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第102話 強欲の三騎士 その3

 傭兵団ゼディアスに所属する傭兵、バルブゼス。

 彼は獣人種(ワービースト)龍人種(ドラゴニュート)が遠い祖先にある種族だった。

 見た目は只人種(ヒューマン)と大差ないが、体格や身体構造、肉体性能では天と地ほどの差がある。

 

 彼の出身国は、19年前に”帝国”の配下国に下った国。

 国名は”剣聖国”シラフィス・アウレカリア。

 そしてバルブゼスの本名は、バルブゼス=シラフィス・アウレカリア。

 彼は、初代剣聖アルマテレアの直系の子孫にして、現剣聖、カルシフィアの次男であった。

 バルブゼスの兄、アルリヴェルトは天才であった。


 剣聖国には精霊が住まう。

 剣聖国に生まれた者は、その精霊と契約して自身の魔力回廊を差出し、魔力回廊を精霊回廊へ変じることで精霊力を行使できるようになる。

 その精霊力を用いて剣技を強化し、自国に伝わる剣技の流派を極めるのが、精霊に選ばれた者の人生における命題となるのだ。


 アルリヴェルトは全属性の精霊と契約できたのに対し、弟のバルブゼスは光、火の精霊だけだった。


 それでも兄は弟を見下すようなことはせず、むしろ自身に追い縋ろうする弟の努力が兄の誇りでもあった。

 実際バルブゼスとアルリヴェルトの技量に大差はなかった。

 

 だが、アルリヴェルトと違い、バルブゼスは剣聖国において禁忌とされる、

 ”精霊力以外で剣技の強化を行う”という項目を、一切躊躇うことなく破った。

 魔力で、魔術で、魔法で。スキルで、精霊の力も、もちろん使った。自分に足りないものを補うために、超えるべき目標のために。

 

 しかしそれが、現剣聖の怒りを買ったのだ。

 結果、バルブゼスは剣聖の子孫を名乗ることを禁止され、着の身着のまま魔物溢れる国の外へ放り出されてしまった。

 しかしバルブゼスは勤勉であったため、独学で学んだ魔術で剣を作り、大自然の中で戦いながら生きてきた。他種族とも魔物とも戦い、己の実力で勝ち続けていたのだ。

 冒険者としてケイン帝国に登録した日に、任務で出くわしたユウトと共に戦い、そして次の日には冒険者をやめて傭兵となった。

 

 それが、バルブゼスの人生だった。


 そして傭兵団はレギオ村に加わり、その村は街となって何か大きなことをしようとしている。

 その先に、いつか兄と対峙する未来があろうとバルブゼスは臆することはない。

 おそらく兄もまた、自分が目の前に現れるまでは死なないだろうと確信しているのだ。


 正統流派の剣術を極めた兄と、実戦剣術を窮めた弟。

 お互いに、どちらの方が強いか気になって仕方がない。そして、その戦いに至るまでに待ち受ける壁が、どれだけ高いのかを。


 ────────この世界には、あとどれくらい強いやつがいるのか。

 ────────それを想像しただけで、ワクワクが止まらない!


 手に持ったすべてを出し尽くしていい。その戦いを望むのだ。


 そして、バルブゼスは今、目の前にある壁を見極めている。


 「さて、始めようか」

 「良いだろう!さぁ、かかってこい!」


 バルブゼスはユウト、エスティエットはもちろん、レアンやアルナレイトにも見せていない技を使うべく、構える。


 獣人種(ワービースト)の肉体構造と龍人種(ドラゴニュート)の肉体構造を併せ持つ彼は、全身に”魔力節”というものが存在し、それが魔力を保ち、微量ながら肉体を常に強化する。

 その魔力節に魔力を流し、そして幼いころに学び、肉体に染付いた剣聖剣技を完璧に構える。

 全身の筋繊維が、骨子が、意思が、すべて戦うために切り替わる。


 (さあ、見せてくれよ魔女ニーア。お前の力の片鱗を!)


