帰す者」という、俺の名前の由来を。


 「えっと……ごめんなさいね。あんまりにも女の子みたいな顔つきだったから……」

 「いえ、構いませんよ」


 どうやら怪訝そうに見えたのは申し訳なさが表情に現れていたからの様だった。


 初対面の方にもこんな間違われるってことは、自分では思わないだけでそんなに中性的な顔立ちなのか。

 これでも体は鍛えているつもりだし、体つきから判断してほしいと思うけれど、判断されない以上まだまだ追い込みが足りないことを痛感した。


 「どうしたんだ?」


 あとから続く低い声の男性。

 三人の傍まで向かうと、男性の姿が見えてきた。


 レアンやナタリアとは違い、灰の髪色をした男性。

 堀の深い、男らしい顔つきをしている。

 鋭い眼光は俺を捉えると、すぐに視線をずらす。


 「すまん。この顔つきは生まれ持っての物なんだ。別に初対面の女の子を睨みつけたわけではない。怖がらないでくれ」

 「ふふ、ジーク。彼はアルナレイトっていうのよ」

 「……?」


 ジークと呼ばれた男性は俺のことを凝視すると、肩幅や身長で気づいたのだろう。

 眼を見開き、口を少し開けて驚いていた。


 「んふふー」

 

 口を押えて揶揄うように笑うレアン。


 「なんだよ」

 「いや、アルナレイトってやっぱり、可愛い女の子って言われても違和感ないよねーって思っただけー」

 「これでも気にしてるんだけどな」


 声と体つきからは想像もできないほどおろおろ狼狽えるジークは、俺に頭を下げて言う。


 「すまない。まさか同性だったとは。

 にしても、ここいらでは見ない髪色と目色をしているな」

 「ええ。目立ちますよ」


 俺は手を差し出して先ほどのことは水に流すと、その手を握ったジークは申し訳なさそうにしていた。その様子がなんだかおかしくて、俺は少し笑ってしまう。


 「それでー、ふたりなんでこんなとこに?」


 レアンの質問はもっともだ。

 彼女の知り合いなのだろうがその関係性を俺は知らない。


 「そうそう、レアンには伝えておこうと思ってね。

 私とジーク、結婚するの」


 なんと、まさか婚姻の報告だったのか。

 どう反応すれば良いのか分からず、俺はレアンがどんな反応をするのかと待つと、レアンは満面の笑みを浮かべた。


 「おめでとう二人とも!やっぱりお似合いだもんねー!」

 「そういってもらえると嬉しいよ。レアン」

 

 さて、こういう時俺は、どんな顔でどんなことを言えばいいのだろう。

 そんな人生経験積んだことがないため、アドリブで乗り切るしかない。


 俺は二人に向けて、お祝いの言葉を伝えることにした。


 「俺はお二人のことよくわかりませんが、レアンがそういうってことは本当に喜ばしいことなんだと思います。

 おめでとうございます。ジークさん、ナタリアさん」

 「ああ。ありがとうな。アルナレイト君」

 「ええ。今の言葉で、なんとなくあなたのひととなりが分かった気がするわ」


 それからというもの、スキルの鍛錬から話は大きく変わり、ナタリアとジークの婚姻の話へと変わっていった。

 俺はその会話をかいつまんで整理して、三人の関係性を理解した。

 

 まず、初めて会ったナタリアさん。

 彼女はどうやら、レアンの姉的な存在であるらしい。

 とはいえ血がつながったわけではなく、近所の年上の幼馴染、といった関係に近いようだ。


 そして、ジークというこわもての青年。

 彼はもともと村で農作業に従事していたそうだが、魔物の侵入を許してしまった際、ナタリアのことを身を張って守ったらしい。

 それに加え、農具で魔物を追い払ったというのだから、その屈強な体つきは伊達ではないのだろう。


 話の内容は二人が結婚するというので、その挙式の話へと移っていった。

 

 「一週間後、挙式を広場で上げる予定なの。

 二人も来てほしいのだけれど、どうかしら?」

 「もちろん行くよ!ね!アルナレイト!」

 

 レアンの圧に気圧され頷いてしまう。

 参ったな。その日の分の鍛錬をどこかで埋めないと。


 「それともう一つ、二人に伝えてほしいと頼まれていることがあったの」

 「なになに?」

 「明日、二人が魔物を討伐したってことで、宴が開かれるらしいの」

 

 あまりにいきなりの出来事で思考が一瞬停止した。

 俺よりも早く正気に戻ったレアンは眼を大きく見開いた。


 「あ、明日ぁ!?いきなりすぎるよそんなこと!」

 「あ、ああ。それできっと、俺とレアンは主賓扱いになるだろうから………」


 レアンはどうかわからないけど、俺はあんまり人の前に立って行動するのが得意じゃない。

 レアンにすべて任せれば……とも思ったが、スキルの練習を頑張るレアンにそんなことできるわけがない。


 「にしても、本当すごいわよねぇ。

 あんなに大きくて怖い魔物を、年下の二人が討伐しちゃうなんて」

 「ああ。俺では退けることしか敵わんかった相手だ。

 賞賛に値する」

 「えへへ……」


 レアンは嬉しそうにしている。

 それもそうだろう。レアンにとって二人はとても大切な存在に見える。

 まるで失った家族の代わりのようにも見えるそれは、きっと固い絆で結ばれているのだろう。


 「ねーねー。それで、婚姻を持ちかけたのはどっちからなの?」

 「どっちだと思う?」

 「ジーク君は鈍いからねぇ。おねぇちゃ……ナタリアさんじゃない?」

 「ふふ、正解。ジークったら、顔真っ赤にして何も話せなかったのよ?」

 「ジーク君、おっかない顔してとっても初心だもんねー」

 「ナタリー。レアンの前でその話はしないでくれって言ったろう……?」 


 三人が楽しそうに話す中、俺は後ろからその光景を眺めていた。

 

 ……俺は、契約のためにこの村を利用している。

 けれど、この村で生きる人々はそれぞれの人生があり、それを今も歩んでいる。

 彼らと接していて、それが身に染みてわかった。


 俺にとって、一番大切なのは世界の均衡を保つこと。

 それがどんなものなのかいまだによくわかっていないが、彼らをその目的に巻き込みたくないと今更思ってしまった。

 巻き込んでしまったのなら、その責任を取らなければ。


 彼らを、俺が守らなければ。


 俺はそう、静かに志した。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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