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第28話 異能の目覚め

次話投稿は今日の8時半以降になります

 レアンの話を聞くまでこの世界に『スキル』という概念が存在するなど、想像もしていなかった。

 そもそも、この世界にはそういった概念は存在しない、鍛えられた肉体と、生まれ持った魔力の量、或いは操作技術。それらのみで世界の序列が決まる。そう思っていた。

 それは変わることは無いだろう。しかし、レアンが獲得したという『スキル』は、いったいどれほどの種類、効果、または能力を内包しているのか。

 その方向性次第では、この世界は身体能力や魔力量程度で測れるほど、簡単な世界ではないのかもしれない。


 レアンからスキルの説明を受けている間。

 俺は、この世界に存在するスキルというものが、どういった概念(モノ)なのか〔解析〕する。


 〔解析:スキルついて。

 スキル。それは意志の力に発生する異能である……〕


 大量に開示されるスキルに関する情報を〔記憶〕し、その一つ一つを時間をかけて理解していく。


 ………


 ……


 …


 なんとか情報を纏め直せた俺は、その情報について振り返ることにした。


 この世界に存在する異能、スキルというのは、どうやら意志の強さに影響を受けるようだ。

 獲得条件が存在するスキルも、条件を満たしていたとしても、そのスキルを獲得するに値する意志の強さ、願いの強さがなければ得られない。

 また、スキルを使用する際、その効果の強弱はスキルそのものの威力に依存する。しかし、それには例外が存在する。

 それは、スキルを使用する際に込める意志の強さが、本来想定されたスキルの威力を何倍にも跳ね上げるのだという。

 そしてそのスキル、どうやら進化先や分岐先があるらしい。

 スキル獲得の条件と同じく、その条件を満たすことでスキルが変化するという。


 脳内に浮かび上がった情報を見る限り、ゲームなどではあまり類を見ないカテゴリーに属する、漫画やアニメに近しい側面を持っているようだと理解できた。

 この世界は、いわゆるゲーム的な側面をかけらも感じさせない世界である、だからこそ『1000回以上剣を振ればスキルを獲得できる』といったような獲得条件が存在しているわけではないのだろう。

 そうだったら、この村に住む人たちのいずれかが、スキルを保有していてもおかしくはない。

 俺は、この村の人たち全員の理内率を〔解析〕したが、皆二%未満だった。

 きっとレアンがスキルを獲得したのは、特殊な行動をとったからに違いない。


 と、俺はそう思考しつつ、レアンが獲得したというスキル【魔力感知】の効果と、その獲得条件、進化先について、調べてみることにした。

 

 〔解析:スキル|【魔力感知】

 効果|空間に存在する魔力の存在、その流れなどを明瞭に感知できる。

 ・獲得条件:空間内の魔力を感じ取ろうと試みる。


 分岐先 その一|【魔力変化】

 効果|魔力の性質に変化を加える。

 ・獲得条件:魔力を別の性質に変化させようと試みる。


 分岐先 その二|【魔力変換】

 効果|魔力を別の存在へ変換する。

 ・獲得条件:魔力を別の存在に変換しようと試みる。


 分岐先 その三|【魔力強化】

 効果|魔力の持つ働きを強化する。

 ・獲得条件:魔力を強化しようと試みる。


 分岐先 その四|【魔力放出】

 効果|魔力を放出する。

 ・進化条件:魔力を放出しようと試みる。〕


 と、そう情報が開示される。

 やっぱりか。


 各スキルの獲得条件を見ると、レアンはどれも達成しているように思う。

 ということはつまり、ここには載っていない条件があるということ。

 そしてそれを、俺はすでに気づいている。


 きっとそれは、スキルを獲得する際に願う、想いの強さ。意志力、精神力ともいうべきそれを振り絞って、心の底から願いを汲み上げる。そうして組み上げられた、骨組みを持った意志に呼応し、世界はその人物にスキルを与えるのだろう。

 俺はこの考えが正しいかどうか〔解析〕すると、この条件だけではないことに驚きつつもそのことは〔記憶〕しておいて、レアンの話を進めるために一旦は置いておくことにした。


 俺は最終確認として、レアンに何を願ったのか聞いてみることにした。


 「レアン。君はスキルを獲得するとき、なにを願ったんだ?」

 「願ったって言われても……すぐにはでてこない……けど」

 「けど?」


 俺にそう促されて、レアンは顔を俯きながら、絶対広めないでね。とつぶやく。

 もちろんそれを了承し、レヴィエルにもそれを呑ませる。


 その様子を見て頷いたレアンは、たどたどしい言葉遣いで言った。


 「これからの、村のことを考えると、畑を増やしていくんだろうなって思って。

 それで、その、みんなを守るのが私の役目だから、それをできるだけの力が欲しいって。

 みんなを守るために力が欲しいって、そう、想いを込めたんだ」

 「そうか……」


 やはり正解だった。

 祈り、或いは願いを込めて努力すれば、世界からスキルが与えられる。

 その認識で間違いじゃなさそうだ。


 「素晴らしいではありませんか。何を恥ずかしがることがおありで?」

 「そう、かな」

 「もちろんだとも。村のみんなから君が好かれているのが分かった気がする」

 「そんなんじゃないよ……もう」


 レアンは顔を赤らめてそっぽを向き、まるで幼い子供のようにふるまう。

 

