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疾風バタフライ  作者: 霜月かずひこ
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第23話

「……俺の負けか」

 

 敗北を認めて俺は床に倒れこむ。

 もう腕一本すら動かせない。

 体力も完全に尽きている。

 だというのに朝倉はケロッとしていて、二重の意味で負けた気分だ。


「……ふう」

 

 深呼吸をして体を休めていると朝倉がやって来た。


「いえーい♪ 私の勝ちだね」

「……そうだな。約束通りお前の言うこと何でも1つ聞いてやるよ」

「うーん。それなんだけどどうしようかな」


 朝倉は、しばし考え込んでから一言。


「なら聞いてくれる内容をあと3つ増やして」

「おい」


 まさかそんなテンプレみたいなことを言われるとは思わなかった。


「えーダメなの?」

「……いやいいぜ。細かい決まり作ってなかった俺にも問題はあるしな」

「やったあ。じゃあ2つ目は……越谷くんを好き放題していいってことで」

「あ、朝倉? 待ってくれ。それはいくら何でも」

「やーだよ」

 

 にたにたと残忍な笑みを浮かべながら。

 朝倉は俺に馬乗りになって、そして。


「こちょこちょこちょ」


 無防備な俺をくすぐり始めた。

 

「あははははっ! 頼む! 朝倉頼む! 笑い死ぬからこれ以上は」

「なんでも聞いてくれるんでしょ?」

「そ、そうだけどっ! あはははは! やめろぉ! あははははっ!」


 俺は必死に抵抗を試みるが、力が抜けてしまい、振りほどけない。

 好きなだけ朝倉のおもちゃにされている。


「あー楽しかった」

「はあ……はあ……はあ。死ぬかと思ったぜ」


 しばらくして朝倉がくすぐるのをやめたおかげで、俺は地獄から解放された。

 ……にしても想像と違う。

 てっきり「肉まん買ってこい」だとか、「もう二度と関わらないでほしい」とかそういう系の奴だと思ってたんだが。


「そーんな顔しないでよ。ほら起きるの手伝うからさ」

「……助かる」


 もはや俺の腹筋は死んでいるし。

 朝倉に手を引かれる形で、俺は上体を起こした。


「ありがとな。お前のおかげで……っ!?」

「ねえ3つ目のお願いなんだけど、このまま振り返らずに聞いてほしいな」


 だが振り返ろうとして、朝倉に後ろから抱きしめられた。


「ごめんね越谷くん。無神経なこと言って。せっかく謝ってくれたのに引きずったりして」


 背中越しの朝倉の声は震えていて、緊張が伝わってくる。

 ……でもそれは先に俺が言わなければならないセリフで。


「なんでだよ朝倉は全然間違ったことしてねえだろ……むしろ俺の方こそひどいこと言ったりしてごめん」

「……うん。お互いチャラってことで私と仲直りしてくれないかな?」

「ああ、もちろんだぜ」


 ……ひどいマッチポンプだな。

 なんて自嘲しながらも俺は朝倉の提案を受け入れた。

 それが嬉しかったのか、背中から感じる熱量も一気に増える。


「でね仲直りした所で最後のお願いなんだけど……」


 そして遠慮がちに朝倉は尋ねてきた。


「越谷くんのこと廉太郎くんって呼ぶから、私のことも寧々って呼んで貰ってもいい?」

「……なんだそんなことかよ」


 拍子抜けだぜ。

 もっと欲張ってもいいのにな。

 俺は内心で歯噛みしながらも、彼女の名前を呼ぶ。


「――寧々。これでいいか?」

「…………もう一回」


 リクエストがあったのでもう一度。


「――寧々」

「…………っもう一回」

「――寧々」

「……う、うん。もう大丈夫。ありがとね廉太郎くん」

 

