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未知との遭遇



 幼いローラは岩の上に腰掛けながら、景色の奥にある青い空を見つめていた。


 周囲にぷかぷかと4色の本を浮かべながら、とても退屈そうに、無機質な表情を浮かべている。




「つまらない…」


 私は退屈していた。

 “叡智の書”と呼ばれる4つの書物を入手した時から、私の中で“未知”という言葉は消え去り、知らないことや分からないことがなくなってしまった。



「つまんない」


 私は岩からスッと立ち上がり、サッと手を出すと、目の前を通り過ぎようとした活発そうな女の子の腕を掴む。


 その瞬間、その子は足を滑らせて前のめりに転びそうになる。そのまま行けば岩肌へ顔面をぶつけていて、大怪我に繋がっていただろう。


 しかし、私が彼女の腕を掴んだことで、少女は転ぶこともなく、大怪我をすることもなかった。



「あ、あ「いいえ、お礼は要らないわ」



 活発そうな少女の言葉を遮ったのにも関わらず、彼女は嫌な顔ひとつもせず、礼儀正しくお辞儀すると、ニカっと太陽のような笑顔を浮かべてから、そのまま元気そうに岩山を飛び回っていく。



「…つまらない」



 少し未来のことすらも叡智の書は私に教えてくれる。分からないことや知らないことはないと言ったが、強いて言えば、先の未来のことは確かに分からない。


 でも、少し先の未来のことが分かるだけでも、人生から色を奪い、退屈が支配する。

 ネタバレされた絵本を無理やり読まされているような気分だ。



 物事に喜怒哀楽を感じない。

 叡智の書によって近い未来の出来事を繰り返し見せられているからだ。


 どんな感動的な舞台だって、何度も見えれば飽きてしまう。

 私の人生はまさに何度も何度も強引に見せられている見飽きた舞台のようだ。



 そんな、まるで人形のように無感情で生きていた私の前にグリッド君は現れた。




「やぁ…その青い髪…とても素敵だね」


「…?」


「まるで青空のような、そんな綺麗な色をしているね」



 急に目の前に現れた軽薄そうな茶髪の少年

 その気配に気付いていたけれど、未来予知には出てこなかった少年だ。


 だからか、私は彼が目の前に現れたことに驚きを覚えていた。

 驚いたからか、胸が高鳴っていくのを覚えている。



「…何?」

「君の隣に座らせてもらえないかい?」


「どうぞ…」



「よいしょ…」

「…」


「ねぇ…喉乾いてない?」

「…別に」



 グリッド君は水筒を取り出すと、2つの器に中身を注ぎ始める。



「じゃ、これ」

「…」


 私は無言でグリッド君から水筒を受け取る。

 分からない。


 この胸の高鳴りはなんだろう。

 次、グリッド君が何をするか予測ができない。分からない。



「君の瞳に…乾杯!」


 そう言って水の入った水筒を、私へ向けてクイっと持ち上げるグリッド君


 彼が何をしたいのか分からない。

 そんな気持ち悪さだけが私の心を支配していた。



 あれ?

 何をしたいのか…わからない?


 私が…分からない?



 彼は…分からない…



 知りたい…




「…どうだい?僕と一緒に高原を散歩でもしないかい?」


 口元をキラリと光らせて私を口説いてくるグリッド君



 自然と私は、昂揚する胸を押さえながらコクリと頷いていた。



 未知との遭遇

 それは私の人生に興奮を与え、モノクロだった世界をカラフルに染め上げてくれた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「うふふふ…分からない…何度見ても…分からない」



 目の前でガチャンガチャと鋼鉄の鎧を鳴らしながら階段を降りていくグリッド君


 そんな彼へ私ローラは『青の本』を向ける。

 これは相手の“ステータス”を覗けるスキルだ。




++++ステータス++++

■名 前:グリッド

■レベル:[*\%\‘_$

■職 業:’_$;*|“{・

■パネル:&-&:8:‘a



■所持スキル

 『くぁwせdrftgy』

 『神の書』

 『」-8:73^_^』

 『いくじゅhygtくぁsw』

 『yぬwバカーおくぃあm』

 『*_*[^;・sぁまm』

 


■能力値

 ・力 :ー

 ・体力:ー

 ・魔力:ー

 ・精神:ー

 ・早さ:ー

 ・運 :ー



■所持ポイント:

 →スキルパネル



+++++++++++++




 何度、彼のステータスを覗き見ても、そこに書かれているスキルや能力値は意味ある言語で表示されていない。


 彼はまさしく“未知”でできているのだ。

 未知…未知、未知、未知!!


 嗚呼…何て…美しいの…



「ん、ローラ、ヨダレ」

「…ええ、ありがとう」



 ミュウに指摘されて私はハンカチで口元を拭う。気を抜くと、すぐにグリッド君へ夢中になってしまう。



「あ、ミシェルちゃん」

「ん?何よ?」



 私はハッとしてミシェルを呼び止めると、彼女は相変わらず不機嫌そうな声で反応する。



「そこ、罠がある。真ん中を歩いて」



 目の前に広がるのは石造りの薄暗い通路だ。それなりに広い通路であるが、どこに罠が仕掛けられているか分からないため、変に走って進むことができないでいた。



「え?…ここ?」

「そう」



 通路の真ん中をミシェルは言われた通りに歩いていくと、彼女が床を踏み抜いた瞬間、カチャという音が響き、壁から矢が何本も彼女へ放たれていく。



 矢がミシェルへ命中すると、まるで鋼鉄へ銃弾を放ったような甲高い音が響く。


 そして、ボキボキっと折れた矢が地面には転がっているが、当のミシェルはまるで平気な様子だ。




「…罠に掛かったじゃない!?」

「おかしいわね…?」



 ミシェルに責められて首を傾げるローラ

 誰の目から見ても白々しい。



「おかしくないわよ!アンタの叡智の書で!このトラップは見抜けてたでしょ!?」






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