第一章 歎きと喜びの果てに
あまりにも瓦礫の多さに癖癖として、折角畑として使いたいのに延々開墾ばかりを続けていては、いつになったら野菜を育てられるのかさえ見込みが立てられないほどだった。人力で開墾している土地の面積は約36坪(120㎡)もあり、そのすべてを掘り起こさなければ何処に何が埋まっているのか皆目見当がつかないからである。掘り起こさなければ使えないという理由は、以前この土地が宅地として使われていて、建物が解体されて20年以上経過していると聞かされたからだ。
単に撤去されただけなら問題なく、現在では解体廃材は産業廃棄物として適正に処分せねばならず、マニュフェストを交付して処分先を明らかにしなければならなかった。その厳しい法律が施工される以前は、解体中に発生した細かい破片などは、現状に穴を掘って土中埋設処理するか単に土をかぶせて処分したように見せかける。そんな悪質な手口の不法投棄がまかり通っていた事実を、現場作業の経験上知っていたからだ。
最初は黙々とした作業に耐えていたが、余りにも単調な日々を送っていることに嫌気がさせば、自ずと愚痴をこぼし始めるようになっていた。
「掘っても掘っても瓦礫まみれて抜きもいい処だ!」
出てくる瓦礫類に悪態をつきながらも、乱暴な扱いをされた土地を嘆いていた。腹が立とうが此処を開墾すると決めた以上はそれ以上の泣き言は言えないからと、土を掘る手を止めなかった。
「是だけ丁寧に掘り返していけば、いずれ地山に突き当たるよな」
掘っては篩をかけてごみと石を選り分けていく作業が延年と続いた。
そう…この男、以前の職業は地質調査専門の技術者だけに、土に関して可成り詳しくて幅広い知識を経験を重ねて培っていた。平野部を形成しているのは河川の蛇行による氾濫が繰り返され、川の流れは肥沃な山の土を増水した濁流と一緒に流れ出して、低地に堆積させた云わば扇状地である。山の肥沃な土を河川が運び積もらせている訳だから、何も足すことなく野菜が育つ肥沃な土地であること知っていたのだ。男が開墾している場所のその例外ではなく、二つの河川が流れる中須に位置している。昔から大雨で増水しては氾濫を繰り返していた一帯でももあった。
「是だけ開墾しているのだから、お宝の一つくらい出て来いよ!」
思わ男は本音都の思える言葉をつぶやいた。
欲を願うのは無理もない話だが、抑々は肥料や農薬の影響を一切受けない場所がほしくて、そんな理想的な場所でのんびりと野菜を育ててみたかったのである。生態系と食物連鎖を育む自然回帰型の農業を模索するために、敢えて放棄された土地を選んだのだ。それが運よく手に入っただけでも奇跡というか、神仏の仕組みを感じざるを得なかったようである。しかし、かなり信心深いという訳でなく、俗に言う御蔭信心の類で、自分とって都合の良いこと事だけを頼る傾向があったようである。