ローラ
「今日は迷宮へ行くわよ!」
「へ?」
俺は今日もいつものように追いかけ回されるのかと思っていた。
唖然とする俺へミシェルは小悪魔のような可憐な顔をムッとさせて俺へ近づけてくる。
「何よー!嫌なわけ?」
どこか不安そうに言い放つミシェルを前にして俺は首を縦に振る。
もちろん、迷宮などと物騒な場所へ行きたくないが、そもそも俺に拒否権など存在しない。
「…っ!!」
俺が首を縦に振ると、ミシェルは飛び跳ねる勢いで両手を挙げて喜びを露わにしていた。
そんなに迷宮で俺をいじめられるのが嬉しいのだろうか…?
「…で、どうして迷宮なんて行くの?」
「ふふーん!良くぞ聞いてくれたわね!」
ミシェルは鼻を人差し指で擦りながら自慢気にすると、すぐに右手で腰にある金色の剣を抜き放つ。
すると、白く輝くような刀身が露わになった。
「じゃじゃーん!聖剣!エクス・アストレア!!」
そう天へ向かってミシェルが聖剣を掲げると、その白い刀身はキラリと煌めいた。
「これ…持ってみて!」
「え?」
ミシェルは手にした聖剣をクルクルと回転させると、持ち手の方を俺へ向けてきた。
そして、受け取れと言わんばかりにグイグイと押し付けてくる。
「…うん」
自然に俺は聖剣の持ち手を掴んで、ミシェルと同じように天へと掲げてみた。
俺が天へ掲げてみても、聖剣はキラリと白く煌めいてくれていた。
=======
◇聖剣『エクス・アストレア』
攻撃力:155
属 性:無
レア度:UR
装備条件:職業審査『灰塵』
効 果:アイテムとして使うと『いてつくオーラ』を放つことができる。
=======
「ほら!やっぱり!」
「へ?」
「その聖剣!適正がない人間が持つと、その人は灰になっちゃうんだって!」
ミシェルが笑顔で物騒なことを口にすると、俺は慌てて剣を放り投げる。
「わー!何すんのよ!?」
岩肌でコンコンと音を鳴らして転がる聖剣を慌ててミシェルが拾い上げると、俺へ不機嫌そうな表情を向けてくる。
俺は怯まずに言いたいことを言わせてもらおう。
「それはこっちのセリフだ!そんな物騒なもの渡さないでくれ!」
「でも!灰になってないでしょ!」
「そ、それはそうだけど!!」
「グリッドには適正があるって!そんな気がしてたのよ!だから大丈夫!」
「何が大丈夫なんだよ…」
ミシェルは小悪魔的な笑顔を俺に向けながら言い放つ。
こいつは俺と違って『ピーピング』を持っていないため、俺のステータスを覗くことはできない。そして、俺は『ウェポンマスター』のスキルを持っていることをミシェルへ教えたことはない。
つまり、ミシェルは直感だけで俺へ聖剣を渡してきやがった…
俺はムッとしながらミシェルを見つめるのだが、まるで構わないと言った様子でミシェルは説明を始めた。
「でね!考えてみたの!」
「ん?…何が?」
「グリッドってば、どれだけ鍛えてあげても弱いままでしょ?」
「うるせーやい!余計なお世話だい!」
「でね!迷宮で装備を拾ってくれば!それでグリッドが強くなるんじゃないかって思ったのよ!」
「…」
つまり、迷宮へ俺を連れていく目的は、その迷宮で眠っている装備を発掘して、俺を強くできそうなものを見繕うためのようだ。
「どう!?どうどう!?天才でしょ!?」
「…」
俺は無言と無表情でミシェルを見つめ続ける。
次第に、彼女は不安からか慌て始めた。
「…何か言いなさいよ!!」
「…」
「代わりに言わせてもらうわ」
「っ!?」
「ん、抜け駆けはズルいの」
「げげげ!!」
ミシェルの言葉に反論するのは、ローラとミュウだ。
ローラは相変わらずビシッとしているのだが、ミュウは箒に寝そべりながら眠そうにしている。
しかし、対照的な2人だが、怒りのようなものは共通してミシェルへ放たれているようだ。
「何でアンタ達がここに居るのよ!?」
「ん、ローラ、ついてったの」
ミュウがそうミシェルへ答えると、全員の視線がローラへと向けられる。
彼女は頬を微かに赤めながらポツリと誰にも聞こえない声で呟いた。
「…グリッド君のことはいつも見ているもの」
「ん?」
ローラはスッと青い本を手前へと浮かび上がらせると、その本が勝手に開かれて、ページがパラパラと捲られていく。
そして、キッとミシェルを睨む。
「…おほん!ミシェル!私を甘く見ないで!」
「何よ!?」
「口実を作って迷宮で2人きりになろうとしていたでしょ!?」
「ぐぬぬぬぬ!!」
++++ステータス++++
■名 前:ローラ
■レベル:31
■職 業:大賢者
■パネル:賢者-Ω99
■所持スキル
『全属性適正・極』
『魔力ブースト』
『消費魔力半減』
『魔力自動回復』
『青の本』
『緑の本』
『赤の本』
『黄の本』
『千里眼』
■能力値
・力 :171
・体力:155
・魔力:799
・精神:733
・早さ:554
・運 :21
■所持ポイント:
→スキルパネル
+++++++++++++
「…まさか、千里眼で見てたりしないよな?」
俺は一抹の不安を覚えるが、まさかと考えて忘れることにした。