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第17話 生きていくための術

次話投稿は午後を予定してます。

 あの戦いが終わった後。俺は気絶してしまったらしい。

 今思えば、その理由は明確だ。

 きっと、これまで試したこともない権能の使い方を何度も連発したからだろう。


 あの戦いで分かったことなのだが、理外権能発動には、理外の力とは別に、俺自身の思考力を消費する。

 じゃあその思考力となんだという話だが、恐らく、俺が今こうして考えているこれ。

 文字通り、何かを考える際に消費する本人のキャパシティリソースのようなもので、集中力、意志力と言い換えてもいいかもしれない。

 話を戻すが、権能発動の際に必要となる「対象を定めて効果を発生させる」という思考の負担がかなり大きい。

 その負担分を、思考する力そのもので補っている。

 思考する力そのものを使うすることで権能を発動させ、その代わりに意識や集中、思考などが減少するのだ。

 そしてそれらの減少に伴い、戦闘中の判断力、精神力が低下するのだろう。

 とはいえそれらの減少、低下はすぐに回復するようだ。

 

 このことから、戦闘中にむやみに権能を発動させるのは、大きなリスクともなる。

 しかし、タイミングを間違えなければ強力な武器にもなる。

 要は使いどころだろう。


 そしてこれも、あの戦いで分かったことなのだが。

 理外素は、物体だけでなくエネルギーにも〔再構築〕できるらしい。

 すでに折れてしまったが、あの剣に推力として、理外素を〔再構築〕することが可能だった。

 もしかすれば、投げた物体に対しても同様のことを行い、軌道を変えたり加速させたりということも可能なのかもしれない。


 まさか、対象を定めて〔再構築〕することに、全く制限がないとは思わなかった。

 きっとほかの権能も同じなのだろう。これは、無限の活用法があるといっても過言ではない。

 活用方法それらすべてを使いこなせれば、いったいどんなことができるのか。想像もつかない。


 (確かにその力は、いろぉんなことにつかえるからねぇ)


 と、突如俺の頭の中に声が響く。

 そういえば、なんで気絶している俺が、こんなに明確な思考を巡らせられているんだ?


 (おっとぉ、自己紹介がおくれたねぇ。

 わたしは……あれ、誰だっけ。まあいいやぁ)


 なんと間の抜けた声だろうか。と考えていると。


 (独り言が多いねぇ。それに、間抜けだなんてひどいなぁ、後継者クン?)


 え、聞こえてるのか?

 後継者と呼ばれたことよりも、思考が筒抜けであったことに驚く。


 (もっちもっち)


 なぜもち?ああ、もちろんを略しているのか。


 (そそ、せーかい。

 それでぇ、私が表面にでてきたってことはぁ、新しい権能に目覚めたってわけ)


 そこで初めて後継者と呼ばれたことに気づき、この声の主が権能の残滓に由来する人物だと至った。

 

 (まぁ、なんで権能に目覚めたかっていうと、簡単に言えばレベルアップだねぇ)


 レベルアップ?いったい何の?


 (んーとね。理外の力を持つ者には、理外率っていうモノがって、それが上昇するにつれて新しい権能が獲得できたりするんだよぉ~。知ってた?)


 え?俺、そんな重要なことも知らされてなかったのか?


 (そーみたい。でもあんしんされたしぃ。権能に残る思念が、理外の力について教えてくれるからねぇ)


 本当に時間がなかったのか忘れていたのか、それとも話せない事情があったのかまでは知らないが、せめて新しい権能を獲得する仕組みがあることくらいは教えてほしかった。


 (理外率ってのは、理外の力を使用するほど上がっていくからねぇ。

 それで、君に目覚めた新たな権能はぁ……〔模倣〕でぇえす。じゃじゃーん)


 〔模倣〕の権能……か。これまた応用性の高そうな……。


 (使い方はいつも元一緒でおけなのさぁ。……あ)

 

 ちょうどよかった。質問したいことが山ほどあっただ。

 すべて答えてもらおう。そう思っていた時。


 (もう時間みたい。じゃぁねえ~ばいばぁい)


 え、ちょっといきなり過ぎないか!?

 まてまてまだ質問したいことが山ほどあるんだぞ。


 (じゃ、がんばってねぇ。後継者くぅん)


 おい!待てよ!


