聖女のお仕事 （ヒメカ目線）
あの日、私は異世界にやってきた。
学校から帰ってきて制服から私服に着替えて、友達と遊ぶために部屋から出ようとドアを開けたら、そこはもう異世界だった。
はっきり言って、何が起きたのか分からなかった。
でも、私を『聖女様』と言ってくれた人がエンジェルパーマの金髪に優しそうな碧眼のザ・王子様って感じの男の人があまりにもイケメンで、このまま異世界生活おくるのもありだなって思っちゃった。
それに、この世界ってイケメン揃いで、自分が乙女ゲームのヒロインになったみたい。
この世界を救うために私がしなくちゃいけないことは歌って踊ること。
毎日のようにカラオケに行ってたし、学校の授業でダンスもひと通りやってたから、私が選ばれたんじゃない？
綺麗な花が咲き乱れる神殿に沢山の召使い。
極め付けに私の護衛にあのエンジェルパーマの彼がついてくれることになった。
そして、やっぱり彼はこの国の王子様だった。
ただ、弟で騎士団長をしているダーシャンに罠にはめられて王太子の座を奪われてしまったのだと寂しそうに語っていた。
何なのそれ、私が絶対彼を王太子に戻してあげる。
そう思ったんだけど、ダーシャンって無口で職務を全うする雰囲気をまとってて、マジでイケメン。
あれは絶対攻略対象者だと思う。
なら、敵対するより仲良くなって私が選んだ方を王太子にしちゃえばいいんじゃない？
私って凄く天才。
私の計画では直ぐに二人の心を掴んで『私のために争わないで！』みたいな展開になると思ってたのに、何だか知らないけどもう一人聖女が召喚されたの。
真っ赤な頭に赤と青のオッドアイのダサいジャージを着た女性。
異世界に来てから聖女についての勉強をちょっとしたけど、素晴らしい力を持っている聖女って黒髪黒目らしくて、私の焦げ茶の瞳と茶色の髪は黒に近いから凄くチヤホヤしてくれた。
だから必然的にもう一人の聖女の赤い髪に赤と青のオッドアイなんて嫌厭されるのは当たり前だったみたい。
聖女って地球の日本人だけが呼ばれるのかと思ったけど、地球以外のところからも呼ばれることもあるんだな〜。
だって、赤髪は染めればどうにかなるけど赤と青のオッドアイとか無理でしょ。
カラコンだって青は見たことあるけど眼鏡屋さんでも薬局でも赤は見たことないもん。
まあ、彼女は多分当て馬ライバルキャラってやつなんだと思う。
ただ予想外だったのは、彼女が来たことでダーシャンと会う機会が凄く減ってしまったのだ。
それと言うのも、ダーシャンが彼女の護衛になってしまったから。
きっと嫌々やってるんだわ。
だって、あんな可愛くないダサジャージ女より私と一緒にいた方が楽しいに決まってるもん。
早くライバルを蹴散らして恋愛ルートに進まなくっちゃ！
聖女にはちゃんとお仕事があって、毎朝神殿で神様にお祈りをして国についての勉強をして歌の練習にダンスの練習をする。
後はたまに森に行って歌って踊るだけ。
日本の歴史だって覚えられないのに、他の国の歴史なんて全然覚えられないけど、日本でもやってるフリだけは上手だったから問題ないと思う。
その日は、森に行って歌って踊る日で、この日となればいつもは居ないダーシャンも護衛についてくれる。
もう一人の聖女は歌もダンスもいまいちで、まだ森の浄化には連れて来れないってダンスを教えてくれるエリザベートが言ってた。
やっぱり私が真の聖女なのは明白だ。
それなのに、導師で一番偉いムー何とかおじいちゃんはもう一人の聖女の肩を持つ。
私を召喚した若い導師達にも厳しくて、本当穏やかな顔して老害なんだから。
早く引退すれば良いのに。
そんなことより、森の中では私が主役、勿論ヒロインだし。
歌も、皆んなが小学生の頃に習ったような歌ばかりだし楽しく歌いながら山道を歩く。
そんなの一時間も持つわけない。
だって山だよ！ 坂道登りながら歌とか鬼畜すぎ。
山を登れば登るほど森は何だか黒ずんで怖い雰囲気を出してて怖いし、いつ魔物が飛び出して来てもおかしくない。
そう思ったその時、目の前に真っ黒い犬が現れた。
グルグルと低い唸り声をあげて威嚇してくる。
「聖女様、浄化の歌を」
そう誰かが叫んだけど、怖くて無理！ 私は第一王子のナルーラの背後に隠れた。
ダーシャンの方から舌打ちが聞こえた。
私がナルーラに頼ったからってそんなあからさまな態度をとるなんて♡ って思った瞬間ダーシャンは犬を斬りつけようとして、更に森の奥に向かって走って行ってしまった。
ダーシャンのお付きの騎士も何人かが、その後を追った。
「聖女に何かあるといけない。残りの者たちは聖女を護りながら下山」
ナルーラは私を気遣いながら神殿まで送り届けてくれたのだった。
ああ、本当に怖かった。
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