 周囲の瘴気を吹き飛ばすほどの魔力量と精霊力を同時に纏い、混合闘気として全身を満たす。

 相反する力は互いを飲み込もうと肥大し続けるのだ。


 「な、なんだこれは………面白いぞ!」


 オーヴィマもまた構える。しかし、その体から黒い霧のようなものが生じる。

 それが、バルブゼスの発生させた混合闘気を吸い込んでいるとバルブゼスは即座に察知し、自身の体内に回す。


 (なるほど、相手のエネルギーを奪うのがこいつの能力か。なら!)


 アルナレイトが魔力を完全制御していると思い込んでいた時に編み出した、体外にエネルギーを放出するのではなく体内で循環させる。


 「もう気づいたか、しかし!」


 オーヴィマが放つ気配はおぞましく、バルブゼスの意識すら吸い込んでしまいそうになる。

 その意識の揺らぎを捉えたのか、オーヴィマは不自然な速度で加速し突っ込んでくる。


 「はッ!いいぜ!正面から打ち合おうぜ!!!」

 

 バルブゼスは剣聖技を用いる。

 剣聖の技は、太古の時代に存在したとされる”原初の龍”の荒ぶる力を剣技に封印したとされている。

 その技は凄まじい破壊力を帯びているのだ。


 「剣聖剣技………龍翼八連斬(アルトー・オルクス)。」


 原初の龍が持っていたとされる八枚の翼を封印したという剣技。

 その内容は、精霊力によって生じさせた斬撃の分身を、同時に八つ放つ。

 大前提として、一度の斬撃で防げる攻撃は通常一度だけ。

 相手が手数を増やす技を持っていなければ、この技の持つ尋常ならざる力を前に消し飛ばされてしまう。


 「むぅッ!!??飛ばした斬撃との同時攻撃とな!?

 面白い!我が【過食せし者】で喰らいつくしてやろうぞ!!」


 黒い霧が一気に広がると、それは獣の口のように変形し、バルブゼスの放った剣技をたちまちに飲み込んでいく。


 「おいおい、技に変えても吸い込まれんのかよ………」

 「ふはははは!吸収した魔力量からみるに、貴様の奥の手のようだな!」

 「何言ってやがる?」


 放出系の技が通じないのなら趣向を変えるだけだ。

 バルブゼスは体内で循環させていた混合闘気を剣に纏い、そしてオーヴィマに突進する。

 大きく踏み込み、中段からの一撃を放つ。


 オーヴィマはバルブゼスから吸収した技をバルブゼスへ放った。

 

 「自分の技に当たって死ね!」

 「当たるかよ!」


 空振った勢いを活かして流れるような連続技で攻撃を打ち消す。

 バルブゼスはアルナレイトに習い、敵の圧力を躱す技を学んでいたのだ。


 (確かに戦いはパワーだけじゃねぇ。知性を持つ相手ならば猶更だ)


 バルブゼスは考える。

 自身の持つ精霊力は、オーヴィマにとって通じやすいようだ。

 その証拠に、霧は精神力に触れると打ち消されていた。

 ならば、オーヴィマに精霊力を流せば大ダメージになるのではないか。


 試してみる価値はある、とバルブゼスは再び剣を構える。

 

 全身を満たす精霊力を集め、一撃のためだけに練り上げる。

 刀身が白く輝き、周囲の霧を晴らしていく。


 (やっぱりな、瘴気は精霊力に弱い!

 なら体内から瘴気を発しているこいつには効き目があるはずだぜ!)


 剣を構えた瞬間、バルブゼスは危機感知能力のままに回避した。


 先ほどバルブゼスが立っていた場所には、なぜか生え抜きの木々が刺さっていたのだ。


 「………何しやがった?」

 「おえっ………失礼、食欲が疼き少々気を食ったまでの事。

 なに、流石に食いすぎたのか、吐き出してしまったがな、がはは!」

 「なんだそりゃ」


 しかしバルブゼスは内心納得がいった。


 (なるほど、だから過食の騎士、か。

 相手のエネルギーや食った物体を吐き出すことで凄まじい破壊力とする能力か) 

 