 俺が激しく呼びかけても、その声は遠ざかっていく。

 どこかで聞いたことがあるような声が徐々に離れていき、グイっと引っ張られるような感覚ののちに、俺の意識は覚醒した。


 ◆◆◆


 ベッドの上で目が覚める。

 初めて見る天井は、俺とヌルの借りている部屋だとわかる。


 「起きたか」


 上体を起こすと、ヌルとレアンがベッドに座っていた。

 

 「悪い。どれくらい寝てた?」

 「ほんの数分だ」


 それはよかった。

 今日はするべきことがあったんだ。

 こうしているうちにもヌルの活動限界は迫っているわけなのだから、時間を無為に消費するのはもったいない。


 「大丈夫?しんどくない?」

 「ああ。大丈夫、心配してくれてありがとう」


 レアンが掛けてくれた声にそう返しながら、俺はベッドを降りる。


 「アルナレイト。起きたばかりで悪いが、その義手について説明しておく」


 俺は自分の右腕についているモノを見る。

 相変わらずの禍々しさだが、よくよく見ると、洗練されたデザインのような感じがしてかっこいい気がする。


 「それは、お前たちが寝ている間に開発しておいた、アルナレイト専用の武装。

 名称は……油圧機械式義手(デッフェル・レジェト)とでもしておこうか。

 その義手の筋力的出力は普之中あたりが限界だが、それではお前の身体が耐えられないだろう。

 低之中程度にまで制限を設けてある」


 何かの指標なのか、ていのちゅう、ふのちゅうなど、例えてヌルは言っているのだが、その指標をそもそも知らない俺にそんなことが分かるわけがなかった。


 「その、ていのちゅう、ってのはなんだ?」

 「機巧種(エクス・マキナ)能力表(ステータス)計測における段階の一つだ」


 ヌルはその説明を始める。

 俺は忘れないように権能で〔記憶〕しながらひとつづつ理解していくことにした。


 ヌルの話では、機巧種(エクス・マキナ)能力表(ステータス)を定める段階として。


 「低<下<普<中<上<高……」の段階を表しているらしい。


 そして、その段階の中にも同じものが存在しているらしく、細かく表すのならば……


 低の中には「低之低 < 低之下 < 低の中 < 低之上 < 低之高」

 となるらしい。


 つまり俺が付けている義手は「普之中」まで筋力を出すことができる。

 だが、俺の身体が持たないとのことで「低之中」にまで抑えられている。ということらしい。


 とはいえこれは、あくまでヌルが計測した限りの情報であり、間違いが生じる可能性もある。

 だが一つの指標として用いるのには便利だろう。権能で〔記憶〕しておいて正解だった。


 普之中であの巨体を抑え込めたのだから、高のくらいにまでなるとどうなるのだろうか。


 「なあヌル。高の筋力にまでなると、いったいどれだけのエネルギーになるんだ?」

 「時間歪曲や空間圧縮……宇宙空間の膨張を止めることくらい可能だろう。

 あくまで計算上の話だが」


 質問したことをなかったことにしたいくらいの意味の分からない答えが返ってきた。

 空間歪曲?なんだそれは。


 「理解できたのならいい」


 半分、というか筋力が高の場合の説明例にほとんど理解が吹き飛んだ気もするが、気にしては負けな気がする。


 「っていうか、これ、どうやって動いているの?」


 レアンが俺の右腕をちょんちょん、と触る。

 その感触が俺にも伝わってくるのだが、なんでなんだろう。


 「その義手は、アルナレイトの神経に直接に接続する"神経電位接続"を用いている。

 これにより、アルナレイトの脳から発せられた、神経によって伝わってきた右腕を動かす信号を、右腕の代わりにその義手が処理している。

 代わりに皮膚感覚も再現してある。手を触られた感覚があるのはそのせいだ」


 要するに、右腕の構造を機械的に完全再現したってことか。


 ツンツンと指で押してくるレアン。

 そのうち腕を握り、指に手を絡ませてくる。


 「感覚ある?」

 「ある……ッ」


 女性の柔らかい手の感触に、何より美少女がそばにいるという状況に、思わず耳が熱くなる。

 若干鼓動の感覚が早まり、体温が上昇するの感じる。


 「……?」

 「もういいだろっ」


 俺が手を放すように促すと、レアンはきょとんとしたまま手を退ける。


 「いやだった?」

 「いやとかじゃなくて、その」


 大体、こっちは女性に慣れていないんだ。

 そんなに触られるなんて否応なくドキドキしても仕方ない。


 「あ、そうだ。レアン」

 「ん?」


 俺は前々からずっと疑問になっていた、なぜこの世界に刀が存在するのか。それを聞いてみようと思ったのだが。


 「私もわかんない。おじいちゃんに聞いてみたら?」

 

