いざ!迷宮!
「いたっ!」
1人の木の枝を持った少年が不意に尻餅をついた。
「あ!…違う!違うの!」
彼の前には驚いた表情の幼いミシェルがいる。
彼女も手に木の枝を持っており、2人はチャンバラごっこでもしていたのだろう。
「おい!」
「大丈夫か!?」
すぐに倒れた少年へ、周囲から子供達が駆け寄ってきた。
彼らは心配そうに少年を見つめるのだが…
「大丈夫!?」
「…赤くなってるじゃん!」
少年を心配そうに見つめながらも、チラチラと苛立った様子でミシェルを見つめてきていた。
その様子にハッとしたミシェルは
「ご…ごめんね」
そのままミシェルも駆け寄っていき、尻餅をついている少年へと手を差し伸べる。
しかし、その少年は険しい顔で幼いミシェルへと叫ぶ。
「いてぇな!何すんだよ!?横に剣を振るって言ってたじゃん!」
「間違えちゃったの…わざとじゃないよ!」
少年に険しい顔を向けられてもなお、心配そうに彼を見つめているミシェル
そのまま、少年は額に手を当てながら立ち上がる。
「もう!ミシェルなんかと遊ばない!」
「俺も俺も!」
「どうして?」
「乱暴だからミシェル嫌い!」
「ミシェルちゃん!やだ!」
「え…?」
立ち上がった少年は、ミシェルが差し伸べようとしていた手を払い除ける。
すると、次々に、別の子供達がミシェルの拒絶を始める。
「俺もやだ!」
「あっち行こうぜ!!」
「「うん!!」」
「待って!」
ミシェルの前からスタコラサッサと去っていくのは村の子供達だ。
草原の奥へと去っていく子供達の背中を見つめながら、ミシェルは寂しそうな表情を浮かべていた。
「…いいもん…1人で遊ぶから…」
幼いミシェルはそう呟くと、ふいっと顔を不機嫌そうに背ける。
しかし、だんだんと彼女は全身を震わせ始め、やがて、その目元を左と右の腕で交互に拭い始めた。
「寂しく…ない…もん…!」
目元を何度も何度も腕で拭うミシェルだが、止めどなく涙が溢れてきていた。
「わざとじゃない…力…すごく…抜いたのに…」
ミシェルはそのまま膝を折り、崩れるようにしゃがみ込む。
「好きで…剣聖…なんかに…産まれたわけ…じゃない…のに!」
目元を両手で覆いながら泣いているミシェル
そんな彼女の前にフラリと同じ歳ぐらいの少年がやってくる。
「へい!お嬢さん!」
「…?」
両手を動かして目の前を覗くと、そこには茶髪の少年がいた。
キザったらしく膝をつきながら、スッと自分へハンカチを突き出していた。
「そんなに泣いてちゃ…いけない」
「…何?」
「僕かい?…僕はグリッド…君のナイトさ…」
キラリと口元を光らせながら微笑むグリッド
「ナイト?」
「そうさ…僕が君を…うん…守るよ!」
「守る…?」
「うん…君の涙を拭かせてくれないかい?」
そう言ってハンカチを掴んだ手をスッと私へ向けてくるグリッド
「え…?」
最初は気持ち悪いと私は感じた。
今思うと、かっこよくて素敵で仕方ないのに…
「どうして泣いていたの?」
「…」
私は顔を伏せる。
子供ながらに、1人で寂しいなんて知らない人には言えなかった。
「…ね、僕と遊ばないかい?」
「へ?」
私は顔を上げると、そこには満面の笑みを私に向けているグリッドの顔があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さ、ここが迷宮ね!」
ミシェルは両手を腰にあてながら苔の生えた石畳の奥を見つめる。
そこにはピラミッドのような建物があり、建物全体を蔦が覆っていた。
ピラミッド全体は熱帯雨林のような森に包まれており、湿気がじわじわと体力を奪ってくるような場所だ。
「ん、ここ、すごく、深い迷宮」
「そうね…最高ランクの迷宮と…この書物には記録されている」
ミュウとローラがそんなミシェルの後に続く。
「…もごご…もご…もご」
そんな彼女達の後ろから、顔を鉄仮面で覆い、全身に鋼鉄の鎧を身につけたグリッドが姿を現した。
「…鉄仮面を開けないと、何を言っているのか分からない」
ローラは少し呆れたように呟きながら俺が装備している鉄仮面を開く。
仮面はパカりと上に開けられるようだ。
ほとんど閉ざされていた視界がパッと開けると、俺の目の前には真っ白い光景が広がっていた。
「あちぃ…死ぬ…」
俺はそう遺言を残すと、そのまま前のめりにバタリと倒れた。
ガチャンと石と鉄がぶつかる音が響く。
「ちょっと!グリッド!!しっかりして!そんなんじゃ私のナイトになれないわ!」
ミシェルの謎の発言を最後に、俺の意識は暗転していく。
多分、熱中症だろう。