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第107話 凄惨な戦い

少しずつですがまた投稿ペースを戻していきます。


 ニーアと荊の男はどうやらつながっていたらしい。

 理外の力を阻害する力を持っているこの男は、おそらく俺の目的……世界の膨張を止めるという目的に近い位置にある者だろう。

 

 だが、この男はヌルによって殺されたはず。

 なぜ今生きているのか。


 「……お前とニーアは一体何の関わりがある?」

 「ああ? まあ別部門の上司と部下ってかんじかもな」

 「………お前達の目的はなんだ。まさかこの国を手に入れることなんかじゃないだろう」

 「そんな事どーでもよくね?ほら、殺してやるよ」


 荊が凄まじい速度で放たれるが、俺はそれを受け流して見せる。


 「流石に半年も生き抜いてりゃ成長もするか。ま、所詮その程度だろうがよ」

 

 荊による連続攻撃。そのすべてを受け流す。

 かつての俺ならば認識もできなかっただろうが、今の俺ならどうにか受け流せる。


 その様子を見ていたバルブゼスは、目を輝かせてレアンに力説する。


 「見ろよレアン、あの刀捌き………俺も件に関しちゃ負けてねぇと思っていたが………」


 バルブゼスは考えていた。

 アルナレイトと自分の、行きつく高みは同じものなのかそうではないのか。

 剛の剣を鍛える自分と、型に当てはまらないアルナレイト。

 

 目の前で起きた戦いをみて、バルブゼスは確信した。

 アルナレイトは、技。剛でも柔でもない、技量の剣なのだ。

 その高みは、自分の目指すところにあるのだ。目指す高みは同じなのだ。


 (行きつく先は同じ………か。ならば、俺があいつに憧れるこの気持ちは、きっとあいつが俺よりも高みに近い位置にあるからだろう。

 ………もっと見たい。もっと学びたい。あいつの”技の剣”を……!!)


 「あいつの剣………無駄の無さにおいては右に出る者がいないだろうぜ。

 そして、無駄のない一太刀を繰り出すための卓越した先読みの眼。

 何より、やべえ気配を漂わせているあの二人を相手に善戦しているのが異常だろ!!」

 「………だね。いまならわかるよ」


 アルナレイトとレアン、二人の戦闘スタイルは前衛、後衛に分けて戦う。

 前衛は敵の攻撃を読み、しのぎながら敵に大きな隙を生じさせる。

 後衛は前衛が生じさせた隙に強力な攻撃を打ち込む。

 このスタイルでは言わずもがな、前衛に負担の割合が大きい。

 

 その状況でアルナレイトが前衛を務めていたのはレアンから危険を遠ざけるためというのもあったが、アルナレイトは前衛の負担を担いきれるだけの技量があるのだ。


 そして、レアンは今のアルナレイトの技量を見て理解した。

 アルナレイトはレアンよりも技量が高い。


 アルナレイトはレアンが居ては全力を出せないのだ。

 状況にもよるが、レアンは足手纏いになってしまう。


 その技量の差が決定的に開いたのは様々な要因がある。

 アルナレイトは常に理外の力から自身の剣技の記憶が流れてくる。

 それは成長の仕方、その最適解を知っているということなのだ。

 それに加え、アルナレイトはつい先ほどまで何度も時間を繰り返し、その中で戦い続けていた。

 過ごした時間分、アルナレイトはレアンよりも長い時間剣を握っていたことになる。

 鍛錬は時間ではない。その内容の濃さがものをいう。アルナレイトは何度も仲間が死ぬ中、その苦しみを味合わせないように死ぬ気で戦った。その濃密な戦いが、アルナレイトを短時間で急激に成長させていたのだ。


