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疾風バタフライ  作者: 霜月かずひこ
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第3話

「……であるから……この王朝は……」


 4限、世界史の授業中。

 わかりやすいと評判の先生の解説を聞く傍らで、俺は一人悶々としていた。

 ――そう、入ってしまった。

 入ってしまったのである。

 形だけとはいえ、あれほど入るまいと決めていた卓球部に。


 ……まぁ、それはこの際しゃあねえとしても、一つ大きな問題がある。

 朝倉の話が本当なら、今年の卓球部の目標は部の再建。

 もちろん大会での成績は必須となってくるだろう。

 当然、その役目は俺になるわけで。

 ――だけど俺は絶対に試合に出るわけにはいかない。

 もうあんな惨めな思いだけはしたくねえんだ。

 そうなるくらいならいっそ…………。


「はぁ、どうすっかね」


 キーンコーンカーンコーン。

 そうこうしているうちに、お馴染みのチャイムが4時間目の終了を告げた。

 俺が気づかないうちに授業も終わっていたらしい。

 視線を前に向ければ真面目なクラスメイトが黒板をきれいにしている所だった。

 そういや、まったく板書してねえな。

 ……めんどくせえから後で誰かの写せばいいか。 

 慌ててノートを埋めるのもおっくうなので、諦めて机の上を片付ける。

 テキパキと作業をしていると、見慣れた顔が目の前にあった。


「廉太郎ー昼行こうよ」


 普段通りチャラい京介の手には弁当箱が。


「ああ……って外行く気かよ。今日風強えぞ」

「いいじゃん、春風舞う中でのランチってのもありじゃない?」

「ま、京介がそういうならいいけどよ」

「決まりだね☆」 


 俺もカバンから弁当を取り出し、京介と並んで教室を出る。

 裏庭に並べられたベンチに着くと、俺たちは特に会話もないまま弁当を広げ始めた。案の定というかこんな風の強い日に外で昼食を取る奴は他に誰もいない。

 ……京介に言わせればこれもまた一興ってことなんだろうが。

 いつも通りむしゃむしゃと弁当を頬張る俺に、突然、京介は話題を振ってきた。

 

「ところで廉太郎? 卓球部の女子の中で誰が一番好み?」

「いきなりなんだよ?」

「ただの世間話だって。教えてよ」

「はぁ……そういうことはまず言い出しっぺが言うもんだろうが」

「一理あるね」


 突き放した俺の物言いにそう返すと、サンドウィッチを胃に押し込んでから、京介は語り始めた。


「まずは朝倉さん。なんと言っても可愛い。明るい性格でこっちも元気になるタイプだよね」

「ほうほう」


 まあ、外面は良いからな。

 ……外面だけは。


「次は早瀬さん、一番小柄でおしとやか。一緒にいて心が落ち着くタイプだね」

「ほいほい」


 頷きながらも、自覚する。

 最低な会話だな。


「最後は今宮さん、美人で背も高い。冷たいところもいい。そして見下されながら踏まれたい!」


 最後だけ妙に力を込めて宣言する京介に、俺は呆れたように言う。


「さっきから聞いてりゃお前の性癖を垂れながらしてるだけじゃねえか……最低だな」

「ブーメランごちそうさまです。ムッツリの廉太郎に言われたくないよ」

「うぐっ⁉」


 なまじ中学時代のあれこれを知られてるだけに、むやみに反論できない。


「ほら、じゃあムッツリくん。僕はちゃんと言ったんだから言ってね」


 この野郎。

 若干殺意が湧いたがここは大人しく京介の雑談に乗ってやることにする。

 結論が出るのにそう時間はかからなかった。


「……まあ消去法で今宮じゃねえか?」

「その心は?」

「まず、早瀬とはそんなに話したことない。よって早瀬は除く」

「確かにあんま見たことないね」

「次に朝倉か今宮だ。どっちも凶暴かつ残忍な奴らには変わりがないが…………朝倉は俺の水筒を勝手に奪った前科があるからな。よって今宮」

「ナチュラルにモテ自慢? それに廉太郎だって性癖で選んでんじゃん」

「ち、ちげえよ。今宮を選んだのはあくまで性格で……」


 さすがに京介程は欲望に忠実ではない。

 なんとか自分の名誉を守ろうとした、その時だった。


「――あら、うれしいことを言ってくれますわね」

「い、今宮、一体いつからここに?」


 なんか聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、俺たちの後ろに今宮が立っていた。

 非常にまずい!

 あんな会話聞かれてたらもう学校には行けなくなるって!


「どうでもいいですわ。そんなこと。それよりも越谷廉太郎さん、あなたに用があって来たんですの。ちょっと来てくれます?」


 いや、俺はどうでもよくねえんだけど。

 でも気にしないでくれるのはありがたいことだ。

 俺は羞恥心で悶えそうになるのを抑えつつ冷静に振る舞う。


「よ、用ってなんだよ、ここじゃダメなのか?」

「ええ、大事な話なので」

「そうか、じゃあ昼飯食ったらな」

「今すぐでは駄目ですの?」


 言葉こそ丁寧だがこちらに有無を言わせない圧があった。

 

「あ、いやその……また後でっ!」


 こ、殺される!

 動物的本能で命の危険を感じ取った俺はその場から逃走を図る。 


「もうダーリンたら、私とのデートが嬉しいからってそんなに喜ばなくても」


 訳 てめえどこに逃げようとしてんだ?


「っつ⁉ ぐへえ⁉」


 しかし今宮は逃げようとする俺を片腕で押さえつけてみせた。

 さすがの反射神経、そしてなんて馬鹿力だ。

 とても女子とは思えねえ。


「き、京介。俺たち親友だよな?」

「ごゆっくりー」

「裏切者ー!」


必死の抵抗むなしく俺は今宮に引きづられていった。


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