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第120話 至者達

 レギオン領事館でクロムの到着を待つレアン。

 その思考は、すぐ後に会うことになる至者達のことで埋め尽くされていた。


 (至者達……帝国に抵抗する者達…………)


 自身を圧倒的に上回る存在であろうことは確定している。

 しかし、立ち回り方はすでに決まっている。


 突然にレアンの前の空間に亀裂が入り、破片が飛び散る。

 その中から出てきたのは、クロムだった。


 「よぉ、準備はできたか?」

 「うん。道案内、お願いします!」

 

 レアンは緊張を隠しているつもりだったが、クロムには見破られていた。


 「俺の友人としての紹介だ。俺が守ってやるから安心しな!」

 「う、うん………」


 私はクロムに付いて行き、割れた空間の中へ進む。


 「ここはどこなの?」


 周りは距離のつかめない極彩色の模様が常に入り乱れている。

 明らかに普通の空間ではない。


 「ここはまあ、世界の裏側っていうべきかもな」

 「そんなとこに入れるなんて、どうやったの?」

 「ああ。それは俺のスキル【対象破壊】の効果だな。

 指定した対象に干渉し、破壊するって効果で、空間の表面を破壊したのさ」

 「す、すごい………っていうかさ、言っていいの?」

 

 自分の手の内を簡単に明かすクロムに、レアンは少し動揺する。


 「別にいいんだよ。対処できるヤツは居ねぇんだから」


 クロムは語る。

 その能力で、クロムは自身の国民を守ってきたことを。

 大量の軍用魔術の雨、他種族の特性による種族絶滅級の攻撃。

 そのすべてを破壊し、悉くを消し飛ばしてきたことを。


 (やっぱり規格外………なんだね)


 クロムは自身の能力を簡単に明かす。もちろん奥の手はあるだろう。

 しかし、クロムの行動は慢心に見えて、しかし余裕がなければ出来ない。

 これは駆け引きでもあるのだ。


 「ねえクロム。今の私とあなたで戦ったら、勝率はどれくらいかな」

 「まあ百万回やって、二回くらいだろ。

 お前に可能性はあるが、まだその芽は萌芽。摘むにはもったいない………っと。

 ついたぞ、ちょっと離れてろ」


 クロムは手を翳す。

 そのまま爪を突き立てるように指を折り曲げ。


 握りこむと同時に目の前の空間が破砕音と共に砕けた。


 目の前に開けた空間には、豪華絢爛な装飾品が数々飾られた一室が見える。


 「さ、ついてこい」


 レアンはその言葉のままに踏み出した。


 その場にいる全員を一瞥し、レアンは【賢聖の叡智】による戦力の解析を行った。

 だが、


 『全員のエネルギー量、測定不可能。

 揺らぎの幅が大きすぎて確定情報を得られません』


 (そんなことがあるんだ…………。全員、警戒して惑わしているってことなのかな)


 そんなことを考えているレアンを他所に、目の前の長いテーブルに備えてある椅子に乱暴に座るクロム。


 「相変わらずしけた面してやがるなぁ、てめぇら」

 

 クロムの発言に最初に反応したのは、筋骨隆々に程よく日焼けした肉体を晒している男。

 剣吞な表情を作る顔からは仙人のような白い髭を生やしており、頭に巻いたバンダナが特徴的だった。


 「クロ坊、オヌシ遅刻だぞ?」

 「そう怒んなよ。シグニスの野郎が呼びつけたんだろ?

 そんな重要な話でもないだろうよ」

 「時間は守れ」

 「へいへい」


 どうやらクロムが最後だったらしく、席が埋まった。


 『お知らせします。クロム・ナバーロから念話通信が届いています』


 【賢聖の叡智】がレアンにそう告げると、レアンの意識に言葉が響く。


 (聞こえているか、レアン)

 (うん。どうしたの? 直接話せばいいのに)

 (それもいいが、お前を白痴の愚か者と捉えられるのを避けるためだ。

 まだ全員の名前と姿が一致していないだろう。

 教えてやるからよく聞けよ)


