第12話
「とまあそんなわけで俺は1回戦負けだ」
試合が終わってしばらくして、俺は後から合流した今宮たちに結果を報告していた。
「……そうですの。それは残念でしたわね」
「ははっ、わりいな。せっかく練習見てもらってたのによ」
「ええ、まあそれはそうですが」
「それくらい気にしないでよ。私は越谷くんとするの楽しかったし」
少し不満を見せた今宮の言葉をさえぎって朝倉は俺に微笑んだ。
この場合、普通なら俺を気遣っての反応なのだが、朝倉はそれとは違うわけで、
「本当にお疲れ様……膝枕してあげよっか?」
「寧々!?」
驚く今宮が俺に当たりついて来ないよう、俺は即座に否定する。
「結構です……てかそういうテンションじゃねえから」
「ごめん、ごめん。越谷くん見てるとついね」
…………こいつ。
さすがにツッコム気力はないので、聞き流して、気になっていたことを聞いてみた。
「なあ朝倉から見て道畑浩二ってどうなんだ?」
「男の人として…………じゃなくて選手としてだよね?」
「おう、よくわかったな。そのままだったらさすがの俺も顔面にパンチしてるぜ」
俺の言葉に「もー怖いよ」と苦笑いして朝倉は答える。
「うーん、難しいな。あえて言うならつまらない……かな」
「つまらない?」
「それだけ正統派ってことですわ。彼のスタイルは教科書通り基本に忠実な卓球。王子様って言われてるのは、彼がかっこいいからだけではなく、王道を往くプレースタイルも影響していましてよ」
「へー今宮もかっこいいって思うんだな」
意外だったので思わず声を漏らすと、今宮は俺を少し離れたところに連れて行ってから尋問してくる。
「越谷廉太郎、あなたは私をなんだと思ってますの?」
「いや、ああいうのが好みなんだなって。それに女性が好きなんだと思ってたから」
「はぁ、私が寧々を好きなのは寧々だからであって、別に恋愛対象が女性というわけではありませんわ。殿方をかっこいいと思うことだってありましてよ?」
「……そうなのか」
「まあ、どちらかというと翼君の方がタイプですけどね……ともかく偏見はよくありませんわ」
「すまねえ。わるかったな」
確かにデリカシーがなかった。
こういうのは反省だな。
「別によろしくてよ。わかってもらえたらそれでいいですし、私としても理解者が増えるのはありがたいですから…………んん! 話が逸れましたけど道畑浩二についてでしたわね?」
「おう、助かる」
「凄技を連発する寧々からすれば無駄のない道畑浩二さんはつまらないってことなんでしょう。そもそも人に興味がない寧々にとっては強さは二の次、印象に残ったかそうじゃないかが全てですわ。もちろん彼を認識してる分、強さは認めてるってことですけど」
「あー確かに朝倉ならありそうだな」
「ええ! 私だって覚えてもらうの大変だったのに、どうして一度も対戦したことがない越谷さんが覚えてもらえてるか不思議なくらいですわ!」
……知らねえよ。
俺だって不思議なくらいだっつーの。
なんて実感の籠った怒りを見せる今宮には言えないので黙ってると、朝倉が背後から声をかけてきた。
「もー私のこと忘れてない?」
「寧々!? いつの間に?」
「……今きた所。二人とも私をハブにするなんてひどいよ」
「ご、誤解ですわ。私はそんなつもりは……」
ぷっくり頬を膨らませて不満をアポールする朝倉にたじたじの今宮。
それを見て朝倉はいたずっらっぽい笑みを浮かべる。
「ふふっ。冗談だよ。でも越谷君はもうちょっと反応してくれてもいいんじゃない?」
「うっせ」
「あだっ!?」
ムカついたので朝倉にデコピンを入れる。
今宮から一瞬殺気を感じたが気にしない。
朝倉が悪いのだ。
でも朝倉に気を使われていたら、それこそ俺は駄目になっていたかもしれない。
今宮にだってなんだかんだ世話になりっぱなしだもんな。
「朝倉、今宮。その……ありがとな」
「どういたしましてだよ。ね? 華怜ちゃん?」
「え、ええ」
誇らしそうに語る朝倉と渋々といった感じの今宮。
いつも通りの二人を見て気が多少楽になった。
だが俺たちがそんなやり取りをしている間にも時間は進んでいく。
そうしてついにコートでは松陰と道畑浩二の試合が始まろうとしていた。




