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とある街の一幕



 こじんまりとした敷地の中に、大量の剣や槍、斧が立てかけられており、ズラリと店内に敷き詰められて並んでいた。


 そんな店の奥にはカウンターがあり、そこには片目に傷のあるガタイの良い男性が座っている。



 店の入り口のドアが開き、カランカランと来客を知らせるベルが店内へ鳴り響くと、カウンターに座っている男性は、その厳つい顔にある瞳をギロリと入り口へと向ける。



「…マスター、ご無沙汰」



 店内へ入ってきたのは全身を鈍い銀色の鋼鉄の鎧で包んでいる剣士風の男性だ。

 金色の髪と堀の深い顔をしており、歴戦を思わせる出立である。


 入店した男性を見たマスターは、ニカッと厳つい顔を歪めて笑う。



「おう…ギニアス…おめぇ、この間、ランクBに昇格したんだってな!」

「ああ…」



 マスターとは対照的に浮かない顔をしているギニアス

 彼の様子を怪訝そうに見つめるマスターは問いかける。



「おう、浮かない顔だな…ちゃんとメシ食ってんのか?」

「…」


「…で、今日はどうした?」



 無言のギニアスに対して、踏み込むことをやめたマスター

 彼は要件を素直に尋ねることにした。



「ドラゴンスレイヤーがほしい」

「あん?」


 ギニアスは目に黒い炎を宿らせながら言う。

 そんな彼の反応を見逃さないマスター



「…金さえあれば売ってやる…が…」

「金ならある!」



 ギニアスはマスターの前にドンっと金貨が溢れんばかり詰まった袋を乗せた。



「…おう、ドラゴンスレイヤーなんてもん、何に使うつもりだ?」

「関係ないだろ!!」



 ギニアスはマスターへ激昂したように叫ぶ。

 いや、むしろ、彼の目元は滲んでおり、悲しみが心を支配しているのだろう。



「…龍を相手に仇打ちか?」

「そうだ!!ベルグドも!アイルも!奴に食われた!!」


 拳をカウンターに打ちつけながらギニアスは叫ぶ。



「殺してやる!絶対に俺はあのドラゴンを殺してやる!!」

「…お前さんはランクBの冒険者だ。ドラゴンをやろうってんなら、止めねぇさ」


 マスターはそう言ってカウンターの奥へと去っていくと、すぐに緑の透き通る刀身を持つ剣を持って戻ってきた。



「これは…」



 マスターが持ってきたドラゴンスレイヤーを前に、ギニアスは驚きを露わにしていた。

 彼がマスターへ頼んだ商品にも関わらず、そんな彼が驚くのは意外であるかもしれない。


 しかし、それもそのはず。

 通常のドラゴンスレイヤーの刀身は緑色であり、決して透き通ってはいないのだ。

 


「違う…間違いなく…ドラゴンスレイヤーだけど…違う!」



 マスターが持ってきたドラゴンスレイヤーの刀身は透き通っており、ギニアスが知っているドラゴンスレイヤーとは、そのデザインのみならず、その存在感すらも違いを漂わせていた。



 そんなギニアスの疑問を前に、マスターは彼へ説明を始める。



「…ドラゴン地方で採れるオリハルコンを混ぜてある」



 マスターは人差し指と親指の間にビー玉ぐらいの隙間を作る。

 まるで、そんな一粒程度を混ぜましたと言った様子だ。




「っ!?」



 マスターの言葉にギニアスはギョッとした表情を浮かべる。

 彼は"ドラゴン地方"という言葉にギョッとしていた。



「切れ味…特に龍相手にはよ、普通のドラゴンスレイヤーとは比べ物にならねぇほどの威力があるぜ」


 そう言ってマスターはカウンターの上へ緑の透き通る刀身の剣を乗せる。



「…マスター!こんなもの!俺じゃ買えない!!」



 ギニアスは首を左右に振りながら、目の前のドラゴンスレイヤーを見つめていた。

 オリハルコンで作られたドラゴンスレイヤーならば、今のギニアスでも買おうと思えば買える。

 しかし、ドラゴン地方のオリハルコンが混ぜられたドラゴンスレイヤーならば話は別だ。



「金はイラねぇ!だから、こいつは貸してやる!」

「貸す?」



 マスターはギニアスの両方をギュッと掴む。



「そうだ…必ず返しに来い」

「っ!?」



 マスターの言葉の意図を察したギニアスは目を潤わせ始めた。




「どうして…そこまで…?」

「お前は…俺の兄貴の息子だ…簡単には死んでくれるな」

「…おう…絶対に返しにくる…」




 ギニアスは目元を強引に腕で拭うと、カウンターに置かれているドラゴンスレイヤーを背中の鞘へと納める。




「…マスター、ドラゴン地方のオリハルコンなんて、どうやって手に入れたんだ?」


 ギニアスは好奇心からかマスターへと尋ねる。

 すると、彼は肩をすくめながら答えた。



「金のねぇガキが、装備と物々交換してくれって、俺へ持ってきたんだぜ」

「ガキが…?」



 ギニアスは笑いながら語るマスターを前に怪訝な顔をしていた。

 冗談を口にしているのかわからない様子だ。



「ああ…あの顔、もしかすると奇面村のガキかもな」



 マスターは自分でも分からないといった様子で語る。



「…ドラゴン地方に人の村があるなんて、そんな伝説、子供でも信じない…ま、どこぞのランクS冒険者のガキだったんじゃないか?」

「そうかもな」



「…それじゃ、俺は行くよ」


 ギニアスはそう言って笑うと、マスターへ手を振りながら店を後にした。

 マスターもギニアスを笑って見送ると、店内で1人になった彼は呟いた。




「…とんでもねぇバケモンだったのは確かなんだがな」




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