 「それじゃ、レアン。君に試してほしいことがあるんだけど、いいかな」

 「……いいけど、何をするの?」

 

 俺はレアンの刀を〔分解〕し、彼女の手元に〔再構築〕すると、立ち上がるように促した。

 俺もレアンの前に立ち、向かい合って立つ。自然に両者は構え、一戦初めてもおかしくないような緊張感になる。

 俺はその緊張感を崩すためと、やってほしいことの内容を伝えるために話しかけた。


 「じゃあ、レアン。

 君には今から、俺と一本打ち合ってもらう。

 いつもは魔纏戦技(エンチャント・アーツ)魔纏闘法(エンチャントアシスト)を封印してもらってるけど、それももう必要ない。思い切り、戦ってくれ」

 「で、でもぉ……」


 レアンは明らかに狼狽える。

 それも仕方ない。彼女は自分の魔力量と、その技術を驕ることなく自覚している。だからこそ、俺を殺してしまうとわかっているのだ。

 だが、俺だって理外権能による傷の再生はできる。

 それに、致命的な傷与えられそうになった場合、理外権能を使ってでも本気で回避する。


 「大丈夫だ。俺を信用してくれ。魔物と戦った時みたいにさ」

 

 俺は微笑みかけると、レアンは了承したのか頷いて答える。


 刀を抜刀し、いつも通りレアンと稽古する心構えを取る。

 俺が得意とするのは抜身の刀であり、受け流し易さも段違いなのだが、それはレアンも同じである以上、お互い遠慮は無し。

 

 「あ、そうだ。言い忘れてた。

 一本取れれば、新しいスキルの獲得方法を教えるよ」

 「新しいスキルの獲得方法……?よくわかんないけど、強くなれるなら、負けるわけにはいかないね」

 「村のために強くなりたいって思うなら、俺と戦う時だってその思いを忘れちゃいけない。

 本気で倒す気で来てくれ」


 彼女にそう促すことで、俺に対する手加減の気持ちは減少しただろう、

 これで、レアンがスキル獲得の条件は整った。

 俺は刀を受け流しの型を意識しながら構え、レアンの放つ高速の斬撃に構える。


 「いつでもこい」


 正直、レアンの動きはあの魔物と同じくらいの速さだと思っている。

 あの魔物は生き抜いてきた野生で身に着けた、本能の技術を持っていた。

 しかし、レアンは違う。最弱の劣等種として生まれ、同じく過酷な世界を生き抜いて身に着けた生存欲、そして、理論に裏打ちされた剣術を持つ。

 あの戦い、正直に言えば俺は必要なかったかもしれない。そう思えるほど、彼女は強い。


 俺も手を抜くことなく、レアンの動きを〔解析〕し、完璧に予知する。


 「ふわああぁ~~、ふぅ」


 戦いの始まりを告げたのは、レヴィエルの欠伸が終わったその瞬間だった。


 「ふッ!!」

 「……ッ」


 速い。

 俺の瞬きのタイミングと同時に飛び出したレアンは、瞬く間に間合いを詰めていた。

 斬り結ぶには多少近い、レアンの得意な間合いだと気づいた瞬間、緑色の煌めきが一条の線となって加速する。


 斜め右上段から放たれた刀の腹に刃を添わせ、左後方へと受け流す。しかしそれを読んでいたのか。あまり攻撃は重くなかった。

 魔力によって空間を刻んだ光の軌道が消えないうちに、神速の二連撃目が打ち出された。

 左上段から放たれた斬撃を、またしても右側へと受け流す。

 受け流した勢いを利用して刀を逆手に持ち替え、レアンの脇腹を狙い切先のみを狙いに行く。

 しかしレアンはそれを横薙ぎで受け止め、刃同士がかち合う形となる。

 こちらは逆手、義手の肘で止めているとはいえ、魔力によって強化されたレアンの身体能力は、義手を抑えきれない俺の身体が力負けするのは当然。

 このままでは腹を切られるのが目に見えているため、義手の手首を捲り、刀の腹にレアンの刀が当たった瞬間に二度、レアンから放たれた攻撃を受け流す。

 お互いに距離を取ったその瞬間、レアンは跳ねるように地を蹴り、全力の横薙ぎを放ってくる。

 俺は刀の腹をレアンの刀の下に潜り込ませ、体の位置を下げて下に潜り込む。

 レアンは瞬時に使用する魔力量を増加させ、もう少しで寸止め、というところで凄まじい剣速で刀を受け止める。

 俺の攻撃はどれも隙を縫うものばかりで、正面から打ち合うのは適していない。

 それに、そういった正面からの打ち合いは、レアンの得意とするところであり俺の土俵ではない。

 

