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第21話 第一歩。

書き上がったので、フライングしちゃいました。

次話投稿は今日の7時以降になります

 真剣を握り鍛錬を始めて、五日。

 貸し与えられた刀の感触も肌になじんできた。

 義手と体、そして刀を自分の意識と統合し、滑らかに扱えるようになってきた。

 義手の扱い方、理外権能の使い方などをある程度まとめて置いたため、実際に戦うとなった時でもそれなりに対処が可能だろう。

 剣術の方も僅かばかりだが出来上がってきている。そしてそれは、レアンも同じだった。

 俺が魔物を討伐しに向かうと告げると、レアンは「絶対付いていく!」と息巻いて、さらに稽古を身に沁み込ませようと真摯に鍛錬に打ち込むようになっていった。


 俺とレアンでは、技量に大幅な差がある。

 加えて、魔力による高威力な攻撃も行える彼女は、魔物を討伐するうえで欠かせない切り札なのだ。

 

 今回、魔物を討伐する上での作戦はこうだ。

 レアンが後衛、俺が前衛と役割を分ける。

 俺が前衛に立ち、敵の攻撃を捌き続けるのだ。

 俺が攻撃を凌ぎ続ける間、レアンは魔物の弱点である"核"を見極める。

 弱点が判明すれば、俺が大きな隙を生じさせて、その隙にレアンが核を破壊するのだ。

 

 レアンの魔力量による魔纏戦技(エンチャント・アーツ)の威力強化だったら、核を撃ち抜けば一撃で壊せるだろう。

 魔纏戦技(エンチャント・アーツ)は身体能力の低い人間が扱える切り札だ。

 込められるだけの魔力を込めて攻撃を行い、その一撃で相手を確実に相手を仕留められる。

 切り札と呼ぶにふさわしい威力を発揮する魔纏戦技(エンチャント・アーツ)だが、切り札として手元に持っておかなければならない、否、本当に最後の最後まで切らずにとっておく必要がある策である理由が存在するのだ。

