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疾風バタフライ  作者: 霜月かずひこ
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第6話

「「ついたー!」」


 いよいよ迎えたインターハイ男子地区予選。

 七原学園卓球部は全員で試合会場の市民体育館にやってきた。

 俺にとってはおよそ一年ぶりとなる今日の試合。

 おかげで緊張してあんま寝れなかったというのに、今日が初となる京介は俺の隣でおおはしゃぎしている。


「廉太郎、廉太郎! 意外と人多いんだね!」

「まあ、シングルスだしな。てかお前やけにハイテンションじゃねえか」

「いやー卓球の試合って始めてだしさ、なんかわくわくするよね」

「…………そうかよ」


 お前がそんな爽やかな笑みをしてたら、もう俺は何も言えねえよ。


「私も少しだけ楽しみです!」

「私もー☆」


 同じく初の大会となる早瀬もどこか楽しそう。

 そうそう朝倉も初めてだからな…………ってそんなわけねえ!

 

「…………朝倉は緊張しねえのか?」

「緊張? 卓球で緊張なんてしたことないよ。それに試合って楽しいじゃん♪」

「……嘘だろ」

 

 絶句している俺に今宮がそっと耳打ちしてくる。


「……気にするだけ疲れますわよ? 全国大会でもこんな感じでしたから」

「まじか」


 どうやら朝倉にとって試合ってのは遠足みたいなものらしい。

 こっちはさっきから緊張で死にそうだってのに。

 …………羨ましい限りだぜ。


「そろそろ行きましょうか」

「そうだな」


 入口に突っ立ったままでいてもしょうがないのでさっさと中に入る。

 まずは適当なスペースに荷物を置いて場所を確保。

 卓球の試合は待ち時間が長いだけに休める所が必要だからな。 

 そして次は…………っと。


「京介、俺の荷物見ててくれねえか?」

「廉太郎? 何しに行くの?」

「今から出欠確認があるから報告にいかねえと」

「ん、いってらー」

「おう」


 相変わらずの軽い返事を背中に受け、俺は受付に向かう。

 幸いにも混んでいなかったのですんなりと行くことができた。 


「…………どうぞ」

「七原学園、越谷、Aブロック17.同じく三浦、Bブロック73」

「はい、七原学園さんね」


 俺の言葉に合わせて運営の先生は俺と京介の所にチェックを入れていく。

 こんな感じで基本的には参加する人のブロックと番号を言えば大丈夫。

 だけどまだ慣れてない新入生なんかだと番号を忘れたりして「そんなことも知らないのか」なんて言われたりするんだよな。

 …………マジで理不尽だったわ、あれ。


「もういいですよ」

「ありがとうございまーす」


 出欠確認はこれで終わり。

 一応御礼だけ言って、その場を後にする。

 まっすぐ皆の所へ戻ってみると、そこにいたのは朝倉だけだった。


「あ、越谷君。おかえりー」

「……おう。それよかアップしたいんだけど京介は?」

「三浦くんなら他の高校の偵察に行くってさ……あの様子だと当分戻ってこなそう」

「あの馬鹿」


 偵察もといナンパに行きやがったな。あいつ。

 俺らみたいに男女混合の高校の方が珍しいというのに。

 

「代わりに私がやろっか?」

「それはありがてえけど、周り男ばっかでさすがに浮くぞ」

「ちっちっちー。こーんな時のために秘密兵器を持ってきたんだよ」


 そう言うと、いかにも自信満々とばかりに朝倉は小さなエナメルの中からメガネを取り出し装着。


「じゃじゃーん♪ 伊達メガネー」

「……さてと京介探しにいくか」

「無反応!? せっかく買ってきたのに無反応!?」

「うるせー阿保か! こんなんで変装になるかっての!」

 

 かまってちゃんかよ、こいつは。


「えーこれでいけると思ってたんだけどなー」

「お前だってさすがに無理ってのはわかってんだろうが」


 呆れながらも俺がそう指摘すると、朝倉はバツが悪そうに頬をかいた。


「アハハ。ばれちゃった。……やっぱり似合ってない?」

「……いや、そうでもねえよ」


 メガネ自体は地味な物だが、元の素材が良いからか、なかなか様になっている。

 メガネ萌えはしない俺でも、いいなと思ってしまうくらいには。


「本当!? いい感じ?」

「だからそうだって言ってんだろ」

「……可愛い?」

「ああ、かわ……って何言わせてんだよ!」

「あははー照れてるー」


 くそ、完全に俺で遊んでやがるな。ちくしょう。

 壁ドン未遂事件の件もあって俺としては強く出れない。

 それがわかってるのか、朝倉も嫌がらせとばかりにベタベタしてくる。


「そんなに恥ずかしい? それなら……これは?」


 至近距離から俺を上目遣いでのぞき込んでくる朝倉。

 からかわれているとわかっているのに、つい胸がときめいてしまう。


「近けえよ! 離れろって!」

「えーいいじゃん。これくらい。これくらい」

「く、このアマ」


 渋面を作ってみるも効果はいま一つ。

 どうすりゃいいんだよ! このままじゃ俺の精神がもたねえ!

