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平和な日常?

 あの日の真相は、後日改めて聞いた。

 最初、花の神殿で謹慎させられていたヒメカ聖女の元にダビダラ導師がやって来て、聖女だと言うから目をかけてやったのに恥をかかされたと怒鳴り散らされたようだった。

 娘も味方にと思ったのに、社交界からも笑われるような目に合わされたのも全部ヒメカ聖女のせいだと言われて、ヒメカ聖女を精神的に追い詰めた。

『それもこれも、お前の力が弱いからだ! どうしてくれる』

 そう言われて、世間話に第一王子が言っていた〝常闇の神殿〟の話を思い出したのだと言う。

 妖精に気に入られれば、力がもらえる。

 すでに、信頼できる人も自由にできる場所も地位や名誉さえも地に落ちてしまった。

 なら、死ぬか生きるか分からないけど力が欲しいとヒメカ聖女は思ってしまった。

 山道を登り、山の頂上にある真っ暗な洞窟を前にして、ヒメカ聖女は後悔した。

 どう見ても、生きて帰れる気がしなかったのだ。

 逃げだそうとしたら、簡単に捕まってしまって奥まで引っ張って行かれた。

 松明を持っているのに一メートル先すら見えない。

 これは、絶対にダメだ。

 そう思っているのに、逃げることはできなかった。

 そして、広場に出た。

 広い空間に微弱な光を放つ白い珠が見えた。

 そして、ダビダラ導師はヒメカ聖女を突き飛ばしてその球に触れた。

 たぶん、ダビダラ導師が一番力が欲しかったのだ。

 ダビダラ導師が触れた珠は、ダビダラ導師が触った所から赤黒く変色して行き、それと同時にダビダラ導師の姿も人では無くなって行った。

 その姿があまりにも恐ろしくて、自分もああなるのだと思ったら、意識が遠のいていったのだと言う。


「だから、セイランお姉様が助けに来てくれて、本当に嬉しくて! セイランお姉様が女神様に見えたんですよ」


 あれから、ヒメカ聖女は人が変わった。

 変わりすぎてウザ……怖いぐらいだ。

 第一王子に引き取ってもらったはずなのに、直ぐ戻ってくる。


『助けてもらえたことが、感謝を通り越して崇拝になったんですね』


 ってムーレット導師は笑ったが、本当にウザ……止めてほしい。


「それに、セイランお姉様って黒髪黒目が良く似合って美しくってもう憧れます」


 常闇の神殿でコンタクトとウィッグを捨てて来てしまったせいで、赤いウィッグと赤と青のコンタクトを紛失してしまい、仕方なく地毛と裸眼になったせいか、普通に周りの目が変わった。

 ヒメカ聖女を推していた第一王子派閥は綺麗さっぱり居なくなった。

 ヒメカ聖女が『セイランお姉様の補佐になる』と言う主張をしたからか? ヒメカ聖女が第一王子に一切ときめかなくなったのも原因か?

 第一王子はヒメカ聖女を振り向かせようと頑張っている。

 なんだかんだ言って、ヒメカ聖女が好きみたいだ。

 ただ、私を崇拝し始めたヒメカ聖女には響いていない。

 ヒメカ聖女は今、ダーシャン様を目の敵にしていて第一王子どころでは無いのだ。

 お姉様は皆んなのお姉様だ! と言う主張をするヒメカ聖女VSちゃんとした告白をしたいダーシャン様の攻防が起こっているらしい。

 何故〝らしい〟なのかと言えば、最近ダーシャン様を見ていないからだ。

 この話はムーレット導師に聞いた。

 どうやらヒメカ聖女が邪魔をしているらしい。

 ただでさえ誰もが認める王太子になったから、騎士団長も辞めさせられて王様の仕事を勉強し始めたせいで時間が無いのだと分かっている。

 更に邪魔も居る。

 ダーシャン様に会いたいな。

 私はそんなことを日々考えていた。

 

     ※


 満月の夜、月明かりに照らされた東家に散歩に来た。

 と言っても、月の出ている日は毎日の様に夜東家まで散歩に来るのが日課になってしまっていた。

 ダーシャン様が居るんじゃないかと、ついつい足を運んでしまう。

 二人で愚痴や近況報告などしながら飲むお酒は美味しくて楽しくて、思い出すと胸が締め付けられるような気持ちになった。

 お酒を持ってきて、一人で飲もうか? なんて考えた瞬間、背後から抱きしめられて心臓が飛び出すんじゃないかと思うぐらい驚いた。


「づがれだー」


 本気の疲れた声に、さっきとは違う心臓の高鳴りを感じる。


「ダーシャン様」

「もう少しだけ、こうさせてくれ」


 こんなことで少しでも癒されるならどれだけ抱きしめてくれてもいい。


「今日、ここに来て正解だった」

「愚痴、聞きますよ。お酒持って来ましょうか?」

「いい。やっとセイランに会えたんだ。離れたく無い」


 ストレートな言葉に心臓が痛いぐらい高鳴る。


「じ、じゃあ、たくさん愚痴っていいですよ。全部聞きます」


 私がそう言うと、ダーシャン様はしばらく黙り、ゆっくりと口を開いた。


「セイラン不足で死にそうだ」


 いや、愚痴? それ愚痴なの?