 その理由を改善すべく施した策を、レアンは5日間で自分のものにしてくれた。

 これで懸念事項は何もない。あとは、魔物を討伐しに向かうだけだ。


 しっかりと準備運動を終えた俺とレアンは、機動力を確保するために最小限の装備を纏う。

 防具のようなものは一切なく、腰に下げた一本の刀のみ。

 理由としては、全身鎧で身を固めたとしても、それを容易く貫きうる攻撃力を持つ魔物が相手では機動力が低下する事態は避けねばならない。

 俺は腰にリデンスカの花の蜜が入った瓶を持っているが、戦闘時には後ろにいるヌルに持っていてもらう予定だ。


 互いに装備の点検を終えると、俺は深く息を吸い込んで深呼吸する。

 これも大切な準備なのだから、怠ってはいけない。


 「すう……ん?」


 吸気を吐き出そうとしたときに、レアンの手が震えていることに気づいた。

 いつも明るく笑顔を絶やさない彼女の手が震えている。

 きっと、それほどに魔物の恐怖というのが体に染みついているのだろう。


 ……何かしてやりたいが、あいにくと俺はそんな女性に慣れているわけでも無い。

 かけるべき言葉が見つからず、不意に目が合ったレアンに笑みを返すことしかできなかった。


 「二人とも。そろそろか?」

 「はい」

 「……うん」


 師匠、レグシズは俺たちの討伐には参加できない。

 本当は三人で戦いたいのだが、レグシズまでもこの村を離れてしまうと、魔物から村を守る者がいなくなってしまう。

 不服なのだろうが、仕方ない。


 「二人とも。私から言えることは一つ。

 必ず生きて、帰ってこい」


 「「はい!」」


 俺とレアンは大きく返事をすると、師匠は数秒、俺の瞳をまっすぐに見つめる。

 その目の色は、俺に使命を課すようなものだった。

 きっと、必ずレアンと生きて帰ってこい、と言いたいのだろう。

 同じく見つめ返すと、師匠は深くうなずいた。


 「行ってきます」

 「行ってきます」


 そう短く告げると、俺とレアンは村から外へ出たのだった。


 ◆◆◆


 村から出るなり、いきなりレアンは刀を抜刀した。

 瞳や仕草から一切の正気が失われていると感じた俺は、レアンの手に右手で触れた。


 「落ち着いて。魔物の気配は感じない」

 「……うん」


 ため息をつくように一呼吸をおいて、レアンは刀を納刀した。


 周囲を監視している魔物に警戒したのだろうが、それらの魔物は俺がすべて倒してしまった。

 あとはその魔物を生み出していた元凶を討伐するだけなのだ。


 「レアン。俺から一つ、いいか?」

 「ど、どうしたの?」


 けなげに笑顔を浮かべるレアン。

 まだ緊張が解けたわけじゃないのだろう。やはりどこか、怯えているようだ。

 とても戦える状態じゃないと気づいた俺は、一つ、提案をすることにした。


 「この花の蜜があれば、すぐに怪我も完治する。

 それに、この右腕と首飾りの魔道具(マジックアイテム)の性能を知ってるだろ?

 俺が前に立って、必ず攻撃を止めるから。レアンは冷静に敵の弱点を突いてくれ」


 俺とヌルは、師匠とレアンに嘘をついている。

 この義手と、この首飾りは、魔道具(マジックアイテム)で、凄まじい力と敵の攻撃を予測することができるという嘘だ。

 レアンの攻撃を捌けるようになったのは、この首飾りの効果で攻撃の軌道を感知できるからで、子の右腕は師匠の攻撃を自動で受け止めてくれるのだ。と。

 そう説明しても、レアンの表情は一向に明るくならない。


 「……ごめんね、励ましてくれてるのに」

 「いいや、怖いのは仕方ないんだから」


 俺だって怖い。

 虫が嫌いな俺が、あんな大きな虫と戦わなくてはならないなんて。

 前世で潰した虫の怨念が、ここで復讐しに来たのかと思ったくらいだ。


 「……でも、アルナレイトは平気そうだよね。

 私より剣術を習った時間も少ないのに…

 ……怖くないの?」


 再三申し上げるが、怖くないわけがない。

 でも、それ以上に俺は、ここでレアンが死んでしまうことの方が怖い。あの、何も感じることのないあの空間に戻ることの方が怖い。

 ……役目を果たせずに死んでしまうことが怖い。

 一番怖いのは、救えたはずの命を救えずに死んでしまうことだ。


 「……俺はただ、死ぬより怖いことがあるだけだ」


 家族に再び会うために、世界を均衡に導くために。

 まずこの一歩を、第一の壁を乗り越えなければならないのだから、怖がって震えていることなんて、許されない。


 「……そっか」

 「俺だけじゃ絶対に倒せない相手なんだ。

 レアン。君には情けない話だけど……もし俺が戦えなくなったら、君に守ってもらわなくちゃならない。

 その時は、見捨てないでくれよ?」

 「……うん」

 

 一向に顔が暗いままのレアン。

 一体どうしたらよかったのか。そう考えながら歩いているうちに、目的の存在がいる座標は徐々に徐々に近づいてきていた。


 ◆◆◆


 強風吹き荒れるそこに、一羽。

 はるか上空を舞う翼は、空気を羽撃き飛んでいた。


 影を落とす森の木々、その葉の一枚一枚に陰が乗る。

 上空から見下ろせるのは、二つの生き物。

 一羽は思う。なぜ魔物の住処である森に向かうのか。と。

 あの種類の動物は、気が狂うと魔物に殺されに行く習性でもあるのか。まさかそんなことは無いだろう。

 今も二本の脚で大地に縛られる生き物は、その足取りは愚か表情からも、意思が読み取れる。

 

 とはいえ、多くの生き物を見てきたが、あのような行動をとる個体は少なくない。

 過去に似た光景を思い浮かべ、どうせ例に漏れず同じ結末をたどるのだろう。

 そう考えた一羽は、その速度を引き上げようとしたときに初めて以上に気づいた。


 感じないのだ。何も。

 明らかにおかしい。

 何かが、間違っている。


 直感的にそう感じた一羽は、その場で停止した。

 今度は目を凝らす。感覚をそちらに向ける。

 しかし、何も感じない。


 今までこんなことは無かった。なぜなら、ありえないからだ。

 今までで初めての体験であるがゆえに、一羽は思う。


 その思いを、独り言として吐き出した。


 「これはこれは、珍しいなどではございませんね。

 ……はい、ぜひ一度、持ち帰って調べてみませんと……ウフ♡」


 一羽はその場で姿を消した。忽然と。


 その一羽。よもやただの烏などではないことなど、言うまでもない。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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