 頭がパニックになりかけたその時だった。

 

「――あっ! 華怜ちゃん! 梓ちゃんもおかえりー」

「ただいまですわ」

「は、はい! ただいまです」



 呑気に話す朝倉の視線につられて振り返ってみると、そこにはレジ袋を手にした今宮と早瀬の姿が。

 少し気まずそうな早瀬とは対照的に今宮は朝倉には笑顔を、俺には強烈な殺気を飛ばしている。


「寧々。とりあえず、頼まれていたものは買ってきましたわよ」

「わーありがとー」


 お菓子を渡されるなり、朝倉の興味の対象はそちらに移ったようで自然と俺から離れてくれた。

 ふう、助かった。

 女子たちが買ってきたお菓子を分配している裏で一息ついていると、どこからともなく京介がやってきた。

 

「廉太郎。はい、スポドリ」

「おう、サンキュ」

「どこいってたんだよ一体?」

「それがちょっとナン……偵察に出かけてら急に意識を失ってさ。気が付いたらここに戻ってきてたよ」

「そうか、それは残念だったな」


 なんとなく、察したのでこれ以上は聞かないでおく。

 てか、やっぱりナンパだったんだな。

 いつも通りの京介に呆れていると、今宮はそっと俺に近づいてきて……


「越谷さん」

「……なんだよ」

「………寧々に手をだしたらダダじゃおきませんからね」

「肝に銘じておきます」


 耳元でぼそりとつぶやかれたその警告に俺は全力で答えた。

 たぶんそれ以外の回答をしていたら俺の命はなかっただろう。


「よろしい……それでアップはもう済まされました? そろそろアップの時間終わりますけど」

「あーアップな。まだしてねえけど、今日はいいや。どうせ地区予選だしな」

「それはそうですが……」


 意識が高いだけあって今宮はあまりいい顔をしないが、京介は純粋に気になったのか尋ねてくる。


「ぶっちゃけ地区予選ってレベル低いの?」

「いやまあ、低くはねえけど一回戦くらいなら高校から始めたばかりの奴も交じってんだよ」


 時期はまだ四月。高校から始めた奴らは卓球歴一ヶ月未満の初心者ばかり。

 実際、卓球初めて一か月も経ってない初心者はラリーを続けるのですら危ういレベルがほとんどである。ましてや回転による駆け引きなんてもっての外。経験者にとってはヌルゲーでしかない。


「へえー。じゃあ廉太郎にとっては余裕ってこと?」

「まあな、俺だって伊達に10年やってねえよ」


 いくら衰えたとはいえ経験の差で俺に分があるはず。

 そう自信をもって答えると、会場からアナウンスがなされた。


「Aブロック17、18番次試合です」

「おっと、呼ばれたな」


 タオルとラケットケースを手に席を立ち、ジャージを脱いで予め着込んでおいたユニフォーム姿になった。

 これでよし。


「廉太郎、しっかりやってきなよ」


 そのまま向かおうとする俺に、京介からのエール。

 途端に緊張と不安が高まってきた。

 実のところ俺だって確証は持てやしない。

 初戦から経験者と当たる可能性だってなくはないのだ。

 だが俺はその全てを飲み込んで皆に告げる。


「――安心して見とけ。すぐ終わらせてやるから」


 そうして臨んだ一年ぶりの公式戦。

 結果はというと……。


「11-9。あ、ありがとうございました」


 5セット目までもつれ込む大接戦の末、辛くも俺が勝利した。

 あんだけかっこつけた手前、恥ずかしさで死にそうである。

 案の上、試合後に俺を待つ皆の目はそれはもう冷たかった。


「あれだけかっこつけておいてこれですか」

「うるせー! 俺だって頑張ったんだよ」


 そうは言うものの自分でもショックなだけにそれ以上反論できない。

 なぜなら俺が接戦を演じた相手はマジのど素人だからだ。

 はっきりいって京介と同じくらいの強さである。

 それほどの相手との接戦ということはつまりは泥仕合だったというわけで。

 とてもじゃないが擁護できないような凡ミスを連発してしまっていた。


「安心しとけ……だって、だって」


 俺が弱っているのをチャンスとばかりに先ほどのセリフを繰り返す京介。


「だぁーもう! 真似すんな!」

「やだよ、こんな美味しいネタ放っておくわけないじゃん」  


 ぐぬぬ。気を使われてお通夜みたいな雰囲気になるよりマシと考えるべきか、いじられてるのを嘆くべきか悩む。

 いや、やっぱ京介の奴は許せねえ。

 俺は恨みも込めて京介にヘッドロックをかます。


「ぐああ! 痛い! 廉太郎! 痛いって!」

「……自業自得だろ」

「何をやってるんですの? お二人とも。次の試合もありますし、戻りますわよ」

「「はーい」」


 今宮に逆らうわけにもいかず、渋々俺は京介を開放。

 そしていつの間にか部長ポジションを確立した今宮の鶴の一声で俺たちは荷物番の早瀬の元へ戻ることになった。

 ――その道中。


「越谷くん……どう? 久しぶりの試合は?」

「あ? なんだよ急に」


 意味深なことを言う朝倉に質問を返すが、上手くはぐらかされてしまう。


「いいから、いいから。どうだった?」

「まあ、なんつーか。まだわかんねーよ。一回戦勝っただけじゃ試合って感じ全然しねえからな」

「……そっか。じゃあ試合終わったら教えてね」

「別に……いいけどよ」


 ――変な奴。

 足早に駆け出していく朝倉の背中を見つめながら、俺は一人呟いた。   



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