さまよう螻蛄の嘆き
序章
ポカポカと照りつける陽射しを背に受けつつ、黙々と土を耕す鍬の音色は、優しくもあり力強さを秘めている。 カツン、カツンと火打石を打つような調を奏でつつ、時折甲高い悲鳴に近い音を辺りに響かせていた。鍬をあらゆる方向に振り落としてみても、小さな火花と甲高い調は止む事は無く、加えて何処をどう掘っても石やゴミに翻弄されっぱなしである。遅々として土を起こしきれない状況に、焦りのあまり暫しの静寂が訪れたかと思えば、再び黙々と鍬を振り備中を掻き立てリズムを刻んでいる。
それもそのはずで、以前は宅地であった場所が整地され、長い年月を経て放置されていた。其処に繁茂していた野草を刈り取れば、たちまち乾いた土が剥き出しになるけれど、降り注ぐ雨と七日程度の刻を待てば直ぐに雑草が生い茂る空き地です。
あちこちの土を掘り返しても、出てくるのは大小の玉石とコンクリートの瓦礫だけで、これといって楽しみがあるわけでもない。土を堀り返せば何らかの生き物が見つかるものだが、ミミズ一匹すら見つからないのは本当に珍しい。それでも男は黙々と土を掘り返して柔らかくほぐし、シャベルで掬ってふるいにかけて丁寧に瓦礫と石を選り分けている。そんな時間が延年と続き、それはいつしか夏を過ぎても終わらなかった。