その2
よく分からないまま帰ることにする。どうやら他の生徒にも似たようなことが起きたみたいで俺たちは更に首を傾げる。
スマホを開けてSNSを見るとそれによる書き込みがいくつも呟かれていた。
炎魔法が使えるとか、体術が強くなったとか。
「なんだろうね、これ?」
「さあ?なんかのイベントか?」
「鞘音のスキルはなんだって?」
「あーと。ガチャ?」
「は?なにそれ?子供かよ?」
「子供じゃねーわ。今のガチャは女性向きで人気なんだぞ。それにガチャのハンドルを回す感触はなんかいい」
今はもう集めてる訳でもないけどたまにあの感触あじわいたさに回したくなる。
「……どした?」
立ち止まった向日葵はスマホの画面を見たまま静止している。
そうだった。向日葵はスマホ歩きしなかった。
でも、今はそれよりなんか、驚いてるような感じだ。
「どうした?なにがあった?お腹空いたのか?」
「それはふつーに空く。そうじゃなくてほら」
スマホの画面を見せてくれる。やれ、魔物が公園で陣取ってるなど、都心で密になってるとか。画面にうつる魔物は特撮とかCGとかそんな感じに見える。
まるで、ゲームやラノベに出てきそうな感じだ。
「……今日ってエイプリルフールじゃないよね?」
「だな。そんな盛大に嘘つく必要あるか?」
「ぐおおおおおおおおお!」
「え?なに!?」
振り返ると畦道を駆けてくる鬼?鬼!?上半身裸の裸族が金棒振りかざして襲ってくるぞ!?
「え?なんだあれ?」
「し、知らないわよ!もしかして、着ぐるみ!?」
着ぐるみ?それが魔物と言うことよりは可能性がありそうだが、あのリアルさを見るとなんか本物っぽい。
そいつは、俺たちに棍棒を振り落とす。
ズガンと地面にめり込み砂利を巻き上げる。
それはどう見ても作り物ではなくて僕は尻餅をつく。
そして、そのまま向日葵を抱えて走り出す。
なんてことだ!俺はまだ向日葵を抱えたことなんてないぞ!
俺は立ち上がり駆け出す。クラスの人気者を連れ去るなんてきっと、クラスメイト全員を敵に回したなあいつ!
いやいやそんなことより助けないと!
もう、無我夢中。あのスケベ鬼を追いかけてる間にもビッグマウスや、平仮名ですらいむと呼ばれる魔物が襲いかかってきたが、木刀で凪払う。
なにか、石ころみたいなのが落ちて僕のポケットに吸い込まれる。なんだ?石ころなんていらないけどな。
ともかく昔、剣道習っておいて良かった。
そして、スケベ鬼を倒して向日葵を助け出した。
「こ、こ、こ、怖かった~~!」
俺にそのまま抱きつくと胸が当たるので無心を心がけ…………る。
「し、しかし。あれが魔物か?随分和風なんだな」
「そうだね。鞘音の家にあったゲームみたいだね」
向日葵がなんも予定のない時なんかは俺の部屋で、俺がゲームをする横でそれを眺めたりしてることもあった。
「さて。どうするか」
スケベ鬼は、表示は赤鬼と表示されて見えるな。
だがこいつに関しては、スケベ鬼と呼ぼう。
ラッキースケベでしか向日葵に触れることはないと言うのにこの鬼はなんて贅沢なことをしでかしてくれたんだ。粉微塵になっても文句は言えまい。
「どうするって?早く帰ろ。てか、鞘音の顔が怖いんだけど」
おっといかん。怒りが表情に出ていたのか。
この魔物の死体はあまり見ないようにして帰るか。
「あ、なんか落ちてる?」
「お、おい」
向日葵が見つけたのはさっきすらいむとかを倒して手に入れた石ころ。
それは、赤く輝いていて綺麗だった。
俺もさっき手に入れた石ころを取り出すと視界に魔石と表示されている。
「……なんだろうかこれ?まさしくゲームみたいだな」
「でもでも!なんか価値のありそうだよね?」
女子ってこう言うキラキラしたものに弱いよな。ただの石ころなのに。
「ともかく危険だから家に帰ろう」
「だね。ついでに魔物退治して輝く石を手に入れよう!」
元気に片手を上げている。呑気だな。危険な目にあったのに。
こんな時なのにセミは気楽に鳴いている。
一体この世界はどうなってしまったのか。
ん?そういえばスキルのガチャとか使ってないよな。ま、いいか。
家に帰ってからでいいだろう。
つづく