 お互いやっと間合いが開き、出方を伺う。

 

 「次で決めるよ」

 

 レアンの覚悟がこもった宣言を無言で受け止め、めらっと立ち昇る魔力量。

 どうやら、魔力の出力を上昇させたようだ。

 ならば俺も、全力で迎えることにしよう。

 

 俺は【未踏(フロンティア・)剣術(オーヴァーターンド)】と自らの肉体に〔模倣〕し、レアンの動きに対して最適な剣術の記憶を引き出す。


 レアンの構えは下段。受け流しの技が少ない、対応の難しい太刀筋が多い。

 しかし、それはあくまで通常の剣術ならば、だ。

 俺は、未来の記憶で存在する、いまだ到達しえない剣術を、悔しく思いながら〔模倣〕した。


 速く、賢い。

 俺はレアンに騙された。

 レアンは下段に構えた刀を直後に振り上げ、上段の重い一撃を選択した。

 それに対し俺は、上方向に受け流す気であったために、判断が一瞬、遅れた。

 俺の判断の遅れを見逃さなかったレアンは、鋭く重い一撃を放った。


 その直後。レアンは眼を大きく見開いた。


 きっと何かのスキルを得たのだろう。

 本来寸止めされるであろう、草原の色をした光を纏った刀。

 その光が、本来の刀の大きさよりも、伸びた。拡張されたのだ。


 「アルナ––––––––––––––––––」


 レアンが手違いで人の命を殺めることになるなんて、俺は許さない。

 彼女の悲痛な叫びを受け止めて、俺は理外権能を使用した。

 

 レアンが放った刀。その一太刀。その軌道を–––––––––––––––。


 ––––––––––––––––––––––––––––––––––––〔歪曲〕させた。


 不自然に曲がる太刀筋は、床まで住んでのところで静止し、俺は一歩も動くことなくレアンの攻撃を回避した。いや、避けさせた。


 「な……何が起きたの?」

 「タイミングが悪かったな。とはいえレアン。戦うのに夢中になってて、獲得したスキル、使っちゃったんだろ。危なかったな」


 レヴィエルが説明を欲する視線を向けるが、それを往なしつつレアンの背中をポンと優しく押す。

 

 「言っただろ。大丈夫だって」

 

 もちろん、レアンの先の動きが見えていなかったら、俺は今頃死んでいた。

 けれど俺には〔解析〕の権能による、こうなる未来が見えていたのだ。


 「も、もうこんな危ないこと、次からはしないっ!」

 「いや、これだと効率がいい。今後もやるぞ」

 「や、やだよぉ~!」

 「それでレアン、戦闘に集中してたせいで気づいていなかっただろうけど、何のスキルを獲得したんだ?」


 俺がそう問いかけつつ刀を納刀すると、レアンはかたくなにこたえようとしない。


 「今度からしない!絶対に!ぜーったいにしない!」

 「わ、わかったよ……ごめんって」


 ………


 ……


 …


 レアンの機嫌が直るのを待って、話はつぎに進み始めた。

 レアンが獲得したスキルは【魔力変化】【魔力変換】【魔力強化】【魔力放出】だった。

 俺の読み通りの結果だ。

 【魔力変化】は、魔纏戦技(エンチャント・アーツ)ので行うと言っていた、魔力に斬撃を強化させる際の、速度やら重さやらに"変化"されるという話を覚えていたからで。

 【魔力変換】は、レアンの行っていた一風変わった魔纏戦技(エンチャント・アーツ)、斬撃の軌道を設定できるというものが"変換"の姿ではないかという推測を立てておいたからだ。

 【魔力強化】は、俺が以前レアンに教えた魔纏闘法(エンチャントアシスト)が該当するだろうと同じく推測していた。

 【魔力放出】は、レアンが身体から魔力を"放出"し、それを体や武器に纏うことから可能だろうと考えていたからだった。


 「本当にスキルが五つも……」

 「レアンはこれから、このスキルを使いこなさなくちゃならない。

 きっとそうしなければ、守る者も守れなくなる」


 そしてそれは、きっと俺も同じなのだろう。

 決して驕ることなく、鍛えなければならない。


 「新たなスキルの獲得、練習には俺もヌルも手伝うよ。

 だから、心配だったらすぐに言ってくれ」

 「よし、じゃあ明日、稽古が終わった後でおねがいするね」

 「わかった。そのときは声をかけるよ」


 レアンは新しい力に期待している反面、使いこなせるかどうか心配そうだ。

 俺ができることがあるのなら、彼女のために努力は惜しまない。

 そしてそれはきっと、今後レギオ村のためにも、ヌルと俺の計画にもつながってくることだろう。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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