 クロムはそういって説明を始めた。


 橙色の短髪を掻き上げた髪型の、余裕に満ち溢れた顔の男。

 明らかに武闘派で、その理由は全身にはちきれんばかりの筋肉を備えている。

 その男は、獣人国の至者、シグニス・ラディアウス・ヴェーレス。


 銀髪にウィスタリア色の瞳を持つ、冷徹な表情を浮かべる絶世の美女。

 豊満な体つきに目を奪われ、持ち合わせる美貌は芸術的ですらある。

 森人国の至者。

 とがった耳を持つ彼女の名前は、エナシティア・ネオルタティエト。


 気だるげな表情で頬を手についているのは、黒髪の長髪を垂らした者。

 紫紺の瞳を持ち、独特な雰囲気を帯びている。

 妖精国の至者。

 その者の名は、ユナイアニス・ゼノンワース。


 下半身が鱗とヒレに覆われ、空中に漂う可憐な少女。

 流水の様に流れる水色の髪に、黄色の瞳を持っている。

 海棲国の至者。ニルヴィニル・ロギナヘレヴァ。


 顔を黒い包帯で覆っている男。背丈は4mを超えているであろう。

 二対四本の腕を組み、静観しているのは、巨人国の至者。

 名前を、エバルカント・アゼルグルムセス。


 幼い容姿に美しい中性的な顔立ちを持つ者。

 死人のように白い肌、血液のように赤い瞳を持ち、視線を引き寄せる引力を持つ。 

 その名前を、レヴォルティオ・リノル・カルデモンド。


 そして最後、この中で最も低い背丈の女性。

 アルナレイトと似て、そこに居ていないように感じるほど気配が薄い。

 その者の名前は、ベルキス・ヘスぺリデス。


 以上七人が、ケイン帝国に抗する至者達である。


 席を立ちあがったのはシグニス。


 「今日は集まってくれたことに感謝しよう。至者達の皆々」

 「無駄な口上はいい、さっさと始めやがれ」

 「本題に入る前に、クロム。お前が連れてきた女は何者だ?」

 「ちょうど紹介しようと思っていたところだ。レアン。名乗れ」

 

 急に呼ばれたことに吃驚したレアンだったが、平静を装い名乗る。


 「私は、レアン・ルーファス。

 レギオンの街と、その周辺の領主をしているよ」

 「………ほう」


 全員の視線が一斉にこちらへ向く。


 「一応、次期至者ってことで紹介しておく。俺の友人だ。

 ちょっかい出せば殺すぜ?」

 「お前の女ってわけか?」

 「だとしてもガキ過ぎるぜ。胸も尻も小さすぎる」

 「………何の話してるの?」

 「まあそんなわけで。仲良くしてやってくれ」

 「はいよ」


 話はそこから変わり、進行役を務める偉丈夫が本題を話し出した。

 きっと彼がシグニスなのだろう。


 「俺達が集まった目的を、お前たちは忘れちゃいないだろう」

 「ええ。あの忌々しい皇帝を殺すため。帝国を打ち滅ぼすためよ」


 物騒なことを話すのはエナシティア。

 

 「帝国との国境線を支える三国。

 ラディアウス・ヴェーレス、ヴォークラニア、ナシェラ・アウトラシスからの意見だが。

 ……帝国の動きが、近年鈍りつつある。国境線の兵士の数は減っている。

 カルシフィア。帝国の内情はどうなっている?」 

 「何かに備えて力を溜め込んでいる………というべきか。

 あるいは他の対処に追われているのやもしれん。

 昨年まで行われていた国外遠征隊も姿を見せない」

 「ずいぶんとあいまいな情報だな。確定情報を寄越せ」

 「ふん。それがわかれば苦労はせん」


 少し間を置き、シグニスは告げる。


 「だが、帝国の動きが鈍いのは事実だ。

 この機を逃すことはできない。至者連合軍を編成し、侵攻作戦を提案する」


 「「「…………!!」」」


 至者一同が獰猛な笑みを浮かべ、起こる戦争に心を躍らせている。


 「長かったな、ここまで」

 「ああ。全員。持ちうる限りを尽くして戦争準備を進めておけ。

 …………と、言いたいところだが。

 その前に一つ。ケイン帝国を戦う上であらゆる懸念を排除しておきたい。特に戦力的な懸念はな。

 お前たちに協力者を連れてきた。紹介しよう」


 シグニスがそう告げ、扉から入ってきたのは。


 その場に、姿を現したのは─────────()()()()()()()()


