女性の憧れ?2
エルマさんにメイク指導をしてから、新緑の神殿で働く人達が私に優しくしてくれるようになった。
今まで、姿すら確認できていなかった人達が掃除に来てくれたり、挨拶をしてくれるようになったのだ。
「それはきっと、ヒメカ聖女のせいだな」
その日は、新緑の神殿に戻って来たことで、たまに行われるダーシャン様と月夜の庭で酒盛りしながら近況報告会をしていた。
「何故ヒメカ聖女のせい?」
ダーシャン様はおつまみのチーズを口に入れ、それが口から無くなると頷きながら続けた。
「確か、『一流の使用人は主人に気配を悟られてはダメなの知らないの〜』って言ったことで神殿に仕えるものは気配を消さなくてはならない! みたいなお触れが出たって聞いた気がする」
ダーシャン様が身振り手振りでヒメカ聖女のモノマネをしてくれて、話が上手く入ってこなかったが、理解した。
理解はしたけど、まず、笑っていいだろうか?
「肩がプルプルしてるぞ」
ダーシャン様の指摘に私は盛大に吹き出し笑ってしまった。
「笑いすぎだ」
「だって、ダーシャン様のモノマネが上手過ぎて、あー無理、可笑しい」
「似てただろ」
不貞腐れた顔で口を尖らせるダーシャン様が可愛くて、更に笑ってしまう。
「似てたから笑っちゃうんですよ」
一国の王太子がこんなコミカルだとは、ダーシャン様が国王になったらきっと楽しい国になるだろう。
「話を戻すが、そんな理由から使用人達ができるだけ人目につかないように働くようになったようだが、最近セイランに気に入られると美しくなれるって噂になってるからな」
「は?」
私がこんや
私に気に入られると何だって?
「知らないのか? 侍女副長を美しくしたと有名だろ?」
「えっ? 侍女副長って誰ですか?」
ダーシャン様は首を傾げた。
「ほら、エルマ・ガードリスタだ」
エルマさんって思った以上に偉い人だったんだ……。
私は複雑な気持ちを遠くを見つめることで落ち着かせようとした。
「実際、侍女副長は騎士団の中でも人気が高かったのだが、高嶺の花と言うか話しかける勇気のある者が居なかったのだが、突然柔らかな雰囲気になって元々好きだったやつが焦ったみたいだ」
私はテーブルにヒジとため息をついた。
「エルマさんとせっかく仲良くなれたのに寿退社されたら困るな〜」
「退社はしないんじゃないか? 侍女副長はセイランの素晴らしさを布教してまわっているみたいだし、支えられて嬉しいと言っていたとラグナスが言ってたぞ」
ラグナスさんは誰にでもフレンドリーだから、エルマさんにも気後せずに話しかけている姿が想像できる。
「ラグナスさんって直ぐプロポーズして来ますけど、エルマさんにも言ってるんですかね?」
ダーシャン様が思いっきり口に含んだお酒を吹き出していた。
「大丈夫ですか?」
慌てて背中を摩ってあげる。
「プロポーズ?」
えっ? そこ?
私が苦笑いを浮かべると、ダーシャン様はガバッと私の肩を掴んだ。
「何て返したんだ?」
「えっ? 普通に返しましたよ」
「ふ、普通?」
何だか複雑な顔をするダーシャン様の背中をバシバシ叩いた。
「普通にプロポーズに憧れているので、ふざけて言うものでは無いって叱りましたよ」
ダーシャン様は目をパチパチと瞬いた。
「そう言うものか?」
「ダーシャン様、私だけでは無いですよ! 女性と言うのはプロポーズが素敵だと本当に嬉しいんですから、ダーシャン様も好きな人ができたら素敵なプロポーズをしてあげてくださいよ」
私の力の入った物言いにダーシャン様は唖然としていた。
「自分には到底考えられないようなプロポーズをしてもらえたら、きっとそのことを思い出すたびに幸せな気分になれると思うんですよ」
私には憧れがある。
プロポーズどうこうも勿論だが、『幸せな家庭』ってものに対しての。
親戚の集まりで歳の離れた従姉妹がプロポーズされた話を聞いた時に、周りまでみんな笑顔になってその話を聞いた。
幸せのお裾分けをもらった気分だった。
その従姉妹の家庭はいつも幸せそうで、憧れだった。
プロポーズは、その『幸せな家庭』の第一歩のようなものだと思っている。
相手をどれだけ幸せにしたいか? 結婚することで自分がどれだけ幸せになれるかを形にするのがプロポーズなんじゃ無いか?
「勿論、派手なプロポーズに憧れているとかじゃ無くて、気持ちを感じられるようなプロポーズに憧れるんです。これ、テストに出ますよ」
茶目っ気を出しながらそう言えば、ダーシャン様はカクカクとした動きで頷いてくれた。
「そう言うものなんだな」
噛み締めるように呟くダーシャン様に私はクスクス笑った。
「女性って人の幸せの話を聞くだけでも、幸せな気分になれるんですよ。だから、ダーシャン様も来るべき時が来たら頑張ってくださいね!」
私はダーシャン様のグラスにお酒を注ぎながらそう言った。
「勉強になる」
そんな他愛の無い話をしながら、私達は酒盛りをするのだった。




