第5話
「それは『もう一度医者を目指すべきだ!』というビワコからのメッセージだと思う。」
前日にビワコについて思い出したことをヒロシに話していたら、ヒロシが俺の目をジッと見つめながらそう言ってきた。この日の朝は俺の体調を心配した母が
「今日は休んだらどう?」
と言ってくれたが、この日は予備校の授業で一番楽しみにしている西本先生の数学の授業があったし、ビワコについてや医者を目指さなくなったことについてなど、ヒロシに話したいことがあったので
「熱もないから大丈夫だよ!他の人に迷惑かけないようにマスクもしていくからさ!」
と返答して半ば強引に予備校にやって来た。
そして前日と同じく昼休みに食堂でヒロシと話していたら、真面目なトーンでヒロシが前述した発言をしてきたのだった。
「俺もそう思わなくもないけどさ、それだったらビワコじゃなくて俺のおじいちゃんが出て来るべきじゃないかと思っちゃうんだよな。ビワコのことなんて昨日お前に言われるまで忘れていたくらいなんだぜ。」
「いや、それだと効果がないからだよ。」
「効果がない?」
「だってそうだろ。ユウジがユウジのおじいちゃんのために医者になろうとしていたけど、高校の数学に付いて行けなくなって一度諦めてるわけじゃん。そこで諦めない理由にしてもらえなかったユウジのおじいちゃんが夢に出るだけでは、もう一度医者を目指す理由としては弱いと思ったからビワコが夢に出て来たんだろう。ほら、伊勢物語を授業でやった時、習っただろ!昔は自分のことを思ってくれている人が夢に現れると思われていたって!」
「昔はだろ!今は科学的にも自分が思っている人が夢に現れると考えられているんじゃないのか?」
そこまで言って俺はハッと余計なことを言ったことに気が付いた。ヒロシの顔を見るとニヤニヤと、してやったりという顔をしていた。
「ちょっと待て!今のは語弊がある言い方をした。嫌いな奴でも何故か夢に出てきたりするじゃん?それは思っている相手とは違うじゃん?だから良くも悪くも印象に残っている奴が夢に出て来るだけで、俺がビワコのことを思っている訳ではないんだぞ!」
「まあまあ、ビワコが夢に出てきたのがビワコからのメッセージでもお前の潜在意識でも、どっちでもいいからユウジ、お前は医者を目指した方がいいと俺は思うね。」
俺が必死に言い訳しているのをよそに、ヒロシは真剣な表情で医者を目指すよう勧めてきた。俺はヒロシの真剣な表情を見てここで適当なことを言ったらダメだと思い
「分かった。よく考えてみるよ。」
と返答した。
「あ、そろそろ午後の授業始まるな。教室に行くか?ユウジ?」
「そうだな。西本先生の授業が午後にあるから楽しみにしてたんだよ。」
俺とヒロシは食堂を出て教室へと向かった。
午後の西本先生の授業が楽しくて、ヒロシに言われたことを考え直すのをすっかり忘れてしまった。更にそれ以降ヒロシがビワコのことや医者を目指すことを聞いてくることもなくなり、ビワコが俺の夢に出てくることもなくなった。そのため、また医者を目指してもう一度頑張るかという根本的な問題も頭の隅に追いやられてしまった。




