第6話
ヒロシに医者を目指せと言われてから三日後の午後八時、俺が予備校から家に帰ってきて玄関のドアを開けると母がニコニコしながら出迎えてくれた。
「お帰り。今日、ユウジが食べたがっていた物が届いたの。晩ご飯の後に出してあげるから楽しみにしててね。」
「(俺が食べたがっていた物?何だろう?)」
母の発言で気になったことを考えながら、とりあえず洗面所へ行った。うがい、手洗いをしてからリビングへ向かうと既に晩ご飯の準備が出来ていた。父と母はもう食べ終わっていたらしく、父はリビングのソファーに腰掛けテレビを見ていて、母は台所で洗い物をしていた。俺はテーブルの前に座って晩ご飯を食べ始めた。二十分後にはすべて食べ終わり、食器を台所へ持って行った。
「洗っちゃうからそこに置いといて。」
と言われただけだったので、母がさっきの発言を忘れているのではないかと思い
「ねぇ、俺が食べたがっていた物って…。」
と俺は直に聞いてみた。母はそこで思い出したかのように
「ああ、そうだったわね。持って行くからちょっと待ってて。」
と言ったので、俺はリビングの自分の席に戻った。しばらくして冷蔵庫から取り出してきた何かを持った母がやってきた。
「じゃーん!」
効果音を言いながら母が俺の前に置いたのはゼリーだった。
「(あれ?俺ゼリーなんか食べたいって言ったっけ?)」
と疑問に思い
「これって…?」
と母にぼかして質問してみた。すると母はまたニコニコしながら
「ユウジ、枇杷食べたいって言ってたでしょ。だから枇杷ゼリー!お店では売ってなかったから千葉県に住んでいるあなたの伯父さんにお父さんが頼んで送ってもらったのよ。残念だけど生の枇杷は旬が過ぎてたから無理だったみたい。」
と説明してくれたが、後の方は少し俺に申し訳なさそうに説明していた。
「(そっか。ビワコのことを思い出して何の気なしに『枇杷を食べたい。』って言った俺のために父さんと母さんはそこまでしてくれたのか。)」
俺に対する両親の愛情を実感していた時、俺は久しぶりにビワコのことを思い出していた。
「(そういえばビワコと最後に会ったのは中学の卒業式の日だったな。お互い携帯を持っていなかったからメアドも交換していなかったっけ。)」
と懐かしみながら枇杷ゼリーを一口食べると嘘みたいだが卒業式の日の記憶がワッと蘇ってきた。
「あ~あ、ユウジくんたちとは別の高校か。」
「ビワコがもう少し勉強頑張ってれば一緒に○○高校行けたのにな。漫画の読み過ぎじゃないの?」
「違うって!人にはいくら頑張っても出来ないことがあるんだよ!でもユウジくんは頑張ってね。医者になるんでしょ。」
「ああ。見てろよ!絶対に医学部に入ってやるからな!」
「あははは。もう見れないけどね。」
そこまで思い出して笑いがこみあげて来るだけではなくて俺はある決意をした。そしてそれをすぐに両親に伝えようと思った。
「父さん。母さん。聞いてほしいことがあるんだけどいいかな?」
「何?どうしたの?」
「俺さ、やっぱり医者を目指そうと思う!だから医学部のための受験勉強をしようと思う!勿論、お父さんやお母さんに予備校の費用を出してとは言わない!俺バイトして予備校の費用と大学の学費を稼ぐよ!そして何年かかってでもいいから医学部に合格して、将来は国境なき医師団で働こうと思う。回り道しちゃってごめん!でも諦めたくないんだ。」
俺は言いたいことを矢継ぎ早に口に出した。
すると母さんがまず口を開き
「分かった。頑張ってみなさい!いいわよね父さん?」
と、言ってくれた。すると父さんも
「ああ。絶対に医者になるんだぞ!」
と、俺のことを応援してくれた。
まさかこうもあっさり認めてくれるとは思わず俺は拍子抜けした。
「ホントにいいの?」
「ええ。ユウジがまた医者を目指したいって言いそうなのは枇杷を食べたいって言ってきた時から分かってたの。おじいちゃんも枇杷好きだったものね。」
と、母さんが泣きながら言った。
「(おじいちゃん、枇杷好きだったんだ…。)」
ほとんど記憶にない、もしくは初めて知った情報を聞いて今更ビワコのことを口に出すことも出来ず、しんみりとした感じで
「そうだよね。好きだったもんね、枇杷…。」と、俺は話を合わせた。




