その7
「なあ黒野。気になるんだが聞いていいか?」
「……………」
黒野はうざったそうにこちらを見ている。
「その、どうしてここは平気なんだ?」
「……なにが?」
億劫そうに答える。なんだかどうでもいい感じだな。
「いや、外に人が押し掛けてるだろう?それなのに商品は取られてないからさ」
「ふん。僕のスキルのお陰だよ」
「あんたもスキル使えるんだ」
そう言いつつカゴに食料を詰めている。いや、戻しとけって。
「僕は、こんな風に世界がな変わってからスキルが発動したんだよ。そう、結界のね」
「結界?バリアみたいなもんか?」
「そうだね。使えば使うほど強固になるらしくてね。見なよ」
嘲笑うかのようにスーパーの入り口を指差す。
そこには薄い緑色の結界が張られてムキになっている住人を入れなくしている。
「ははは。大人は勝手さ。いつも安く商品を買ってるのにさ。
世界がこんな風になってまだ、二日と過ぎてないのにあんなムキになって押し寄せてる。これが人間の本性なんだよ」
「そうかもしれないな」
俺は頷く。人間は自分勝手でわがままだからな。でも、親や幼馴染みの向日葵はそうじゃないと思いたい。
「さあ。帰りたまえ。その商品はクラスメイトのよしみでくれてやるから」
「いや。ちゃんと金は払うよ」
「そうだよ。私たちは山賊じゃありませんからね」
「ふん。でもさっきのことは謝らんぞ」
「私も謝んないもん。見てるのは鞘音のことだけだから、ビッチじゃないし」
「ふん」
黒野にお金をわたすと俺たちは裏口から帰ろうとする。
そう言えば両親はどうしたんだろうか?
聞いていいのかも分からないし。クラスでもたまに話すだけだったからな。
出口から外に出る。人はいないな。表に戻ると面倒なことになりそうなので遠回りして帰ることにした。
こんなにのどかな田舎なのに変わらないのは景色だけか。鈴音は鼻歌を歌いながら呑気だな。
しかし、そん呑気な雰囲気もすぐに消える。道端で倒れている人がいた。見かけたことのあるおばさん。
田舎だから挨拶はよくかわすから。
このおばさんとも挨拶くらいはしたことはある。
「大丈夫ですか?」
俺は慌てて駆け寄るも遅いみたいだ。お腹から血が流れて畦道に染みる。
「おばさん、かわいそうに」
鈴音は隣でしゃがんで手を合わせる。
妄想でも悼む心はあるのだろうか。
いや、なんとなく冷静にスルーしそうだったから以外だ。
「さ、帰ってご飯にしよ」
「……ああ」
俺たちは生きないといけない。訳分からないままこんなことになったけど。
ここだけじゃなく犠牲者も多いんだろうと自覚する。
取り敢えずおばさんのお家に教えてから帰宅した。
帰ると鈴音がエプロンをする。親の奴で長らく使われてない。
「どうですか?私のエプロン姿は?」
にこにこしながら一回転する。いや、可愛いけど。いいのだろうかこんなで。
「てか、料理出来るの?」
「するよー。て言っても鞘音が作れるものしか出来ないけど」
そうか。俺の妄想から生まれた訳だしな。贅沢は言うまい。作ってもらうんだし。
「なんか手伝うか?」
「いーから!それにほら、私の料理してる姿見てるのがいいんでしょ?」
「……ぐうの音も出ない」
女性の料理作ってる姿を見るとドキッとしてしまうからだ。
そうだ。今の内にスマホで……しかし、取り出したスマホは電源が落ちたのかなにもうつらない。
バッテリーはまだあったはずだ。どう言うことだろうか。
鈴音の鼻歌を聴きながら縁側に来る。でもそうか。この異常事態だ。国の中心部とかどうにかなったのかも知れない。
まあ、リアルであるとは思わなかったけど異世界の敵でも来られたら大混乱するし政府もマヒするんじゃあ……。
「ちょっと出てくる」
「えー、もうすぐご飯だよー?」
「すぐ戻る」
俺は木刀を持つと暗くなった外へ出た。田舎の夜は早い。すぐに暗くなる。見上げた空の星だけがなにも変わらずに煌めいていた。
つづく
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