 だが、そんなアルナレイトでも限界はある。

 ただの人間であるということ、そして、この世界における常勝の手は、質より量であるということだ。

 目の前の荊の男とニーアはただでさえアルナレイトより身体能力という点で質が高いだけでなく、一対二という量ですら勝る。

 その状況で、アルナレイトが善戦しているという状況こそ、異常なのだ。


 「………レアン、アルナレイトがなんで俺達と共闘しないかわかるか?」

 「私たちが足手纏いになるから、でしょ?」

 「それもあるだろうな。でも、一番の目的じゃない。

 一番の目的は………」


 レアンは思う。

 言わなくともわかる。アルナレイトは自分で二人を倒すつもりはない。

 今も粘り続けているのは、敵の攻撃の癖や方法を出し尽くさせ、後に続く自分たちが有利になるよう動いているのだ。


 「合図があればすぐさま向かう」

 「そうだね。その前に、やれるだけのことはやらなくちゃ」


 レアンは今のこの戦いを決戦だと認識し、出し惜しみをしないと誓う。


 今この場で、全員をアルナレイトと同等にまで引き上げさせるのだ。


 レアンは【共鳴】を使用した。

 

 その効果である【思念共鳴(レゾナンス・ウィル)】によってその場にいた全員の意識が一体となった。

 この状態ならば全員が意思で通じ合うことが可能となり、通信装置を用いるよりも早い伝達が可能となる上、相手のイメージすら伝えることが可能なので、より深い情報共有が可能となるのだ。

 

 アルナレイトの体力が徐々に切れてきたそのタイミングを逃さず。


 (みんな!いくよ!)

 (おう!)

 (わかりました!)

 (心得た!)

 ((うおおおおおおおお!!!!))


 アルナレイトの戦いを見て憧れを抱いていた傭兵たちは念話だというのに声を張り上げて叫んだ。


 戦術は決めていない。決めなくていい。

 全員がイメージを通じ合うことができる今の状態ならば、互いが互いを尊重して動くだけで戦術級の働きが可能となるからだ。


 一撃目はバルブゼス。アルナレイトが受け流して生じた隙に荊の男に剣聖剣技をぶち当て怯ませると、その隙をアルナレイトは逃さず男の体に刀を突き刺した。

 

 「ぐはあっ!?」


 アルナレイトが追撃してくれるとレアンは信じていたため、そのイメージが伝わり全員が男に追撃することなくニーアへ向かっていく。

 エスティエットがアルナレイトを除く全員に瞬間的強化の支援魔術を行い、ニーアへ突撃する。


 魔纏戦技(エンチャント・アーツ)魔纏強化(エンチャントアシスト)拡張戦技(エクステンド・アーツ)に乗せる。しかも、()()()()()()()()()()()()()()()()

 魔纏戦技(エンチャント・アーツ)拡張戦技(エクステンド・アーツ)に乗せ、複合戦技(コンポジット・アーツ)とした攻撃。

 その攻撃に纏われた魔力は、攻撃の瞬間に最も光芒を煌めかせ、魔素構造完全状態となる。

 偶然ではない。レアンのスキル、【賢聖の知見】が全員の魔力反応を常に解析していたからだ。

 

 このまま同時に攻撃しては味方に攻撃があってしまう可能性もある。それをしっかりと考慮した上で魔力で拡張した攻撃だった。


 「「……ッ!?」」


 突如完璧な連携で攻撃に転じてきた全員に対し虚を突かれたような反応を見せるニーアは、しかし。


 またしても手に青い炎を生じた。

 それを全身に広げ炎の衣を纏う。


 (まずい……また何かするつもりだぞ……!)


 あの炎の効果が何なのかまだ理解していないアルナレイトは、しかし全員の攻撃を命中させるためにあの炎を消さなければならないと思った。この状況であの炎を纏うということは、防御手段にも用いられるということだろうからだ。


 アルナレイトは常に不測の事態を予測するべく全力は出し切らない。

 だが、もうこれ以上何かが出てくることはないはずだ、と自分に言い聞かせた。


 理外化(アウトルーラー)を発動させたアルナレイトは、残る精神力全てを搔き集めた。

 義手に握られた刀身が青く輝き、そして振るわれる。

 

 拡張斬撃である。理外の力によって、刀身の内に秘められた斬撃を解き放つ。

 射程を拡張した斬撃は、不可視の一撃。

 いかなる相手にも察知を許さぬその一撃は、仲間たちの放つ技よりも速く、疾く。


 ニーアの纏う焔を切り裂き、理外なる力はそれを消し飛ばした。


 「「んなぁッ!?!?!?!」」


 無防備となったニーアに、色とりどり閃光纏う攻撃が命中する。

 

