表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

ヒモ生活英雄譚の始まり



 俺はいじめられている。




「ほらほら!!グリッド!!そんなんじゃ強くなれないわよ!!」



 もう一度言おう。

 俺はいじめられている。



 背後から聞こえてくる幼い声の主である少女

 金髪碧眼の美少女である彼女に俺はいじめられている。

 

 ピンクの上着に、黒のスカート、腰には黄金の鞘に納まったまるで聖剣のような大剣

 風になびかれてキラキラと輝きを放つ金髪に、見るものを虜にするだろう小悪魔的な笑顔


 思わず一目惚れしてしまったのは遠い昔、今は可愛いとすら思えない。




「ポチ!!やっちゃっえ!」



 少女から不吉な声が響くと、すぐに龍の厳つい咆哮が響く。




「ガオオオオオオッ!!」



 背中が熱い。

 怖くて背後を振り返れないけれど、"古龍"と呼ばれる魔王と同じぐらいやばいモンスターが俺の背中へ向かって灼熱の息でも吐いているのだろう。


 金髪の美少女に追いかけられることを妄想したことは前世で大量にある。

 しかし、こんなことを願った覚えはない!




「ほら!グリッド!!もっと早く走れるじゃない!!そのまま!そのまま!!」




 金髪の少女は仁王立ちしながらとても楽しそうに俺へ叫ぶ。

 彼女が立っている場所は、大きな翼を畳んで獰猛な四肢で地面を駆ける龍の背中だ。

 どうして古龍に振り落とされないかと言えば、肝心の龍が彼女の下僕になっているからだ。古龍の威厳などもはやないのだろう。




「なんでこんなことするんだよー!」



「決まってるでしょ!グリッドを強くするためよ!」

「ガオオオオオオオ!!」


「こんなことで強くな「ガオオオオオ!!」


「ほら!喋ってないで!走る!」




 俺は全速力で走る。


 走る。


 走る。



 岩山を越え、森を抜け、湖の上を駆け抜け、再び岩山へと戻ってくる。




「さぁ!もう一周よ!!」


「もう勘弁してくれーー!!」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「げぼげぼげぼ!」



 俺は手足を地面につけながら四つん這いで吐く。

 酸っぱい匂いが鼻を突き刺してくると、次第に涙が滲んできた。


 どれぐらいの距離を走ったのか自分でも分からない。

 とにかく無我夢中で俺は足を動かし続けていた。




「…さぁ!グリッド!!次は…」



 悪魔のような美少女が嬉々として"次"と口にする。

 彼女は両手を腰に当てながら嬉しそうに俺を見ている。何がそんなに楽しいのか…

 いずれにせよ、この地獄に終わりはないようだ。




「ズルいよ!」



 そんな時だ。

 別の少女の声が響くと、そこにはまっすぐの青い髪を首のあたりで結んでいる知的な美少女がいた。

 まだまだ手足が伸び切っていないのだが、その背は同年代の女子と比べて高く、発育の良さを感じさせる。メガネをかけており、露出の少ない紺色と黒色の布の服を着ている。


 少女の周囲には4冊の本がプカプカと浮いており、その本の表紙と背表紙は赤、緑、青、黄と4色に別れている。本の中央にある魔法陣のような星印が印象的だ。




「ミシェルちゃん!次は私がグリッド君に勉強を教える時間!」




 "勉強"と聞いて俺は助かったなどと微塵も思えない。

 この子はこの子で、負けず劣らずの鬼畜少女だ。


 まさか、美少女へ"鬼畜"と思う日がやってくるなんて思っていないだろう前世の俺へ伝えてやりたい。


 もちろん、忠告として




 青い髪の美少女が苛立った様子で叫ぶ。彼女の声や感情に反応したのか、その周囲に浮かんでいる本が淡く各々の色で光り始める。


 そんな青い髪の少女の出現に、途端に不機嫌そうになる金髪の少女ミシェル

 彼女は眉を顰めて青い髪の少女を見つめる。



「…ローラ!まだ剣術の稽古が終わってない!まだ待ってて!」

「ダメ!勉強も大切!」


「勉強なんかできても!弱虫のグリッドなんてすぐに死んじゃうわ!」

「違う!間違っている!ミシェル!知識こそが活路を開くの!」



「…ん、それなら、魔法、大切」


 

 睨み合い無言になるミシェルとローラ

 そんな2人の間へ口を挟むのは少し眠そうな口調の少女の声だ。

 

 ミシェルとローラの2人が視線を向けた先には、パジャマ姿の美少女がいた。

 彼女は眠そうに瞼を人差し指で擦りながらも、箒に全身を預けるようにして浮かびながらやってくる。

 その紫の髪の毛はまるで寝癖を気にしていない様子だ。



「ミュウは午後からでしょ!?」

「ん、教えるのは午後」


「それを知っているなら帰りなさい」

「や、グリッド、見てる」


「ズルいわよ!」

「そうよ!約束が違うわ!」




 やんややんやと揉め始める3人の美少女達

 俺をどうやっていじめるのかで争っているようだ。





 こんな異世界転生ならクーリングオフしたい。



 あ、どうだい?

 そこの君…俺と代わってみないかい?








頭を空っぽにして読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