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女性の憧れ?1

 森での暮らしに慣れてきたと思いはじめたころ、ムーレット導師が申し訳なさそうにやって来た。

 毎日のように家にお茶をしに来るムーレット導師だが、こんな顔は初めてだ。


「セイラン聖女、お願いがあるのですが」


 言いにくそうに切り出した話は至ってシンプルだった。


「一度城に戻っていただけないでしょうか?」


 ムーレット導師の話によると、普段であればムーレット導師が作り上げた私の幻影が私のフリをしてくれているのだが、ムーレット導師とは別の導師が疑いを持ちはじめてしまったのだと言う。


「普通の導師なら私の幻影に気づくことも無いのですが、導師の中でも私の次に力が有ると言われているダビダラ導師に疑われていまして……幻影だとバレてしまうと思うのです」


 ムーレット導師の雰囲気から言って、ダビダラ導師とは仲が良くないのだろう。


「大丈夫ですよ。それぐらいします」


 何せ、ムーレット導師にはいつもお世話になっている。


「本当ですか? 助かります」


 ムーレット導師は、ホッとした顔を隠すこと無く見せてくれた。

 こうしてその日は新緑の神殿に行くことになった。



 赤いウィッグに赤と青のカラーコンタクトをし、神聖なる月をイメージしたと言う白地に金の刺繍のされた聖女の服を着せられ、私は神殿の中の自室の鏡の前に立っていた。

 はっきり言って似合わない。

 ビビットな髪と瞳の色のせいで、白い服が本当に似合わない。

 まだルルハのパステルピンクの髪とピンクの瞳の方がこの服には合いそうだ。


「この服じゃなくちゃダメですか?」

「ダメです」


 私にこの服を着るように持って来た侍女さんが無表情のまま被るぐらいの勢いで否定された。


「ヒメカ聖女は似合いそうですよね」

 彼女は白が似合いそうだ。

「似合っても……何でもありません」


 何だか含みのある言い方の侍女さんに私は笑顔を向けた。


「ヒメカ聖女が苦手ですか?」

「……」


更に顔色の悪くなる侍女さん。

何だか悪いことを言ってしまったようだ。


「何か変なこと聞いてしまってごめんなさい。ほら、何故か解らないけどこの人苦手だなぁって思うこともあると思っただけなんです。私がエリザベートさんを苦手だと思うのと一緒かな? って」


 私の苦笑いを見た侍女さんはおずおずと口を開いた。


「エリザベートさんを苦手じゃ無い人なんて普通居ませんよ」


 どうやら、エリザベートさんは前の会社の上司のような存在のようだ。


「居ますよね。一組織には一人ぐらいそう言う人」


 侍女さんは私が共感したのが嬉しかったのか、安心したような笑顔になった。


「お名前聞いてもいいですか?」

「エルマと申します」


 エルマさんは綺麗な姿勢で頭を下げた。


「畏まらなくて大丈夫ですよ! それにこれからお願いをしようとしている下心の有る私に頭なんて下げないでください」


 私の返した言葉に驚いた顔をするエルマさんに私はニヤリと笑って見せた。


「私は、大したことのできる立場では」

「立場とか関係ないです」


 私はエルマさんの手をギュッと握り、引っ張るとソファーに座らせた。


「仕事中で忙しい貴女を無理矢理お茶に誘う作戦なんですから」


 オロオロするエルマさんを他所に、私は彼女の前にお茶を用意した。

 前の会社でお茶汲みを良くさせられていたから、味には自信がある。

 それに、歴代の聖女様の誰かの影響なのか、この世界には緑茶が存在している。

 日本人なら緑茶でしょ! 

 大袈裟かも知れないが、私だけってことは無いはずだ。


「さあ、どうぞ」


 エルマさんは暫く緑茶を見つめていたが、ゆっくりとした仕草で飲みはじめた。


「侍女って大変なお仕事ですよね。尊敬しちゃうな」

「そんな」

「今は私達二人きりですし、愚痴とかあったら聞きたいな〜私もエリザベートさんの愚痴が言いたいし」


 そんな私の言葉に、エルマさんはクスクスと笑った。


「私、愚痴り出したら止まらないので、聖女様も覚悟して下さいね」


 こうして私はエルマさんと仲良くなることに成功した。

 



 エルマさんは色々な愚痴と共に様々な情報をくれた。

 エリザベートさんがムーレット導師が言っていたダビダラ導師の娘だと言うことや、ヒメカ聖女が自分をチヤホヤしてくれない侍女を次々と解雇しているとか。

 エルマさんのお姉さんもその一人だったらしく、聖女に配属されると聞いてだいぶ警戒していたらしい。


「私の配属先がセイラン様で本当に良かったです」

「ありがとうございます。あの、お姉さんは大丈夫なんですか?」


 私の質問に、エルマさんは苦笑いを浮かべた。


「姉は結婚しました」

「へ?」

「ヒメカ聖女の侍女を辞めさせられる日に、ずっと好きだった騎士団の方に告白してトントン拍子に結婚してしまいました。妹の私が言うのも何ですが、要領のいい人なんです。それに、美人だし」


 お姉さんの話を愚痴っぽく話しているエルマさんの表情は、決して羨んだり疎ましく思ったりしているものでは無く、愛が有るから言える雰囲気のある、はにかんだ笑顔だった。


「エルマさんだって美人じゃないですか」

「お世辞は大丈夫です。私、目元がキツくて意地悪そうな顔に見えるんです。姉と並ぶと更にキツく見えるみたいで」


 目元が少し上がっているから気の強そうに見えてしまうのは解る。


「そんなのメイクでどうにでもできますよ」


 私は手持ちのメイク道具を取り出してエルマさんにメイク講座を始めた。

 コスプレする者が本気を出したら、ティッシュ一枚で傷口だってちょちょいのちょいで作れてしまえるぐらいなのだから、目元を柔らかな印象にするなんてもっと簡単である。


「さあ、どうですか?」


 クールビューティーな印象のエルマさんの目元をタレ目がちの愛されメイクを施せば、可愛い雰囲気を出せた。

 あまり変わりすぎては、化粧を落とした時に詐欺だと言われない程度に抑えている。

 勿論、特殊メイクバリのメイクだって頑張ればできるが、今はその時では無い。


「す、凄いです」


 喜ぶエルマさんにメイクのコツを話して、次から自分でもできるようにレクチャーしてあげた。

 その日の後セイラン聖女の侍女になると美人になれると言う噂がまことしやかに囁かれるようになったことを、その時の私は知る由もなかった。


     

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