 「「っつつぅぅぅ………!!!」」


 ニーアは攻撃を受けた左腕が酷く損壊しており、骨が見えるほどのダメージを受けていた。

 その手には、荊の男と同じ赤と黒の荊が纏われていた。

 つまり、ニーアはあの男と同じ世界の法則側の存在………ということになる。


 あれほどのダメージを受ければ、流石に痛みで動けないだろう。

 生き物はどの世界でも同じ、弱点を攻撃されれば死ぬ。

 実戦では一撃が命取りなのだ。思ったほどダメージが出ていないが、あの傷ではもう長くないはずだ。


 ────────そう思った自分が愚かだった。


 俺はニーアを降伏させるべく近づく。

 この男といいニーアといい、殺してしまっては情報が得られない。

 

 「……痛ったいいわぁ」

 「あきらめろ。もうお前じゃ敵わない」

 「この程度で倒せたと、本気で思っとるお前が痛いわ」

 「……っ!?」


 ニーアの左手は赤黒い電気が走り、()()()()()()()()()()()()()


 俺は即座にその場を離れたが、左足の太股に激痛が走る。


 「うぐっ!!」


 俺の左足に、毒々しい赤黒い荊が生えていた。

 貫かれていたのだ。


 「へへ、馬鹿がよ!

 こんな攻撃で死ぬわけねーだろ!!」

 

 荊は凄まじい膂力で俺を壁に叩きつけた。

 体の骨が折れる音が聞こえ、太股からはだらだらと血が流れ出す。


 「「アルナっ!!」」

 

 必死の形相で駆けり寄るレアン。

 その背後には、おぞましい恍惚を浮かべたニーア────────。


 イメージがフラッシュバックする。


 泣き喚くレアンに、押し掛ける大量の有角人種………。

 甚振られ弄ばれ嬲られ……絶望の表情で死に至る……その光景が。


 許していいのか。そんなことを。

 また繰り返すのか。


 何度試しても誰かが死ぬ。それくらいなら、自分が死んだ方がいい。

 右の太股だって貫かれはしたが動かせないわけじゃない。


 そうだ。全力を尽くして仲間を守るんだ。


 激痛は知る脚部に力を込める。骨ごと貫かれてはいるが、その部分を避けて金属を〔再構築〕してかりそめの骨で足を繋ぎ、刀を構えてレアンの方へ走る。駆ける。


 「「レアン!!伏せろ!!」」

 

 ニーアは鬼火のエネルギー弾を生成する。

 そして、どこから取り出したのかわからないが、巨大な両手斧を構えてこちらへ迫りくる。

 

 横薙ぎに振り払われる大斧を受け流そうと構える。

 だが、5つのエネルギー弾が飛来する。

 即座に拡張斬撃、回数拡張斬撃で2発を叩き落す。のこりのエネルギー弾はレアンが弾いてくれるだろうと信じ、ニーアの大斧を受ける。


 ニーアの大斧がおどろおどろしい紫の光を放ち、急加速。

 通常では考えられないほどの加速に、俺は一瞬反応が遅れた。

 遅れたものの軌道を読むことには成功した。

 

 レアンは順調にエネルギー弾を叩き落すが、一瞬の隙。

 ────────レアンの腹部を、荊が貫いていた。


 「「レアン!!!」」


 荊に貫かれたことでエネルギー弾を喰らってしまうレアン。

 大したダメージこそなかったものの、腹部貫通の苦痛に悶える彼女に俺は意識を取られてしまった。


 戦闘の最中に意識を戦闘から話すなど、愚か以外のなんであろうか。

 俺はニーアの大斧を受け────────両足を、切り飛ばされた。


 脳天を直撃する激痛のスパークは俺の意識を瞬間的に遮断し、次に目覚めた時には血溜まりの中に倒れ伏していた。


 俺とレアンが瞬時に戦闘不能となった時、一本の刀を携えた人物がニーアの追撃を受け止めた。


 「回復に専念せよ。私が時間を稼ぐ」


 俺たちの師匠、レグシズは手に持った刀を抜刀する。透ける刀を持った師匠は刀を構えると、大斧を持ったニーアへ向かって地を蹴り飛ばした。

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