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第103話 光芒の刃

 鎧の内側から膨れ上がった肉体。歪に伸びた手足。

 4つの足に4本の腕を持ち、二つの頭部からそれぞれ一本の角が生えたその化け物は、直視したくないほどグロテスクで、気持ち悪い。

 

 そんな化け物が、二つある頭部の口から奇怪な叫び声を上げた。

 そのとき、瓦礫に埋もれていたのか、瘴気に充てられた市民たちが起き上がってきたのだ。


 「………全員、警戒を!」


 もうこの期に及んで市民たちの命を気にかけていられない。

 何か危害を加えるつもりなら。


 もうさっきみたいに悩んだりしない。

 仲間を生かす。そのためには殺す。


 「「キェェェェェエエ!!!!」」


 突如絶叫した化け物は、見の丈に合わないほど小さく見える剣をむちゃくちゃに振り回しながらレアン目掛けて狂ったように走り出した。


 「レアン!!」

 「せいやっ!」


 レアンは逞しい気合いと共に化け物の攻撃を魔纏戦技(エンチャント・アーツ)で即座に反撃し事なきを得た。

 だが、死角から迫りくるもう一本の剣を防ぐことができず、胸部に一撃を受けてしまう。

 アルナレイトはその一撃を受けたレアンに、しかし無事なことを確信していた。


 彼女が今装備している胸当て(ブレストプレート)は、機巧種(エクス・マキナ)の技術によって作られた、バイタルエリアを確実に守るための装備。

 それは、胸当て(ブレストプレート)自体が堅牢な防御力と耐久性を持つのだが、その真髄は機巧種(エクス・マキナ)の防御装置、防御力場(エネルギー・シールド)の展開にある。

 防御力場(エネルギー・シールド)を展開し、敵の攻撃を完全に弾くのだ。

 

 レアンに死んでほしくないアルナレイトが彼女のために設計したものではあるが、最終的にはヌルが調整してくれたので信頼性は高い。

 結果、レアンは心臓部分に攻撃を受けることなく、展開された防御力場(エネルギー・シールド)が攻撃を弾き飛ばしたのだった。


 しかし、レアンは【賢聖の知見】スキルからの警告に内心焦っていた。


 『【警告】今の攻撃で精神抵抗の障壁が破壊されました』

 (え、それってまずいんじゃ………)

 『【回答】かなりまずいです。精神干渉の攻撃に対し無防備な状態となっています。

 気を付けてください』

 (うん、わかった!)


 レアンは報告の上がった情報を後回しにして、現在の状況へ置いていた意識を即座に戻す。


 「レアン、傷は!?」

 「だいじょーぶ!問題なしだよ!」


 実際に問題がないかといえばそうではないが、レアンはひとまずそう伝えておくことにした。


 アルナレイトは現状を見直す。


 強欲の三騎士のうち二人であるフィゼンとドルノレドを撃破した。

 しかし、ゼフィリオーセスの時と同じく、化け物になりながら二人は合体して復活した。

 その魔力量はレアンの数倍に相当する。

 ゼフィリオーセスの時と同じように、化け物と化した二人はニーアからのエネルギーを使って生命を維持しているのだろう。


 アルナレイトは敵を倒すために深い思考を行おうと、ひとまずレアン、レグシズに5秒時間を稼いでほしいと伝え、そのまま思考を深い領域へと落としていく。

 なんとか得た僅かな時間を最大限活かすために思考速度を〔加速〕させた。


 ──────────考えろ。

 ゼフィリオーセスをあの状態から倒した時は、レアンがゼフィリオーセスの意識と対話し、その力と意思を継ぎ、それが【共鳴】スキルとなった。

 ゼフィリオーセスがあの状態に陥ったのは、おそらく強欲の種子を埋め込まれたから。

 種子の効果自体は判らないが、そこに強欲の力が存在していないはずはない。


 残り3秒。俺は焦燥感に身を焼かれながら思考加速をさらに重ねる。


 強欲の力がドルノレド、フィゼンを動かしている力なら、ゼフィリオーセスのときと同じことをすればこの化け物は力を失い無効化できる。

 だが、レアンに2人の意識と対話してもらい、力を無効化できるかといえばそれは怪しい。

 ゼフィリオーセスには理性があった、品位があった。だが強欲の三騎士にそんなものは存在しないだろう。

 それに、ゼフィリオーセスの時は協力的だったから成功したのかもしれない。

 強欲の力によって意識を侵食されているかもしれない二人との対話で、レアンに異常をきたす可能性もある。

 なら、思いつくのは二つの手。

 

 残り1.5秒。俺は時間さえとまれと願いながら具体策を練り上げる。

 

 一つ。ヌルから託された、機巧種(エクス・マキナ)の技術を用いた武装を使用する。

 あの武装は一度使ってしまえばおそらく、この作戦中にはもう使えない。俺は奥の手を失うことになる。

 二つ。それは俺の持つ”理外の力”を使うこと。

 理外の力は対象のそれが異能の力であれば、跡形もなく消し飛ばすことができる。

 それを使えば奴らは即座に倒すことができるかもしれない。だが、魔女ニーアに理外の力の存在が悟られる可能性がある。


 残り1秒。さあ、どうするアルナレイト。

 お前はどっちを取る?