 と返されてしまったので、レグシズの元を訪ねてみることにした。

 階段を下りて一階を探し回ったのだが、どこにもいない。

 玄関には靴があるし、刀も立てかけられている。


 「この時間なら、道場じゃないかな」

 「道場……?」


 部屋を出たとき、ヌルがレアンに俺たちの説明をすると言っていたのだが、なぜか背後にいるレアンがそう教えてくれたので、そのままレアンに道案内をしてもらうことにした。


 「ここだよ」

 

 一回突き当りの廊下に大きな扉があり、中からは何かを振る音が聞こえる。

 俺はゆっくりと扉を開ける。すると中にはレグシズがいて、やはりその手には刀がある。

 刀を一心不乱に降り続けるレグシズ。その一太刀一太刀は美しく、長年の技を感じさせるものだった。


 「おや、アルナレイト。起きたか」


 レグシズは朗らかに笑顔をこちらに向けると、俺が刀を凝視しているのに気が付いたらしい。

 刀を納刀し、こちらへ歩いてくる。


 「興味があるのか?」

 「興味……」


 無いわけがない。

 もちろん実物を目の当たりにしたということもあるが、それ以上にこの世界に刀が存在することに対する疑問の方が大きかった。


 俺は事情を説明すると、レグシズもなぜ刀があるのかについては知らないようだった。


 この世界の秘密に近づけるかと思ったのだが、それはまだまだ後になりそうだ。


 「どうだ。振ってみるか?」

 「いいんですか?」

 

 彼らに武士の価値観が残っているのかそうではないのかわからないが、もしそうだとしたら、武士にとって刀は自分たちの心と同じようなもの。

 それを貸してくれるとは、本当にいいのだろうか。


 「本当にいいのですか?」

 「構わない」


 そういうので、ご厚意に甘えることにした。

 右手のことを説明しているヌルの声が聞こえる。その右手で柄を握り、その刀を抜刀した。


 「……」


 鞘を地面に置き、刀を正眼の構えに直す。

 

 ………

 ……

 …


 なぜだろうか。心が落ち着く。

 ただ握り構えているだけなのに、安心感のようなものが俺を満たしていく。

 

 「……綺麗」


 後ろから何かの声が聞こえ、それが権能によって自動的に言葉へと変換された。

 しかしそれを気にも留めず、ただただ刀を構える。

 これに何か意味があるのかわからないけれど、こうしていたくなる。


 ふと、その刀を振りかぶり、斬る動きをしようと重心を移動させる。

 

 その瞬間––––––––––––––––––何かが俺に、流れ込んでくる。


 「……ッ!?」


 わからない。何もわからない。はずなのに。

 そのイメージは鮮明に、俺の中に入り込んでくる。

 大量の情報が、まるで収まる場所を知っているかのように、流れ込んできてはピースのひとかけらの様に、カチッ、とはまっていく。


 なんなんだこれは。


 そもそもどこから流れてきているんだ。

 

 あふれては吸収されていくイメージには、共通点があった。

 それは、刀の太刀筋や構え、型などのイメージ。

 すべて、刀が関係しているのだ。


 「くっ……」


 あまりの情報量に眩暈がする。

 視界が引き延ばされるような感覚と、音が遠ざかっていく。


 汗が額に滲み、垂れてくる。

 それでもやむことのない情報の濁流は、およそ三十分ほど続いた。

 

 そのころには、俺の服は汗でずぶぬれになっていた。


 「……ッ」

 「ほう」

 「……!」

 

 皆がどんな表情をしているのか全く分からなかったが、俺はただ、流れ込んできた記憶の中にあった刀の振り方……剣術のままに、上段に構えた刀を振り下ろした。


 ビュッ、という空気を切る音とともに、刀身にすら滴っていた汗を振り払いながら、一直線に刀身は落下した。


 汗を〔分解〕して、地面に落ちている鞘を拾って納刀すると、三人は俺の方に近寄ってくる。

 レグシズに刀を渡すと、驚いたような顔で言った。

 