 ……うぐっ。

 名前を呼ばれるってのは結構恥ずかしいな。

 朝倉の狙いはこれか。

 妙に納得した気でいると、背中から俺を呼ぶ声がした。


「ねえ廉太郎くん」

「……なんだよ」

「私ね、実はずっと前から廉太郎くんのこと……」

「寧々! お待たせしましたわ!」


 朝倉が何かを言いかけたその時、扉を開けて颯爽と今宮が登場し、


「っ!?」

「ちょっ!? あさく……ぶふっ!?」


 慌てた朝倉によって俺は突き飛ばされ、床に顔面を打ち付けた。


「どうして越谷さんは床と濃厚なキスをしていますの?」

「さ、さあ? 床が大好きだったのかもね」


 ……お前のせいだよ。

 と言いたくなるのを抑えて、俺はなんとか自力で起き上がる。


 『何が言いたかったんだ?』


 と視線を送ってみるも、朝倉はぶんぶんと首を横に振るだけだ。

 もうそのことには触れないでほしいと言わんばかりである。

 ……まあ、こうして体力を回復できただけでもよしとするか。


「良かったですわ。お互いちゃんと解決できたようですわね」

「うん♪ 華怜ちゃんありがとう」

「俺からも……ありがとな」

「れ、礼には及びませんことよ」


 照れて視線を逸らす今宮は新鮮でなんだか面白い。

 朝倉も嬉しそうに今宮に抱き着いているし。

 何はともあれ元通りになってよかった。

 仲睦まじい二人の姿を眺めながらそんなことを考えていると、朝倉がこんな提案をしてきた。


「そうだ! せっかくだし皆で卓球しようよ」

「いいですわね。やりましょう」

「あー俺少し休んでてもいいか? あと人数が3人ってのはちょっと」

「それなら心配ありませんわ。ちゃんと呼んでありますから」


 どっかで聞いたことのあるセリフだな。

 俺は既視感を覚えつつ、今宮の視線の先を辿る。


「ほら」


 と今宮に雑な紹介をされたのは泉岳寺。


「華怜。俺は緊急事態だと聞いていたのだが」

「ええ、ですから緊急事態でしょう? 何か問題でも?」

「はあ……いいや。俺の勘違いだった」


 自分に言い聞かせているかのような泉岳寺の肩に俺は手を置いて。


「なんつーか……その……ご愁傷様」

「平気だ。別に慣れている」


 健気すぎて泣けてくるぜ。


「……まあ、やるか」


 人数も揃ってしまったし、卓球は好きだからな。

 体力が尽きたら……なんてのはそうなった時に考えればいい。


「よっし! 負けねえからな!」


 勝負はダブルス。

 泉岳寺とペアになった俺は、意気込んで宣戦布告をしたのだが、なぜか皆から重い思いの反応をされる。


「……越谷、お前変わったな」

「……なんか生き生きしてますわね」

「うんうん♪」

「そんなにか? まあ変わったつーか、元に戻ったって感じだよ」

「「へー」」

「う、うるせえよ! いいからやろうぜっ!」


 珍妙なモノでも見ているかのような視線に耐えきれなくなり、俺は逃げるように大きくトスを上げた。


「あー!」


 朝倉たちは驚いていたが、


「……いい度胸だね」

「……覚悟してくださいまし」


 すぐに切り替えてラケットを構え直している。

 相方の泉岳寺も「任せる」とだけ言って、次の打球に備えてくれている。


 「……ああ、今度もまた楽しめそうだぜ」


 俺は確かな期待と共にラケットを振った。

 こいつらとなら、きっとどこまでもいけると信じて。


疾風バタフライこれにて完結です。

廉太郎たちの物語は一旦終わりとなります。

ここまで読んでくださった皆様には感謝しかありません。

まさかいいねや感想まで貰えるとは思ってもいませんでした。


処女作ということもあってツッコミどころも多々あったかと思います。

時間があまりなかったので「ルビや人物名の間違い」くらいしか修正できませんでしたが、いつかまた廉太郎たちの物語を書く際にはもっとクオリティを上げた作品に仕上げてみせます。

構想としては夏合宿や全国大会などもあるので、次はそこまで書き上げたいです。


それでは最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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