 (………よし、決めた)


 俺は師匠、レアンにアイサインを送る。

 それと同時に、刀と鞘を──────────〔分解〕した。


 レアンが放った攻撃で化け物は俺を視界に捉える。

 そのまま怒り狂った猪の如く俺目掛けて突進を開始する。滅茶苦茶な構え、乱雑な剣筋で剣を振り回しながら。


 いつもなら攻撃を受け流すために少し逸れた位置に立つのだが、今回は真正面に構える。


 俺は武装を〔再構築〕した。

 俺の左手には、空間から生じた青白い粒子─────────理外素に〔分解〕されていた武装が〔再構築〕されていく。


 その武装は携帯に不向きで機動性の落ちる欠点が存在する。

 あまりに()()()()()()()()は再使用にかかる時間を考えれば戦闘中に一度しか使えない上、非戦闘時にデッドウエイトとなる。

 刀身を覆うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、軽量化されているものの重く、劣悪な取り回しのせいで常用などとてもできない。


 だが、それを補って余りある─────────効果を持つ。


 機巧種(エクス・マキナ)の武装を用いる上で、武装の誤作動を防ぐべく、音声認証での安全装置解除(セーフティアンロック)セキュリティが存在する。


 安全装置解除のために、俺はその武装の名を呼ぶ。

 

 「─────────武装圧縮機構(ヴェフィア)、」


 武装圧縮機構─────────機巧種の言葉で”ヴェフィア”と呼ぶそれは、疑似空間圧縮構造体(ヴィファクォンス)技術を用いた、いわば異空間収納スキル。それを物理法則のみで行うが故に、理外の力を持ち異能の力を弾いてしまう俺でも使うことができる。


 その武装圧縮機構(ヴェフィア)を。


 「─────────展開(アーガス)。」


 展開する。

 俺の背丈ほどもある機械の塊は細胞分裂するかの如く膨れ上がり、大型化していく。

 あっという間に俺の身長を超えるほどの超大型の鞘となった。


 そして、その大型の鞘に納められているのは無論に刀。


 「──────第貮類武装:非実体(アドラ)格闘兵装───────」


 機巧種(エクス・マキナ)の用いる武装。

 太古の時代、神や悪魔を屠り去った─────────光の刃を放つ。


 「─────────光刃出力型特殊大太刀(ディフォル・ラーデ)」 

 

 歪曲した光がリボンの様に周囲を漂い、周囲に結び付き照らしていく。

 

 空間すら歪めるほどの高出力光刃が姿を現す。


 義手が悲鳴を上げる。全身が消し飛んでしまいそうな力の奔流に押され、しかし何とかアルナレイトは光の刃を掴み、そしてあらん限りの力を放って振り払う。


 「「う─────────おおぉぉぉ!!!!!!」」


 鞘が開口し、光芒で編まれた刃は放たれる。

 それは、超圧縮された空間そのものであった。

 いかなる防御障壁、物理強度を無視して空間ごと破砕しながら突き進む煌めきは。


 強欲の獣と化したドルノレド、フィゼンに命中した。

 その瞬間に周囲は光に飲み込まれ、あらゆる陰影は消滅した。

 

 再び目を開けたときに残っていたのは、僅かな塵芥のみであった。





 ~現在の状況~


 バルブゼスは過食の騎士オーヴィマを撃破した。

 アルナレイトは機巧種(エクス・マキナ)の用いていた、

 第貮類武装:非実体(アドラ)格闘兵装・光刃出力型特殊大太刀(ディフォル・ラーデ)を用いて強欲の獣を撃破した。


 強欲の三騎士を撃破したことで強欲・瘴気煙霧(マモンズミアズマ)が消失。

 ミタラの兵器運用が可能となり、ニーアへの攻撃が可能となった。


 

 





 「「誰が死んでええ言うたんやボケが………!」」


 ニーアは強欲の三騎士がすべて死亡したことで────────否。

 己の与えた力が回収できなかったことに激怒していた。


 「これじゃエネルギー無駄遣いしただけやんけ………あんの無能共が!」


 怒りのあまりに台座を、ロスナンティスを蹴り飛ばしながら怒りを露にした。


 「やっぱ枝付きなんかあかんわ………ほんまカスやわ。ゴミが………!」


 しかし、怒号を上げようとも状況は変わらない。

 ニーアは冷静に考える。しかし、残された手札は一枚。今から用意すれば二枚。


 「あの札を切るしかあらへんな………。

 まあええ、まだ策はある。手札を使い切ることはない」


 怒りに顔をゆがめたニーアは、最後の策を練るべく動き出すのだった。

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