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第110話 理外の獣と光の龍

連載予定の別作品を書いていたら遅れました………すみません。

 声が響く。


 叱責する声。慟哭する声。

 そのどれもが、すべてが、俺へ向けられたものだった。

 どこかで聞いたことのある声で、追及され続ける。


   お まえがしねばたいせつなひとはしぬことになる れ いせいになれ た たかうしかないんだ ち みどろにまみれようともたたかえ の ぞまぬなかまのしをさけるにはころすしかないんだ よ じんのことなどきにもとめるな う せろうせろうせろうせろはばむすべてはおれのまえからきえうせろ に げるなたたかえたたかいつづけろ は かりにかけろどちらがたいせつなんだ な かまをうしないたくなければたたかいつづけるしかない る いじゃくしようともたたかいつづけろ な かまのしをみすごすのか────────。

 

 その声の主達が姿を表す。

 死に体の俺へ這い寄ってくる。縋る。

 這い上がる。纏わりつく、覆う。


 自分が溶けていく。混ざる。一体となっていく。


 蛹の中で溶ける蝶のように。


 混ざり、流れ込んでくる絶詔と。

 苦痛、憤怒、嫉妬、後悔、憎悪。

 後悔、後悔、後悔後悔後悔後悔後悔後悔─────。

 

 そうか、そうだったのか。

 時間と空間を無視するというのは─────。


 俺が、彼女に惹かれるのは─────。


 突き動かされていた衝動は、本当は─────。


 


 ◆ ◆ ◆


 アルナレイトとレアン。二人の屍から流れ出す血が混ざり血だまりとなって広がっていく。


 その場にたどりついたユウトは、その光景を見て己の不甲斐なさに打ち震える。


 「エスティエット。もう出し惜しみしてる場合じゃないな」

 「……ええ。そうですね」


 二人は隠していた力を解き放とうとして、しかし違和を感じてアルナレイトの方を見た。


 「……なんだ、アレ」


 アルナレイトの死体が痙攣しているのだ。

 頭部のない体がびくびくとはねている。


 「ア”」


 どことなくそう響き、そしてそれは起きた。 

 アルナレイトに体から何かが生えて、それは徐々に伸びていく。

 その光景を、その場にいる誰もが動けずに見つめていた。


 異様に手足の長い人型。

 青黒いさびのようなものが散見できる、金属光沢をもつ古樹の表皮というべきか。

 その様相が全身に広がっている。頭部はぽっかりと穴が開き、深淵を覗かせている。


 四つん這いになったその獣は、長い前腕でレアンを抱き抱え叫ぶ。


 「「「レヴルァァァァァァァ────────ッ!!!!」」」


 耳をつんざく大音声が響く。

 その叫びは後悔と怒りの慟哭にも似た咆哮だった。


 「……目覚めたか。理外の獣が」

 

 ヌルがそうつぶやき、ユウトがその意味を訪ねる。


 「どういうことだ、ヌル!」

 「……私とアルナレイトの出会いは最悪なものだった。

 ニーアの盾となって死んだあの男、ヒュヴヒルトによってアルナレイトは右腕を失った。

 その時にあいつは大量出血で死んだ」


 そう。あの時アルナレイトは死んだ。

 そしてその時、今目の前にいる化け物が現れた。アルナレイトの体を依り代にするかのように。


 ユウトはその言葉の続きを察した。


 「……なあヌル。お前とアルナレイトが出会ったときに腕を失ったんだよな。

 そしてさっき、あいつの両足は再生されていなかった所を見るに、ニーアとヒュヴヒルトは同じ能力を持っていることはだれでも判る。

 じゃああれか、あいつは首を切り落とされて死んだなら、あいつが理外の獣から元に戻ったら、首が繋がっていないってことになるよな」

 「……ああ。今はその対策を考えているところだ。

 あらゆる生き物の肉体は細胞が壊死したダメージで死に至る。

 理外の獣となったアイツの肉体がどうなのかは分からないが、まだ死に至るほどの損害は受けていないはずだ。

 即座に繋いでやれば、まだ生存できるかもしれない」

 

 ユウトは現状を理解し、そして判断を下す。

 自分のやるべきことを決めた。


 「てことはあいつらを撃退、或いは無力化しなきゃ治療できないな」

 「……ああ。だからユウト」

 「おう。ってか気づいてたのかよ」

 「まあな。お前の肉体組成を調べたときにな」

 「や~ん、ヌルのエッチぃ~」

 「……」


 死にたいのか?という意思がありありと伝わるヌルの表情に、ユウトは、可及的速やかにすまんと一言謝罪すると、気持ちを切り替え指輪を見つめた。


 「さて、んじゃ行ってくるわ」

 「頼む。思う存分にな」


 ユウトは、指輪の表面を指でなぞり、獰猛な笑みを浮かべた。


 「おうよ……!」


 ユウトは、右腕を薙ぎ、そして唱える。

 武装圧縮機構(ヴェフィア)の起動コードを。


 「武装圧縮機構(ヴェフィア)───────展開(アーガス)