 頭がパニックになる私を他所に、ダーシャン様が続けた。


「ムーレット導師もエルマ嬢もヒメカ聖女もしまいには兄でさえセイランに会えるのに何で俺だけ……俺、何か悪いことしたか? 好きな女に会うことすらままならないとか……前世で殺人鬼だったんだろうか?」


 突拍子もないことを言うダーシャン様に思わず笑ってしまう。


「何も可笑しなことは言っていないぞ」

「自覚が無いなんて疲れすぎですよ」


 私を後ろから抱きしめているダーシャン様の腕の中からしゃがんで抜け出す。

 突然私が腕の中から居なくなったのを残念そうにするダーシャン様を東家まで連れて行き、備え付けの椅子に座らせる。


「立ち話もなんですから、やっぱりお酒とおつまみ持って来ましょうか」


 私が気を回しているのに、ダーシャン様は両手を広げて見せた。


「まだ、足りない」


 顔面偏差値の高い人が可愛く甘えてくるのだが、私鼻血とか出てないよね?

 若干鼻が気になるが、ダーシャン様の頭を抱える様にして抱きつくと軽々と膝に座らされた。

 視線が近くて落ち着かない。


「あの、ダーシャン様」


 もう少し距離が欲しいと言おうと思った。


「セイランに頼みがあるんだ」

「た、頼み?」


 ダーシャン様は私の額にチュッと音を立ててキスをした。

 頼み事をする姿勢でも行動でもないが、逃げられる気もしない。


「セイラン」

「はい」


 真剣なダーシャン様の視線に居心地の悪さを感じる。


「俺を、セイランの特別にしてくれないか?」

「と、特別?」


 ダーシャン様は蕩けそうな優しい笑顔になった。


「今は忙しくて、セイランの記憶に深く刻めるだけのプロポーズは用意できて居ないが、プロポーズを考えている間にセイランが他の誰かにプロポーズされてしまうんじゃ無いかって不安なんだ」


 プロポーズ、プロポーズって言い過ぎだし、それはもう事実プロポーズなんじゃ無いのか?

 私が困った顔をすると、ダーシャン様も困ったような顔をした。


「こんな情けないやつじゃ嫌か?」

「えっ? 情けないとか思ってないですよ」

「本当か?」

「本当です」

「なら、俺の恋人になってくれないか?」


 言われて気付いた。

 プロポーズってお付き合いした後に考えることだ!


「俺をセイランの特別にしてほしい」


 ちゃんとした告白をされてしまった。

 酔っ払ってもいないし、勢いでも無い告白だ。

 こんなに顔面偏差値の高い人と恋人になって、私の心臓は持つのだろうか?


「嫌か?」


 こんなに顔面偏差値が高い上に、捨てられた子犬のような目で見られて『嫌です!』と言える人間がどれだけ居るのだろう?


「嫌……じゃ無いです」


 私がおずおずと返せば、ダーシャン様は私をギュッと抱きしめた。


「大事にする」


 耳元で囁かれて幸せな気持ちと共に体温が上がる。

 恥ずかしい。

 ダーシャン様は私の頭を軽く指ですいた。


「セイランのこの姿も、誰にも見せたくなかった。自分の独占欲に嫌になる」


 ダーシャン様は独り言のように呟いていた。


「ダーシャン様は私の恋人で大切で特別な人です」


 私が真剣に言えば、ダーシャン様は見たことがないぐらい嬉しそうに笑った。

 ああ、この人は本当に私が好きなんだと、実感した。


「ダーシャン様にだけ私の秘密を教えます」

「えっ?」


 ダーシャン様が、明らかに驚いた顔をした。


「誰にも言っていない誰も知らないことなので、ダーシャン様も誰にも言ったらダメですよ」


 私が念を押すと、ダーシャン様はコクコクと頷いた。


「私の名前」

「名前?」

「セイランじゃないの」


 ダーシャン様の瞳が大きく見開かれた。

 何だか悪戯が成功したような達成感があるのが不思議だ。


「私の名前は赤石 新と言います。アラタが本当の名前」

「何故偽名なんて」

「タイミングを逃して」


 苦笑いを浮かべた私にダーシャン様も困ったような笑顔を向けらた。


「それは、俺以外に言ったらダメだぞ」

「言わないです。機会も無いですから」


 ダーシャン様はふーっと息を吐いた。


「アラタ」


 久しぶりに言われた本当の名前に心臓が跳ねる。


「あの、改めて言われると照れちゃうので」

「なら、たくさん言わないとだな」


 楽しそうに笑うダーシャン様に若干ムッとする。


「揶揄わないでください」

「揶揄ってなんかいない。ただ、照れてるアラタが珍しいし可愛いからつい」


 やっぱり揶揄っているじゃ無いか。

 不貞腐れて口を尖らす私に、ダーシャン様はニッコリと楽しそうに笑った。

 くっ、顔面偏差値の高いことをこの人は絶対に自覚しているに違いない。

 私が怯んだ瞬間、ダーシャン様の顔が目の前にあった。

 近いと思うのと、お互いの唇が触れたのが同時だった。

 頭がパニックになる私を他所に、ダーシャン様はしっかりと唇を重ねた。

 どれだけの時間が過ぎたのか? それとも一瞬だったのかも分からないまま、唇が離れた。


「幸せすぎて、死にそうだ」

「死なれたら困ります」

「俺も」


 そう言って私達はお互いにクスクスと笑い合ったのだった。

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