 「美しい一太刀だった。

 あんなにも無駄の削がれた一振り、長年剣の道を進んできた私でも不可能だ」


 レグシズが言うのならば、それは本当なのだろう。

 それにしても、あの現象はなんだったのだろうか。

 刀を握ると、おびただしいほどの剣術に関する情報が流れ込んできた。

 あの現象はいったい何だったのかわからない。

 

 「……すごい」


 レアンは心ここにあらず、といった具合で。

 ヌルは顎に手を当て、何か考え事をしているようだった。


 流れ出る剣術の記憶のままに、俺は剣を振るった。

 それ以外は何もわからない。


 何かのヒントがあるかもしれないと、過去の記憶を思い返す。


 最も関連性がありそうなのは、あの時見た走馬灯。

 俺が剣を握り戦っていたというその記憶が、走馬灯の中で流れていたのだ。


 そもそもなぜ、走馬灯の中に刀を使う俺がいたのか……。

 たしか残滓は、理外の力は時間や空間を無視して存在できると言っていた。

 

 思考を組み立てていくうちに、ある一つの結論に至った。


 ……もしかすると。今流れてきたのは、俺がこれから剣術を磨いた先の、いわば"未来の記憶"ではなかろうか。

 理外の力には、空間や時間では縛られない。

 故に、理外の力によって……未来の剣術を扱う俺の情報が、今の俺に流れてきた……のだろうか。


 〔記憶〕の権能も、もとはと言えば理外の力によって作られたもののはず。

 なら、理外の力を通して未来の〔記憶〕が今の俺の〔記憶〕に流れてきたとしても、おかしい話ではない。


 「不思議な人だね。アルナレイトって」

 「はは。どうだろうね」


 確かに、ここ三日で俺の人生は激動した。

 理外の力なんてものを手に入れて、未来の自分から剣術の記憶が流れてくるとは。

 そういうのとはかけ離れた世界で生きていたというのに、なぜかそれをすんなりと理解してしまう自分がいる。


 そしていま、目の前にいるレグシズが、また新たな変化を与えてくれそうな予感を感じさせる。


 「そんなにきれいな太刀筋をしているのなら。どうだ。

 私の門下生にならないか?」


 手を差し出しながら、そういってくれるレグシズ。

 確かに、ここは異世界。

 自分の身を守る技術を身に着けておくことは、百害あって一利なし。という奴だろう。

 

 「私もそれがいいと思う。だって、アルナレイトの太刀筋、私じゃ到底敵いっこない」

 

 などと自分を卑下するレアン。

 俺はその姿勢が気に入らなくて、口を開いた。


 「そんなことない。俺はあの蟷螂から身を守ることで精いっぱいだったけど、レアンはあの蟷螂を討伐したじゃないか。

 俺にはできなかったと思うよ」


 俺がそう褒めると、そうかな、えへへ。と嬉しそうに笑顔を向けてくる。

 確かに技術を学ぶのは良いことだと思うが、俺にはそれ以上にヌルとの契約がある。

 俺が後何年鍛錬すれば、まともに剣が振れるようになるのか見当もつかない。

 その間にヌルが活動限界を迎えてしまっては意味がない。

 あくまで今の目的は、ヌルとの契約を履行するために自分の強化に努めることが必要だろうと自分に課しているだけなのだから。


 「ふむ。確かに私が守れない時は、自分でその身を守ってもらわねばならん。

 体を鍛えさせておくのも必要だな」


 ヌルが頷くと、俺はレグシズの、いや、師匠の手を取った。

 

 「では、これからよろしくお願いします!」

 「うむ。しっかりと鍛えてやろう」


 こうして俺は、レアンやレグシズが道を往く剣術を学ぶことにしたのだった。

 まさか、本当にまたしても変化を与えるのがレグシズになるとは思いもよらず、自分の感覚が少し怖くなった。

 しかしその恐怖心も薄れてゆき、今となっては自分の強化につながる剣術に、期待が膨らむばかりだった。

お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価は結構ですので、もしお時間に余裕がありましたら、もう一話読んでいただき、作品をお楽しみください。



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