 「……ッ!?」

 「紹介しよう。彼らは西側大陸、グオルメニア大陸を統べる者達だ」

 「紹介に預かった。私が代表のレーヴァンティアだ」


 レアンのことなど気にも留めず、レーヴァンティアは話を続ける。


 「我々の目的は、帝国の敗北。

 帝国からの侵攻軍を幾度となく退けてきたが、もう持ちそうにない。

 そこで、目的を同じくする至者達と同盟を結び協力することで、帝国打倒への一助になるだろうと思い参上した次第だ」


 レアンは思う。

 違う。こいつらは噓をついている。と。

 あの時こいつらは言っていた、ヌルを殺すことが目的であると。

 だが、ここでその嘘を指摘すれば、殺されてしまう可能性が高い。


 レアンはただ黙ることしかできなかった。


 「ちょうど数は同じ。一人につき一人付けば、均等に戦力を向上させられるはずだ」

 

 レアンは目まぐるしい思考をめぐらせ。

 そして一つの解を導き出した。


 ケイン帝国打倒後、考えられるのは至者達の分配。

 ケイン帝国の国土、財産。それらすべてを巡って、至者達は互いに争い合う。


 そこで、七罪の魔王は軍を率いるか、それともゼフィリオーセスと同じように狂わせるかして、このフィルストス大陸を手中に収めようとしているのだ。


 レアンは彼らの考える恐ろしい作戦に気づき、身震いしてしまう。

 アーバンクレイヴで起きたあの凄惨な出来事が、大陸中で…………。


 レアンは決意した。彼らを止めなければならないと。

 そうでなければ、またアーバンクレイヴと同じように、大量の被害者が出る。


 そう決意を固めたとき、回復したニーアと目が合った。

 舌をなめずり、獲物を追い詰めるような瞳でこちらを逃さない。その意思を感じた。


 (まずい……どうにかしなくちゃ………でも)

 (だな。先に帰るか?)

 (できるの………?)

 (……シグニスが他の奴らにも根回ししているなら厳しいな)

 (()()()()()()()()()()()

 ((え?))


