二月になれば
二月になれば
交通事故でした。
あやちゃんは足にケガをして、三ヶ月の入院になりました。
『みんな、どうしてるかな。つまんないなぁ』
あやちゃんはベッドの上で体を起こして、入り口の方をチラチラ見ます。
今日は友だちが学校のプリントを持ってきてくれる、週に一度の日です。
そろそろ来る頃です。
「あやぁ、来たよ」
友だちのじゅんこちゃんが、病室に入ってきました。
じゅんこちゃんはプリントを渡すと、ベッドの端に座って、あやちゃんとおしゃべりです。
学校のこと、友だちのこと、面白かったこと、つまらなかったこと。
どんなことでも、あやちゃんには楽しい話です。
あっという間に、じゅんこちゃんが帰る時間になってしまいました。
「あ、そうだ。今日ね、クラスのみんなで、あやにお手紙書いたんだ。ほら、この画用紙の束がそうだよ。後で見てね」
そう言われれば、いつもの勉強プリントの下に、画用紙の束があります。
あやちゃんはじゅんこちゃんに、来てくれたお礼を言って手を振りました。
じゅんこちゃんが帰った後、あやちゃんはベッドの端に座って、早速お手紙を読み始めました。
一人一枚、思い思いにクレヨンで描いた絵と一緒に、一言メッセージが書いてあります。
早く元気になってね。
帰ってくるの、待ってるよ。
リハビリ、がんばれ。
親しくない友だちも、あやちゃんを元気付けようと、書いてくれています。
その中に、「早く元気になれよ。『てんとう虫の好きな女の子』」と、大きなてんとう虫を描いた手紙を見つけました。
この言葉には、覚えがありました。
事故に合う前に、学校の授業で自己紹介をする文章を書きなさいと言われて書いた、あやちゃん自身の言葉でした。
『あれって教室の壁に貼ってみんな見たけど、私が書いたのを覚えていてくれた子がいたんだ』
と、あやちゃんは少し驚きました。
名前を見ると、学校で時々一緒に遊ぶ男の子でした。
あやちゃんはその男の子が何を書いていたかなんて、覚えていません。
それだけに、余計にびっくりしたのです。
あやちゃんは何だか、嬉しいような、恥ずかしいような、温かいような、くすぐったいような、何とも言えない気持ちになって、淡くほっぺたを染めました。
歩くリハビリも始まっています。
予定では、後一ヶ月、二月に退院です。
『あの子に、ありがとうってチョコレート渡してみようかな。どんな顔するんだろう』
あやちゃんは、ほっぺたに手を当てて、ふふふっと笑いました。
足が嬉しそうに、揺れています。