 過食の能力は食べた物を吐き出すとき、その破壊力を高める。

 その破壊力は侮れない。実際大木が深々と刺さっているところからそれは明らかだった。


 「要は当たらなきゃいいってわけだな」


 バルブゼスはそう結論付け、ただ接近することにのみ意識を向けた。

 回避など反射に任せればいい。


 全力で地を蹴り加速し、地面と水平に加速する

 何度か攻撃を放たれたが、真っ二つにした。


 「なぜ、なぜ止まらん!」

 「そりゃあ火力不足が足りんからだぜ?」


 剣を引き抜きオーヴィマは剣技を放つ。

 だが、やはり、発展途上の国家にある歴史の浅い剣技と、幾年も前から存在するの剣技の完成度に、何より本人同士の技量差は、圧倒的な形で現れる。

 バルブゼスの剣技は重く、早く。

 オーヴィマの剣技は軽く、無駄がある。


 徐々に押されていくオーヴィマ。間合いを取れればまた吐き出し攻撃をできたかもしれないが、しかし、バルブゼスの剣技はそれを許さない。

 力で押そうとも技と力で圧倒的に劣るオーヴィマでは、どうにもできない。


 「………なんだ、その程度か」


 バルブゼスは思う。

 魔術なりなんなりを最初に食っておけば、それを吐き出して攻撃に使った方が大木一本なんざより強い。

 なのにその発想もなく、腹が減ってという理由で大木。

 戦いに真剣ではない者に、余りにスカスカな引き出し。


 バルブゼスは強引に踏み込み魔力で強化した斬撃で大振りを放つ。

 流石にその攻撃は避ける。と読む。

 実際にオーヴィマは避けて見せた。

 だが、バルブゼスはは大振りで放った攻撃後の姿勢は、拡張戦技(エクステンド・アーツ)の発動姿勢だった。


 「決着だ」


 バルブゼスの繰り出すのは閃光雷突(フラッシュ・スタブ)

 周囲の光景が引き伸ばされるほどの速度でバルブゼスは隙だらけのオーヴィマへ一撃を叩き込んだ。

 鎧すら貫通するほどの一撃に、オーヴィマは反応できなかった。

 それほどに、バルブゼスの剣技は洗練され、一切無駄のない剣技であったのだ。


 そして、バルブゼスは剣に纏った精霊力をオーヴィマへ流し込む。

 精霊たちの力は僅かだが聖性を帯びており、ゆえにニーアによって力を与えられたオーヴィマには弱点となった。


 「「グハぁぁぁぁッ!!」」


 全身から光が漏れ出し、バルブゼスの前に倒れ込んだ。

 地に付すオーヴィマは、その肉体を瞬く間に塵へと変えて、風に乗ってどこかへ吹いて行った。

 有角人種(キャリブホーナイン)にとってニーアの与えた力はあまりにも強大過ぎて、許容範囲を超えていたのだ。


 力を浄化したことで崩壊をとどめていた瘴気が失われ、体が塵と化したのだった。


 「さて、戻らないとな………っと、ん?」


 剣を収めたバルブゼスは、いつの間にか霧が晴れていることに気づいた。

 それは、アルナレイト達が強欲の三騎士の残り二人を無力化したことを表している。


 「やっぱアルナレイト、あいつと真剣に戦り合ってみてぇな………」


 強者との戦いを望むバルブゼス。己の成長のためというものあるが、バルブゼスには単純に興味がある。

 アルナレイトの行きつく高みが、果たして自分と同じなのか。

 もし違うなら、アルナレイトの剣はどこへ至るのか。


 

 ~現在の状況~


 バルブゼスは過食の騎士オーヴィマを撃破した。

 ヌル、イオラ、ミタラの状況に変化はなく待機状態である。










 〔そこから先の光景は地獄だった。

 今に至るまで、なぜ市民たちが襲ってこなかったのかの理由がわかった。

 きっと、ニーアはそこまで読んでいたのだろう。

 あるいは、複数あるプランのうち一つだったか。


 化け物と化したドルノレド、フィゼンが唾液をまき散らしながら叫び声をあげた途端。


 瘴気に侵された市民たちが俺達を取り囲み始めた。

 俺は全力で戦った。他の皆もそうだ。

 だというのに、なぜこうなってしまうのか。


 俺は、そっと目を閉じて、ただ諦めた〕

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