 

 指輪内部に搭載された圧縮機構から無数の機器、部品が流れ出す。

 T字に構成された機械類は、即座に十字型に伸びる。


 秒未満で展開された武装───────それは、剣の形をしていた。


 大質量光素操作補助剣(アルヴロイツァ)

 それは、ユウト専用武装。

 指輪に格納され、展開されるその武装は、神器と同等の耐久性を誇る。

 

 ユウトは武器を持たない。

 その理由は単純に、ユウトの身体能力に耐えられる武器は神器、或いは魔剣と同等の武装でなくてはならない。

 しかしそんな代物はそう簡単に手に入らない。

 だからこそ、自身の能力で武器を作り出していたが、この大質量光素操作補助剣(アルヴロイツァ)は耐久性に富んだ設計となっており、神器と同等の耐久性を持ち、さらに光素を元に再生する機能すら持っている。

 ユウト初の、自身の得物であった。


 そしてユウトは、これまで隠し通してきた自身の力を振るう。


 「【光龍化】───────目覚めろ!」


 ユウトの全身が光に包まれる。光の繭が空間に溶けて消えたとき、ユウトの姿は変わっていた。


 肉体の一部を黒と黄金の鱗に覆われた姿だった。

 黒髪が潤いのある美しい白髪へと変わり、瞳からは黄金の光を放つ。

 胸部、その心臓部には眩い十字の光が雲海の隙間から差す陽光の如く輝きを放ち、四肢は龍と人間の中間体に変容していた。

 そして、二枚一対の翼。光で編まれた翼膜と、それを発生させる中心部にある奇妙な器官は、絶えず光を放出し続けている。


 ユウトは、その身に龍の力を宿していた。


 光の龍の力を宿すユウト。

 それは、過去幾度も起きた大戦争の一つ───────七躍龍戦争における最大の勢力を誇っていた龍、光神龍フォルヒェンリーヒの魂が変容したスキル【光龍化】。

 ユウトはそのスキルを保有しているのだ。


 【光龍化】スキルには、


 【龍化】

 ・肉体を龍化する。

 【光龍の魂】

 ・光素支配 ・光素炉 


 の二つの効果を持つ。

 ユウトの肉体は、【龍化】スキルを何年も使いすぎた。

 【龍化】は、保有者の肉体を龍の肉体へと置き換える。

 ユウトは肉体を置き換え過ぎて、常に半龍化状態なのだ。

 ゆえに、最弱の劣等種でありながら世界最強級の肉体を持つのだ。


 凄まじい力の波動は、その場にいる全員の意識を吹き飛ばし───────。

 否。威圧は、レギオン街を超えその先にある妖精国や獣人国をも超え、帝国にすら届く。


 この時、世界は知った。最強たる龍の力を持つ者が、目覚めたことを。


 「「いくぞおらあぁぁぁぁッ!!!!」」


 光素支配。それはこの世界に存在する属性素を最大限に活用するスキル。

 ユウトは龍化したことにより肉体の強度が上昇。半龍化状態よりも無茶ができる。


 「───────何ッ!?」


 光速にて移動し、認識付加の速度による正面からの突破が可能である。

 だが、高速で動けばその衝撃はで周囲のすべてを破壊つくしてしまう。

 しかしこれはユウト自身が光素支配の効果で光素と化しているために物理的な法則は働かない。

 

 一切周囲に被害を出さないまま、七人全員を剣で切り裂いた。

 なお、剣は物素を『光素炉』の効果で一旦光素化し、もう一度攻撃する瞬間に『光素炉』を反対に作用させて元に戻した。

 刹那、須臾の瞬間にこんな芸当を成したユウトであったが、常人の思考速度では無論不可能である。


 ユウトが龍の力を振るうとき、その構造は龍のものとなる。

 龍の肉体には、神経を走る生体電気などない。あるのは、光。

 そう。ユウトは光の速度で思考し、反射することが可能なのである。


 「はっはぁッ!?おせえおせえおせえおせえ!!!!」


 龍の力を全力で振るうユウトを、止められるものなどいない。


 そして、そんなユウトを補助するように動き回る理外の獣もまた、常軌を逸していた。

 ユウトほどの速度を持っているわけではないが、理外の獣は理外権能を使い〔加速〕している。


 青と白い光が互いに煌めく戦場。

 敵はただただ、圧倒されるほかなかった。


 ───────その戦場に向かうのは、ユウトの波動を感じ取った一人の男だった。


 「……同族か、或いは」


 くくッ、と企みの笑みをこぼすのは、アーバンクレイヴに壊滅級攻撃を行った人物。

 クロム・ナバーロその者であった。


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