幸せを祈ります
私とダーシャン様が晴れて恋人になった翌日、朝一で私に会いに来たのはダーシャン様。
と、ムーレット導師だった。
まだエルマさんもやって来ていないのに迷惑である。
とりあえず十分待ってもらって、身支度をする。
「恋人になったんですね。おめでとう」
一番最初にお祝いの言葉を言われて驚いた。
「セイラン、導師に言ったのか?」
「言ってません」
ダーシャン様が言ったんじゃ無いのか?
「誰も言って無いですよ。ほら、私は妖精ですから」
この人本当に何でも知っていそうで困る。
「ああ、お二人のお子様はさぞかし可愛らしいでしょうね。今から楽しみで楽しみでこんな時間にお邪魔してしまいました」
私達よりよっぽど幸せそうな顔をするムーレット導師にダーシャン様が嫌そうな顔をする。
「お二人には一刻も早く結婚していただいて、姫でも王子でも産んでいただいて私のことをジージと呼んでいただけるようにしたいですな」
初孫を喜ぶお祖父ちゃんのような人がいる。
まだ結婚すらしていないのに。
「幸せそうに未来を語るのはいいのだが、ムーレット導師」
「ええ、幸せな未来しかありませんよね」
話が若干噛み合っていない気がする。
「俺とセイランに子どもができたら、必ずムーレット導師のことをジージと呼ぶようにしたいと俺も思っている」
ダーシャン様の言葉に、ムーレット導師が飛び上がりそうなほど喜んだ。
何勝手なことを言っているんだと言いたかったが、ダーシャン様の瞳は真剣だ。
「だが導師、問題はそこじゃ無いんだ」
深刻そうな、明らかに演技くさい顔でダーシャン様は続けた。
「俺は今王の補佐をしている上にセイランの周りには絶対に俺をセイランに近づけたく無い人間がいる」
ああ、ヒメカ聖女ね。
「二人きりになれる時間も無いと言うのに邪魔だけはたくさん居る状況だ」
ムーレット導師はそうですね〜と言いながら苦笑いを浮かべた。
「セイランだって聖女の仕事があるし、結婚はしばらくできないと思う」
ダーシャン様の衝撃の発言に私以上にムーレット導師がショックを受け、膝から崩れ落ちた。
私よりショックを受けるのはおかしいと思う。
私がショックを受け切れないじゃ無いか!
文句の一つも言いたい私を他所に、ダーシャン様はムーレット導師の肩をポンと叩いた。
「だからこそ、ムーレット導師の力が必要なんだ!」
「私の?」
「そうだ、何でも知っていて誰よりも強い更に神秘の妖精である導師だから頼めると俺はそう信じている」
何だか分からないが、ムーレット導師が仲間になりたそうにダーシャン様を見ている。
「俺とセイランが二人きりになれるように協力してほしいんだ! な、ジージ」
えっ、そんな口車に簡単に乗る人いる?
私が不信感を顔面に貼り付けているにも関わらず、ムーレット導師はダーシャン様の手をガシッと握った。
ああ、今、簡単に口車に乗った瞬間を見たよ。
「私が必ずお二人のための時間を作ってみせます!」
力強くそう言い切った導師に引いたよ。
やる気満々のムーレット導師を見つめながら、ダーシャン様が私にだけ聞こえるように小さく呟いた。
「敵なら魔王なんじゃ無いかと疑いたくなるぐらい厄介な存在だが、味方にすればこれ以上無いぐらい頼もしい存在だと思わないか?」
あんなに仲が悪そうだった二人の気持ち悪い友情に私は考えることを放棄することにした。
数時間後にヒメカ聖女がやって来て眉間にシワを寄せながら、ムーレット導師とダーシャン様に喧嘩を売り、止めに入る第一王子も蹴散らして二人を部屋の外に追い出し、心配だから私もここに一緒に住むと騒ぎ、大変なことになるなんて誰が予想できただろうか?
こうして、私とダーシャン様が結婚できる日が確実に遠のいたのだが、これまでの人生から考えても今が一番幸せで、この幸せがいつまでも続きますよう祈らずにはいられないのだった。