 二人が疑問を感じたとき、既にその男はそこに居た。


 「………いつの間に」


 全身を武装で覆った、ヘッドギアを被った男。

 誰にも気取られることなく、至者達の集いに紛れ込んでいた。


 「……誰だ、お前は」


 全員がその男に視線を釘付けにされる。

 あらゆる機微、瑕疵たる反応すら見せない、感じさせない。

 男はただ、その場にいる者達に告げた。


 「我は理外者。貴様らを葬る者だ」


 言葉からのみ敵意を発したその瞬間。


 現在のレアンですら反応できない速度で、シグニスが、七罪の魔王が動いた。


 「そりゃあ無謀じゃないか、理外者よ」


 空間が捻じれ、反発する力は前方へ収束する。

 それ自体が致死の威力を誇るシグニスの拳が、空間の反動と共に放たれた。


 「そう焦ることはない」


 その拳に纏われた練り上げられた闘気は、しかし。


 男に触れた瞬間、消し飛んだ。

 破壊の限りを尽くす暴虐の威力は、跡形もなく消えたのだ。


 「……ッ」


 瞬時に間合いを取り、観察するシグニス。

 得体の知れない相手に、間合いを詰めるのは愚かだという判断だった。


 「覚えておけ。我は貴様らを弑さんとする者である。

 宵闇を、意識の縫い目を、油断の刹那を、常に恐れよ」


 その男は、それだけを告げると、青白い粒子に体を変えて姿を消した。


 「おい。誰かあいつが何者か知らないか?」

 「知るわけねえだろ。気づいたらそこに居たんだからな」

 「エナシティア。お前の魔術に反応はあったか?」

 「………いいえ。魔力の反応も、スキルの反応も、何もなかった。

 解析鑑定の魔術を編纂しても、何の情報も得られなかったわ…………」


 正体不明の存在を相手に、至者達でさえ混乱している。

 方針の定まらない、混迷の時。


 その時に、指針を示す者がいれば、あっけなく全体の意見はその方向に向いてしまう。


 「お教えしよう。今の男は理外者。

 この世界の外から来た、この世界を滅ぼすために”理外の力”を与えられた男だ。

 とはいえ、理外の力がどんなものか、我々もまだ測りかねている」

 「理外の…………力」

 「我々の真の目的は、この世界を守ること。

 理外の力を持つ理外者を葬ることだ。帝国とは協力して理外者を葬りたかったが、帝国は我々との戦争を望む以上、敵だ。

 或いは、理外者がケイン帝国を操っているという可能性………。

 至者達の中に理外者の協力者がいる可能性も、我々は考えている」

 「これから協力しようぜって相手を疑っているのか?」

 「ああ。信用するためにな」


 話の流れが、徐々に打倒ケイン帝国から理外者討伐に傾いている。

 このままでは、レギオンが怪しまれてもおかしくない。

 何故なら、七罪の魔王は知っているからだ。理外の獣がレギオンと共に行動を共にしていることを。


 そこで、クロムは唐突に長テーブルをたたき割った。


 「どうしたクロム!」

 「………いや、何、騙されていたというだけの話だ」


 そういうや否や。


 瞬く間にクロムは立ち上がりながら私に鋭い蹴りを放つ。


 (レアン、お前を逃がす。演技してくれ)


 私は即座に【万能装甲】でクロムの攻撃を防ぎ、後ずさる。


 「てめぇ、正気か」

 「何のこと、かな?」

 「お前が理外者を匿っているのは、自衛のためって言っていたよな?

 あいつの目的は、俺達を殺すことなんだろ?

 最初の獲物は俺だったというワケか?」

 「ばれちゃったか。あはは。

 そうだよ。私は理外者の協力者。この場で全員殺すつもりだったけど、七罪の魔王がいるなら話は違うね。ここは逃げさせてもらうよ」

 「逃がすとでも?」


 クロムは拳を構える。殺すつもりなんてない一撃。

 そう分かっていてもその拳に込められた闘気は、吐き気を覚えるほどの密度だった。 


 「覚えておいて。私は私の意思でこの世界を変える。

 それに、七罪の魔王のやり方も気に入らない。

 弱者から搾り取って、言うことを聞かせるなんて最低の所業。私は許容しない。

 どうしても死にたくないって人は言ってね。助けてあげるから」

 「結界を張ったわ。もうあなたは出られないわよ?」

 「そうかな?」


 『結界の展開を確認。構造の解析を完了。

 【嚮鳴】スキルの応用により、結界の波形の逆位相を当てて破壊します。

 また、クロムとの共鳴率が5%を突破したためスキル【共振破壊】を獲得しました。

 これにより、結界と空間を破壊し、即座に拠点への帰還が可能です』


 レアンは意識の中でそう声が聞こえる。


 (わかった。私の合図があるまで待っててね)

 『かしこまりました。』


 レアンは全員の顔とエネルギー量を頭に叩き込み、クロムに瞬きで合図する。


 「祈りは済んだか?」

 「それじゃ、ばいばーい」


 クロムがレアンに叩き込む、と見せかけた拳は空間にひびを入れた。

 クロムに続いて攻撃を行う者達の追撃を避けるべく、レアンは賢聖の叡智に合図を出した。


 (お願い!ケンセイさん!)

 『かしこまりました。空間を破砕します』


 クロムの攻撃に紛れ込ませた空間破砕。

 周りから見れば、クロムの攻撃によって異次元に叩き落されたように見えるはずだ。


 『次いで結界を破壊しました。異次元空間を拠点の座標へ繋げます』

 

 吸い込まれるように異次元空間へ身を引く。


 「待ちやがれ!!」


 クロムの怒号。攻撃音が爆発する。


 しかし、異空間が閉じたと同時にそれらの音は一切途絶えた。 

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